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アルミ合金とは?番号体系と種類・強度一覧

アルミホイルから航空機の翼まで――鉄に次いで世界で最も多く使われている金属、それがアルミニウムです。

しかし「アルミ」と一口に言っても、1000系から7000系まで7つの系統に分類される膨大な種類の合金が存在します。

たとえば日用品に使われるA1100の引張強さは約110 MPaですが、航空機に使われるA7075は570 MPaと、同じアルミでも5倍以上の差があります。

材料を間違えれば腐食や加工割れなどの重大トラブルに直結しかねません。

本記事では、アルミ合金の番号体系の読み方から各系統の特徴、質別記号の意味、主要合金の強度一覧表、そして腐食・防食対策までを体系的に解説します。

 

1. アルミ合金とは

アルミ合金(アルミニウム合金)とは、アルミニウム(Al)を母材として銅(Cu)・マグネシウム(Mg)・シリコン(Si)・亜鉛(Zn)などの元素を添加し、強度や耐食性を向上させた金属材料のことです。

純アルミニウムは比重が約2.7と、鉄(約7.87)のおよそ3分の1しかありません。
この比重差は密度の式で明確に表されます。

 

 \rho_{\text{Al}} \approx 2{,}700\ \text{kg/m}^3 \quad \rho_{\text{Fe}} \approx 7{,}870\ \text{kg/m}^3

 

導電性・熱伝導性・耐食性に優れますが、引張強さは約70 MPa(A1050-O材)と非常に低く、構造材としてそのまま使うことはほとんどありません。

そこで合金元素を添加し、さらに熱処理や加工硬化を施すことで、鋼に匹敵する強度を持たせたものがアルミ合金です。
JIS規格では「A」を冠した4桁の番号で体系化されており、最初の1桁で合金系統が判別できる仕組みになっています。

アルミ合金の2つの大分類

アルミ合金は、製造方法の違いにより大きく2つに分けられます。

展伸材は、鋳塊を圧延・押出し・鍛造などの塑性加工で板・棒・管・形材に成形したものです。
1000系〜7000系までの番号体系で分類され、機械部品や建材に広く使われます。

鋳造材は、溶湯を金型に流し込んで冷やし固めた材料です。
AC(アルミニウム鋳物)やADC(アルミダイカスト)の記号で分類され、エンジンブロックやホイールなど複雑形状の部品に用いられます。
鋳造材にはシリコン(Si)が多く含まれることが特徴で、流動性の確保と鋳巣の低減を目的としています。

本記事では設計現場で最も頻繁に選定が求められる展伸材(1000系〜7000系)を中心に解説を進めます。

なぜアルミ合金が選ばれるのか

アルミ合金が多くの産業分野で採用される理由は、軽さだけではありません。
以下のような複合的なメリットが評価されています。

  • 軽量性:比重2.7で鉄の約1/3です。輸送機器や携帯機器の軽量化に直結します
  • 高い比強度:7000系合金では引張強さ570 MPaに達し、単位重量あたりの強度は鋼を上回ります
  • 優れた耐食性:表面に緻密な酸化皮膜を自然に形成し、大気中での腐食を防ぎます
  • 良好な加工性:切削・プレス・押出しいずれも比較的容易で、複雑な断面形状の押出材も量産可能です
  • 高い熱伝導性:ヒートシンクや熱交換器に最適な材料です
  • リサイクル性:再溶解に必要なエネルギーが新地金製造のわずか約3%で済み、環境負荷が低い材料です

比強度の優位性は、次の指標で定量的に比較できます。

 

 \text{比強度} = \dfrac{\sigma_{\text{UTS}}}{\rho}

 

A7075-T6の場合、引張強さ570 MPaを密度2,700 kg/m³で割ると約0.21 MPa·m³/kgとなります。
一般構造用鋼SS400(引張強さ400 MPa、密度7,870 kg/m³)では約0.051 MPa·m³/kgですので、アルミ合金は鋼の約4倍の比強度を持つ計算です。

一方で、ヤング率が約70 GPaと鋼(約206 GPa)の約1/3であるため、剛性が必要な部位では断面積を大きくする設計が求められます。

 

 E_{\text{Al}} \approx 70\ \text{GPa} \quad E_{\text{Fe}} \approx 206\ \text{GPa}

 

ヤング率は材料固有の値であり、合金元素の添加では大きく変わりません。
そのため軽量化とたわみ制限を両立させるには、中空断面やリブ構造を活用して断面二次モーメントを稼ぐ設計が有効です。

