電蝕(でんしょく)とは、異なる種類の金属が触れ合っているときに、その接触部分が腐食してしまう現象のことです。特に、水のような液体がある環境で起こりやすいです。例えば、鉄と銅が一緒に使われている場所で、鉄が錆びてしまうことがあります。
本記事では、電蝕のメカニズム、主な原因、そしてその防止策について詳しく解説します。
電蝕(でんしょく)とは何か?
電蝕(でんしょく)とは、金属が電気的な作用によって腐食する現象を指します。主に以下の2つのタイプに分類されます。
1.電気化学的腐食(ガルバニック腐食)
異なる金属が接触して電解液(例えば水)が存在する場合、電位差によって一方の金属が陽極(アノード)となり、もう一方の金属が陰極(カソード)となります。
このとき、陽極側の金属が酸化されて腐食します。
例えば、鉄と亜鉛が接触している場合、亜鉛が陽極となって先に腐食し、鉄は保護されるという仕組みです。
2.電気腐食
金属が外部電流の影響を受けて腐食する現象です。
これは通常、配管や地下の金属構造物において、周囲の土壌や水分中に流れる直流電流が原因で発生します。
電流が金属から流れ出る場所(陽極側)で腐食が起こります。
なぜ電蝕が起こるのか?
電蝕が起こる理由は、金属の間に電気の流れが生じるためです。
これは、以下のように金属ごとに持っている電気の性質が違うことに起因します。
1.異なる金属の組み合わせ
異なる金属は、持っている電気の性質(電位)が違います。例えば、銅は鉄よりも電位が高いです。
2.電気回路の形成
水のような電解液があると、金属間で微小な電気回路が形成されます。
このとき、電位の低い金属(陽極側)が電気を失いやすくなり、腐食しやすくなります。
3.腐食の進行
電気を失った金属部分は錆びたり、腐食したりします。
例えば、鉄が銅と接触している場合、鉄が電気を失って錆びやすくなります。
電蝕の防止方法
電蝕を防止するためには以下のようなの方法があります。
それぞれの方法には、異なる状況や環境に適した利点があります。
1.適切な金属の組み合わせ選択
できるだけ電位が近い金属同士を組み合わせることで、電蝕発生のリスクを減らすことができます。
2.電気的絶縁
異なる金属を使用する場合、接触を防ぐために絶縁材料(プラスチック、ゴム、絶縁テープなど)を挟むことで電気的に絶縁します。
絶縁継手や絶縁ワッシャーを使用します。例えば、鉄のネジと銅の部品の間にプラスチックのワッシャーを挟む等です。
配管や配線など、金属が接触しやすい場所で特に有効です。
3.コーティング処理
金属表面に耐蝕性のコーティングを施すことで、外部の電解液との接触を防ぎます。
亜鉛メッキ、クロムメッキ、塗装、陽極酸化処理など、様々なコーティング方法があります。
電蝕の発生を防止するためには、構造設計や配管設計などの段階で、異種金属の接触を最小限に抑えることが重要です。特定の状況や使用環境に応じて、複数の方法を組み合わせて使用することが推奨されます。
電位とイオン化傾向
電蝕が起きやすい金属の組み合わせは、各金属の電位(標準電極電位とも言います)とイオン化傾向が関係しています。
電位とは?
電位(標準電極電位)は、金属がイオンになるときに放出または吸収する電気の量を示す値です。
この値は基準となる水素電極と比較して測定されます。電位が高い金属は、電子を失う(酸化)のが難しく、逆に電位が低い金属は、電子を失うのが容易です。
イオン化傾向とは?
イオン化傾向とは、簡単に言うと「金属がどれくらい錆びやすいかを表す順番」です。
金属がどれだけ簡単にイオンになるか、つまりどれだけ簡単に電子を失って陽イオンになるかを示す指標です。
一般に、イオン化傾向が高い金属ほど酸化しやすく、錆びやすいです。
電位とイオン化傾向の関係
・高いイオン化傾向
これらの金属は電子を失いやすく、酸化されやすい。したがって、標準電極電位が低いです。
・低いイオン化傾向
これらの金属は電子を失いにくく、酸化されにくい。したがって、標準電極電位が高いです。
これまでも説明してきた通り、電蝕が起きるのは、電位差が大きい異なる金属が接触し、水などの電解質が存在する場合です。
電位差が大きいと、電子が一方の金属(陽極)からもう一方の金属(陰極)に流れやすくなり、陽極が酸化して腐食します。
電蝕が起きやすい金属の組み合わせ
電蝕が起きやすい金属の組み合わせには、以下のような例があります。
①鉄と銅
鉄の標準電極電位:約-0.44V
銅の標準電極電位:約+0.34V
鉄と銅の組み合わせでは、鉄が銅よりも電位が低く、イオン化傾向が高いため、鉄が陽極となりやすく、電気化学的反応によって鉄が腐食します。
具体的な電蝕の発生事例
・配管システム
冷暖房や給排水システムでは、銅管と鉄管が接触することがよくあります。例えば、給水システムで銅製のフィッティングと鉄製の管が接触すると、鉄管が錆びやすくなります。
