Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするWeb記事/QC統計手法/公差設計・解析/TPS

応力-ひずみ曲線でわかる!材料の強さと伸びの計算解説

「この材料は、どれくらい伸びて、いつ壊れるのか?」

機械設計において、材料の「強さ」と「粘り」を理解することは、安全な構造物を作るための絶対条件です。

しかし、単に「硬い」とか「強い」という言葉だけでは、エンジニア同士の定量的な会話は成立しません。

 

そこで登場するのが、材料の健康診断書とも言える「応力-ひずみ曲線(Stress-Strain Curve)」、通称「S-S曲線」です。

この一本の曲線には、弾性変形、塑性変形、加工硬化、そして破断に至るまでの、材料のドラマチックな一生が描かれています。

 

本記事では、ひずみと応力の厳密な定義から、S-S曲線の読み方、ヤング率を用いた変形量の計算、そして真応力と公称応力の違いまでを、数式を交えて網羅的に解説します。

材料力学の基礎をマスターし、カタログ数値を読み解く力を身につけましょう。

 

 

1. 基礎知識:応力とひずみの定義

S-S曲線を理解するためには、縦軸である「応力」と、横軸である「ひずみ」の定義を完全に理解しておく必要があります。

これらは日常用語とは異なる、工学的に厳密な定義を持っています。

 

応力(Stress):単位面積あたりの力

物体を引っ張ったとき、その物体がちぎれまいとして内部で踏ん張る力、すなわち「内力」が発生します。

この内力を、作用している断面積で割った値が「応力」です。

記号はギリシャ文字の  \sigma (シグマ)を用います。

 

 \sigma = \dfrac{P}{A_0}

 

ここで、

 P :外部から作用する荷重(引張力)  [\text{N}]

 A_0 :変形前の初期断面積  [\text{mm}^2]

 

単位の考え方

国際単位系(SI)の基本単位では、圧力と同じ  \text{Pa} \ (\text{パスカル} = \text{N/m}^2) が使われます。

しかし、機械設計の実務ではメートル単位の面積は大きすぎるため、ミリメートル単位の  \text{mm}^2 を使います。

このとき、以下の換算式が非常に重要になります。

 

 1 \text{MPa} = 10^6 \text{Pa} = 10^6 \text{N/m}^2 = 1 \text{N/mm}^2

 

つまり、「1メガパスカル」は「1平方ミリメートルあたり1ニュートン」と等価です。

設計現場では、「この鋼材の強度は400メガ(MPa)だ」と言えば、それは「1mm角の断面で約40kg(400N)の重さに耐えられる」ことを意味します。

 

ひずみ(Strain):変形する「比率」

ここが初学者が最もつまずきやすいポイントです。

ひずみとは、「伸びた長さ」そのものではなく、「元の長さに対して、どれくらいの割合で伸びたか」を示す比率(伸び率)です。

記号は  \varepsilon (イプシロン)を用います。

 

 \varepsilon = \dfrac{\lambda}{L_0} = \dfrac{L - L_0}{L_0}

 

ここで、

 \lambda (ラムダ):伸び量(変形量)  [\text{mm}]

 L_0 :元の長さ(標点間距離)  [\text{mm}]

 L :変形後の長さ  [\text{mm}]

 

単位(無次元数)

分子も分母も「長さ  \text{mm}」であるため、割り算すると単位は相殺されて消えます。

つまり、ひずみは「無次元数(単位なし)」です。

しかし、値が非常に小さくなる(例:0.001など)ため、実務や計測の現場では以下のような表記が使われます。

 

 \varepsilon = 0.001 (そのまま表記)

 0.1 \% (パーセント表記:100倍する)

 1000 \mu\varepsilon (マイクロストレイン: 10^6倍する)

 

特にひずみゲージを用いた計測では、 \mu\varepsilon(マイクロひずみ)が標準的に使われます。

「1000マイクロひずみ」とは、「1mの棒が1mm伸びた状態(0.1%)」を指します。

 

2. 応力-ひずみ曲線(S-S Curve)の全貌

引張試験機を使って、金属材料(例えば軟鋼 SS400)を破断するまでゆっくりと引っ張ったときのデータをプロットすると、以下のような特徴的な曲線が得られます。

縦軸に応力  \sigma、横軸にひずみ  \varepsilon をとります。

この曲線は、大きく分けて「弾性域」と「塑性域」の2つのステージに分かれます。

 

Stage 1:弾性域(Elastic Region)

