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断面二次モーメントとは|計算式と単位をわかりやすく解説

「同じ材料、同じ重さの角材でも、縦に置くか横に置くかで、乗った時のたわみ方は全く違う。」

この直感的な現象を、数学的に数値化したものが「断面二次モーメント(Second Moment of Area)」です。

機械設計において、部品の「剛性(変形しにくさ)」を決定づける最重要パラメータであり、これを知らずに強度設計を行うことは不可能です。

どんなに高強度の材料を使っても、断面形状の設計が不適切であれば、その機械は自重でたわみ、振動し、本来の性能を発揮できません。

逆に言えば、このパラメータを理解していれば、安価な材料でも、形状を工夫するだけで驚くほど頑丈な構造体を作ることができるのです。

 

本記事では、断面二次モーメントの定義と物理的意味から、長方形・円形・三角形などの基本公式の導出、平行軸の定理を用いたH型鋼やT型梁の実践的な計算方法、そして断面係数との使い分けまでを網羅的に解説します。

公式を暗記するだけでなく、「なぜその式になるのか」という理屈を理解し、応用が利く設計力を身につけましょう。

 

 

1. 断面二次モーメントとは何か?

幾何学的な「曲げにくさ」の指標

断面二次モーメントとは、部材の断面形状によって決まる「曲げにくさ(曲げ剛性)」を表す係数です。

重要なのは、これが材料の材質(鉄かアルミか、あるいは木材か)には一切関係なく、純粋に「形(幾何学形状)」だけで決まる性質であるという点です。

 

記号は通常  I(アイ)が用いられます。

慣性モーメント(Moment of Inertia)と呼ばれることもありますが、動力学における「回りにくさ(質量慣性モーメント)」とは別物であるため、混同を避けるために「断面二次モーメント」と呼ぶのが工学的に正確です。

質量慣性モーメントが「回転運動に対する抵抗」であるのに対し、断面二次モーメントは「曲げ変形に対する抵抗」です。

 

物理的な意味:遠くにあるほど効く

曲げモーメントがかかったとき、部材の断面内ではどのような力が働いているのでしょうか。

中心軸(中立軸)付近では変形が少なく、応力も小さいですが、軸から離れれば離れるほど、材料は強く引き伸ばされたり、押し縮められたりします。

つまり、中立軸から「遠い場所」に面積が多く配置されている形状ほど、抵抗力が大きくなり、結果として曲げにくくなります。

 

・H型鋼が強い理由:中立軸(真ん中)の肉を削ぎ落とし、その分を遠くのフランジ部分に配置しているから。

・パイプが中実丸棒より効率的な理由:中心付近の(あまり仕事をしない)肉を外周に移動させているから。

 

このように、「断面の微小面積」と「距離の二乗」を掛け合わせて総和をとったものが断面二次モーメントです。

「距離の二乗」が掛かるため、少しでも外側に肉を盛るだけで、剛性は劇的に向上します。

 

曲げ剛性  EI との関係

実際の部材の「硬さ(たわみにくさ)」は、形状だけでなく材料にも依存します。

これを表すのが「曲げ剛性(Flexural Rigidity)」です。

 

 \text{曲げ剛性} = E \times I

 

 E :ヤング率(材料の定数、材質で決まる)

 I :断面二次モーメント(形状の定数、形で決まる)

 

設計者は、材料変更( E を変える)と形状変更( I を変える)の組み合わせで、目標とする剛性を実現します。

一般的に、材料を変えるよりも形状を変える( I を大きくする)方が、コスト対効果が高くなります。

 

2. 定義式と単位

断面二次モーメント  I は、数学的には以下の積分式で定義されます。

この式がすべての計算の出発点となります。

 

定義式

図心(中立軸)を  x 軸とした場合、断面内の微小面積  dA と、軸からの距離  y を用いて表します。

 

 I_x = \int_A y^2 dA

 

ここで、

 I_x :x軸周りの断面二次モーメント

 y :微小面積までの距離

 dA :微小面積

 

なぜ「二次」なのかというと、距離  y を「2回(二乗)」掛けているからです。

ちなみに、距離  y を1回だけ掛けた  \int y dA は「断面一次モーメント」と呼ばれ、これは剛性ではなく「図心(重心)の位置」を求めるために使われます。

 

単位(Unit)の解説

単位の成り立ちを確認しましょう。

・距離  y の単位: \text{mm}

・面積  dA の単位: \text{mm}^2

 