また2000系・7000系など高強度合金は耐食性に劣る場合があり、アルマイトや塗装などの表面処理が不可欠となります。

 

2. 番号体系と合金記号の読み方

アルミ合金の材料記号は「A+4桁の数字+質別記号」で構成されており、番号を読むだけで合金の主成分と大まかな特性がわかるようになっています。
この体系を理解しておくことが、材料選定の第一歩です。

4桁番号の構造

JIS H 4000(板・条)やJIS H 4100(押出形材)などで規定される展伸材の番号体系は、次のルールに従います。

1桁目(千の位)は合金系統を示します。
1000系ならば純アルミニウム、2000系ならAl-Cu系というように主添加元素がひと目でわかります。
具体的には1000系が純アルミニウム、2000系がAl-Cu(銅)系、3000系がAl-Mn(マンガン)系、4000系がAl-Si(シリコン)系、5000系がAl-Mg(マグネシウム)系、6000系がAl-Mg-Si系、7000系がAl-Zn-Mg(亜鉛-マグネシウム)系です。

2桁目(百の位)は合金の改良を示す番号です。
基本合金は「0」であり、改良版には1以降の数字が割り振られます。
たとえばA7075の百の位は「0」なので基本合金ですが、A7N01のように一部の合金ではN(日本独自合金)が付与されるケースもあります。

3〜4桁目(十の位・一の位)は、1000系の場合にはアルミニウムの純度の小数点以下2桁を意味します。
たとえば「1070」であれば純度99.70%、「1050」であれば99.50%を表します。

2000系以降については、3〜4桁目は個別の合金識別番号であり、純度との対応はありません。
A2024やA5052の下2桁はそれぞれの合金を区別するための通し番号です。

材料記号の読み方の実例

実際の材料指定では「A5052-H32」のように表記されます。
この場合、先頭の「A」はアルミニウム合金を示す接頭辞、「5052」が合金番号、「H32」が質別記号(加工硬化+安定化処理、1/4硬質)です。

別の例として「A7075-T6」を分解すると、7000系(Al-Zn-Mg-Cu系)の75番合金で、T6(溶体化処理後に人工時効硬化処理)を施した状態であることが読み取れます。

さらに「A2017-T4」であれば、2000系(Al-Cu系)の17番合金にT4(溶体化処理後に自然時効硬化)を施した状態です。
この合金は「ジュラルミン」の名前で広く知られています。

このように番号体系を理解しておけば、図面や規格書に書かれた材料記号から瞬時に合金の性格を把握でき、選定ミスの防止につながります。

展伸材と鋳造材の番号の違い

展伸材(板・棒・管・形材)は1000系〜7000系の4桁番号で分類されますが、鋳造材は「AC」「ADC」という英字+数字の記号で区別されます。

たとえば「AC4C」はAl-Si-Mg系のアルミ鋳物合金であり、「ADC12」はAl-Si-Cu系のダイカスト合金です。
ADC12はダイカスト業界で最も多く使われる合金で、自動車のエンジン周り部品やトランスミッションケースなどに採用されています。

展伸材と鋳造材では番号体系がまったく異なるため、混同しないよう注意が必要です。
設計図面では材料指定とともに加工方法(板取りか鋳造か)を明記することが、製造トラブルを未然に防ぐポイントです。

 

3. 1000系〜4000系の特徴と用途

ここからは、展伸材の7つの合金系統を前半(1000〜4000系)と後半(5000〜7000系)に分けて詳しく見ていきます。
それぞれの系統で主添加元素・強度レベル・代表的な用途が大きく異なるため、特徴を正確に把握しておくことが材料選定の基盤となります。

1000系(純アルミニウム系)

1000系はアルミニウム純度99.00%以上の材料で、添加元素をほとんど含みません。
代表的な合金にはA1050(純度99.50%)やA1100(純度99.00%以上)があります。

引張強さはA1100-Oで約90 MPa、H14材でも約120 MPaにとどまるため、構造材には不向きです。
しかし導電性・熱伝導性・加工性がきわめて優れている点が最大の強みです。

A1050の導電率は国際軟銅標準(IACS)の約61%に相当し、送配電用の導体として広く使われます。
熱伝導率も約230 W/(m·K)と高く、パワーデバイスのヒートシンクや化学プラントの反応容器にも適しています。

耐食性も全系統中で最も高く、特殊な表面処理なしでも長期間の使用に耐えます。
アルミホイルに使われるA1N30も1000系に属し、食品への安全性が高い材料として信頼されています。

