Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするブログ/QC統計手法/公差設計・解析/TPS(トヨタ生産方式)

【3水準系直交配列表実験】スタットワークス解析:バンパーの塗装膜厚

◆3水準系直交配列表実験について、実験の計画からStatWorks(スタットワークス)を活用した解析手順について一連の流れを事例を用いて確認する。

 

3水準直交配列表実験の《基礎》については以下の記事を参照ください。 

instant.engineer

 

[例題7.3:バンパーの塗装膜厚に関する直交配列表実験]-p.133

バンパーの塗装工程で、バンパーの塗装膜厚が不足する不良が多発した。そこで膜厚を熱くする塗装条件を検討するために、以下の因子を取り上げて直交表実験を行なった。水準数はすべて3とする。

f:id:yuinomi:20201115094039p:plain

注)因子の「E」は誤差「e」と混乱するので除外している。

 

知りたい交互作用はCxD、CxF、CxGである。

また、特性値は塗装膜厚(um)であり、値は大きいほど良い。

 

解析手順

◆STEP1:直交配列表の大きさの選択

今回の例題では、検討したい因子数が7つ、交互作用が3つである。

3水準系では単独の因子による主効果の自由度は(3-1)=2なので、因子数が7つでは2x7=14。

また、交互作用の自由度は、水準数が3同士の因子による交互作用なので(3-1)x(3-1)=4となり、4x3=12。

よって、知りたい要因の自由度の合計は14+12=26となる。

直交配列表の大きさとしては、 L_{27} (3^{13}) を選択する。列数が13あり1列あたりの自由度が2なので、 L_{27} (3^{13}) は全体で2x13=26の自由度を持つ。

 

つまり、今回の実験ではすべての列に因子と交互作用が割り付けられ、誤差列がない。このような実験の計画を「飽和計画」と言う。

注)分散分析で効果の小さい要因を見極めて、プーリングをして後から誤差を出す。

 

◆STEP2:必要な線点図の作成

知りたい要因を線点図で表現する。

割り付けを簡単にするため、用意されている線点図をベースに修正が必要な部分のみアレンジすると良い。用意されている線点図と完全に一致するのは稀であり、多くの場合は線や点を外して解析対象に沿った線点図に修正する。

コツとしては、書く順番を交互作用の検討が必要な因子から書いていく。

 

今回必要な線点図は、以下のようなものとなる。

(ipadに手書きしたもので見にくいのはご容赦ください)

交互作用を黄色のマーカーで示している。

f:id:yuinomi:20201115103029p:plain

 

用意されている線点図の中から、必要な線点図として先ほど書いたものに最も近い形状は以下となる。

f:id:yuinomi:20201115092838p:plain

 

この線点図に例題の要因を割り付けていく。割り付けた結果を以下に示す。

要因を黒字で、列番号を青字で書いている。オレンジ色の破線部は残った要因(=交互作用を検討しない要因)の内、どの順番で配置しても良い。

f:id:yuinomi:20201115103324p:plain

 

◆STEP3:直交配列表への割り付け

線点図が作成できたので、列番号を参考に直交配列表に割り付ける。

因子を黒字、交互作用と誤差をグレー文字で示した。

ここで黒字になっている因子と水準に従って計27回の実験を行えば良いことになる。

f:id:yuinomi:20201115103834p:plain

 

スタットワークスによる解析手順

線点図の作成と直交表への割り付けイメージができたので、StatWorks(スタットワークス)を活用した解析手順に移る。

ソフトを立ち上げて、新規のワークシートを開く。

f:id:yuinomi:20201115103919p:plain

 

タブ「手法選択」→「実験計画法」→「直交表実験のための計画」をクリックする。

f:id:yuinomi:20201115103921p:plain

 

「直交表種類の選択」ウィンドウが表示されるので、事前に確認した直交表の大きさを選択する。今回は3水準系の L_{27} (3^{13}) を選べば良い。

f:id:yuinomi:20201115103926p:plain

 