これらを掛けるため、断面二次モーメントの単位は「長さの4乗」になります。

 

 \text{mm}^2 \times \text{mm}^2 = \text{mm}^4

 

建築や土木の世界では  \text{cm}^4 \text{m}^4 も使われますが、精密機械設計では  \text{mm}^4 が基本です。

数値が非常に大きくなる(数百万〜数億)ため、図面やカタログでは  3.5 \times 10^4 \text{mm}^4 のように指数表記されることが一般的です。

計算時に単位換算( \text{m} \text{mm} か)を間違えると、桁が12個もズレることになるので、単位系は統一して扱うよう注意が必要です。

 

3. 基本図形の公式と導出

設計の実務で毎回積分計算をするわけではありません。

よく使う形状については、積分済みの「公式」を暗記して使います。

ここでは、長方形、円形、三角形の公式とその導出過程を解説します。

 

① 長方形断面(Rectangle)

最も基本となる形状です。

 b、高さ  h の長方形を考えます。

中立軸(図心)は高さの中央( h/2)を通ります。

 

公式の導出

微小面積  dA を、幅  b、高さ  dy の細長い帯として考えます。

 dA = b \cdot dy

 

これを定義式に代入し、下端  -h/2 から上端  h/2 まで積分します。

 

 I_x = \int_{-h/2}^{h/2} y^2 (b \cdot dy) = b \int_{-h/2}^{h/2} y^2 dy

 

積分を実行します。

 

 = b \left. \dfrac{y^3}{3} \right|_{-h/2}^{h/2}

 

値を代入して計算します。

 

 = \dfrac{b}{3} \left( \left(\dfrac{h}{2}\right)^3 - \left(-\dfrac{h}{2}\right)^3 \right)

 

 = \dfrac{b}{3} \left( \dfrac{h^3}{8} - \left( -\dfrac{h^3}{8} \right) \right) = \dfrac{b}{3} \left( \dfrac{2h^3}{8} \right)

 

これを整理すると、機械設計者が絶対に覚えなければならない以下の公式が導かれます。

 

 I = \dfrac{bh^3}{12}

 

この式からわかる最も重要な事実は、「剛性は高さ  h の3乗に比例する」ということです。

・幅  b を2倍にすると、 I は2倍にしかならない。

・高さ  h を2倍にすると、 I 2^3 = 8 倍になる。

 

つまり、材料を増やすなら「幅を広げる」よりも「背を高くする」方が、圧倒的に効率よく強度(剛性)を高められるのです。

 

② 円形断面(Circle)

軸(シャフト)やピンの計算に使います。

直径  d の中実丸棒です。

 

 I = \dfrac{\pi d^4}{64}

 

半径  r を使う場合は、 d=2r を代入して以下のようになります。

 I = \dfrac{\pi r^4}{4}

 

この導出には極座標変換が必要となり少々複雑ですが、結果として「直径の4乗」に比例することを覚えておいてください。

軸径を少し太くするだけで、剛性は爆発的に向上します。

 

③ 中空円形断面(Pipe)

パイプ形状です。

外径  D、内径  d の場合、大きな円から小さな円を引くだけです。

積分は線形性(足し引きができる性質)を持つため、単純な引き算が成立します。

 

 I = \dfrac{\pi (D^4 - d^4)}{64}

 

注意点として、 (D-d)^4 ではありません。 D^4 - d^4 です。

電卓を叩くときに間違えやすいポイントですので注意しましょう。

 

④ 三角形断面(Triangle)

あまり頻繁には使いませんが、リブの計算などで登場します。

底辺  b、高さ  h の三角形において、底辺ではなく「図心を通る軸」周りの断面二次モーメントは以下の通りです。

 

 I = \dfrac{bh^3}{36}

 

長方形の  1/12 ではなく、 1/36 と小さくなることに注目してください。

同じ高さでも、上部が尖っていて面積が少ない分、曲げ剛性は低くなります。

 

4. 複雑な形状の計算:平行軸の定理

実際の部品は、単純な長方形や円だけではありません。

H型鋼、T型鋼、コの字チャンネル、あるいは補強リブ付きのプレートなど、複雑な断面を持っています。

これらを計算するために必須となる強力なツールが「平行軸の定理(Parallel Axis Theorem)」です。

「シュタイナーの定理」とも呼ばれます。

 

平行軸の定理とは

ある図形の「図心を通る軸周りの断面二次モーメント  I_g」がわかっているとき、そこから距離  e だけ離れた「任意の平行軸周りの断面二次モーメント  I」は、以下の式で求められます。