・建築物
建物の構造において、鉄骨補強材と銅製の屋根や配管が接触することがあります。この場合、雨水や湿気により、鉄骨部分が錆びやすくなります。
・電気機器
銅配線と鉄製ケースが接触することがあり、湿気のある環境では鉄製ケースが腐食しやすくなります。
対策
・絶縁
異なる金属を絶縁材(例えばプラスチックやゴム)で分離することで、直接の接触を防ぎます。これにより、電気回路の形成を防ぎ、腐食を抑えます。
・防錆塗料の使用:鉄部分に防錆塗料を塗ることで、腐食を防ぐことができます。特に、防水性の高い塗料を使用すると効果的です。
・電気的絶縁
電気的に絶縁するフィッティングやジョイントを使用することで、異種金属の接触による電蝕を防ぎます。
②アルミニウムと銅
アルミニウムの標準電極電位:約-1.66V
銅の標準電極電位:約+0.34V
アルミニウムは銅よりも電位がはるかに低く、イオン化傾向が高いため、アルミニウムが陽極となり、腐食しやすくなります。特に湿度の高い環境や電解液が存在する環境で問題となります。
具体的な電蝕の発生事例
・電気機器
電気配線では、銅線とアルミニウム接続部が接触することがあります。電力ケーブルや家電製品の内部でこの組み合わせが見られ、湿気の多い環境ではアルミニウムが腐食しやすくなります。
・航空機産業
航空機のフレームには軽量なアルミニウム合金が使用され、銅製の電気接続部品が接触することがあります。これにより、アルミニウム部材が腐食するリスクがあります。
・建築物
アルミニウム製の窓枠や外装材と銅製の雨樋が接触することがあります。この場合、雨水が電解液の役割を果たし、アルミニウムが腐食します。
対策
・耐腐食性コーティング
接触部分に耐腐食性のコーティングを施すことで、腐食を防ぐことができます。特にアルミニウム部分に腐食防止塗料を塗布することが有効です。
・絶縁材の使用
アルミニウムと銅が直接接触しないように、絶縁材を間に挟みます。例えば、プラスチックワッシャーや絶縁テープを使用します。
③鋼鉄とステンレス鋼
ステンレス鋼は電位が高いため、鋼鉄が陽極となり、腐食しやすくなります。この現象は特に海洋環境や化学工業などの厳しい条件下で問題となります。
具体的な電蝕の発生事例
・海洋環境
海水中の構造物で、ステンレス鋼のボルトやナットと鋼鉄製のフレームが接触すると、鋼鉄が腐食しやすくなります。例えば、船舶の甲板や海洋プラットフォームで見られます。
・化学プラント
化学工業で使用される配管やタンクの材料として、ステンレス鋼と鋼鉄が使用されることがあります。この場合、鋼鉄部分が腐食するリスクがあります。
・建築物
建築構造物で、ステンレス鋼のファスナーと鋼鉄製の構造材が接触することがあります。これにより、鋼鉄部分が腐食することがあります。
対策
・耐腐食性コーティング:接触部分に耐腐食性のコーティングを施すことで、腐食を防ぎます。特に鋼鉄部分に防錆塗料を塗布することが効果的です。
・絶縁材の使用:ステンレス鋼と鋼鉄が直接接触しないように、絶縁材を使用します。プラスチックやゴムのワッシャーを挟むことで、電気的な接触を防ぎます。
④亜鉛と鉄
亜鉛は鉄よりも電位が低いため、亜鉛がアノードとして先に腐食します。この特性は亜鉛メッキに利用されており、亜鉛が”先に錆びることで他の金属を守る役割”として鉄を保護します。
具体的な電蝕の発生事例
・亜鉛メッキ(ガルバニゼーション)
鉄や鋼を亜鉛でコーティングすることで、亜鉛が先に腐食し、鉄を保護します。これは、自動車の車体や建築用の鉄骨、鉄道のレールなどに広く使用されています。
・橋梁やガードレール
亜鉛メッキ鋼材は、橋梁や道路のガードレールに使用され、長期間の腐食防止効果を発揮します。
・海洋構造物
海洋環境では、亜鉛メッキが鋼鉄製の構造物を保護し、塩水による腐食を防ぎます。
亜鉛メッキの場合は他の金属を保護する目的でわざと亜鉛を犠牲にしているので、効果を維持するために定期的なメンテナンスが必要です。亜鉛メッキ層が損傷した場合、早期に修理します。
まとめ
電蝕は異なる金属が接触することで発生する腐食現象です。
電位差が大きい金属同士を接触させると、電蝕が起きやすくなります。
特に鉄と銅、アルミニウムと銅、亜鉛と鉄、鋼鉄とステンレス鋼といった組み合わせで多く見られ、産業の様々な分野で問題となります。
陽極(低い電位、イオン化傾向が高い金属)は酸化しやすく、腐食します。
一方、陰極(高い電位、イオン化傾向が低い金属)は保護され、腐食しにくいです。
電位とイオン化傾向の違いを理解することで、どの金属の組み合わせが電蝕のリスクが高いかを予測でき、適切な防止策を講じることができます。
これらの対策を実践することで、金属製品の寿命を延ばし、安全性と信頼性の確保につながります。