加工硬化による強度向上の度合いは限定的であるため、強度が必要な場合は3000系や5000系への変更を検討しましょう。

各系統の物性を俯瞰する

1000系から4000系までを通して見ると、主添加元素の種類によって強度・耐食性・溶接性のバランスが大きく変わることがわかります。

1000系は強度は低いものの耐食性と加工性は最高であり、導電・放熱用途の第一選択です。
2000系は銅の添加によって鋼並みの強度を実現しますが、耐食性を犠牲にしているためアルマイトやクラッドが必須です。

3000系はマンガンを添加することで純アルミの長所を維持しつつ適度な強度向上を得ており、汎用性の高い系統です。
4000系はシリコンの添加によって融点を下げ、溶接棒やろう材として特殊な地位を占めています。

設計者は「どの特性を最優先するか」を明確にしたうえで系統を選定することが重要です。
たとえば「溶接構造で耐食性が必要」ならば5000系か6000系が候補となり、「切削加工で高強度」ならば2000系か7000系に絞られます。

また合金番号を決めた後も質別記号の指定で最終的な機械的性質が大きく変わるため、番号と質別をセットで管理することが正確な設計の前提条件です。

2000系(Al-Cu系)

2000系は銅(Cu)を主添加元素とし、熱処理によって高い強度を得られる合金です。
代表合金はA2017(ジュラルミン)とA2024(超ジュラルミン)で、航空機やレーシングカーの構造部材に使用されてきた歴史があります。

ジュラルミンという名称は1906年にドイツのデュレン(Dren)で開発されたことに由来し、当時は「軽くて強い夢の金属」として航空業界に革命をもたらしました。

A2024-T4の引張強さは約470 MPaに達し、炭素鋼に近い強度を示します。
さらにA2024-T3(溶体化処理後に冷間加工+自然時効)では引張強さ約485 MPa・耐力約345 MPaとなり、疲労強度にも優れています。

切削加工性にも優れるため、ボルト・ナット、ねじ材、光学機器部品としても重宝されます。
A2011は快削合金として知られ、自動旋盤での量産部品に最適です。

一方で銅を含むために耐食性が全系統中で最も低い点が弱点です。
大気中でも腐食が進行しやすく、電蝕のリスクもあるため、アルマイト処理やクラッド材(表面に純アルミを貼り合わせた材料)で防食処理を施すのが一般的です。

溶接性も低いため、リベット接合やボルト締結で組み立てる設計が基本となります。
航空機の外板にはA2024のクラッド材(アルクラッド)が使われ、高強度と耐食性を両立させています。

3000系(Al-Mn系)

3000系はマンガン(Mn)を約1〜1.5%添加した合金です。
代表合金のA3003は、純アルミニウムの加工性や耐食性をほとんど損なうことなく、強度を約20%向上させています。

A3003-H14の引張強さは約150 MPa前後で、構造材としては中程度ですが、深絞り性・溶接性・ろう付け性に優れるため、日用品から産業用途まで幅広く採用されます。

具体的にはアルミ缶のボディ材(A3004)、建築用屋根板、自動車のラジエーターフィン、家電製品の筐体などが代表的な用途です。
A3004はMnに加えてMgを約1%含有しており、A3003よりやや高い強度と優れた成形性を両立しています。

コストと性能のバランスが良く、大量消費される材料の一つです。
国内の飲料缶の多くがA3004製のボディとA5182製の蓋の組み合わせで製造されており、3000系は食品産業を支える材料といえます。

4000系(Al-Si系)

4000系はシリコン(Si)を主添加元素とする合金です。
Si含有量が多くなると融点が低下し、流動性が向上するため、溶接棒・ろう材として主に使用されます。

A4043はSiを約5%含む溶加材であり、6000系合金のTIG溶接やMIG溶接に広く用いられます。
溶接時の高温割れ感受性が低く、ビード外観も良好なため、建築サッシの溶接接合などで重宝されています。

代表合金のA4032はSiを約12%含む過共晶合金で、熱膨張係数が小さく耐摩耗性に優れるため、エンジンの鍛造ピストンとして広く採用されています。
Si粒子が硬質な分散相として作用し、シリンダーボアとの摺動面の耐久性を確保します。

構造材として単独で選定されることは少ない系統ですが、溶接施工やエンジン部品では欠かせない存在です。
設計図面に溶加材の指定がある場合、4000系の合金番号を正しく読み取れるようにしておきましょう。

 

4. 5000系〜7000系の特徴と用途

後半の5000系〜7000系は、構造用アルミ合金の主力として設計現場で最もよく選定される系統です。
とくにA5052・A6063・A7075は「アルミ合金の三大定番」ともいえる存在で、用途に応じた使い分けが求められます。

