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ノックアウトとは|プレス金型の排出機構と調整方法

「ガシャン、ガシャン」というプレスのリズムの中で、時折聞こえる「カーン!」という金属音。これは決して異常音ではありません。金型の上型に張り付いた製品が、強制的に叩き落とされた瞬間の音、すなわち「ノックアウト」の作動音です。

数トンから数千トンの圧力で成形された金属部品は、強力な摩擦力や真空吸着によって、金型(特にパンチやダイの奥深く)に強固に張り付きます。これを確実に剥がし、金型外へと排出できなければ、次の材料が送り込まれた瞬間に「二枚打ち」が発生し、高価な金型は一瞬で鉄屑と化します。

この「排出」の役割を一手に担うのが、プレス機械のスライド内部に貫通した一本の鉄棒、「ノックアウトバー」です。 構造自体は単純ですが、その調整にはミクロン単位のストローク管理と、製品を変形させずに叩き出す絶妙なタイミングが求められます。 本記事では、ノックアウトのメカニズムから、種類による使い分け、排出抵抗の計算式、そして現場で多発する「調整ミスによる破損事故」の防ぎ方まで、製造現場のリアリティを込めて徹底解説します。

1. ノックアウトとは:金型からの「強制退去」

ノックアウト(Knock-out)とは、プレス加工終了後、金型(主に上型・スライド側)に固着した製品やスクラップを、機械的な力で強制的に押し出し、離型させる装置および機能の総称です。

ボクシングのKO(ノックアウト)と同じく、「打撃を与えて外に出す」という意味合いがあります。

なぜ製品は上型に張り付くのか

プレス加工には「抜き」「曲げ」「絞り」などがありますが、いずれも材料は塑性変形し、金型に食い込みます。

  • 絞り加工: パンチに材料が巻き付き、収縮しようとする力(スプリングバックの逆)で締め付けます(抱きつき)。
  • 抜き加工: パンチが材料を貫通した後、材料の弾性回復によってパンチを締め付けます(ストリッピング抵抗)。
  • 粘性・真空: 加工油(潤滑油)の表面張力や、密閉空間の真空効果で吸着します。

これらに対抗して製品を引き剥がす力が「ノックアウト力」です。

エジェクタとの違い

現場では混同されがちですが、厳密には以下のように使い分けられます。

  • ノックアウト: 主に「上型(スライド側)」から製品を落とす機構。機械式プレスの構造を利用した強制駆動が多い。
  • エジェクタ(Ejector): 主に「下型(ボルスタ側)」から製品を持ち上げる機構。ダイクッションやスプリングを利用することが多い。

 

2. ノックアウト機構の種類と構造

ノックアウトには動力源によっていくつかの方式がありますが、最も一般的で、かつ調整技術を要するのが「機械式」です。

① 機械式(ポジティブノックアウト)

機械式プレスのスライド(ラム)の上下運動を利用する方式です。 スライドが上昇し、上死点(一番高い位置)に近づいたタイミングで作動します。

【構造の仕組み】

  1. プレス本体のフレーム左右に「ノックアウト調整ボルト」が固定されています。
  2. スライドの中には、左右に貫通する穴があり、そこに「ノックアウトバー(横棒)」が通っています。
  3. スライドが上昇すると、スライドと共に上昇していたノックアウトバーの両端が、固定された調整ボルトに当たります。
  4. さらにスライドが上昇しようとすると、バーだけがボルトに阻まれて相対的に押し下げられます。
  5. 押し下げられたバーが、スライド中心にある「ノックアウトロッド(縦棒)」や金型内の「ノックアウトピン」を押し、製品を叩き落とします。

