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ポアソン比とは?ヤング率との関係と求め方

金属の棒を引っ張ると、伸びる方向だけでなく横方向にも「痩せる」ことをご存知でしょうか。

この縦と横のひずみの比率こそが、材料力学の重要な定数「ポアソン比」です。

設計実務ではヤング率ばかりに目がいきがちですが、ポアソン比を見落とすと強度計算の精度が大きく低下します。

特に、せん断弾性係数や体積弾性率を求める際には、ポアソン比が欠かせません。

ゴムのように体積がほとんど変わらない材料では0.5に近づき、コンクリートでは0.2程度にとどまります。

材料によって横方向の変形量が全く異なるため、正しい理解が不可欠です。

本記事では、ポアソン比の定義から、ヤング率・横弾性係数との関係式、主要材料の一覧表、実務計算例までを徹底解説します。

 

1. ポアソン比とは

ポアソン比とは、材料に引張や圧縮の力を加えたときに生じる縦ひずみと横ひずみの比を表す無次元の材料定数です。

記号にはギリシャ文字のν(ニュー)が使われます。

 

たとえば、金属の丸棒を軸方向に引っ張ると、軸方向には伸びますが、直径方向には縮みます。

この現象を「ポアソン効果」と呼びます。

縦方向の伸びに対する横方向の縮みの割合がポアソン比です。

 

名称は、フランスの数学者・物理学者であるシメオン・ドニ・ポアソン(1781〜1840)に由来します。

ポアソンは弾性理論の研究の中でこの比率の概念を定式化し、材料の変形挙動を記述するうえで欠かせない定数であることを示しました。

 

ポアソン比の定義式

ポアソン比νは、次の式で定義されます。

 

 \nu = -\dfrac{\varepsilon_{\text{横}}}{\varepsilon_{\text{縦}}}

 

ここで、 \varepsilon_{\text{縦}} は荷重方向のひずみ(縦ひずみ)、 \varepsilon_{\text{横}} は荷重に直交する方向のひずみ(横ひずみ)です。

横ひずみは縦ひずみと逆符号になるため、マイナスを付けて正の値として表現します。

 

引張荷重を加えた場合を考えると、縦方向は伸びるので縦ひずみは正の値になります。

一方、横方向は縮むのでひずみは負です。

定義式にマイナスが付いているのは、この符号の違いを打ち消して、ポアソン比が正の値になるようにするためです。

 

ポアソン比の物理的意味

ポアソン比が大きいほど、縦方向に力を受けたときの横方向の変形が大きいことを意味します。

身近な例で考えてみましょう。

 

消しゴムを指で上から押すと、横方向にブヨッと膨らみます。

ゴムはポアソン比が0.5に非常に近く、押し潰しても体積はほとんど変わりません。

縦に縮んだ分だけ横に広がるため、横方向の変形が顕著に現れます。

 

対照的にコルクは、ポアソン比がほぼ0です。

ワインの栓をコルクで塞ぐとき、コルクを瓶の口に押し込んでも横方向にほとんど膨らみません。

だからこそ、瓶の口にぴったりとはまり、密封性を発揮できるのです。

もしポアソン比が0.3程度の金属を栓にしたら、押し込む際に横に広がって入らなくなってしまいます。

 

ポアソン比の単位と記号

ポアソン比はひずみ同士の比であるため、単位はありません(無次元量)

記号はν(ニュー)が国際的に標準ですが、文献によってはμやmが使われることもあります。

JISや機械設計の実務ではνが最も一般的です。

 

数値としては、金属材料では0.25〜0.35程度、プラスチック材料では0.30〜0.45程度の範囲をとるのが一般的です。

設計計算書では「ν = 0.30」のように小数で表記します。

 

なお、ISO 80000-4(力学の量と単位)やJIS Z 8000-4においても、ポアソン比の記号はνと規定されています。

海外の文献や解析ソフトウェアでも同じ記号が使われるため、国際的に統一された表記です。

 

ポアソン比の取りうる範囲

等方性の弾性体において、ポアソン比の理論的な範囲は次のとおりです。

 

 -1 \leq \nu \leq 0.5

 

通常の工業材料では0より大きく0.5未満の正の値をとります。

 

上限の0.5は、体積変化がゼロとなる完全非圧縮材料に対応します。

天然ゴムのポアソン比は0.49〜0.50であり、この上限に極めて近い値です。

液体は体積が変わらないため、理論上ポアソン比は正確に0.5です。

 

