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QMS(品質管理システム)の全体像を5分で理解!基本・事例・課題を徹底解説

製品やサービスの品質に対する期待が高まる中、企業の競争力の源泉として「QMS(Quality Management System/品質管理システム)」が改めて注目されています。

ISO 9001に代表されるQMSは、品質を一過性のものではなく「仕組み」で保証する枠組みです。

2020年代に入り、サプライチェーンの複雑化やリコール事例の多発、またSDGs・ESGなど社会的責任への関心の高まりといった背景もあり、「信頼できる品質の提供」は企業価値を大きく左右する要素となっています。

この記事では、QMSの基本から、実際の業界事例、関連法規制、そして昨今の情勢に至るまで、ビジネスパーソンとして押さえておきたいポイントを整理して紹介します。

 

 

QMSとは何か?基本のしくみと目的

QMSとは、製品やサービスが一貫して顧客要求および法規制に適合することを目的とした「品質マネジメントの枠組み」です。

 

QMSの構成要素(例:ISO 9001の項目)

・品質方針と目標の設定

・組織体制と責任の明確化

・文書管理・記録の整備

・プロセスの計画と管理

・リスクベースの考え方(FMEA等)

・顧客満足度の測定と改善

 

QMSは単なる検査強化ではなく、設計・購買・製造・出荷・アフターサービスに至るまで、製品ライフサイクル全体を通じた「プロセス重視の管理手法」です。

 

QMS活用のメリット:なぜ多くの企業が導入するのか?

QMSの導入・運用には一定のコストや工数がかかりますが、それを上回るメリットがあります。

 

・品質の“属人化”からの脱却

たとえば、熟練者が辞めると不良が増える、という現象は多くの工場で見られます。

QMSでは、スキルやノウハウを手順書や記録として形式知化し、誰が行っても一定の品質が出る仕組みを整備します。

例:某精密部品メーカーでは、社内の教育マニュアルと作業手順書をQMS下で徹底整備。作業者の交代があっても不良率が10ppm以下で安定するようになった。

 

・顧客信頼の獲得(商談・入札条件への対応)

多くの大手メーカーや医療機器業界では「ISO 9001認証取得企業であること」が取引条件になっています。つまり、QMSを整備することは参入条件の1つでもあります。

例:某自動車部品サプライヤーは、海外OEMからの受注条件にIATF 16949取得が含まれていたため、社内体制を再構築。2年後に新規受注を獲得。

 

・継続的改善(カイゼン)のベースができる

QMSの思想には、改善に終わりはないという継続的改善(継続的改善=Continual Improvement)が含まれています。データに基づいて見直しを繰り返す習慣が組織に根づきます。

 

QMS運用上の注意点・デメリット:形骸化と現場乖離

・「マニュアルのためのマニュアル」化

QMSが社内で定着しない原因の一つが、「現場では誰も見ないマニュアルがあるだけ」になることです。

これは、ISO認証取得だけを目的にしてしまい、実運用に落とし込めていない状態を示します。

例えば、外部審査員に提出するためだけに品質手順書が作成され、現場の実態と乖離。結果として不良率が改善しないまま、認証維持だけが目的となっているなどです。

 

・維持コスト・人的リソースの負担

QMSの文書管理・内部監査・教育訓練・改善活動には継続的な工数がかかります。

特に中小企業では、片手間では対応しきれないという声もあります。

対応の工夫:

・クラウド型QMSツールを使って文書や記録を一元管理

・現場主導の改善提案制度とリンクさせ、形骸化を防止

・部門横断のQMS委員会を立ち上げ、継続性を担保

 

自動車業界におけるQMSとIATF 16949

一般論:品質の不備=リコールリスク

自動車は一台あたり2〜3万点の部品で構成されており、わずかな不具合でも人命に関わります。

そのため、自動車業界では、ISO 9001をベースとしたより厳格な規格「IATF 16949」がQMSとして広く導入されています。

 

例:エアバッグの不具合と再発防止策

2010年代に発生した某自動車メーカーのエアバッグ大量リコールは、部品サプライヤーの不適切な品質記録と工程管理が原因でした。この問題を受け、業界全体で以下のQMS強化が進みました。

・製造ロットのトレーサビリティの確立(いつ・誰が・どの条件で作ったかの記録)

・APQP(先行製品品質計画)による設計初期段階からのリスク評価

・PPAP(生産部品承認プロセス)による事前検証の徹底

結果として、現場主導の品質改善活動が盛んになり、「Run@Rate(量産試験による安定性確認)」などの実運用が制度化されました。

 