5000系(Al-Mg系)

5000系はマグネシウム(Mg)を主添加元素とし、非熱処理合金の中で最も高い強度を実現する系統です。
Mg含有量を増すほど強度が上がりますが、加工性や耐食性とのバランスから、2〜5%の範囲が実用的です。

代表合金のA5052はMgを約2.5%含み、引張強さ約230 MPa(H32材)を示します。
耐食性・溶接性・成形性のすべてが高い水準でバランスしているため、最も汎用的に使われるアルミ合金の一つです。

船舶の船体、車両のパネル材、化学プラントのタンク、建築外装材など、幅広い分野で採用されています。
板金加工の現場で「アルミの板」といえば、多くの場合A5052を指すといっても過言ではありません。

Mg含有量をさらに増やしたA5083(Mg約4.5%)は引張強さ約275 MPa(O材)となり、LNGタンクや船舶構造材など低温環境や海洋環境で重要な役割を担います。
A5083は-196°C(液体窒素温度)でも靱性を保つため、極低温容器に不可欠な材料です。

5000系は加工硬化で強度を高める非熱処理型合金であり、質別記号はH系が中心です。
溶接熱影響部(HAZ)の軟化もT系合金に比べて小さいため、溶接構造物に適しています。

A5056はワイヤーやリベットに使われる引抜材として知られ、ファスナーやジッパー部品にも採用されています。
Mgを約5%含有し、5000系の中でも高い強度を誇りますが、その分だけ成形性はやや劣ります。

5000系はアルミ缶の蓋(エンド材)にも使われています。
A5182はMgを約4.5%含み、薄肉でも高い内圧強度を確保できるため、炭酸飲料のプルタブ付き蓋に最適です。
蓋材のA5182と胴材のA3004は組成が異なりますが、リサイクル時にはまとめて再溶解されるため、分別の手間が省けるよう設計されています。

溶接構造物においては、5000系はMIG溶接・TIG溶接のいずれにも対応できます。
溶加材にはA5356(引張強さ約265 MPa)やA5183が一般的に使用され、母材に近い強度の溶接継手が得られます。
溶接熱影響部(HAZ)の軟化がT系合金に比べて小さい点は、溶接構造設計において5000系が好まれる最大の理由の一つです。

6000系(Al-Mg-Si系)

6000系はマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)を同時に添加した合金で、熱処理によって中程度の強度が得られる系統です。
MgとSiが結合してMg₂Si(ケイ化マグネシウム)の析出物を形成し、これが強化機構として働きます。

T6処理後の引張強さはA6061で約310 MPa、A6063で約205 MPaに達します。
この析出硬化のメカニズムは、溶体化処理で合金元素を固溶させた後、人工時効処理で微細な析出物を均一に分散させるプロセスです。

6000系の最大の特長は押出加工性の良さにあります。
A6063は「押出合金の王様」とも呼ばれ、複雑な断面形状のサッシ、手すり、フレーム材を高い寸法精度で量産できます。
押出加工では高温(約500°C)のビレットをダイスに通して断面形状を付与するため、変形抵抗が低く流動性に優れたA6063は最適な材料です。

耐食性も良好で、アルマイト処理との相性が優れているため、建築用サッシ・手すりの表面仕上げにも適しています。
特にシルバーアルマイト処理を施したA6063は、美しい光沢と耐候性を兼ね備え、住宅建材の標準材料となっています。

溶接性は5000系に比べるとやや劣りますが、A4043やA5356などの適切な溶加材を使えば良好な継手強度が得られます。
ただし溶接熱影響部ではT6調質の効果が失われて強度が低下するため、溶接設計では継手効率を考慮する必要があります。

機械構造用には、A6061(Mg・Si・Cuを含む)がよく選定されます。
A6061-T6は引張強さ310 MPa・耐力275 MPaで、自転車フレーム・トラックの荷台・産業機械のフレームなどに採用されています。
A5052より高い強度が必要だが、A7075ほどの高強度は不要な用途で、コストパフォーマンスに優れた選択肢となります。

7000系(Al-Zn-Mg系)

7000系は亜鉛(Zn)とマグネシウム(Mg)を主添加元素とし、アルミ合金の中で最も高い強度を誇る系統です。
さらに銅(Cu)を加えたAl-Zn-Mg-Cu系は、「超々ジュラルミン」として知られるA7075を代表に、航空宇宙分野で不可欠な存在です。