下限の−1は、引っ張ると横にも広がるという特殊な材料に対応します。

自然界にはほとんど存在しませんが、特殊に設計されたハニカム構造やメタマテリアルでは、ポアソン比が負になるものがあります。

このような材料は「オーセチック材料」と呼ばれ、衝撃吸収材や医療用インプラントなどへの応用が研究されています。

 

ポアソン比と弾性エネルギー

ポアソン比は、材料が蓄える弾性エネルギーにも影響します。

一軸応力σが作用するとき、単位体積あたりの弾性ひずみエネルギーは次のように表されます。

 

 u = \dfrac{\sigma^2}{2E}

 

しかし、多軸応力場では横方向のひずみもエネルギーに寄与するため、ポアソン比が式に含まれます。

二軸等応力(σx = σy = σ、σz = 0)の場合、弾性ひずみエネルギーは次のようになります。

 

 u = \dfrac{\sigma^2}{E}(1 - \nu)

 

ポアソン比が大きいほど横方向の拘束効果が強くなり、同じ応力レベルでも蓄えるエネルギーが小さくなります。

この関係は、疲労破壊や脆性破壊のエネルギー解放率の計算においても重要です。

 

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2. ポアソン比の求め方

ポアソン比は、引張試験で得られる縦ひずみと横ひずみの測定値から直接算出できます。

ここでは具体的な計算手順をStep形式で解説します。

 

Step 1:試験片の初期寸法を記録する

引張試験の前に、試験片の初期長さと初期直径(または幅)を正確に測定します。

ポアソン比の測定にはJIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準拠した試験片を使用するのが標準的です。

樹脂材料の場合はJIS K 7161(プラスチック引張特性の求め方)に準じます。

 

試験片の形状は、丸棒型(JIS Z 2241 14号など)または平板型のどちらでも使用できます。

丸棒型は直径の変化を測定し、平板型は幅の変化を測定します。

 

たとえば、S45Cの丸棒試験片で、初期の標点間距離  L_0 = 50\,\text{mm}、初期直径  d_0 = 10\,\text{mm} とします。

初期寸法の測定精度がポアソン比の精度に直結するため、マイクロメータなどの精密測定器を使います。

 

Step 2:弾性範囲内で荷重を加え、変形後の寸法を測定する

ポアソン比は弾性変形の範囲内でのみ定義されます。

降伏点を超えると塑性変形が始まり、縦ひずみと横ひずみの比が変化してしまうため、荷重は降伏応力の50〜70%程度に留めます。

 

荷重を加えた後の長さ  L = 50.015\,\text{mm}、直径  d = 9.9991\,\text{mm} になったとします。

変位量は非常に微小(0.01mm以下)ですので、伸び計(エクステンソメータ)やひずみゲージを使って測定します。

 

Step 3:縦ひずみと横ひずみを計算する

測定値から縦ひずみと横ひずみをそれぞれ計算します。

 

 \varepsilon_{\text{縦}} = \dfrac{L - L_0}{L_0} = \dfrac{50.015 - 50}{50} = 3.0 \times 10^{-4}

 

 

 \varepsilon_{\text{横}} = \dfrac{d - d_0}{d_0} = \dfrac{9.9991 - 10}{10} = -9.0 \times 10^{-5}

 

横ひずみは直径が縮んでいるので負の値になります。

この負の符号が「横方向に縮んだ」ことを物理的に表しています。

 

Step 4:ポアソン比を算出する

ポアソン比の定義式に代入します。

 

 \nu = -\dfrac{\varepsilon_{\text{横}}}{\varepsilon_{\text{縦}}} = -\dfrac{-9.0 \times 10^{-5}}{3.0 \times 10^{-4}} = 0.30

 

計算結果のν = 0.30は鋼材の標準的なポアソン比と一致しており、妥当な値です。

この数値は材料データベースや規格表に掲載されている値とも整合しています。

 

ひずみゲージによる測定方法

実務では、試験片の表面にひずみゲージを貼り付けて測定する方法が最も一般的です。

縦方向と横方向に1枚ずつ貼り付ける方法と、2軸ロゼットゲージを使って1枚で同時測定する方法があります。

 

ひずみゲージの測定精度は ±1 με(マイクロストレイン)程度と非常に高く、信頼性のあるポアソン比が得られます。

微小なひずみを正確に捉えるため、引張試験機単体での変位測定よりもはるかに精度が高い方法です。

 

測定上の注意点として、ゲージの貼り付け位置は試験片の中央部(標点間の中心付近)にすることが重要です。

つかみ部に近い位置では応力集中の影響でひずみ分布が一様でなくなり、正確なポアソン比が得られません。

また、温度補償のためにダミーゲージを用いるか、自己温度補償型のゲージを選定します。

 