 

 I = I_g + A e^2

 

ここで、

 I_g :その図形自身の図心周りの  I (基本公式で求まる値)

 A :その図形の断面積

 e :図心軸から、求めたい軸までの距離(偏心距離)

 

この  A e^2 という項が、「軸から離れた場所に面積があることによる剛性アップ分」を表しています。

この定理を使えば、複雑な形状を「いくつかの長方形」に分割し、それぞれの  I を合算することで、全体の  I を求めることができます。

 

5. 実践計算事例:T型断面梁

実際に平行軸の定理を使って、T型断面の断面二次モーメントを求めてみましょう。

これは、設計者が実務で最も頻繁に行う計算プロセスの一つです。

CADソフトなら一発ですが、手計算の手順を知っておくことで、断面のどこを強化すべきかの直感が養われます。

 

条件

上側のフランジ(横棒):幅  100 \text{mm}、高さ  20 \text{mm} (要素1)

下側のウェブ(縦棒):幅  20 \text{mm}、高さ  80 \text{mm} (要素2)

これらがT字型に結合されています。

 

Step 1:全体の図心位置(中立軸)を求める

まず、全体の重心(図心)がどこにあるかを知る必要があります。

底面を基準線( y=0)として、断面一次モーメントを使って求めます。

 

要素1(フランジ)の面積  A_1 と図心高さ  y_1

 A_1 = 100 \times 20 = 2000 \text{mm}^2

 y_1 = 80 + (20/2) = 90 \text{mm} (底面からフランジ中心まで)

 

要素2(ウェブ)の面積  A_2 と図心高さ  y_2

 A_2 = 20 \times 80 = 1600 \text{mm}^2

 y_2 = 80/2 = 40 \text{mm} (底面からウェブ中心まで)

 

全体の図心位置  \bar{y}

 \bar{y} = \dfrac{A_1 y_1 + A_2 y_2}{A_1 + A_2} = \dfrac{2000 \times 90 + 1600 \times 40}{2000 + 1600} = \dfrac{180000 + 64000}{3600} = \dfrac{244000}{3600} \approx 67.78 \text{mm}

 

底面から  67.78 \text{mm} の位置が、このT型梁の中立軸となります。

面積の大きいフランジ側に、図心が引っ張られていることがわかります。

 

Step 2:各要素の断面二次モーメントを計算する

それぞれの長方形について、自身の図心周りの  I_g を計算します。

 

要素1(フランジ):

 I_{g1} = \dfrac{100 \times 20^3}{12} = \dfrac{800000}{12} \approx 66667 \text{mm}^4

 

要素2(ウェブ):

 I_{g2} = \dfrac{20 \times 80^3}{12} = \dfrac{10240000}{12} \approx 853333 \text{mm}^4

 

Step 3:平行軸の定理で補正して合算する

各要素の図心から、全体の中立軸までのズレ(距離  e)を考慮して合算します。

この  A e^2 の項を加えるのを忘れないでください。

 

要素1のズレ  e_1

 e_1 = |y_1 - \bar{y}| = |90 - 67.78| = 22.22 \text{mm}

 

要素2のズレ  e_2

 e_2 = |y_2 - \bar{y}| = |40 - 67.78| = 27.78 \text{mm}

 

全体の断面二次モーメント  I

 I = (I_{g1} + A_1 e_1^2) + (I_{g2} + A_2 e_2^2)

 

 = (66667 + 2000 \times 22.22^2) + (853333 + 1600 \times 27.78^2)

 = (66667 + 987358) + (853333 + 1234765)

 = 1054025 + 2088098 \approx 3.14 \times 10^6 \text{mm}^4

 

このようにして、複雑な形状の  I を算出することができます。

この計算プロセスを経ることで、ウェブ(縦棒)が単体では弱くても、フランジと結合し軸から離れた位置に配置されることで、剛性に大きく貢献していることが理解できます。

 

別解:引き算による計算(中空矩形などの場合)

箱型断面(角パイプ)やH型鋼のように、外形から中身をくり抜いたような形状の場合は、「大きな長方形」から「中空部分の長方形」を引く方法が簡単です。

ただし、これは全ての図形の図心が一致している場合に限って使えるテクニックです。

図心がズレているT型などの場合は、上記の平行軸の定理による足し算が必要です。

 