「因子の設定」ウィンドウが表示されるので、今回の実験条件(=因子)を作成していく。左上の黄色をクリックすると新規の因子がツリーに追加される。

f:id:yuinomi:20201115103929p:plain

 

例題に沿ってA~Hの7水準を作成した。今回はすべて3水準である。

因子名のところに任意の文字列を入れておくと、因子が多い時に混乱を防げる。

入力が完了したら「次へ」をクリックする。

f:id:yuinomi:20201115103931p:plain

 

「割り付け」ウィンドウが表示される。

直交配列表の列番号に検討したい因子と交互作用を割り付けていく。左の成分記号表を参考にするか、右側の線点図を元に割り付け作業を行う。

線点図のところで「<」「>」をクリックすると、参考となるベース線点図を確認できる。( L_{27} (3^{13}) 直交配列表では、2種類ある)

今回は、事前に線点図への割り付けは済ませてあるので、画面左表の「わりつけ」列へ因子記号を書き込んでいく。

f:id:yuinomi:20201115103934p:plain

 

画面左表への「わりつけ」が完了した状態を以下に示す。

交互作用の表記は「CD」とする。「CxD」とするとエラーになるので注意。

誤差列があれば空欄のまま残すが、今回の例題では飽和計画(直交配列表のすべての列に主効果、もしくは交互作用が割り付けられる状態)のため、空欄はない。

割り付けが完了したら「次へ」をクリックする。

f:id:yuinomi:20201115103937p:plain

 

「わりつけ」が完了し、解析シートに実験条件一覧が表示されたことを確認する。

リボンの「4:変数への登録」をクリックすると、ワークシートへ同じ内容が転写される。

また、この頁で上部にある「表示形式 変更」を押すとA1,A2の表記が1,2と切り替わるがこれは表示だけなので適宜見やすい方にしておけば良い。

f:id:yuinomi:20201115103945p:plain

 

ワークシートに戻る。作成した因子、水準と割り付けが正しく行われ、実験条件一覧表が表示されている。

3~9列目は因子(実験条件)でC:質的変数となっている。10列目の塗装膜厚が今回の例題の特性値であり、N:量的変数となっていることを確認する。

この10列目に実験データを入力する。本来であれば、ここで実験順序をランダマイズして実験を行うSTEPに入るのだが、今回はテキストの例題を活用しているので、そのまま実験結果を入力していく。

f:id:yuinomi:20201115103941p:plain


実験データの入力がすべて完了した状態が下記。

ここから、直交配列表実験の解析に移る。

f:id:yuinomi:20201115103948p:plain

 

タブ「手法選択」→「実験計画法」→「直交配列表」を選択。

f:id:yuinomi:20201115103951p:plain

 

「変数の指定」ウィンドウが表示されるので、解析に必要な実験条件、特性値、割り付けの列番号を仕分けしていく。最初は下記図のような画面で、ワークシートで作成した列番号すべてが、画面左側の枠にすべて表示されている。

ここで「No」とは、列番号を意味している。

f:id:yuinomi:20201115103954p:plain

 

下記に仕分けが完了した状態を示す。

直交配列表実験では「割り付け」という列番号を指定するところが、要因配置実験とは異なる。実験条件は因子のことで、今回の例題では7個となる。

項目の仕分けがOKなら「次へ進む」をクリックで解析が実行される。

f:id:yuinomi:20201115103957p:plain

 

解析結果の確認

タブ「実験データ」→「データプロット」で横軸:因子の水準、縦軸:特性値の散布図プロットを確認できる。×印が実験生データ、○印が水準平均を示す。

f:id:yuinomi:20201115104003p:plain

データプロットから以下のようなことがわかる。

・因子C、D、F、Gの水準による効果はありそうである。

・一方、因子A、B、Hの水準による効果は小さそうである。

・交互作用についてはCxGはありそう、CxFはなさそう、CxDはその中間に位置する。

 

タブ「実験データ」→「統計量」で因子の各水準ごとや交互作用の組み合わせによる平均値を確認できる。先ほどのデータプロットはこれらをグラフにしたものである。

f:id:yuinomi:20201115105144p:plain

 