光学的測定方法

デジタル画像相関法(DIC)を用いれば、試験片の表面全体のひずみ分布を非接触で測定できます。

試験片にランダムなスペックルパターンを塗布し、変形前後の画像を比較して面内ひずみを算出する方法です。

 

DICの利点は、面全体のひずみ分布が得られるため、均一な応力状態を確認したうえでポアソン比を求められる点にあります。

ただし、ひずみゲージと比べると分解能がやや劣るため、微小ひずみ領域では注意が必要です。

 

超音波法による測定

超音波の伝搬速度を利用してポアソン比を非破壊で求める方法もあります。

等方性材料中の縦波速度Vlと横波速度Vsを測定すると、ポアソン比は次の式で算出できます。

 

 \nu = \dfrac{V_l^2 - 2V_s^2}{2(V_l^2 - V_s^2)}

 

超音波法の最大の利点は、試験片を破壊せずに測定できることです。

製品そのものや、大型構造物の一部から直接ポアソン比を評価できるため、品質管理や健全性評価に適しています。

測定精度はプローブの接触状態や試験体の表面粗さに依存するため、研磨した平滑面で測定するのが望ましいです。

 

各測定法の比較

ポアソン比の測定法を選択する際は、精度、コスト、適用範囲を総合的に判断します。

 

ひずみゲージ法は最も精度が高く(±0.5%程度)、標準的な引張試験設備があれば実施でき、コストも比較的低いため、第一選択となることが多いです。

DIC法は面全体の分布が得られるため研究用途に優れていますが、装置が高価です。

超音波法は非破壊で迅速に測定できますが、精度はひずみゲージ法に劣ります。

 

製造現場での受入検査には超音波法、研究開発にはひずみゲージ法やDIC法、といった使い分けが一般的です。

 

3. ポアソン比とヤング率の関係

等方性の弾性体では、ヤング率(縦弾性係数)E、横弾性係数(せん断弾性係数)G、体積弾性率K、ポアソン比νの4つの弾性定数が互いに関連しています。

独立な定数は2つだけであり、任意の2つが分かれば残りの2つを計算で求められます。

この性質は等方性弾性体の基本定理であり、材料力学やCAE解析において非常に重要です。

 

横弾性係数との関係式

最も重要な関係式は、ヤング率Eとポアソン比νから横弾性係数Gを求める式です。

 

 G = \dfrac{E}{2(1 + \nu)}

 

この式は、等方性材料のフックの法則から導かれる基本的な関係式です。

導出の考え方を簡単に説明すると、純粋せん断状態を主応力に変換し、一軸の応力-ひずみ関係と照合することで得られます。

 

具体的には、純粋せん断応力τが作用する面を45度回転させると、引張応力+τと圧縮応力−τの組み合わせ(二軸応力)に変換されます。

この二軸応力状態での主ひずみをフックの法則で求め、せん断ひずみγとの関係を照合すると、上記の関係式が得られます。

 

せん断応力やねじり強度の計算で横弾性係数が必要になった場合、この式を使ってヤング率とポアソン比から即座に算出できます。

材料メーカーのカタログにはヤング率しか記載されていないことも多いため、この変換式は実務で頻繁に使います。

 

この式の検証として、鋼材の値を代入してみましょう。

E = 206 GPa、ν = 0.30を代入すると、G = 206 / 2(1 + 0.30) = 79.2 GPaとなり、鋼材の横弾性係数の公称値(約78〜82 GPa)と一致します。

逆に言えば、もし計算したGが公称値と大きくずれるなら、入力したEかνのどちらかに誤りがある可能性が高いです。

 

体積弾性率との関係式

体積弾性率Kは、材料が等方的な圧力(静水圧)を受けたときの体積変化に対する抵抗を表す定数です。

 

 K = \dfrac{E}{3(1 - 2\nu)}

 

この式から重要な物理的洞察が得られます。

 

ν = 0.5のとき、分母の(1 − 2ν)がゼロになるため、K → ∞ となります。

これは「体積が全く変化しない非圧縮材料」を意味します。

天然ゴムや液体がこの条件に近い材料です。

 

逆に、νが0に近いほどKは小さくなり、圧力に対して体積が変わりやすい材料であることを示します。

コルクはν ≈ 0なので、体積弾性率が比較的小さく、圧縮しやすい材料ということになります。

 

3つの弾性定数の相互変換

上記の2つの関係式を組み合わせると、ヤング率を横弾性係数と体積弾性率で表すこともできます。

 

 E = \dfrac{9KG}{3K + G}

 

