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モールドベースとは|金型メーカーと価格・材質の基礎

数百トンの型締力が加わり、溶融した樹脂が数百キロの圧力で注入される過酷な環境。その中で、ミクロン単位の合わせ精度を維持し、成形品を正確に生み出すための「頑丈な家」。それが「モールドベース(Mold Base)」です。

プレス加工における「ダイセット」と同様、モールドベースは金型の外枠であり、基本構造そのものです。しかし、熱と流体を扱う射出成形ならではの特殊な鋼材選定や、複雑な突き出し機構(エジェクタ)、そして3枚プレートなどの独自の構造が存在します。

ここをケチって剛性不足のベースを使えば、成形中に金型が口を開き(パカ付き)、製品はバリだらけになり、最悪の場合はキャビティやコアが破損します。

本記事では、モールドベースの基本構造から、フタバやミスミといった主要メーカーの使い分け、S55CやHPMといった材質の選定基準、そしてマシニングセンタによる高精度ポケット加工の極意まで、金型製造の現場視点で徹底解説します。

1. モールドベースとは:金型の「母艦」

モールドベースとは、プラスチック射出成形金型(インジェクションモールド)を構成するプレート群とガイド部品の総称です。

製品の形状を転写する「キャビティ(凹)」と「コア(凸)」という入れ子(インサート)を収納し、成形機に取り付けるための土台となります。

プレス金型(ダイセット)との違い

現場ではよく比較されますが、求められる機能が異なります。

  • プレス用ダイセット: 「衝撃」に耐える構造。上下運動の精度(ガイドポスト)が最優先。基本は上型と下型の2ブロック構成。材質はSS400やS50C、FC(鋳物)が主。
  • プラスチック用モールドベース: 「内圧」と「熱」に耐える構造。樹脂圧によるプレートのたわみを防ぐ剛性と、冷却水を通すための耐食性が必要。固定側と可動側、さらにエジェクタ機構を含む多層構造(5〜7枚以上のプレート)。材質はS55Cやプリハードン鋼が主。

しかし、どちらも「平行度」と「直角度」が命である点は共通しており、平面研削盤やボーリング加工の技術が品質を左右します。

 

2. 構造の解剖:2プレートと3プレート

モールドベースには大きく分けて2つのタイプがあります。ゲート方式(樹脂の入り口)によって使い分けます。

2プレートタイプ(サイドゲート用)

最もシンプルな構造です。 「固定側型板」と「可動側型板」の2つの主要プレートが開閉します。 製品とランナー(樹脂の通り道)が一緒に取り出されます。

構造が単純で剛性が高く、コストも安いですが、ゲートの切断(ゲートカット)を後工程で行う必要があります。

【構成プレート(上から順)】

1. 固定側取付板(トッププレート)

2. 固定側型板(Aプレート)

3. 可動側型板(Bプレート)

4. スペーサーブロック(ゲタ)

5. エジェクタプレート(突き出し板)

6. 可動側取付板(ボトムプレート)

3プレートタイプ(ピンゲート用)

固定側型板の上に、「ランナー脱地板(ストリッパプレート)」が追加された構造です。 型開きの際、製品とランナーが自動的に切り離されます(自動ゲートカット)。

ゲート跡を目立たせたくない場合や、多点ゲートが必要な場合に使われますが、構造が複雑でガイドピンが長くなるため、剛性が落ちやすく、メンテナンスも大変です。

 

3. 主要メーカーと価格の相場観

日本国内において、モールドベースの調達先は大きく分けて2社、そして「特注」という選択肢があります。

双葉電子工業(FUTABA)

「モールドベースと言えばフタバ」と言われるほどのガリバー企業です。

日本の金型標準規格(JISベース)の多くは、フタバの規格(Sタイプ等)が事実上の標準(デファクトスタンダード)になっています。

高品質で鋼材の信頼性が高く、大量生産品向けの金型では第一選択となります。

モールドベース | 双葉電子工業株式会社

ミスミ(MISUMI)

