
溶接は金属部品を強固に一体化する重要な工程ですが、熱・材料・環境の影響によって「欠陥」が生じやすいプロセスでもあります。
ブローホール(気孔)や割れ、融合不良などの欠陥は、見た目では判断しにくく、構造強度や製品寿命に直結します。
この記事では、製造現場で頻出する主要な溶接欠陥の種類と原因、防止策を実例を交えて解説します。
溶接欠陥とは?
溶接欠陥とは、溶接部の形状・組織・機械的性質が設計・規格で求められる品質基準を満たしていない状態を指します。
欠陥があると、以下のようなトラブルにつながります。
・強度低下,疲労破壊のリスク増大
・水密,気密性の低下(圧力容器,配管など)
・塗装,めっき前工程での腐食進行
・非破壊検査(UT,RT)での不合格、再溶接コスト増
特に自動車や造船、ボイラ・圧力容器業界では、溶接品質がそのまま製品保証に直結するため、ISO 3834やJIS Z 3400などで厳格な管理が求められます。
代表的な溶接欠陥の種類
製造現場で特に多いブローホール、割れ、融合不良に焦点を当てて詳しく開設します。
1. ブローホール(気孔)
現象
溶融金属中にガスが混入し、冷却時に逃げきれずに空洞として残る欠陥です。
見た目は丸い孔やピンホール状の欠陥として表れます。
主な原因
・母材や溶加材の表面に水分,油分,サビが付着している
・溶接電流が低すぎて溶融不足となりガスが抜けきらない
・シールドガスの流量が不安定、または風による乱れ
・材料に含まれる水素や窒素の影響
事例(自動車業界)
自動車ボディ溶接ラインでは、CO₂溶接中に防錆油が残っていたため、ブローホールが多数発生。
塗装後に微小な凹点が表面に現れ、外観不良として出荷判定NGとなる。
防止策
・溶接前に脱脂,乾燥を徹底し、水分を完全除去
・シールドガス流量を安定させ、風防カーテンを設置
・適正電流,速度条件を守る(溶接WPSの遵守)
・溶加材やワイヤを乾燥保管し、水素吸収を防ぐ
2. 溶接割れ(Crack)
現象
溶接金属や熱影響部(HAZ)に発生する亀裂状の欠陥。応力集中や急冷によって生じ、進展すると構造物全体の破損に繋がります。
種類と原因
・冷却割れ(遅れ割れ):硬化組織+拡散水素+拘束応力が重なると発生。
高強度鋼で多い。
・高温割れ(凝固割れ):凝固時の偏析・収縮応力で発生。
オーステナイト系ステンレスに多い。
・再熱割れ:多層溶接時に再加熱で粒界弱化が進行。
厚板構造で発生しやすい。
事例(造船業界)
船体ブロック溶接で、板厚25mmの高張力鋼を多層溶接した際、拘束の強い部位で遅れ割れが発生。
磁粉探傷(MT)で確認され、再補修に数百時間を要する。
防止策
・予熱,パス間温度を管理し、水素を拡散させる
・拘束の強い構造は設計段階で応力緩和を考慮
・低水素系溶接棒を使用し、乾燥温度を守る
・溶接後に適切な後熱処理を実施
3. 融合不良(Lack of Fusion)
現象
母材や前層ビードとの間に溶け込みが不足し、未接合部分が残る欠陥です。
外観上は問題なくても、断面でみると強度上の“空洞”が存在します。
主な原因
・電流不足または溶接速度過大
・トーチ角度,アーク長が不適切
・母材表面の酸化皮膜,汚れ
・隅肉溶接などで熱入力不足
事例(プラント配管溶接)
ステンレス配管のTIG溶接で、パイプの酸化皮膜を十分に除去せず施工したため、融合不良が多数発生。
放射線透過試験(RT)で検出され、現場再溶接と再検査コストが膨大になった事例があります。
防止策
・適正な電流,速度,角度を維持(WPS遵守)
・開先面をブラッシング,脱脂し酸化膜を除去
・狭開先や裏波溶接では、仮付け精度を高める
・技能者のトレーニングと試験片による確認
溶接欠陥の検出方法
欠陥は目視では判断しにくいため、非破壊検査(NDT)によって確認します。
製造業ではJIS Z 2300シリーズに基づき、以下の方法が用いられます。