また、ポアソン比を横弾性係数と体積弾性率から求める式もあります。

 

 \nu = \dfrac{3K - 2G}{2(3K + G)}

 

実務では、ヤング率とポアソン比の組み合わせが最も入手しやすいため、まずこの2つを確認し、必要に応じて横弾性係数や体積弾性率を関係式で算出するのが一般的な手順です。

 

以下に、4つの弾性定数の相互変換をまとめます。

求めたい定数 既知の定数 変換式
G E, ν G = E / 2(1 + ν)
K E, ν K = E / 3(1 − 2ν)
E G, K E = 9KG / (3K + G)
ν G, K ν = (3K − 2G) / 2(3K + G)
E G, ν E = 2G(1 + ν)
ν E, G ν = E / 2G − 1

 

この表を手元に置いておくと、材料データが不完全な場合でも必要な弾性定数を算出できます。

なお、表中の変換式はすべて等方性材料にのみ適用可能です。

異方性材料(CFRPや木材など)では弾性定数間の関係がより複雑になるため、同じ変換式は使えません。

 

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4. 主要材料のポアソン比一覧表

ここでは、機械設計で頻繁に使用される材料のポアソン比を一覧表にまとめます。

設計計算の際にすぐ参照できるよう、ヤング率と横弾性係数もあわせて掲載しています。

 

金属材料のポアソン比

材料 ポアソン比 ν ヤング率 E(GPa) 横弾性係数 G(GPa)
炭素鋼(SS400, S45C等) 0.28〜0.30 200〜210 78〜82
ステンレス鋼(SUS304) 0.27〜0.30 193〜200 74〜77
鋳鉄(FC200等) 0.25〜0.27 100〜130 40〜52
アルミニウム合金(A5052等) 0.33〜0.35 68〜72 25〜27
銅(C1100等) 0.33〜0.34 110〜130 42〜49
黄銅(真鍮、C2801等) 0.34〜0.35 100〜110 37〜41
チタン合金(Ti-6Al-4V) 0.30〜0.33 100〜120 38〜46
マグネシウム合金 0.29〜0.35 42〜45 16〜17
ニッケル合金 0.29〜0.31 190〜220 73〜85

 

金属材料のポアソン比は概ね0.25〜0.35の範囲に集中しています。

炭素鋼は0.30前後で非常に安定しており、実務では「鋼のポアソン比は0.3」と覚えておけば大きな問題はありません。

 

アルミニウム合金と銅合金はポアソン比がやや高く、0.33〜0.35程度です。

この差は、横弾性係数の計算結果に直接影響するため、精密な設計では材料ごとの正確な値を使う必要があります。

 

鋳鉄はポアソン比がやや低く、0.25〜0.27程度です。

鋳鉄は内部に黒鉛粒子を含む特殊な組織を持つため、鋼材とは異なる弾性挙動を示します。

 

チタン合金(Ti-6Al-4V)のポアソン比は0.30〜0.33で、鋼に近い値を持ちます。

軽量・高強度が求められる航空宇宙分野では頻繁に使用される材料であり、CAE解析で正確なポアソン比を入力することが特に重要です。

 

マグネシウム合金はポアソン比の範囲が0.29〜0.35とやや広めです。

合金組成や加工履歴(鋳造か展伸材か)によって値が変動するため、使用する合金グレードに応じたデータを参照する必要があります。

 

非金属材料のポアソン比

材料 ポアソン比 ν 備考
天然ゴム 0.49〜0.50 ほぼ非圧縮(体積変化なし)
ナイロン(PA6, PA66) 0.39〜0.41 吸湿で変化する
ポリカーボネート 0.37〜0.38 透明樹脂
エポキシ樹脂 0.33〜0.37 構造用接着剤・FRP母材
ポリエチレン 0.42〜0.46 密度により変動
コンクリート 0.15〜0.20 脆性材料のため低い値
ガラス 0.22〜0.27 組成により変動
セラミックス(アルミナ) 0.21〜0.27 脆性・高硬度
コルク 約0.00 横方向にほとんど変形しない

 

非金属材料のポアソン比は材料の種類によって大きく異なります。

ゴム系材料は0.5に非常に近く、コルクはほぼ0という極端な値を持ちます。

 

プラスチック材料は金属よりもポアソン比がやや高い傾向があります。

特にポリエチレンやナイロンは0.4を超える値を持つため、樹脂製品の設計ではこの点を考慮する必要があります。

また、樹脂材料は温度や吸湿条件によってポアソン比が変化することがあるため、使用環境に応じた値を採用することが重要です。

 