A7075-T6の引張強さは約570 MPa、耐力は約505 MPaに達し、一般構造用鋼SS400(引張強さ400〜510 MPa)を上回ります。
比強度(引張強さを密度で割った値)では鋼をはるかに凌駕します。

 

 \dfrac{\sigma_{\text{A7075}}}{\rho_{\text{A7075}}} = \dfrac{570}{2{,}800} \approx 0.204 \quad \dfrac{\sigma_{\text{SS400}}}{\rho_{\text{SS400}}} = \dfrac{400}{7{,}870} \approx 0.051

 

上記の計算からわかるように、A7075の比強度はSS400の約4倍です。
軽量化と高強度の両立が求められる航空機の翼桁、スポーツ用品(ゴルフクラブヘッド、テニスラケット)、金型の素材として欠かせません。

A7075の強化メカニズムは、MgZn₂(η'相)の微細な析出物による析出硬化です。
T6処理では溶体化温度約470°Cから急冷し、120°C前後で24時間程度の人工時効を行うことで最高硬度を得ます。

一方でCuを含む7000系は耐食性が低く、応力腐食割れ(SCC)のリスクがあります。
応力腐食割れは引張残留応力と腐食環境が同時に作用すると突然破断する危険な現象であり、T6よりも過時効側のT73処理を選ぶことでリスクを大幅に低減できます。

Cuを含まないAl-Zn-Mg系のA7N01は溶接性が良好で、新幹線車両の構体に採用されています。
溶接後の自然時効で強度が回復するという特異な性質を持ち、溶接構造物に適した7000系合金です。
N700系新幹線では車体構体の大部分がA7N01-T6の大断面押出材で構成されており、高速鉄道の軽量化と安全性を両立させています。

A7050は厚板での焼入れ性に優れた合金であり、航空機の大型構造部品に採用されています。
T74処理を施すことでT6とT73の中間的な性質を持たせ、強度と耐SCC性のバランスを最適化しています。

航空機以外では、A7075はプラスチック射出成形の金型材料としても使われます。
鋼製金型より軽量で熱伝導率が高いため、成形サイクルタイムの短縮が可能です。
ただし硬度は鋼に劣るため、大量生産用ではなく試作用や小ロット生産用の金型に適しています。

7000系を選定する際は、強度だけでなく腐食環境と残留応力の管理が設計上の必須要件となります。
厚板の機械加工後に残留応力で反りが生じやすい点にも注意が必要です。

 

5. 質別記号と調質の基礎知識

アルミ合金は、同じ合金番号であっても調質(質別)によって機械的性質が大きく変化します。
たとえばA6061-Oの引張強さは約125 MPaですが、T6処理を施すと約310 MPaとなり、同じ素材でありながら2.5倍もの差が生まれます。

 

 \sigma_{\text{A6061-O}} \approx 125\ \text{MPa} \quad \sigma_{\text{A6061-T6}} \approx 310\ \text{MPa}

 

質別記号はJIS H 0001で規定されており、材料記号の末尾に付与されます。
設計図面で「A5052-H32」や「A7075-T6」と記載されるハイフン以降の部分がこれにあたります。

主要な質別記号の分類

質別記号は大きく5つの基本記号に分けられます。

F(製造のまま)は、加工硬化や熱処理の条件を特に規定しない状態です。
押出後や圧延後にそのまま出荷される材料に適用されます。
機械的性質の保証値がないため、強度を要求する部品には不適です。

O(焼なまし)は、完全に再結晶させて最も軟らかくした状態です。
深絞りやプレス加工の前素材としてよく用いられます。
伸びが最大となるため、複雑な形状の成形加工に最適です。

H(加工硬化)は、冷間加工によって強度を高めた状態を示します。
非熱処理合金(1000系・3000系・5000系)に適用され、Hの後の数字で加工硬化の度合いと追加処理を区別します。

W(溶体化処理のまま)は、溶体化処理後に自然時効硬化が進行している不安定な状態です。
通常は最終的な質別ではなく、中間工程として用いられます。
時間の経過とともに硬度が変化するため、Wの後に経過時間を付記することがあります。

T(熱処理)は、溶体化処理や時効処理を施してF・O・H以外の安定な状態にしたものです。
2000系・6000系・7000系などの熱処理合金に適用されます。

H記号の細分化

H記号はさらに2桁の数字を伴い、処理方法と硬さの度合いを示します。

1桁目が加工硬化の種類を表します。
H1は加工硬化のみ、H2は加工硬化後に部分焼なまし、H3は加工硬化後に安定化処理を施した状態です。
H3はMg含有量の高い5000系合金(A5083など)に適用されることが多く、経年変化による機械的性質の低下を防ぐ目的があります。

