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FMEAの「潜在的故障モード」とは何か? 現場での見落とし事例付き解説

品質トラブルの未然防止を図る手法として定番となっているFMEA(故障モードと影響解析)において、その中心的な概念の一つが「潜在的故障モード」です。

しかし、FMEAの導入現場では、この“潜在的故障”の捉え方に曖昧さが残り、重大な見落としを引き起こす原因となることもしばしばあります。

 

本記事では、「潜在的故障モードとは何か?」を改めて整理し、製造業での実例を交えて、現場で見落とされがちなポイントを解説します。

 

 

潜在的故障モードとは何か?

FMEAにおける「潜在的故障モード(Potential Failure Mode)」とは、「ある機能が、その設計または工程上、どのようにして期待された動作を果たせなくなるか」の“あり得る形”を指します。

ここで重要なのは、「実際に起こった故障」ではなく、「理論上起こり得る故障の形態」であるということです。

FMEAでは、この潜在的故障モードを網羅的に洗い出し、それが引き起こす影響(Effect)、原因(Cause)、現行対策(Control)などを評価していきます。

 

一般的な故障モードの例

業種を問わず共通する代表的な故障モードには、次のようなものがあります。

・寸法ズレ(例:長さ、厚みが規定値から外れる)

・物理的破損(例:亀裂、変形)

・機能停止(例:作動しない、応答しない)

・誤動作(例:逆方向に動作、誤信号)

・組立ミス(例:逆向き、部品不足)

これらは工程FMEA(Process FMEA)においても設計FMEA(Design FMEA)においても頻出する故障モードであり、「何がどうダメになるか」を技術的に深堀りする視点が求められます。

 

現場での潜在的故障モードの見落とし事例

事例①自動車業界:樹脂部品の寸法変化を見落とし

ある自動車部品メーカーでは、エンジンルーム内に使用される樹脂製クリップのFMEAを行っていました。

設計上の故障モードとしては、「クリップが折れる」「保持力が足りない」などが挙がっていたものの、”高温環境下での樹脂の膨張”による寸法変化は検討漏れとなっていました。

その結果、実際の使用環境での組付け不良が発生。固定が甘くなり、走行中に部品が外れるというクレームに繋がりました。

 

設計段階では強度や材質の耐久性に注目していたものの、温度変化に伴う“可動部の遊び”への影響まで評価が及んでいなかったのです。

製品機能だけでなく、取付精度や保持状態の間接的な変化にも目を向けることが重要です。

 

事例②電子機器業界:半田付け不良の見落とし

ある電子機器メーカーでは、プリント基板(PCB)に対する工程FMEAを実施していました。

工程ごとの故障モードとして「半田量不足」「部品位置ズレ」は挙げられていたものの、“フラックス残留による接触不良”という潜在的故障モードが抜けていました。

実際には、一定のロットでフラックス成分が電極間に残留し、通電不良を引き起こすという問題が発生。現場では「再現性が低く、見落とされやすい」トラブルとして扱われていました。

 

発生頻度が低いために重要度を低く見積もっていたこと、さらに試験条件と実使用条件が完全に一致していなかったことが、FMEAの想定不足につながっていました。

見えにくい残留物や経時的変化にも注目する視点が求められます。

 

事例③住宅設備業界:水栓バルブの摩耗を軽視

住宅用キッチン水栓に使われるセラミックバルブにおいて、FMEAでは「初期漏れ」「部品組立不良」などの故障モードが想定されていましたが、硬水地域での微粒子による摩耗は想定外とされ、FMEA項目に含まれていませんでした。

結果として、海外販売エリアで数年使用後に漏水が多発。水質の違いによる摩耗という「潜在的な長期故障モード」が見落とされていたのです。

 

設計チームは主に日本市場でのデータを基にFMEAを作成しており、地域ごとの使用条件や環境要因の多様性を十分に反映していなかったことが原因でした。

グローバル展開する製品では、地域特有の使用環境やユーザー行動まで視野に入れたFMEAが求められます。

 

潜在的故障モードの見落としを防ぐには?

①実際の不具合事例をベースに出し切る

過去の品質トラブルや市場クレームを一覧化し、それらがFMEAに反映されているかを照合することで、「実際に起きたことをなぜ未然防止できなかったのか」が見えてきます。

この際、設計・製造・サービスなど複数部門からヒアリングを行い、「現場の声」を拾うことが重要です。

また、不具合原因だけでなく、発見に至った経緯や検出困難性まで含めて分析すると、潜在的故障モードの検討精度が高まります。

 

②マルチ視点で洗い出す

設計者だけでなく、製造、品質、調達、サービスなど、異なる職種のメンバーを含めたチームでFMEAを実施することで、抜け漏れが減ります。

特に現場経験が豊富な作業者やフィールドサービスの担当者は、理屈では説明しづらいけれど、起こりやすいトラブルに敏感です。

例えば、作業姿勢や工具の癖、ユーザーの誤操作など、文書化されにくい要素も含めて洗い出すと、FMEAの現実適合性が格段に向上します。

 

③環境・経年劣化など、非定常要素を考慮する

潜在的故障モードは「正常な工程でも起こり得ること」に加え、「想定外の外的影響によって誘発されること」にも注目すべきです。

代表的な要素としては、温度、湿度、水質、紫外線、振動、静電気、異物混入、経年劣化などがあります。これらは設計図面や工程フローからは読み取りにくく、実使用状況や環境試験データを元に補完する必要があります。

さらに、製品の使用年数ごとにどんな劣化が進行するのかを時間軸で捉えることも、長寿命製品のFMEAでは重要です。

 

まとめ:潜在的故障モードの理解がFMEAの要

FMEAは単なるリスト作成ではなく、「どこにどんな不具合の可能性が潜んでいるか?」を突き詰めて考えるプロセスです。潜在的故障モードは、その出発点です。

 

そのためには、設計上・工程上の失敗経験、外部環境の影響、経年劣化、ユーザーの使い方など、多角的な視点での洗い出しが不可欠です。

「あり得ない」は禁句。むしろ“あり得るすべて”を想定する視野こそが、FMEAの本質です。