Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするブログ/QC統計手法/公差設計・解析/TPS(トヨタ生産方式)

トヨタ生産方式における「標準作業」とは:必要数でタクトを決める

標準作業とは

標準作業とは、人の動きを中心として、ムダのない効率的な生産を行う作業のやり方(=作業のお手本)のことです。

標準作業をつくる目的は、つくり方のルールの明確化であり、改善の道具にするためのもので、「標準のないところに改善はない」と言われるように、標準を決めることから改善がスタートします。

標準が定まっていないと何が正しいのか、何が間違っているのか分かりません。標準を定めることでその標準と現実の差が異常と認識され、その異常を改善するニーズが生まれます。つまり、「標準をつくることにより異常がわかる」という考え方をします。

 

例)『標準作業票』

f:id:yuinomi:20201120121350p:plain

出典)『トヨタ生産方式の基本と実践がよ〜くわかる本』p51

 

標準作業の条件は以下の2つがあります。

1.人の動作を中心に考える(機械に付随したものとしてではなく、人が中心)

2.繰返し作業であること

 

 また、標準作業を構成する基本要素として以下の3つがあります。

1.タクトタイム(あるいはサイクルタイム)

2.作業順序

3.標準手持ち

以下では、それぞれの詳細を確認していきます。

 

1.タクトタイム(あるいはサイクルタイム)とは

一つ目のタクトタイムとは、製品1個を何分何秒で作らなければならないかという時間のことです。これは、1日の生産稼働時間÷1日当たりの必要数で決定されます。 

このタクトタイム内に仕事ができるよう人員と個人の作業量を調整します。

タクトタイムを決める際の仕事の早さは、熟練者の動きを標準とします。余裕率は見込まないため、個人差が出ることが前提になっており、新人は同じ仕事量を熟練者の早さで処理できるようになることを目指していきます。

 

例えばひとつの組立作業を熟練者は1分30秒で完了できるものが、新人は2分0秒かかっているとすると、新人の方には30秒分の余剰(=各作業におけるムダ)があり、熟練者と同じタクトタイムで作業ができるよう改善の余地があるということがわかります。

トヨタでは、新人は職場配属前に一週間程度、技術を身につけるための訓練道場に入ります。ここで各部署の基本技術を習得し、一通りの作業がこなせるまである程度の訓練を受けてからラインに入ります。

 

2.作業順序とは

二つ目の作業順序とは、作業者が物を加工する場合に、材料から製品へと次第に変化していく過程で、物を運び、機械に取り付け、取り外したりして、時間の流れとともに作業をしていく順序のことです。

製品が流れていく工程の順序のことではないので注意が必要です。

 

この作業順序が決まっていないと、各作業員がそれぞれ好き勝手な順序で作業をすることになります。人によって作業順序が異なるため、同じ仕事をしても早い人、遅い人に分かれ、遅い人というのがすなわち作業のムダがあることになります。

作業順序は、作業者が変わっても同じ順序で作業ができるように定められ、教育されていることが必要です。作業順序を作成する時は、ムダ・ムラ・ムリのないように細かく配慮して、手の使い方や足の位置などを明確にし、標準作業票に記載します。

 

3. 標準手持ちとは 

最後に標準手持ちとは、各機械別作業での最低数の工程内仕掛り品のことで、機械に取り付けているものも含めます。

1個流しの工程であれば、機械に取り付いている加工途中材だけあればよく、工程間には手持ちを持たないのが一般的です。

(ただし、工程の進む方向と逆の順序で作業を行う場合は、各工程に1個ずつの手持ちが必要となる場合がある)

 

以上、標準作業を構成する3つの基本要素を活用し、定着させるためには

・標準作業を決める(監督者が十分理解し、こなせることが前提)

・標準作業を作業者に守らせる

・作業者が標準作業通りに仕事をできているかよく観察する

・標準作業実施上の問題点(ムリ・ムラ・ムダ)が見つかれば、早急に改善すべく標準作業票を改訂する

ことが重要となります。

 

注)TPSでは「標準作業」と良く似た言葉で「作業標準」 というものがありますが、厳密には意味が異なるので混同しないよう注意が必要です。

(作業標準とは、 作業者が守るべき作業条件、手順を各工程(機械)別に明示したもの。一方で、標準作業は人の動きを中心とした作業の改善手段。)