2桁目は硬さの段階を示し、数字が大きいほど硬くなります。
2は1/4硬質、4は1/2硬質、6は3/4硬質、8は硬質です。
完全焼なまし(O)と硬質(H×8)の中間で等間隔に区分されています。

したがって「H32」は「加工硬化後に安定化処理を行った1/4硬質材」を意味します。
A5052-H32は板金加工やプレス加工で最も頻繁に指定される質別の一つで、適度な強度と成形性のバランスが取れた状態です。

特殊な記号としてH112があり、これは熱間加工後にわずかな加工硬化が残った状態を示します。
厚板や棒材でよく見られる質別であり、F材に近いが最低限の機械的性質が保証されています。

T記号の細分化

T記号には1〜10の番号が付き、熱処理の種類と組み合わせを区別します。
実務で特に頻出するのは次の4つです。

T3:溶体化処理後に冷間加工し、さらに自然時効硬化させた状態です。
A2024-T3が代表例であり、航空機の外板やリベット材に使用されます。
冷間加工で転位密度が上がることで析出サイトが増え、高い強度と優れた疲労特性を得られます。

T4:溶体化処理後に自然時効硬化させた状態です。
A2017-T4(ジュラルミン)に適用されます。
室温での自然時効が進行し、数日から数週間で安定した強度に到達します。

T5:高温加工(押出し等)から急冷後に人工時効硬化処理を行った状態です。
A6063-T5が代表例で、押出直後の高温状態を利用して溶体化処理を兼ねるため、別途の溶体化工程が不要でコストメリットがあります。

T6:溶体化処理後に人工時効硬化処理を行った状態で、最も一般的な熱処理です。
A6061-T6やA7075-T6など、高い強度が必要な用途で広く指定されます。
溶体化温度から水焼入れし、所定の温度・時間で時効処理することで最高強度を引き出します。

T73はT6よりも過時効側に処理することで強度をわずかに犠牲にする代わりに、応力腐食割れ感受性を大幅に低減させた状態です。
A7075-T73の引張強さはT6より約10%低下しますが、SCC耐性が大幅に改善されるため、航空機の厚肉部品ではT73が選ばれるケースも少なくありません。

 

6. アルミ合金の強度一覧と選定基準

設計現場で材料選定を行う際に最も頻繁に参照されるのが、引張強さ・耐力・伸びの一覧データです。
ここでは主要なアルミ合金の機械的性質をJIS規格値に基づいて整理し、選定のポイントを解説します。

主要アルミ合金の機械的性質一覧

以下の表は代表的なアルミ合金の引張強さ、0.2%耐力、伸びをまとめたものです。
数値はJIS H 4000(板・条)およびJIS H 4100(押出形材)に準拠した規格最小値を基本とし、実用上の目安として示しています。

 

合金番号 質別 引張強さ [MPa] 0.2%耐力 [MPa] 伸び [%] 主な用途
A1050 H24 110以上 75以上 6以上 放熱板、反射板
A1100 H14 120以上 95以上 5以上 日用品、化学容器
A2017 T4 390以上 245以上 12以上 ねじ材、機械部品
A2024 T4 425以上 275以上 10以上 航空機構造材
A3003 H14 145以上 120以上 4以上 缶材、屋根板
A5052 H32 215以上 160以上 7以上 船舶、車両パネル
A5083 O 275以上 125以上 15以上 LNGタンク、船体
A6061 T6 295以上 245以上 8以上 構造材、自転車
A6063 T5 150以上 110以上 8以上 サッシ、手すり
A6063 T6 205以上 170以上 8以上 構造用押出材
A7075 T6 540以上 470以上 7以上 航空機、金型
A7N01 T6 440以上 370以上 8以上 鉄道車両構体

 

上表から明らかなように、1000系から7000系にかけて引張強さは100 MPa台から540 MPa超まで大きな幅があります。
同じA6063でもT5とT6で約55 MPaの差があるように、質別の選択も強度に直結します。

ここで注意すべきは、耐力(0.2%耐力)が設計上最も重要な強度指標であるという点です。
構造設計では永久変形が許容されないため、許容応力は引張強さではなく耐力を基準に設定されます。

 

 \sigma_{\text{許容}} = \dfrac{\sigma_{0.2}}{S}

 

ここで  \sigma_{0.2} は0.2%耐力、 S は安全率です。
一般的な機械設計では安全率を2〜4程度に設定しますが、航空機や圧力容器など保安上重要な用途ではさらに大きな安全率が要求されます。