| 検査方法 | 検出できる欠陥 | 適用例 |
|---|---|---|
| VT(目視検査) | 表面の割れ・気孔 | 全業界(初期確認) |
| PT(浸透探傷試験) | 表面割れ・ピンホール | ステンレス配管など |
| MT(磁粉探傷試験) | 表面・近表面の割れ | 鉄鋼構造・船舶 |
| UT(超音波探傷試験) | 内部割れ・融合不良 | 厚板構造・圧力容器 |
| RT(放射線透過試験) | 内部欠陥全般 | 配管・ボイラチューブ |
特に自動車業界では超音波探傷(UT)を自動化し、全数スキャンを行うケースも増加しています。
AIによる信号解析技術の進歩により、人の感覚に頼らない品質保証が進みつつあります。
さらに、非破壊検査の役割は単なる「欠陥の発見」にとどまらず、溶接工程全体の改善指針としても活用されています。
たとえば、UTやRTの検査結果をデジタルデータとして蓄積し、発生頻度や部位の傾向を解析することで、特定の作業条件や溶接姿勢に欠陥が集中していることを統計的に把握できます。
こうしたデータは工程FMEAや品質会議でのフィードバック材料となり、溶接条件の再設定や教育計画の見直しにもつながります。
また近年では、ロボット溶接ラインにリアルタイム監視センサーを組み合わせ、アーク電圧や音響信号の異常を検知して自動的に溶接停止・警告を出すシステムも普及しつつあります。
これは「検出」から「予知」へと進化した新しい品質保証の形といえます。
造船やプラント業界でも、デジタルツイン技術を活用して溶接部の検査履歴を3Dモデル上で可視化し、構造全体のリスク評価を行う取り組みが始まっています。
このように、非破壊検査は単なる最終確認ではなく、工程設計・製造・検査のすべてをつなぐ「品質の要」として位置づけられています。
溶接欠陥をゼロに近づけるには、検査の結果をデータとして活用し、現場改善サイクルに組み込むことが欠かせません。
欠陥を防ぐための管理と改善アプローチ
溶接欠陥を未然に防ぐためには、工程管理と人材教育の両輪が不可欠です。
1. 工程設計段階での対策
・板厚,材質,拘束条件を考慮した開先設計と溶接順序の最適化
・溶接条件表(WPS)の明確化と文書化
・材料ロット,溶接ワイヤのトレーサビリティ管理
2. 現場での管理
・作業前の清掃,脱脂,乾燥の徹底
・環境温湿度管理とシールドガス供給の安定化
・実機での試験溶接(テストピース)による条件確認
3. 教育・資格
・JIS Z 3841,ISO 9606に基づく溶接技能者資格の取得
・欠陥発生メカニズムや検査結果のフィードバック教育
・AI支援検査や自動溶接機操作など次世代スキルの習得
実務でのポイントまとめ
| 欠陥種別 | 主因 | 主な防止策 | 業界実例 |
|---|---|---|---|
| ブローホール | ガス混入 | 清掃・脱脂・風防対策 | 自動車ボディ溶接 |
| 割れ | 水素・拘束応力 | 予熱・後熱・応力緩和 | 造船・建設機械 |
| 融合不良 | 熱不足・角度不良 | 条件管理・酸化膜除去 | プラント配管 |
これらの要因と対策を体系的に整理することで、現場で発生する欠陥を定量的に管理できるようになります。
欠陥種別ごとに原因や傾向を分析し、設計・工程・教育へとフィードバックすることが重要です。
特に同一ラインでの再発を防ぐには、検査データを継続的に活用し、条件設定や作業標準の見直しに結びつける取り組みが効果的です。
まとめ
溶接欠陥の防止は、個々の作業技術だけでなく、設計段階からの品質づくりと工程全体の統制が鍵を握ります。
ブローホール、割れ、融合不良といった典型的な欠陥も、発生メカニズムを正しく理解し、データに基づく管理を徹底することで再発を抑えられます。
欠陥を後で補修するのではなく、工程の中で「起こさない仕組み」を築くことが重要です。