「WEBで注文、最短翌日出荷」という圧倒的なスピードと、1mm単位でプレート厚を変更できるカスタム性が特徴です。

CADデータ(3D)をアップロードするだけで見積もりが即座に出る「Mold EX-Press」などのツールが充実しており、短納期の試作型や、小〜中ロット金型で圧倒的なシェアを持っています。

価格の計算と相場

モールドベースの価格  P は、サイズ(重量)、材質、そして追加加工の有無で決まります。

 P \approx (W_{steel} \times C_{unit}) + C_{machine} + C_{parts}

  •  W_{steel}:鋼材重量
  •  C_{unit}:キロ単価(S55Cで数百円/kg、プリハードンでその1.5〜2倍)
  •  C_{machine}:加工費(ガイド穴、ポケット加工)
  •  C_{parts}:ガイドピン、ブシュ等の部品費

【価格事例】 サイズ 300mm × 300mm(3030タイプ)、材質S55C、標準2プレートの場合: * 標準価格: 4万円 〜 6万円程度 * ポケット加工付き: 8万円 〜 12万円程度 * 3プレート(ピンゲート): 1.5倍 〜 2倍

サイズが大きくなると指数関数的に価格が上がります。 例えば、自動車バンパー用の大型ベース(2000mmクラス)になると、数百万円〜一千万円にもなります。

 

4. 材質選定:S55Cか、プリハードンか

プレス金型のダイセットはS50CやSS400が一般的ですが、モールドベースはより硬く、高品質な材料が求められます。

S55C(炭素鋼)

最も一般的なモールドベース材です。 S50Cよりも炭素量が多いため、硬度が少し高く(HB180〜230程度)、剛性があります。

一般的な雑貨、家電部品などの金型に使われます。 注意点として、そのままでは錆びやすいため、保管時は防錆油が必須です。

HPM1 / NAK80(プリハードン鋼)

あらかじめHRC37〜40程度に熱処理(調質)された鋼材です。 「そのまま削れて、しかも硬い」のが特徴です。

  • メリット:
    • ヒケやバリを嫌う精密金型に向く。
    • モールドベース自体をキャビティ(直彫り)として使う場合に最適。
    • 鏡面磨き性が良い(特にNAK80)。
  • デメリット:
    • 材料費が高い(S55Cの2〜3倍)。
    • 被削性が悪く、加工に時間がかかる。

STAVAX(ステンレス鋼)

SUS420J2改良材など。 冷却水による水路の錆びを防ぎたい場合や、腐食性ガスが出る樹脂(PVC、POM等)を成形する場合に使われます。 価格は非常に高いですが、メンテナンスフリー化によるコストメリットは大きいです。

 

5. 加工の勘所:ポケット加工と逃げ

モールドベースを購入した後、金型メーカーで行う主な追加加工は、入れ子(インサート)をはめ込むための「ポケット加工」です。

ポケットの精度と公差

入れ子(キャビティブロック)の外寸に対して、ベース側のポケットはどのくらいの公差で掘るべきか。

一般的には、「プラス0.01mm 〜 0.02mm(H7級)」の隙間嵌め(クリアランスフィット)か、あるいは「0 〜 マイナス0.01mm(軽圧入)」を狙います。

  • 隙間嵌め: 入れ子の着脱が楽ですが、射出圧力で入れ子が動き、バリの原因になります。
  • 軽圧入: 剛性は高いですが、入れ子が抜けなくなります。

最近の流行りは、ポケットの底面中央を深く削り(逃がし)、周辺の額縁部分(幅10mm〜20mm)だけで入れ子を受ける「中抜き加工」です。

これにより、底面の平面度を出しやすくなり、かつ入れ子の安定性が増します。

コーナーの「逃げ(ニゲ)」処理

入れ子の角は直角(ピン角)ですが、エンドミルで掘ったポケットの隅には必ずR(アール)が残ります。 このままでは入れ子が入りません。

そこで、ポケットの四隅にドリルやエンドミルで「ニゲ穴(ドッグボーン)」を加工します。 プレス金型のダイセット加工と同様の処理ですが、樹脂漏れを防ぐため、ニゲは最小限のサイズにするか、あるいは入れ子側の角をC面取りして対応します。