材料選定フローの考え方

アルミ合金の選定では、まず求められる機能を明確にしたうえで以下の優先順位で絞り込むのが基本です。

第一に必要強度を確認します。
構造計算や安全率の検討から、最低限必要な引張強さ・耐力を定量的に把握します。
応力計算の結果と上表の耐力を照合し、安全率を満たす合金を候補に挙げましょう。

第二に使用環境と耐食性を評価します。
海水環境や酸性雰囲気では5000系や6000系が優先され、2000系・7000系は表面処理なしでの使用を避けるべきです。

第三に加工方法を考慮します。
押出加工ならA6063、板金加工ならA5052、切削加工ならA2017やA7075が適しています。

第四に接合方法を確認します。
溶接が必要ならば5000系やA7N01が有利であり、2000系・A7075は溶接に向かないためリベットやボルト締結を前提に設計します。

強度計算の実例

たとえば、A5052-H32の板材に引張荷重が作用する場合の許容荷重を求めてみましょう。
板幅50 mm、板厚3 mmの試験片に対して、安全率を3とします。

まず断面積を求めます。

 

 A = b imes t = 50 imes 3 = 150\ ext{mm}^2

 

次に許容応力を耐力から算出します。

 

 \sigma_{ ext{許容}} = \dfrac{\sigma_{0.2}}{S} = \dfrac{160}{3} pprox 53.3\ ext{MPa}

 

最後に許容荷重を計算します。

 

 F_{ ext{許容}} = \sigma_{ ext{許容}} imes A = 53.3 imes 150 = 8{,}000\ ext{N} pprox 8.0\ ext{kN}

 

このように、強度一覧表の耐力値を基に安全率を考慮した許容荷重を導出することで、設計に必要な定量的な判断が可能になります。

最後にコストと入手性を比較します。
A5052やA6063は流通量が多く比較的安価ですが、A7075は高価で納期もかかりやすい傾向があります。
とくに厚板や特殊寸法の7000系は受注生産となることが多く、調達リードタイムの確認が重要です。

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7. アルミ合金の腐食と防食対策

アルミ合金は表面に形成される酸化皮膜(Al₂O₃)によって優れた耐食性を示しますが、すべての環境で万能というわけではありません。
合金系統や使用環境によっては深刻な腐食トラブルが発生することがあり、防食設計は材料選定と並んで重要な検討項目です。

アルミ合金が「錆びる」メカニズム

アルミの酸化皮膜は大気中で自然に再生する自己修復性を持ちますが、塩化物イオン(Cl⁻)が存在する環境では皮膜が局所的に破壊され、孔食(ピッティング腐食)が発生します。

孔食は表面に小さな穴が開き、そこから内部に向かって腐食が進行する現象です。
外観からは軽微に見えても内部で大きく侵食されているケースがあり、圧力容器やタンクの板厚減少につながる危険性があります。

海岸沿いの塩害地域や、冬季に凍結防止剤が散布される道路環境では特に注意が必要です。
また強酸や強アルカリ環境では酸化皮膜自体が溶解するため、pH 4〜9の範囲を超える環境ではアルミ合金は原則として不適合です。

コンクリートとアルミの接触もアルカリ腐食の原因となるため、建築用サッシの取付け部にはシール材やコーキングで直接接触を避ける設計が必要です。

異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)

アルミ合金はイオン化傾向が大きい卑な金属であるため、銅や鉄など貴な金属と直接接触した状態で電解質(水分)が存在すると、アルミ側が優先的に腐食されます。

これをガルバニック腐食といい、設計段階で以下の対策を講じる必要があります。

  • 異種金属間に絶縁ワッシャーや絶縁スリーブを挿入し、直接接触を遮断します
  • ステンレスボルトとアルミ部材の接合部にはシール材を塗布し、水分の浸入を防ぎます
  • 電位差の小さい金属の組み合わせを選びます(例:アルミ+亜鉛めっき鋼は比較的安全です)

ガルバニック腐食の進行速度は、2つの金属の電位差と接触面積比に大きく依存します。
貴金属側の面積が大きいほどアルミ側の腐食が加速されるため、「小さなアルミ部品を大きなステンレス構造体にボルト留め」するような設計は特に危険です。

応力腐食割れ(SCC)の注意点

2000系や7000系の高強度アルミ合金は、引張応力と腐食環境が同時に作用すると粒界に沿って割れが進行する応力腐食割れ(SCC)のリスクがあります。

特にA7075-T6では短横方向(Short Transverse方向)にSCC感受性が高く、航空機部品では板厚方向に引張応力がかかる設計を避けるか、T73処理に変更してSCC耐性を向上させます。
機械加工後の残留応力管理も重要で、応力除去焼なましやショットピーニングが有効な場合があります。