次に「分散分析表」の確認をする。

直交配列表に誤差列を割り付けなかったために、誤差の推定ができず、分散比以降が空欄になっている。

データプロットから、あるいは分散値から判断して、水準による効果が小さい要因をプーリングしていく。

注)直交配列表実験では主効果、交互作用のどちらとも効果が小さければプーリングする

f:id:yuinomi:20201115105147p:plain

 

今回は因子A、B、H、交互作用CxD、CxFの計5つをプーリングする。

飽和計画では分散比が計算されていないために自動プーリングが使えないので、手動でプーリングしたい要因を色付きにしてリボンメニュー、あるいは右クリックでプーリングを選択する。

f:id:yuinomi:20201115105151p:plain

 

プーリングによって再計算された分散分析表を下記に示す。

プーリングした5つの要因の平方和と自由度の合計が「誤差列」として設定され、分散比や検定結果が表示されている。

f:id:yuinomi:20201115105155p:plain

分散分析の結果、因子C、D、F、G、交互作用CxGは1%有意であった。

 

最適水準の推定

分散分析表が完成し、各要因の効果が定量化できたので、最適水準の推定を行う。

推定に取り込む要因の指定を行う。既にプーリングを実施し、効果のない要因は排除しているので、残ったすべての項目を選択する。

f:id:yuinomi:20201115105201p:plain

 

タブ「推定値」→「推定値プロット」を選択すると、以下のプロットを確認できる。

 

f:id:yuinomi:20201115105204p:plain

今回の例題では、交互作用はCxGが有意であり、交互作用に含まれない主効果は因子D、Fが有意であったので、それらのプロットをスタットワークス側で判断し表示される。

例えば因子Dはいずれの交互作用にも含まれないので、単独での水準比較で最適水準が分かる。一方、因子CとGについては交互作用CxGがあるために因子C、Gを単独で評価することは意味がなく、必ず組み合わせた状態で水準効果を比較する必要があるということだ。

推定値プロットから最適水準は C_2 D_3 F_3 G_1 であることがわかる。 

 

タブ「推定値」→「推定値」で各水準組み合わせによる母平均の点推定値、母平均の95%信頼区間、個々のデータの95%予測区間を確認できる。

f:id:yuinomi:20201115105208p:plain

 

残差についても検討し、外れ値がなかったかを確認する

スタットワークスでは分散分析表と推定値以外に「残差」についても確認することができるる。

残差e_i_jとは、実測値から推定値を引いた値である。(言い換えると「個々の実験生データ」から「その水準での母平均の点推定値」を引いた値)

基準化残差は以下の式で計算できる。

 t = \dfrac{e_ {ij}}{\sqrt{\dfrac{S_e}{N}}}

Se:誤差eの平方和 / N:全データ数

 

基準化残差は、誤差の平均値である0からの離れ具合を見る指標である。

一般にこれが2.5を超える場合は、外れ値と見なし実験条件に誤りがなかったか等を確認する。

f:id:yuinomi:20201115105212p:plain

実際の例題で残差一覧表を確認する。

まず「実測値」は実験データのことであり、「推定値」は対象の水準組み合わせでの母平均の点推定値である。

残差は実測値-推定値で計算される。

そして基準化残差は、上記の計算式で

\sqrt{\dfrac{S_e}{N}} =\sqrt{\dfrac{192.074}{27}} = 2.667

なので、残差を2.667で割った値が「基準化残差」となる。

注)192.074は分散分析表の誤差eの平方和(Se)より

 

「残差」→「正規確率プロット」では、基準化残差の正規性を表示できる。

正規確率座標上にデータが右上がり45°で直線的にプロットされる時、データは正規分布であるとみなされる。

右側には基本統計量と正規性検定による検定統計量とP値が表示される。P値の値から解析対象の特性値が正規分布に従っているかを判断する。

f:id:yuinomi:20201115105215p:plain