この方式の最大の特徴は、プレスの駆動力そのものを使うため、極めて強力な剥離力が得られることです。「ポジティブ(確実な)」と呼ばれる所以です。

② バネ・ゴム・ウレタン式

金型内部にスプリングやウレタンゴムを仕込み、その反発力で製品を押します。

構造が簡単で金型単体で完結しますが、ストローク(押す長さ)に限界があり、力も弱いため、深い絞り製品には向きません。

また、経年劣化でバネが折れると排出ミスに直結します。

③ エアーシリンダ・ガススプリング式

圧縮空気や高圧ガス(窒素ガス)を使用します。 ストローク全域で一定の力を発揮できるため、製品を優しく押さえることができますが、機械式のような「衝撃的な打撃力」はありません。

 

3. スライド内部の解剖:バーとピンの関係

プレスのスライド内部は見えませんが、ここをイメージできるかどうかが段取り(セットアップ)の鍵です。

ノックアウトバー(Knock-out Bar)

スライドを横断する太い鉄の棒です。 小型プレスでは丸棒、中型〜大型プレスでは平角棒や板状のものが使われます。

バーには、金型の位置に合わせてピンを通すための穴やスロット(長穴)が複数空いています。

ノックアウトピン(Knock-out Pin)

金型の上型ダイセットから飛び出しているピンです。 このピンの頭が、スライド内のノックアウトバー(またはロッド)によって押されます。

金型設計者は、このピンの位置が、プレスのバーにある穴の位置と合うように設計しなければなりません。ここがズレていると、バーがピンを押せず、製品が落ちてきません。

 

4. ノックアウト力の計算と選定

「どれくらいの力があれば製品は落ちるのか?」 これを計算せずに金型を作ると、現場で「叩いても落ちない」という事態になります。

① せん断加工(抜き)のストリッピング力

パンチから材料(カスや製品)を引き抜くのに必要な力  P_s は、抜き荷重  P の数パーセントから十数パーセントと言われています。

 P_s = K \times P

  •  P_s:ストリッピング力(ノックアウト力) (N)
  •  P:最大抜き荷重 (N)
  •  K:ストリッピング係数
    • 鋼板(SPCC):0.03 〜 0.05(クリアランス適正時)
    • ステンレス(SUS):0.05 〜 0.08
    • アルミ:0.02 〜 0.04
    • クリアランスが小さい場合や、刃が摩耗している場合は、 K は0.10 〜 0.20まで跳ね上がります。

【計算事例】 抜き荷重が100トンのステンレス抜き型の場合、必要なノックアウト力は:  P_s = 0.08 \times 100 = 8 \, ton

つまり、8トン以上の力で叩かないと抜けません。バネだけでは厳しい領域であり、機械式ノックアウトが必須となります。

② 絞り加工の張り付き力

円筒絞りの場合、側壁の摩擦力が張り付き力の主成分です。

 F = \mu \times 2\pi r \times h \times p

  •  \mu:摩擦係数(約0.1 〜 0.2)
  •  r:製品半径
  •  h:絞り深さ
  •  p:側壁面圧(材料の降伏応力に近い値)

厳密な計算は難しいため、現場的には「絞り荷重の10% 〜 20%」を見込みます。

ただし、底突き(コイニング)を行って製品を完全にパンチになじませた場合は、真空吸着も加わるため、さらに大きな力が必要になります。

この場合、ノックアウトピンの先端に空気穴(エアベント)を設け、空気を送り込んで真空破壊を行う工夫が不可欠です。

 

5. 現場の調整テクニック:タイミングと音

ノックアウト調整は、プレスの「上死点」付近で行われるため、目視確認が難しく、経験が物を言います。

タイミング調整の鉄則

ノックアウトが作動するタイミングは、スライドが上昇しきった「上死点の手前 10mm 〜 30mm」程度が一般的です。

  • 早すぎる(下の方で作動): 製品がまだダイ(下型)から完全に出ていない状態で叩いてしまうと、製品がダイとノックアウトピンに挟まれて潰れます。また、まだ搬送装置(フィーダーやロボット)が入ってきていないのに落としてしまい、製品が散らばります。
  • 遅すぎる(上死点ギリギリ): ストローク(押す量)が不足し、製品を完全に剥がしきれないままスライドが下降を始めてしまいます。これが一番危険な「二枚打ち」の原因です。

