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順送加工とは|プレス加工の自動化とコストメリット

プレス加工工場に響き渡る、マシンガンのような「タタタタタ!」という高速の打抜き音。その音の主こそが、現代の大量生産を支える最強の工法「順送加工(Progressive Stamping)」です。

コイル状に巻かれた長い金属の帯が、プレス機に吸い込まれていきます。金型の中では、穴あけ、曲げ、絞りといった全く異なる工程が、コンマ数秒という驚異的なスピードで連続して行われ、プレスの出口からは完成品がまるで湯水のように溢れ出てくる。 この光景は、何度見ても製造業のダイナミズムを感じさせる魔法のような瞬間です。

しかし、その魔法を実現するためには、ミクロン単位で計算された「送りピッチ」の制御と、髪の毛一本のズレも許さない金型職人の執念深い調整が不可欠です。一つのミスが金型全損(クラッシュ)につながるリスクと背中合わせの中で、いかに安定稼働させるか。

本記事では、順送加工のメカニズムから、単発・トランスファーとの決定的な違い、コストを支配する歩留まり計算、そして現場で技術者を泣かせる「カス上がり」や「パイロットピン」のトラブル対策まで、製造現場のリアルな視点で徹底的に解説します。

1. 順送加工(プログレッシブ)とは:連続する進化

順送加工とは、英語で「Progressive Die Stamping」と呼ばれます。"Progressive"(進歩的、順次進行する)という言葉が示す通り、一つの金型の中に複数の加工工程(ステージ)を等間隔で配置し、コイル材を一定のピッチで送りながら、順次加工を進めていく工法です。

基本的な仕組み

材料は、プレス機の1ストロークごとに「1ピッチ」ずつ前進します。

  1. 第1ステージ: パイロット穴(位置決め用の穴)の抜き、外形の一部抜き。
  2. 第2ステージ: ピアス(製品の穴あけ)。
  3. 第3ステージ: アイドル(空き工程・金型強度確保のため)。
  4. 第4ステージ: バーリングや曲げ加工。
  5. 最終ステージ: カットオフ(切り離し)。製品として排出。

これら全てが、1つの巨大なダイセットの中に組み込まれており、プレスのスライドが1回上下するたびに、全てのステージで同時に加工が行われます。 つまり、1ストロークで必ず1個(あるいは複数個)の製品が完成するのです。

単発加工・トランスファー加工との違い

  • 単発加工(Single): 人が手で材料をセットし、1工程だけ行う。 生産性は低いですが、金型が安く、多品種少量生産に向きます。
  • トランスファー加工(Transfer): 材料を切り離してから、ロボットアーム(フィンガー)で次工程へ運びます。 材料歩留まりが良いのが特徴ですが、順送ほどの生産速度(SPM)は出せません。
  • 順送加工(Progressive): 材料を「つなげたまま」送ります。 この「つなぎ(キャリア)」があるおかげで、高速かつ高精度に送ることができます。SPM(1分間のストローク数)は数百〜数千に達し、圧倒的な生産性を誇りますが、金型構造は複雑で高価になります。

 

2. 金型構造の心臓部:ストリップレイアウト

順送金型の設計図において、最も重要で、最初に決定されるのが「ストリップレイアウト(Strip Layout)」です。 これは、帯状の材料がどのように加工されていくかを時系列で描いた展開図であり、金型の設計思想そのものです。

キャリア(Carrier)の役割

順送加工の最大の特徴は、最終工程で切り離されるまで、製品が「キャリア」と呼ばれる枠にぶら下がった状態で運ばれることです。 キャリアは製品の一部ではありませんが、製品を運び、位置を決めるための生命線です。

  • サイドキャリア: 材料の両端(耳)を残してキャリアにする方式。最も一般的で剛性が高い。
  • センターキャリア: 材料の中央をキャリアにする方式。材料幅を節約できるが、バランスが難しい。
  • 外形キャリア: 製品の外形線の一部をそのままキャリアとして利用する方式。

リフターとガイド

材料を送る際、金型(ダイ)の表面を擦りながら移動すると、製品に傷がついたり、曲げ形状が引っかかったりします。 そのため、順送金型には「リフター(Lifter)」と呼ばれるバネ仕掛けのピンやレールが内蔵されています。

プレスが上がると同時にリフターが材料を持ち上げ、金型から浮かせた状態(パスライン)で送ります。 このリフターの調整が甘いと、材料送りの瞬間に製品がダイに激突し、変形や送りミスを引き起こします。