荷重をかけると伸びるが、除荷する(力を抜く)と元の長さに完全に戻る領域です。

原子レベルでは、原子間の結合距離がバネのように伸び縮みしている状態です。

結合自体は切れていないため、外力がなくなればバネの復元力で元の位置に戻ります。

 

① 比例限度(Proportional Limit)

原点から直線の関係が保たれる限界点です。

この直線区間では、かの有名な「フックの法則」が成り立ちます。

 

 \sigma = E \varepsilon

 

この比例定数  E を「縦弾性係数」または「ヤング率(Young's Modulus)」と呼びます。

ヤング率は、グラフの直線の「傾き」を表しており、物理的には「材料の硬さ(変形しにくさ)」を示します。

 

・軟鋼(鉄)のヤング率:約  206 \text{GPa} \ (206,000 \text{MPa})

・アルミニウムのヤング率:約  70 \text{GPa} \ (70,000 \text{MPa})

 

この数値から、鉄はアルミの約3倍変形しにくい(剛性が高い)ことがわかります。

重要なのは、同じ鉄鋼材料であれば、高強度の焼き入れ鋼であっても、軟らかい軟鋼であっても、この「ヤング率(傾き)」はほとんど変わらないということです。

 

② 弾性限度(Elastic Limit)

比例限度をわずかに超えたところにありますが、ここまでなら力を抜けば元に戻ります。

フックの法則(直線関係)からは少し外れますが、まだ弾性挙動を示します。

実用上は、比例限度とほぼ同じ点とみなして差し支えありません。

 

Stage 2:塑性域(Plastic Region)

弾性限度を超えると、材料内部で原子の配列がズルッと滑り(スリップ)、永久変形が始まります。

これを「塑性変形」と呼びます。

力を抜いても、バネのように戻る成分(弾性回復)はありますが、滑ってしまった分の長さ(永久ひずみ)はそのまま残ります。

 

③ 上降伏点(Upper Yield Point)

塑性変形が始まる瞬間、一時的に応力がカクンと下がる現象が見られます(特に軟鋼の場合)。

そのピークを上降伏点と呼びます。

これは、固着していた転位(原子配列の欠陥)が一気に動き出すために起こる現象です。

 

④ 下降伏点(Lower Yield Point)

上降伏点から下がって、応力がギザギザと安定しない区間(降伏棚)の最低点です。

上降伏点は試験条件(引っ張る速度など)によって値がばらつきやすいため、設計上の基準としては、安定しているこちらの値を「降伏点(Yield Point)」として採用することが多いです。

(※JIS規格などでは上降伏点を採用する場合もありますので、規格の確認が必要です)

 

⑤ 加工硬化(Strain Hardening)

降伏棚を過ぎると、再び応力は上昇し始めます。

これは、移動した転位同士が絡み合い、逆に動きにくくなるため、さらに変形させるためにはより強い力が必要になるからです。

これを「加工硬化」と呼びます。

プレス加工で曲げた部分が硬くなったり、針金を何度も曲げ伸ばしすると硬くなって折れるのは、この現象を利用(または起因)しています。

 

⑥ 引張強さ(Ultimate Tensile Strength: UTS)

S-S曲線の頂点、つまり材料が破断するまでに耐えられる「最大荷重」を示したときの応力です。

一般的にカタログなどで「強度」といった場合、この引張強さを指すことが多いです。

ここを超えると、材料は全体的に伸びるのをやめ、一部が局所的に細くなり始めます。

 

⑦ 破断(Fracture)

引張強さを過ぎると、材料の一部がくびれ(ネッキング)始め、断面積が急激に減少します。

応力(荷重)は低下していきますが、くびれた部分の実際の応力は高まっており、最後は耐えきれずに破断します。

 

3. 明確な降伏点がない場合:0.2%耐力

軟鋼(SS400など)は明確な降伏点(カクンと落ちる点)を持ちますが、実は多くの金属材料(アルミニウム、銅、ステンレス、高張力鋼など)には、明確な降伏点が存在しません。

弾性域から塑性域へと、滑らかに曲線を描いて移行します。

これでは「どこからが塑性変形なのか(どこまで力をかけて良いか)」という設計基準が決められません。

そこで導入されたのが「0.2%耐力(Proof Stress)」という概念です。

 

0.2%耐力の定義と作図法

これは、「力を抜いたときに、0.2%だけ永久ひずみが残ってしまう応力」を、実質的な降伏点として扱おうという便宜上のルールです。

具体的な求め方は以下の通りです。

 