A5083はMg含有量が高い場合に鋭敏化(β相の粒界析出)が生じ、粒界腐食や応力腐食割れにつながることがあります。
65°C以上の長時間加熱を避けることが鋭敏化防止の基本です。
船舶用途では海水環境での長期使用が前提となるため、鋭敏化リスクの低いO材やH116材の指定が推奨されます。

代表的な防食処理

アルミ合金の防食処理として最も広く採用されているのがアルマイト処理(陽極酸化処理)です。
電気化学的に酸化皮膜を厚く成長させることで、自然酸化皮膜(数nm)の数千倍にあたる5〜25 μmの硬質皮膜を形成し、耐食性・耐摩耗性を大幅に向上させます。

アルマイト処理には普通アルマイト(皮膜厚5〜25 μm)と硬質アルマイト(皮膜厚25〜100 μm)があります。
硬質アルマイトの表面硬度はHV 350〜500に達し、鋼の焼入れ硬度に匹敵する耐摩耗性を付与できます。
摺動部品やシリンダーボアの内面処理として実績があります。

さらに高い耐食性が求められる用途では、粉体塗装やエポキシプライマーによる塗装仕上げが施されます。
粉体塗装は有機溶剤を使用しないため環境負荷が低く、膜厚40〜80 μmの均一な塗膜を形成できます。

また2000系合金では、表面に純アルミ層を圧着接合したクラッド材が耐食性確保の標準手法です。
クラッド材は母材の高強度を維持しながら表面の耐食性を確保できるため、航空機外板の定番材料となっています。

化成処理としてはクロメート処理やノンクロメート処理があり、塗装の下地処理として密着性と耐食性の向上に寄与します。
近年は六価クロムの環境規制に対応したノンクロメート(三価クロムまたはジルコニウム系)への切り替えが進んでいます。

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アルミ合金の融点と高温特性

アルミ合金は鋼に比べて融点が低いという特性があります。
純アルミニウムの融点は約660°Cであり、合金元素の添加によってやや低下します。

 

 T_{ ext{融点(純Al)}} pprox 660\ ext{°C} \quad T_{ ext{融点(A7075)}} pprox 477 ext{〜}635\ ext{°C}

 

2000系や7000系は固相線温度(溶け始める温度)が低いため、溶体化処理温度の管理には細心の注意が必要です。
A7075の溶体化温度は約470°Cですが、固相線温度が477°C付近であるため、わずかな温度超過で部分溶融(バーニング)が生じ、機械的性質が著しく劣化します。

また200°C以上の高温環境では時効硬化合金の析出物が粗大化(過時効)し、強度が低下します。
耐熱性が求められる用途ではアルミ合金ではなくチタン合金やニッケル基超合金を検討する必要があります。

火災時の構造安全性についても注意が必要です。
鋼は約500°C以上で急激に強度が低下しますが、アルミ合金は約200°C付近から強度低下が始まり、300°Cでは常温の約半分にまで低下します。
このため耐火構造が求められる用途では、適切な耐火被覆や設計上の配慮が不可欠です。

 

8. まとめ

本記事では、アルミ合金の基礎から番号体系、各系統の特徴、質別記号、強度一覧、そして腐食・防食対策までを体系的に解説しました。

アルミ合金は1000系〜7000系までの7系統に分類され、最初の1桁で主添加元素がわかる合理的な番号体系を持っています。
構造材として特に頻繁に使われるのはA5052(汎用板金)、A6063(押出材)、A7075(高強度部品)の3合金です。

強度面ではA1050-H24の110 MPaからA7075-T6の540 MPa超まで幅広い選択肢があります。
質別記号(H系・T系)の選択で同一合金でも機械的性質を大きく変えられるため、合金番号だけでなく質別記号まで含めた材料指定が不可欠です。

設計上の許容応力は耐力(0.2%耐力)を安全率で除して決定します。
引張強さではなく耐力を基準にする点を忘れないようにしましょう。

一方で耐食性は系統によって大きく異なり、特に2000系・7000系ではガルバニック腐食や応力腐食割れへの対策が設計上必須です。
アルマイト処理やクラッド材による防食設計を忘れずに盛り込みましょう。

材料選定では「強度→耐食性→加工性→接合方法→コスト」の優先順位で候補を絞り込むのが基本フローです。
本記事の強度一覧表を手元に置いて、設計条件に最適なアルミ合金を選定してください。