コンクリートやセラミックスは脆性材料であり、ポアソン比は0.15〜0.27と低めです。

これらの材料は横方向への変形が小さく、破壊時にはほとんど塑性変形を示さずに割れる特徴があります。

 

ポアソン比の選定時の注意

設計で使用するポアソン比の値を選ぶ際は、以下の点に注意します。

 

まず、同じ材料名でも合金種や熱処理状態によって値が異なることがあります。

たとえば「アルミニウム合金」と一括りにしても、純アルミ(A1050)とジュラルミン(A2024)ではポアソン比にわずかな差があります。

精密計算では、使用する合金グレードに対応した具体的なデータを入手することが重要です。

 

次に、樹脂材料では温度・吸湿・クリープの影響を無視できません。

ナイロンは吸水率が高く、乾燥状態と吸水後でポアソン比が変化します。

使用環境に合わせた条件でのデータを採用してください。

 

最後に、文献やデータベースによって記載されている値が異なることがあります。

特に古い文献では測定精度が低い場合があるため、可能な限り最新のJIS規格書やメーカーの技術資料を参照するのが望ましいです。

 

5. ポアソン比を使った実務計算例

ここでは、ポアソン比を用いた実務的な計算例を5つ紹介します。

いずれも機械設計の現場で頻繁に遭遇する場面です。

各計算例では、関係式の確認→数値代入→結果の考察という手順で進めます。

 

計算例1:ヤング率から横弾性係数を求める

鋼材(S45C)のヤング率E = 206 GPa、ポアソン比ν = 0.30が既知のとき、横弾性係数Gを求めます。

 

Step 1:関係式を確認します。

 

 G = \dfrac{E}{2(1 + \nu)}

 

Step 2:数値を代入します。

 

 G = \dfrac{206}{2(1 + 0.30)} = \dfrac{206}{2 \times 1.30} = \dfrac{206}{2.60}

 

Step 3:計算結果を求めます。

 

 G = 79.2\,\text{GPa}

 

文献値(約78〜82 GPa)と一致しており、妥当な結果です。

この横弾性係数は、軸のねじり強度計算やせん断応力の評価で使用します。

 

計算例2:体積弾性率を求める

同じ鋼材(E = 206 GPa、ν = 0.30)の体積弾性率Kを求めます。

 

Step 1:関係式を確認します。

 

 K = \dfrac{E}{3(1 - 2\nu)}

 

Step 2:数値を代入します。

 

 K = \dfrac{206}{3(1 - 2 \times 0.30)} = \dfrac{206}{3 \times 0.40} = \dfrac{206}{1.20}

 

Step 3:計算結果を求めます。

 

 K = 171.7\,\text{GPa}

 

体積弾性率が大きいほど、等方的な圧力に対して体積変化が小さい(硬い)材料であることを意味します。

鋼材の体積弾性率は約170 GPaであり、静水圧を受けてもほとんど体積が変わらないことがわかります。

 

計算例3:二軸応力下の板厚方向ひずみを求める

アルミニウム合金(E = 70 GPa、ν = 0.33)の薄板に、x方向に100 MPa、y方向に50 MPaの二軸応力が作用しているとき、板厚方向(z方向)のひずみを求めます。

 

Step 1:一般化フックの法則のz方向の式を確認します。

薄板の平面応力状態ではz方向の応力はゼロですので、式は次のようになります。

 

 \varepsilon_z = -\dfrac{\nu}{E}(\sigma_x + \sigma_y)

 

Step 2:数値を代入します。

 

 \varepsilon_z = -\dfrac{0.33}{70 \times 10^3}(100 + 50) = -\dfrac{0.33}{70000} \times 150

 

Step 3:計算結果を求めます。

 

 \varepsilon_z = -7.07 \times 10^{-4}

 

負の値なので、板厚方向に縮む(薄くなる)ことがわかります。

板厚が5 mmの場合、板厚の変化量は約0.0035 mmです。

微小な量ですが、精密機器の光学系や半導体製造装置のステージなど、ミクロン単位の精度が要求される設計では無視できません。

 

計算例4:圧力容器の周方向ひずみを求める

内圧を受ける薄肉圧力容器では、周方向(フープ方向)と軸方向に同時に応力が作用します。

薄肉円筒の場合、周方向応力は軸方向応力の2倍になることが知られています。

 

ステンレス鋼(E = 193 GPa、ν = 0.30)の圧力容器に内圧が作用し、周方向応力  \sigma_\theta = 120\,\text{MPa}、軸方向応力  \sigma_a = 60\,\text{MPa} が生じているとします。

周方向のひずみを求めます。

 

Step 1:二軸応力下のひずみの式を確認します。

 