1. S-S曲線の横軸(ひずみ軸)上の  \varepsilon = 0.002 (0.2%)の点を取ります。

2. その点から、弾性域の直線(傾き  E のヤング率線)と平行な直線を引きます。

3. その平行線が、S-S曲線と交わった点の応力を「0.2%耐力」と定義します。

 

なぜ「0.2%」なのかというと、測定誤差の影響を受けにくく、かつ実用上問題ない残留ひずみの許容量として経験的に定められた値だからです。

アルミニウム部品や高強度ボルトの設計では、この0.2%耐力を基準強度として安全率を掛け、許容応力を決定します。

 

4. 実践計算事例:伸び量の計算

ここまでの知識を使って、実際の設計で頻出する「部材の伸び」を計算してみましょう。

「1トンの荷物を吊り下げたとき、鉄の棒は何ミリ伸びるのか?」

この問いに即答できることが、設計者の基本スキルです。

 

条件

・材料:SS400(軟鋼)の丸棒

・直径: d = 10 \text{mm}

・元の長さ: L_0 = 1000 \text{mm} (1メートル)

・引張荷重: P = 9800 \text{N} (約1000kgf = 1トン)

・ヤング率: E = 206 \text{GPa} = 206,000 \text{MPa}

 

Step 1:断面積の計算

まず、丸棒の断面積  A_0 を求めます。

 

 A_0 = \dfrac{\pi d^2}{4} = \dfrac{\pi \times 10^2}{4} \approx 78.54 \text{mm}^2

 

Step 2:応力の計算

発生している応力  \sigma を求めます。

 

 \sigma = \dfrac{P}{A_0} = \dfrac{9800}{78.54} \approx 124.8 \text{N/mm}^2 \ (\text{MPa})

 

ここで確認すべきは、この応力が「降伏点以下か?」という点です。

SS400の降伏点は約  245 \text{MPa} です。

 124.8 < 245 なので、まだ弾性域内(フックの法則が使える範囲)であることが確認できました。

 

Step 3:ひずみの計算(フックの法則)

フックの法則  \sigma = E \varepsilon を変形して、ひずみ  \varepsilon を求めます。

 

 \varepsilon = \dfrac{\sigma}{E} = \dfrac{124.8}{206,000} \approx 0.000606

 

これをパーセントに直すと、約  0.06 \% のひずみです。

非常に小さな値ですが、金属にとっては大きな変化です。

 

Step 4:伸び量の計算

最後に、定義式  \varepsilon = \lambda / L_0 より、実際の伸び量  \lambda を求めます。

 

 \lambda = \varepsilon \times L_0 = 0.000606 \times 1000 = 0.606 \text{mm}

 

答え:1トンの重りを吊るすと、1メートルの鉄棒は、約 0.6 mm 伸びる。

 

公式の統合(PL/AEの公式)

上記の手順を一つの式にまとめると、以下のようになります。

 

 \lambda = \dfrac{P L}{A E}

 

この「PL/AE(プレア)」の公式は、機械設計者が暗記すべき最も基本的な式の一つです。

「荷重  P と長さ  L に比例し、面積  A とヤング率  E(硬さ)に反比例する」という物理的意味も理解しやすい式です。

剛性を上げたい(伸びを減らしたい)なら、太くするか、ヤング率の高い材料に変えるか、短くすれば良いことが一目瞭然です。

 

5. 「公称応力」と「真応力」の違い

一般的に使われるS-S曲線は「公称応力」で描かれていますが、厳密な物理現象を表す「真応力」とは異なります。

設計では公称応力を使いますが、解析(CAE)では真応力が必要になる場面があります。

 

公称応力(Engineering Stress)

常に「変形前の初期断面積  A_0」を使って計算した応力です。

 

 \sigma_{eng} = \dfrac{P}{A_0}

 

実際には、引っ張られるとポアソン効果によって部材は細くなる(断面積が減る)のですが、それを無視して計算します。

計算が簡単なので、JIS規格や材料カタログなどの強度データはすべてこちらが使われます。

S-S曲線で、引張強さを過ぎるとグラフが右下がりに落ちていくのは、材料が弱くなったわけではなく、断面積の減少(くびれ)を考慮していないため、「見かけ上の応力」が下がっているだけです。

 

真応力(True Stress)

その瞬間の「実際の断面積  A」を使って計算した応力です。

 

 \sigma_{true} = \dfrac{P}{A}

 