医療機器業界とQMS省令(国内規制との関連)

法規制ベースのQMS:医療機器業界

日本では、医療機器に関しては「QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準)」が法令ベースで義務付けられています。これは、ISO 13485を元にした日本独自の規制です。

 

例:血糖測定器の自主回収と是正措置

ある中堅医療機器メーカーが出荷した血糖測定器で、測定誤差の大きいロットが見つかり、自主回収に至った事例がありました。

原因は「製造ライン変更時のバリデーション(工程確認)」の未実施でした。この件では以下のようなQMS的対応が求められました。

・製造設備の変更管理手順の明文化

・年次内部監査体制の見直し

・是正処置・予防処置(CAPA)の実施と記録

 

このように医療業界では、単なる社内ルールではなく、「厚生労働省による監査」や「PMDAからの査察」など、法令と直結する品質管理が行われています。

 

デジタル化とQMS:電子記録・電子署名(ERES)の活用

一般論:紙からデジタルへ、信頼性をどう確保するか

昨今、QMS運用においてもデジタル化は避けて通れません。

文書管理・変更履歴・承認フローの電子化が進んでいますが、それに伴う「改ざんリスク」への対応も求められます。

 

例:製薬会社における電子バッチ記録システムの導入

ある製薬企業では、従来紙で行っていた製造記録(バッチレコード)を電子化し、電子署名付きのシステムに移行しました。これにより、

・記録の信頼性(誰がいつ入力・承認したか)が明確化

・内部監査の効率化(検索・出力が迅速)

・FDAやPMDA査察における証明性の向上

といった効果が得られています。

こうしたデジタルQMS対応は、特に海外規制(21 CFR Part 11等)への準拠にもつながります。

 

サプライチェーン全体のQMS適用とESG

一般論:自社だけでは品質は保証できない

QMSは今や、自社の製造工程だけではなく、「サプライヤー管理」「物流」「顧客の使用段階」まで範囲が広がっています。

 

例:半導体業界での「サプライヤー監査」

ある半導体企業では、主要サプライヤーに対して年1回のQMS監査を義務付け、共通フォーマットで以下を評価しています。

・品質マニュアルと手順書の整備

・記録の保存期間と真正性

・教育訓練とスキルマトリクスの更新状況

 

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点からも、「QMSを使って倫理的な調達が行われているか」が問われる時代となっています。

 

サイクルで動かす品質のPDCA

QMSの基本は、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認)→ Act(改善)というPDCAサイクルにあります。これは品質を継続的に改善するための流れです。

 

まず「Plan」では、品質目標やリスクを踏まえてルールや手順を定めます。例えば、製品設計時にFMEAを行い、問題の予防策を立てることがこれにあたります。

続く「Do」では、計画に従って実際の業務を行います。製造や検査の現場で、標準作業に沿って作業を進め、必要な記録も残します。

「Check」では、成果を確認します。不良率や工程能力を分析し、内部監査などで現場がルール通り運用されているかを評価します。

そして「Act」では、問題があれば是正・改善を実施し、必要なら手順を見直して次の計画に反映します。

 

このサイクルが社内のあらゆる業務で機能している状態がQMSの「仕組み」としての本質です。

 

QMSは“品質部門だけの仕事”ではない

品質管理というと、つい「品質保証部門の業務」と考えがちです。

しかし、QMSが対象とするのは営業から設計・調達・製造・アフターサービスまで。

つまり、「全社横断型の取り組み」です。

・営業:顧客の品質要求を正しくヒアリングし、仕様化

・設計:リスクを見越した図面・仕様設定(DRBFMなど)

・調達:信頼できるサプライヤー評価と監査体制

・製造:標準作業によるバラツキの最小化

・品保:是正処置や監査、文書管理の仕組み化

 

まとめ

QMSは、単に製品の不良を減らす手段ではなく、「企業の信頼性」や「業界の信用」を守るための仕組みです。

ISO認証の取得だけで満足せず、実運用を通じてどこまで仕組みを“生きたもの”にできるかが、真の差別化ポイントとなります。

 

今後も業界規制やテクノロジーの進展にあわせて、QMSも進化していくことが求められます。ビジネスパーソンとしては、「品質の現場と経営視点の橋渡し役」としてQMSの全体像を理解することが、大きな強みになるでしょう。