 \varepsilon_\theta = \dfrac{1}{E}(\sigma_\theta - \nu \sigma_a)

 

Step 2:数値を代入します。

 

 \varepsilon_\theta = \dfrac{1}{193 \times 10^3}(120 - 0.30 \times 60) = \dfrac{120 - 18}{193000} = \dfrac{102}{193000}

 

Step 3:計算結果を求めます。

 

 \varepsilon_\theta = 5.28 \times 10^{-4}

 

もしポアソン比の効果を無視して一軸応力として計算すると、 \varepsilon_\theta = \dfrac{120}{193000} = 6.22 \times 10^{-4} となり、約18%も過大評価してしまいます。

軸方向応力がポアソン効果によって周方向のひずみを抑制しているためです。

このように、多軸応力状態ではポアソン比の効果が計算結果を大きく左右します。

 

計算例5:ポアソン比からヤング率を逆算する

横弾性係数G = 26.3 GPaとポアソン比ν = 0.33が測定で得られているアルミニウム合金のヤング率Eを逆算します。

 

Step 1:関係式をEについて変形します。

G = E / 2(1 + ν) を変形すると、次のようになります。

 

 E = 2G(1 + \nu)

 

Step 2:数値を代入します。

 

 E = 2 \times 26.3 \times (1 + 0.33) = 52.6 \times 1.33

 

Step 3:計算結果を求めます。

 

 E = 70.0\,\text{GPa}

 

アルミニウム合金の標準的なヤング率(68〜72 GPa)と一致しています。

この逆算手法は、ねじり試験から横弾性係数を先に測定し、ヤング率を間接的に求める場合に利用されます。

超音波法で縦波・横波の速度を測定してGとνを算出し、Eを逆算する手順にも応用できます。

 

6. ポアソン比の設計上の注意点

ポアソン比を正しく活用するために、設計実務で注意すべきポイントをまとめます。

 

温度によるポアソン比の変化

ポアソン比は温度によってわずかに変化します。

鋼材の場合、常温ではν ≈ 0.30ですが、高温域(500℃以上)では0.31〜0.33程度まで上昇する傾向があります。

 

ただし、ヤング率に比べると温度依存性は小さいです。

ヤング率は常温の206 GPaから500℃では170 GPa程度まで約17%低下しますが、ポアソン比の変化は数%にとどまります。

したがって、常温付近の設計では一定値として扱うのが一般的です。

 

高温設計(ボイラーや高温配管など)では、ヤング率の温度依存性を優先的に考慮し、ポアソン比は常温の値を使っても大きな誤差にはなりません。

 

塑性域でのポアソン比の変化

弾性変形中のポアソン比は材料固有の定数ですが、塑性変形が進行すると値が変化します。

一般的な金属では、弾性域でν ≈ 0.3だったポアソン比が、大きな塑性変形を受けると0.5に近づきます。

 

これは、金属の塑性変形メカニズムに起因しています。

金属の塑性変形は結晶格子面上の転位のすべり運動によって進行します。

すべり運動は純粋なせん断変形であるため体積変化を伴わず、結果としてポアソン比は非圧縮材料の値0.5に漸近します。

 

板金プレス成形やバルジ加工などの大変形を伴う加工シミュレーションでは、この塑性域でのポアソン比変化を考慮しないと成形後の板厚予測に誤差が生じます。

多くのCAEソフトウェアでは、塑性変形の構成則に体積非圧縮条件(ν = 0.5)を自動的に組み込んでいます。

 

異方性材料への注意

ここまで解説した関係式は、すべて等方性材料を前提としています。

等方性とは、どの方向から力を加えても同じ弾性特性を示すことです。

一般的な金属材料は、結晶粒がランダムに配向しているため、巨視的にはほぼ等方性とみなせます。

 

しかし、木材やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のような異方性材料では、方向によってポアソン比が異なります。

たとえばCFRPの一方向材では、繊維方向に引っ張ったときの横方向への縮みと、繊維直交方向に引っ張ったときの横方向への縮みで、ポアソン比が大きく異なります。

 

異方性材料のCAE解析では、ポアソン比を1つの値ではなく、ν12、ν13、ν23のように方向ごとに設定する必要があります。

直交異方性材料では独立な弾性定数が9個になるため、等方性の場合の2個とは大きく異なる取り扱いが求められます。

 

CAE解析での設定ミスに注意

FEM(有限要素法)によるCAE解析では、材料物性としてヤング率とポアソン比の2つを入力するのが基本です。

ここでポアソン比を誤って入力すると、せん断剛性や体積剛性が実際と異なる値になり、解析結果が大きくずれます。

 