くびれが発生して断面積が小さくなっても、その小さな面積で割るため、応力値は破断する最期の瞬間まで上昇し続けます。

塑性加工(プレス成形シミュレーションなど)の大変形を扱う分野では、断面積の変化が無視できないため、こちらの真応力が必須となります。

 

変換式(一様伸びの範囲内)

体積一定の条件( A_0 L_0 = A L)を利用すると、以下の変換式が成り立ちます。

 

 \sigma_{true} = \sigma_{eng} (1 + \varepsilon_{eng})

 \varepsilon_{true} = \ln (1 + \varepsilon_{eng})

 

6. 材料による曲線の違い(脆性と延性)

S-S曲線の形状は、材料によって千差万別です。

グラフの形を見るだけで、その材料の「性格」が手に取るようにわかります。

 

延性材料(Ductile Material):軟鋼、アルミ、銅、金

・特徴:弾性域の後、長く伸びて(塑性変形して)から破断します。

・メリット:グラフの下側の面積(ひずみエネルギー)が大きく、衝撃を吸収する能力(靭性)が高いです。

破壊する前に大きく変形するため、「あ、曲がってきた。壊れそうだ」という予兆を検知しやすく、安全性の高い材料と言えます。

 

脆性材料(Brittle Material):鋳鉄、ガラス、セラミックス、コンクリート

・特徴:弾性域(直線)が終わると、塑性変形をほとんどせずに、いきなりパリンと破断します。

・デメリット:明確な降伏点や粘りがなく、引張強さがそのまま破壊点となります。

衝撃に弱く、一瞬で破壊が進むため、構造部材として使う場合は非常に高い安全率を見込むか、圧縮方向でのみ使用する(コンクリートなど)工夫が必要です。

 

高分子材料(Polymer):ゴム、プラスチック

・特徴:ゴムなどは初期から非線形(直線ではない)挙動を示します(S字カーブなど)。

・特性:ヤング率が金属に比べて極端に低く(数MPa〜数GPa)、数百パーセントもの伸びを示します。

フックの法則が単純には適用できないため、超弾性モデル(ムーニー・リブリンなど)を用いた特殊な計算が必要になります。

 

7. 安全率と許容応力

S-S曲線から得られた「材料の強さ(基準強さ)」を、そのまま設計に使ってはいけません。

材料の品質バラつき、計算モデルの簡略化誤差、予期せぬ衝撃荷重、腐食による減肉などを考慮し、十分な余裕を持たせる必要があります。

 

基準強さの選び方

・延性材料(鋼など):通常は「降伏点」を基準とします。

機械部品として、塑性変形して寸法が変わってしまったら、それはもう「故障」とみなすからです。

・脆性材料(鋳鉄など):降伏しないので「引張強さ(破壊点)」を基準とします。

 

許容応力の計算

設計で許される上限の応力を「許容応力(Allowable Stress)」と呼びます。

 

 \text{許容応力} = \dfrac{\text{基準強さ}}{\text{安全率} \ S}

 

安全率  S は、使用用途や信頼性のレベルによって設計者が決定します。

・一般的な静荷重:  S = 3 \sim 5

・衝撃荷重がかかる場合:  S = 5 \sim 12

・航空機など軽量化が必須の場合:  S = 1.5 (ただし厳密な管理が必要)

 

この安全率を適切に設定できるかどうかが、設計者の経験とセンスの見せ所です。

安全率が高すぎれば、製品は重く高価になり(過剰品質)、低すぎれば事故につながります。

 

まとめ

応力-ひずみ曲線(S-S曲線)は、材料の身分証明書であり、設計の羅針盤です。

この曲線を読み解くことで、その材料がどのような特性を持ち、どのような用途に適しているかを判断することができます。

 

・縦軸は応力  \sigma (単位面積あたりの力)、横軸はひずみ  \varepsilon (変形比率)。

・弾性域ではフックの法則  \sigma = E \varepsilon が支配し、ヤング率  E は「硬さ」を表す。

・降伏点は「変形の始まり」、引張強さは「破壊のピーク」。

・実際の変形量は  \lambda = \dfrac{PL}{AE} で計算できる。

・設計では、これらの値に安全率を考慮した「許容応力」を使用する。

 

この曲線の一点一点に、原子の結合や転位の移動といったミクロなドラマが隠されています。

数値を単なるデータとして見るのではなく、材料が受けている「痛み(応力)」や「粘り(ひずみ)」としてイメージできるようになれば、あなたはもう一人前の設計者です。