 

3. 位置決めの要:パイロットピンの機能

順送加工において、最も重要な部品を一つ挙げるとすれば、それは間違いなく「パイロットピン(Pilot Pin)」です。

送り装置の誤差を補正する

プレスの送り装置(フィーダー)は優秀ですが、高速運転時にはどうしても±0.05mm程度の送り誤差が生じます。

順送加工で工程が20ステージもあると、この誤差が累積して1mm以上のズレになり、製品になりません。 そこで、パンチよりも先に材料に突き刺さる「パイロットピン」が活躍します。

  1. 送り装置が材料を「だいたい」の位置まで送る。
  2. 金型が閉じる直前、先端が尖った(砲弾型)パイロットピンが、材料にあけられた「パイロット穴」に入り込む。
  3. ピンが穴の内側面を滑りながら、材料を強制的に正しい位置(正規位置)へと引きずり込む。
  4. 材料が完全に固定された状態で、他のパンチが加工を行う。

この「強制的な位置補正」こそが、順送加工の精度の源です。

【現場の苦労話】パイロットの「鳴き」を聞け

調整がうまくいっていない金型では、パイロットピンが穴に入る瞬間に「シュッ」とか「カッ」という異音がします。

これはピンが穴の縁を無理やり削りながら入っている音です。 これを放置すると、ピンが摩耗して精度が出なくなるだけでなく、最悪の場合、ピンが折れて金型内に残り、次のショットで金型を粉砕します。

熟練のオペレーターは、プレスの轟音の中で、この微かな「悲鳴」を聞き分け、送りのタイミングやリリースの調整を行います。

 

4. 材料歩留まりとコスト計算

順送加工の最大のデメリットは「材料の無駄が多い(歩留まりが悪い)」ことです。 キャリア部分や、製品間のつなぎ(ブリッジ)は全てスクラップになります。

金型設計者や生産技術者は、いかにこの無駄を減らすかに知恵を絞ります。

歩留まり(Yield Rate)の計算式

歩留まり  Y (\%) は、投入した材料のうち、どれだけが製品になったかを示します。

 Y = \dfrac{S_{product}}{W \times P} \times 100

  •  S_{product}:製品1個あたりの面積 (mm²) ※穴抜きカスを除く純粋な製品面積
  •  W:材料幅 (mm)
  •  P:送りピッチ (mm)

【計算事例】 製品面積  2000 \, mm^2、材料幅  50 \, mm、送りピッチ  60 \, mm の場合。

1個あたりの使用面積(粗材面積)は  50 \times 60 = 3000 \, mm^2 歩留まり  Y = \dfrac{2000}{3000} \times 100 = 66.6 \%

つまり、材料の33.4%はお金を払って捨てていることになります。 もし設計変更で材料幅を48mm、ピッチを58mmに詰められたらどうなるか。

 Y' = \dfrac{2000}{48 \times 58} \times 100 = \dfrac{2000}{2784} \times 100 \approx 71.8 \%

歩留まりが約5%向上します。月産10万個、材料費が月1000万円なら、毎月50万円、年間600万円の利益改善です。 「1mmを削る」設計変更が、会社の利益に直結するのが順送加工の世界です。

 

5. 送り装置(フィーダー)との同期技術

金型だけが良くても順送加工はできません。材料を供給する「レベラーフィーダー」との完全な同期が必要です。

ロールリリース(Roll Release)の調整

ここが調整の最難関です。 フィーダーのロールが材料を挟んだままでは、パイロットピンが材料を動かそうとしても動きません(喧嘩します)。 そこで、パイロットピンが材料に刺さる瞬間に、フィーダーのロールを一瞬だけ「パッ」と開放(リリース)して、材料をフリーにする必要があります。

  • リリースが早すぎる: 材料が慣性で滑って行き過ぎてしまい、パイロットが入らない。
  • リリースが遅すぎる: パイロットが無理やり材料を引っ張り、穴が変形したり、送り穴ピッチが狂ったりする。

このタイミングは、プレスのクランク角度で管理されます(例:180度でフィード終了、270度でリリース開始など)。 SPMを上げると慣性の影響が変わるため、生産速度ごとに微妙な調整が求められます。

 

6. トラブルシューティング:カス上がりとミスフィード

順送加工の現場は、トラブルとの戦いです。代表的な二大トラブルとその対策を解説します。

① カス上がり(Slug Pulling)