よくあるミスの1つは、ポアソン比の桁を間違えることです。

たとえばν = 0.3と入力すべきところをν = 0.03にすると、横弾性係数Gが大幅に変わってしまいます。

G = E / 2(1 + 0.3) = 79.2 GPaに対し、G = E / 2(1 + 0.03) = 100 GPaとなり、約26%もの差が生じます。

 

もう1つの注意点は、ポアソン比を0.5に近い値に設定した場合です。

ν → 0.5では体積弾性率K → ∞ となり、要素がロッキング(体積ロッキング)を起こして解が発散する可能性があります。

ゴム材料などのCAE解析では、この問題を回避するために超弾性モデル(ムーニー・リブリンモデルやオグデンモデル)を用いるのが一般的です。

超弾性モデルでは、体積変化部分と形状変化部分を分離して扱うことで、非圧縮性に起因する数値的問題を回避しています。

 

また、ν = 0.499のようにわずかでも0.5を下回る値を設定する手法も実務で使われます。

この場合、体積弾性率は非常に大きくなりますが有限値にとどまるため、ソルバーが収束しやすくなります。

ただし、この近似値の設定には要素サイズとの整合性が必要であり、解の精度に影響しうる点に注意が必要です。

 

ポアソン比0.3は「万能近似値」か?

機械設計の現場では「ポアソン比は0.3くらい」と大雑把に扱われることがあります。

鋼材やステンレス鋼であればこの近似は妥当です。

しかし、多軸応力場やアルミニウム(ν ≈ 0.33)の精密計算では、正確な値を使うべきです。

 

横弾性係数の計算で比較してみましょう。

E = 70 GPaのアルミニウムに対し、ν = 0.30とν = 0.33で横弾性係数を計算します。

 

 G_{0.30} = \dfrac{70}{2 \times 1.30} = 26.9\,\text{GPa}

 

 

 G_{0.33} = \dfrac{70}{2 \times 1.33} = 26.3\,\text{GPa}

 

差は約2.3%です。

安全率に余裕がある設計ではこの差は吸収されますが、ねじり強度の安全率が1.2程度と小さい設計では、合否判定に影響することがあります。

 

特に、圧力容器や航空機部品のように安全率の根拠を厳密に求められる設計では、材料規格書に記載された正確なポアソン比を使いましょう。

 

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7. 一般化フックの法則とポアソン比

一軸応力では「応力 = ヤング率 × ひずみ」のシンプルなフックの法則で十分ですが、実際の機械部品は複数方向から力を受けます。

このような多軸応力状態を扱うために、ポアソン比を組み込んだ一般化フックの法則が必要です。

 

一般化フックの法則の導出の考え方

一軸引張でσxの応力が作用するとき、フックの法則から縦ひずみはσx / Eです。

このとき横方向には、ポアソン効果により−ν × σx / Eのひずみが生じます。

 

三軸応力状態では、x方向のひずみにはσx自身による縦ひずみだけでなく、σyとσzのポアソン効果による横ひずみも加わります。

これらを重ね合わせる(重ね合わせの原理)ことで、一般化フックの法則が得られます。

 

三軸応力下のひずみ

三軸方向(x, y, z)に応力σx、σy、σzが同時に作用するとき、各方向のひずみは次のように表されます。

 

 \varepsilon_x = \dfrac{1}{E}\lbrack\sigma_x - \nu(\sigma_y + \sigma_z)\rbrack

 

 

 \varepsilon_y = \dfrac{1}{E}\lbrack\sigma_y - \nu(\sigma_z + \sigma_x)\rbrack

 

 

 \varepsilon_z = \dfrac{1}{E}\lbrack\sigma_z - \nu(\sigma_x + \sigma_y)\rbrack

 

各ひずみの式で、その方向の応力はそのまま加え、他の2方向の応力にはポアソン比を掛けて引く構造になっています。

これが「ポアソン効果」の数式的表現です。

 

この式の物理的意味を確認しましょう。

x方向のひずみに着目すると、σxがx方向を伸ばそうとする一方、σyとσzはポアソン効果によってx方向を縮ませようとします。

最終的なx方向のひずみは、これらの効果を合計したものです。

 

せん断ひずみの関係

せん断応力τとせん断ひずみγの関係には、横弾性係数Gが使われます。

 

 \gamma_{xy} = \dfrac{\tau_{xy}}{G}, \quad \gamma_{yz} = \dfrac{\tau_{yz}}{G}, \quad \gamma_{zx} = \dfrac{\tau_{zx}}{G}

 