 

6. 剛性計算:プレートのたわみ

「なぜモールドベースはこんなに分厚いのか?」

それは、射出圧力(Injection Pressure)に耐えるためです。 成形時、金型内部には 30〜100 MPa(約300〜1000気圧)もの圧力がかかります。

たわみ量  \delta の計算式

プレートを「両端固定梁」と見なした場合の最大たわみは以下の式で近似されます。

 \delta = \dfrac{w l^4}{384 E I}

  •  w:分布荷重(射出圧力 × キャビティ幅)
  •  l:スパン(スペーサーブロックの間隔)
  •  E:ヤング率(鋼:210 GPa)
  •  I:断面二次モーメント  \dfrac{b h^3}{12} h:プレート厚み)

ここで重要なのは、たわみは厚み  h の3乗に反比例するということです。

厚みを2倍にすれば、たわみは1/8になります。 バリの発生を防ぐ許容たわみ量は、一般的に 0.005mm 〜 0.010mm 以下とされています。 これを満たすために、設計者はカタログの推奨厚みよりもワンランク厚いプレートを選ぶことが多いです。

 

7. 現場の苦労話:ガイドピンのカジリと錆

金型寿命を縮める最大の原因は、成形部ではなく「ガイド部」のトラブルです。

ガイドピンの焼き付き(カジリ)

成形サイクルが早くなると、ガイドピンとブシュの摩擦熱が逃げ場を失い、熱膨張してロックします(カジリ)。

特に3プレートタイプの場合、ストリッパプレートの可動ストロークが長いため、このトラブルが多発します。

対策:

・ガイドピンに「油溝(オイルグルーブ)」を追加する。

・無給油ブシュ(オイレスブシュ)を使用する。

・ダイセット用のような高粘度グリスではなく、耐熱性の高いフッ素系グリスを使用する。

水路の錆(サビ)による閉塞

モールドベース内部には、冷却水を流す穴(水管)が縦横無尽に開いています。

S55C材で長期間使用していると、内部が錆びて冷却効率が落ち、成形サイクルが延びたり、製品が変形したりします。

現場では、定期的に酸洗いで錆を落とすか、最初から水管内部にメッキ処理されたベースを使う、あるいはステンレス配管を圧入するなどの対策を行います。

 

8. マシニング加工と平面研削の連携

モールドベースの追加加工において、最も精度を出すための工程順序があります。

  1. 荒加工(M/C): ポケットや水穴を加工します。応力でプレートが反ります。
  2. 研磨(平面研削盤): 歪んだプレートの裏表を研削し、平面度と平行度を出し直します。
  3. 仕上げ加工(M/C): ガイド穴基準で芯出しを行い、ポケットの側面を仕上げます。

「面倒だから」と研磨を飛ばして仕上げ加工をすると、組付けた時にガイドピンが入らなかったり、隙間ができたりします。

ベース加工においては、マシニングセンタの精度よりも、「段取り替えの間の応力除去」「平面研削」が品質を決めます。

 

9. まとめ

モールドベースは、金型見積もりの中では「材料費」として扱われがちですが、実際には「構造体」としての機能部品です。

  • 安易に薄いプレートを選ばず、剛性計算に基づいて厚みを決める。
  • 材質は、初期コスト(S55C)だけでなく、メンテナンス性(プリハードン、ステンレス)も考慮する。
  • 加工においては、ポケットの公差と逃げ処理、そして研削による平面度確保を怠らない。

良いモールドベースを使った金型は、型閉じの音が違います。「ドン」ではなく、「バスッ」という重厚で密閉感のある音がします。 その音こそが、バリのない良品を何百万ショットも生み出す証です。