穴あけ加工で抜いたカス(スクラップ)が、パンチの先端にくっついて上がってきてしまい、金型上面(ダイ面)に落ちる現象です。 そのまま次の材料が送られてきてプレスすると、カスを挟み込んで金型面を凹ませたり、製品に「打痕(だこん)」をつけたりします。 最悪の場合、カスが積み重なってパンチが折れます。

  • 原因: パンチとダイのクリアランス過多、潤滑油の粘度(吸着)、パンチの帯磁。
  • 対策:
    • ジェクターパンチの使用: パンチの中にバネとピンを仕込み、カスを物理的に押し放す。
    • バキューム吸引: ダイの下から空気を吸い込み、カスを強制落下させる。
    • パンチ刃先の形状工夫: 斜めに研磨(シャー角)したり、溝を入れたりして吸着を防ぐ。

② ミスフィード(送りミス)

材料が所定の位置まで送られない、または送りすぎる現象です。 これを検知せずにプレスを続けると、誤った位置で加工してしまい、金型が大破します。

  • 対策:ミス検知センサーの設置 金型内には必ず「ミス検知ピン」や「ファイバーセンサー」を設置します。 パイロット穴が正しい位置にあるかを毎ショット確認し、もしズレていたら、プレスが下死点に到達する前に急停止信号(エマージェンシーストップ)を出します。 センサーの感度調整や、断線チェックは始業前点検の必須項目です。

 

7. 現場のカンコツ:薄紙一枚の調整

金型のメンテナンスや段取り替えにおいて、教科書には載っていない「感覚」の世界があります。

ダイハイトと「キスマーク」

順送金型をセットする際、プレスのスライド高さ(ダイハイト)をどこに合わせるか。

深く下ろしすぎれば金型同士がぶつかって破損し、浅すぎればカス上がりや成形不良が起きます。 現場では、製品の切断面や、曲げ部分につく僅かな跡(キスマーク)を見て判断します。

「光にかざして、うっすらと当たりが見えるくらい」 この「うっすら」が、数値で言えば0.01mm〜0.02mmの世界です。 時には、新聞紙(厚さ約0.06mm)やタバコの銀紙をストリッパプレートの間に挟んで隙間を確認するような、アナログな職人技も健在です。

キャンバー(反り)との格闘

コイル材には、元々の圧延工程で生じた「癖」があります。 特に「キャンバー(横曲がり)」がひどいと、いくらガイドを調整しても材料が斜めに進んでいき、パイロットが入らなくなります。

そんな時、現場ではレベラー(矯正機)のロールを微妙に傾けたり、材料の裏表をひっくり返してセットしたり、あるいは金型入口のガイドにシムテープを貼って抵抗を変えたりと、あらゆる手段で材料を「なだめすかし」ながら通します。

「鉄は生き物だ」と古参の職人が言うのは、こうした予期せぬ挙動に対応し続ける経験から来る言葉でしょう。

 

8. 最新技術:順送の限界を超える

近年、順送加工技術はさらに進化しています。

金型内タップ(インダイタップ)

従来はプレス後の別工程で行っていた「ネジ切り(タップ加工)」を、順送金型の中でやってしまう技術です。

プレスと同期して回転するタップユニットを金型内に組み込みます。

生産スピードは落ちますが、工程集約によるコストダウン効果は絶大です。

順送+トランスファーの融合

前半の穴あけや絞りは順送で行い、最後の複雑な曲げやカシメだけを切り離して、金型内蔵の小型ロボットハンドで搬送するハイブリッド方式です。

順送のスピードと、トランスファーの自由度をいいとこ取りした工法です。

 

9. まとめ

順送加工は、日本の製造業が得意とする「擦り合わせ技術」の結晶です。

  • ストリップレイアウトで、材料の無駄を極限まで削ぎ落とす。
  • パイロットピンとフィーダーの同期で、高速かつ高精度な位置決めを実現する。
  • センサーと保全技術で、止まらないラインを作り上げる。

初期投資(金型費)は高額ですが、一度立ち上がれば、数百万個の製品を均一な品質で、極めて低いコストで生み出し続けることができます。

手元のスマートフォンや自動車の部品を見る機会があれば、そこに小さな「つなぎ目の跡」や「位置決めの穴」がないか探してみてください。 もし見つかれば、それは間違いなく、技術者たちの汗と計算によって組み上げられた順送金型から生まれた製品です。