前述のとおりGはヤング率Eとポアソン比νから計算できるため、結局すべてのひずみ成分はEとνの2つの材料定数で決まります。

これは等方性弾性体の重要な性質であり、CAE解析で材料物性の入力がEとνの2つだけで済む理由でもあります。

 

体積ひずみとポアソン比

三軸応力下の体積ひずみεvは、3方向のひずみの和で表されます。

 

 \varepsilon_v = \varepsilon_x + \varepsilon_y + \varepsilon_z = \dfrac{1 - 2\nu}{E}(\sigma_x + \sigma_y + \sigma_z)

 

この式から、ν = 0.5のとき体積ひずみが常にゼロになることが明確にわかります。

つまり、ポアソン比が0.5の材料は、どのような力を受けても体積が変化しない「完全非圧縮材料」です。

 

実際の金属材料ではν ≈ 0.3なので、(1 − 2 × 0.3)= 0.4となり、体積変化はゼロではありません。

しかし、塑性変形が進んだ領域では、金属のポアソン比は0.5に近づきます。

これは、金属の塑性変形が結晶面のすべり(せん断変形)で進行し、体積変化を伴わないためです。

 

平面応力と平面ひずみ

実務では、三軸の完全な応力状態を扱うことは少なく、簡略化した「平面応力」または「平面ひずみ」の条件で計算することが多いです。

 

平面応力状態(σz = 0)は、薄板や薄肉シェル構造に適用される条件です。

このとき、面外方向のひずみは次のようになります。

 

 \varepsilon_z = -\dfrac{\nu}{E}(\sigma_x + \sigma_y)

 

この式は、CAE解析のシェル要素で板厚変化を見積もるときに使います。

 

一方、平面ひずみ状態(εz = 0)は、長い円筒やダムのような奥行き方向に一様な構造に適用されます。

この条件ではz方向の応力がゼロにならず、ポアソン効果によって拘束応力が発生します。

 

 \sigma_z = \nu(\sigma_x + \sigma_y)

 

この拘束応力を溶接部の強度計算などで見落とすと、実際よりも低い応力で評価してしまう危険があります。

溶接残留応力は多軸に作用するため、ポアソン比を考慮した応力評価が重要です。

 

コンプライアンスマトリクスによる表現

一般化フックの法則を行列形式で表現すると、6つのひずみ成分と6つの応力成分の関係を体系的に記述できます。

等方性材料のコンプライアンスマトリクス(柔軟性マトリクス)は次のように表されます。

 

対角成分には1/Eが、非対角の垂直応力-垂直ひずみ成分には−ν/Eが、せん断成分には1/Gが配置されます。

このマトリクスの逆行列が剛性マトリクス(スティフネスマトリクス)であり、CAE解析の要素剛性計算で直接使われています。

 

剛性マトリクスの各成分にはラメの定数λとμが現れます。

これらもヤング率Eとポアソン比νから算出できる弾性定数で、μは横弾性係数Gと同一です。

ラメの第1定数λは次の式で求められます。

 

 \lambda = \dfrac{E\nu}{(1 + \nu)(1 - 2\nu)}

 

このλは物理的な意味が直感的にわかりにくい定数ですが、数学的に剛性マトリクスの記述を簡潔にする役割を持っています。

CAEソフトウェアの内部計算ではラメ定数が頻繁に使われますが、ユーザーが直接入力する機会は少なく、通常はEとνの組み合わせで入力します。

 

まとめ

本記事では、ポアソン比の定義から求め方、ヤング率との関係式、主要材料の一覧表、そして実務的な計算例まで解説しました。

 

ポイントを整理します。

  • ポアソン比は荷重方向のひずみに対する横方向ひずみの比で、記号はν、無次元量です
  • 等方性材料では−1 ≦ ν ≦ 0.5の範囲をとり、金属材料は0.25〜0.35に集中します
  • ヤング率とポアソン比が分かれば、横弾性係数 G = E / 2(1 + ν) と体積弾性率 K = E / 3(1 − 2ν) を算出できます
  • 多軸応力場では一般化フックの法則にポアソン比が組み込まれ、すべてのひずみ成分をEとνの2定数で決定できます
  • CAE解析ではνを0.5に近い値に設定するとロッキングが発生するため、ゴム材料などでは超弾性モデルを使用します

 

ポアソン比は一見地味な定数ですが、横弾性係数や体積弾性率を経由して、ねじり強度、圧力容器の設計、CAE解析の全てに影響を与える重要なパラメータです。

設計計算の信頼性を高めるために、材料ごとの正確なポアソン比を使い分けることを心がけましょう。