「カーン」という音の正体

調整ボルトの高さを変えることで、バーが当たるタイミングを変えられます。

ボルトを下げれば早く当たり、上げれば遅く当たります。 理想的なのは、製品が離型するのに十分なストロークを確保しつつ、衝撃が最小限になるポイントです。

調整が完璧だと、「ポコッ」という軽い音で落ちますが、固着が強い場合は「カーン!」と響きます。 現場のオヤジさんが「音がでかい!ボルト上げろ!」と怒鳴るのは、衝撃でバーやピンが座屈するのを防ぐためです。

 

6. トラブルシューティング:現場の実体験から

ノックアウトにまつわる失敗は、誰もが一度は通る道です。

【失敗談1】ノックアウトバーを曲げた日

金型交換(段取り替え)の時でした。 前の製品は背が高かったので、プレスのダイハイト(スライド高さ)を高くしていました。 次の製品は背が低いので、ダイハイトを大きく下げました(スライド位置を下げた)。

ここで、「ノックアウトボルトの位置を上げる」のを忘れてしまったのです。 スライド調整で本体ごと下がった結果、ノックアウトバーの位置も下がっています。

そのまま寸動(インチング)でスライドを上昇させた瞬間、「バキッ!!」という轟音と共に、極太のノックアウトバーが飴細工のように「への字」に曲がりました。

スライドが上がりきる前にバーがボルトに底突きし、プレス機自身のパワーでバーを破壊してしまったのです。

これ以来、ダイハイトを下げる時は「まずノックアウトボルトを一番上まで逃がす」ことがトラウマレベルで身につきました。

【失敗談2】ピンが製品を突き破る

薄板(t0.5mm)のアルミ絞り製品でのこと。 張り付きが強いため、強力な機械式ノックアウトを採用しました。 しかし、ノックアウトピンの径が細すぎました(φ6mm)。

「カーン!」という音と共に製品は落ちましたが、拾ってみると天面に穴が開いていました。 ピンの面積あたりの圧力(面圧)が、アルミの剪断強度を超えてしまい、製品を押し出すのではなく、突き刺さってしまったのです。

対策として、ピンの先端に大きなお皿(パッド)をつけて受圧面積を広げ、面圧を下げました。

【失敗談3】落ちてこない製品

ノックアウトは作動しているのに、製品がピンにくっついて落ちてこない。

原因は「油の表面張力」でした。 ピン先端と製品が密着しすぎて、逆に吸盤のようになっていたのです。

対策として、ピン先端を少し粗く削ったり、溝を入れたりして、密着面積を減らすことで解決しました。

 

7. 設計と保守のポイント

長く安定して生産するために、設計段階と保守段階でやるべきこと。

干渉チェックの重要性

順送金型やトランスファー金型では、ノックアウトピンが搬送フィンガーやガイドレールと干渉しないか、3次元CADで徹底的にシミュレーションする必要があります。

「落ちてくるはずの場所」にフィンガーがいると、高価な搬送ユニットごと破壊します。

バーの摩耗と給脂

ノックアウトバーは、スライドの穴の中で常に擦れています。

また、ボルトとの衝突面は繰り返し衝撃を受けます。 定期的にバーを引き抜き、曲がりがないか、クラック(亀裂)が入っていないか点検してください。

特にバーが通る穴には、モリブデングリスなどの極圧グリスを塗布しておかないと、カジリが発生してスライドの動きを阻害します。

 

8. まとめ

プレス加工というと、どうしても「成形すること」に目が向きがちです。 しかし、成形された製品は、金型から無事に取り出されて初めて「商品」になります。

  • 成形力だけでなく、ストリッピング力(排出抵抗)を計算して金型を設計する。
  • ダイハイト調整とノックアウト調整は、必ずセットで行う手順を徹底する。
  • 「カーン」という音や、バーの状態を常に監視し、プレスの悲鳴を聞き逃さない。