6. 断面係数(Section Modulus)との違い

断面二次モーメント  I とセットで出てくる指標に「断面係数  Z」があります。

これらは名前も似ており、計算式も関連していますが、用途が明確に異なります。

設計現場での使い分けを整理します。

 

断面二次モーメント  I

・用途:変形(たわみ・剛性)の計算に使う。

・単位: \text{mm}^4

・意味:部材全体の曲げにくさ。

・計算式:たわみ  \delta \propto \dfrac{1}{I}

 

断面係数  Z

・用途:強度(応力・破壊)の計算に使う。

・単位: \text{mm}^3

・定義: Z = \dfrac{I}{y_{max}} y_{max} は中立軸から最外縁までの距離)

・意味:部材の壊れにくさ。

・計算式:応力  \sigma = \dfrac{M}{Z}

 

「どれだけたわむか(使用感・機能)」を知りたいときは  I を使い、「いつ折れるか(安全性)」を知りたいときは  Z を使います。

材料力学の試験では  Z が問われることが多いですが、実務の設計(特に精密機械)では、強度は足りていてもたわみが大きすぎて使い物にならないケースが多いため、 I の方を重視する傾向があります。

 

7. 設計への応用:たわみの計算

断面二次モーメント  I を求めたら、実際に梁のたわみ  \delta を計算します。

代表的な「単純梁・中央集中荷重」の公式を見てみましょう。

 

 \delta = \dfrac{PL^3}{48EI}

 

ここで、

 \delta :最大たわみ量  [\text{mm}]

 P :荷重  [\text{N}]

 L :スパン(支点間距離)  [\text{mm}]

 E :ヤング率(縦弾性係数)  [\text{N/mm}^2]

 I :断面二次モーメント  [\text{mm}^4]

 

設計上のポイント

この式を見ると、たわみ  \delta は、断面二次モーメント  I に反比例していることがわかります。

 I を大きくすればするほど、たわみは小さくなります。

 

また、 I は高さの3乗( h^3)に比例するため、結果としてたわみは高さの3乗に反比例して激減します。

「たわみを半分にしたい」と思ったとき、幅を2倍にするよりも、高さを  \sqrt[3{2} \approx 1.26] 倍(26%アップ)するだけで達成できるのです。

板厚を上げるよりも、リブを立てて高さを稼ぐ方が軽量化につながるのはこのためです。

 

支持条件による係数の違い

ちなみに、分母の係数(上記では48)は、梁の支持方法によって変わります。

・単純梁(両端支持): \dfrac{1}{48}

・片持ち梁(片端固定): \dfrac{1}{3}

・両端固定梁: \dfrac{1}{192}

 

片持ち梁は単純梁に比べて、係数が  16 倍も小さいため、同じ長さ・同じ荷重でも16倍たわみやすくなります。

片持ち構造を設計する際は、特に断面二次モーメントを大きく確保する必要があります。

 

8. 断面二次極モーメント(Polar Moment of Inertia)について

最後に、よく混同される「断面二次極モーメント  I_p」についても触れておきます。

(教科書によっては  J と表記されます)

 

・断面二次モーメント  I曲げに対する抵抗。

・断面二次極モーメント  I_pねじりに対する抵抗。

 

丸棒を雑巾絞りのようにねじる場合の計算には、 I ではなく  I_p を使います。

円形断面の場合、直交軸の定理により以下の関係があります。

 

 I_p = I_x + I_y = 2I = \dfrac{\pi d^4}{32}

 

軸の設計(モーターのトルク伝達など)を行う場合はこちらを使用しますが、梁の設計(重さによる曲げ荷重)を行う場合は通常の  I を使用してください。

 

まとめ

断面二次モーメントは、部材の「形の強さ」を表す最強の指標です。

計算は面倒に見えるかもしれませんが、基本は「長方形の公式  bh^3/12」と「平行軸の定理」の組み合わせだけで、ほとんどの形状に対応できます。

 

 I は曲げ剛性(たわみにくさ)を表す。

・単位は  \text{mm}^4

・長方形は  bh^3/12、円は  \pi d^4/64

・高さを稼ぐことが、最も効率的な剛性アップにつながる。

・複雑な形状は、分割して平行軸の定理  I = I_g + Ae^2 で合算する。

 

このパラメータを自在に操れるようになれば、「軽くて強い」理想的な構造物を設計できるようになります。

CAEソフトが普及した現代でも、手計算で大まかな剛性を見積もり、あたりをつける能力は、設計者の必須スキルであり続けています。