
「このロット、全部は検査できないけれど、何個調べてどこまで不良があったら不合格にすればいいのか」——抜取検査でだれもが直面する問いです。
その判断のよりどころになるのがAQL(合格品質水準)です。
AQLは、JIS Z 9015(ISO 2859)に基づく抜取検査の中心となる考え方で、サンプル数や合否の判定個数を決める基準になります。
これを理解せずに「なんとなく10個調べる」では、見逃しや過剰検査が起こり、品質もコストも安定しません。
「とりあえず数個見る」式の検査は、根拠がないため、見逃しても過剰でも説明できません。
AQLにもとづく抜取検査は、検査の根拠を数値で示せる点に大きな価値があります。
「なぜこの個数を調べ、なぜこの数で合否を決めるのか」を、規格にもとづいて説明できます。
根拠のある検査は、社内でも顧客に対しても説得力を持ちます。
本記事では、AQLの意味、抜取表の具体的な引き方、OC曲線と生産者危険・消費者危険、検査の切替ルール、そして実務での失敗例とFAQまでを具体的に解説します。
- 1. AQLとは
- 2. 抜取検査とAQLの関係
- 3. AQLの数値の決め方
- 4. JIS Z 9015による抜取方式の使い方
- 5. OC曲線と2つのリスク
- 6. 全数検査・無検査との使い分け
- 7. AQL運用の実務ポイント・FAQ
- 8. まとめ
1. AQLとは

AQL(Acceptance Quality Limit/合格品質水準)とは、「合格としてよい工程平均の不良率の上限」を表す指標です。
たとえばAQL1.0%とは、「不良率1.0%程度までの品質なら、合格として受け入れる」という取り決めを意味します。
注意したいのは、AQLは「不良をここまで認める」という妥協値ではなく、「この品質のロットはほぼ確実に合格させたい」という目標水準だという点です。
AQLより良い品質のロットは高い確率で合格し、悪いロットは高い確率で不合格になるよう、検査方式が設計されます。
この「良いロットは通し、悪いロットは止める」という性質を、数値で保証するのが抜取検査の役割です。
その保証の度合いを決める出発点が、AQLという一つの数値なのです。
たとえばAQL1.0%なら、不良率1.0%前後のロットはおおむね合格し、不良率が数%に悪化したロットは高い確率ではじかれます。
「良いものは通し、悪いものは止める」精度をどこまで求めるかが、検査設計の中心になります。
注意したいのは、AQLは「1%の不良を出してよい」という許可ではないことです。
あくまで「平均してこの水準以下なら合格にする」という運用上の取り決めであり、目標は当然それより良い品質です。
なぜ「水準」で考えるのか
1個ずつの良し悪しではなく、ロット全体の品質を「不良率」という水準でとらえるのがAQLの発想です。
抜取検査ではサンプルしか見ないため、ロットの合否は確率的にしか判断できません。
つまり「合格」とは「ロットに不良が無い」ことの保証ではなく、「不良率が許容範囲に収まっている可能性が高い」という意味です。
この確率的な性質を理解しておくことが、抜取検査を正しく使う前提になります。
そこで「どの品質水準を合格させ、どの水準を不合格にしたいか」を先に決め、それに合うサンプル数と判定個数を選びます。
AQLは、この検査設計の出発点になる数値です。
「不良率○%までのロットは合格にしたい」という意思を数値で表したものがAQL、と考えると分かりやすいです。
この一つの数値から、サンプル数も合否の基準も芋づる式に決まっていきます。
逆にいえば、AQLが決まらなければ検査方式も決まりません。
だからこそ、検査を設計する前に「どの品質を約束するか」を関係者で合意することが第一歩になります。
AQL値の系列
AQLは任意の値ではなく、規格で定められた標準系列から選びます。
0.065、0.10、0.15、0.25、0.40、0.65、1.0、1.5、2.5、4.0、6.5%……といった、約1.6倍刻みの優先数列です。
製品の重要度に応じて、致命的な欠点には小さいAQL、軽微な欠点には大きいAQLを割り当てます。
一つの製品でも、欠点の重要度ごとに複数のAQLを設定するのが実務的なやり方です。
AQLの値は細かく刻まれているように見えますが、約1.6倍ずつの等比的な系列になっています。
これは、検査の厳しさを段階的に・連続的に調整できるようにするための工夫です。
1.6倍刻みは、サンプル数の系列とも対応しており、AQLを一段変えると検査の厳しさが約1.6倍ずつ変わります。
恣意的な中間値を使わず、規格の系列から選ぶことで、世界共通の基準として運用できます。
「合格品質限界」という名前の意味
AQLは、かつては「合格品質水準」と訳されていましたが、現在のJISでは「合格品質限界(Acceptance Quality Limit)」と呼びます。
「限界」という言葉には、「このあたりが合格と不合格の境目になる品質」というニュアンスが込められています。
ポイントは、AQLが「個々のロット」ではなく「工程平均」に対する基準だという点です。
長く生産を続けたときの平均的な不良率がAQL以下であれば、ほとんどのロットが合格するように設計されている、と理解すると正確です。
言いかえると、AQLは「1回のロットの合否ライン」というより、「継続取引で目指す品質の目標値」に近い性格を持ちます。
1ロットがたまたま不合格でも、工程平均が良ければすぐにきつい検査にはならない仕組みです。
2. 抜取検査とAQLの関係

AQLは抜取検査の中で機能します。
抜取検査の流れと、その中でAQLが果たす役割を見ていきます。
AQLは単独で使うのではなく、ロットサイズ・検査水準と組み合わせて、はじめて具体的な検査方式になります。
抜取検査の基本的な流れ
抜取検査では、ロットから決められた数のサンプルを抜き取り、その中の不良数を数えます。
不良数が「合格判定個数(Ac)」以下なら合格、「不合格判定個数(Re)」以上ならロット全体を不合格とします。
たとえばAc=3、Re=4なら、サンプル中の不良が3個までは合格、4個以上で不合格です。
このAcとReは、ロットサイズ・検査水準・AQLの組み合わせから、規格の抜取表で一意に決まります。
担当者の感覚で「だいたい何個」と決めるのではなく、表に従って機械的に決まるのが抜取検査の利点です。
誰がやっても同じ基準になるため、検査の公平性と再現性が保てます。
なぜ全数検査ではないのか
抜取検査が使われるのは、全数検査が現実的でない場面が多いからです。
破壊検査では全数を調べれば製品が残りませんし、大量生産品では全数検査のコストと時間が見合いません。
たとえば1日に何万個も作る部品を一つひとつ全数検査するのは、人手も時間も現実的ではありません。
抜取検査は、限られた検査資源で品質を保証するための、合理的な妥協点だといえます。
抜取検査は、限られたサンプルで「ロット全体を合格にしてよいか」を経済的に判断する仕組みです。
そのため、見逃しのリスクをゼロにはできず、AQLでリスクをコントロールするという考え方になります。
リスクをゼロにできないなら、「どれだけのリスクを、双方が納得して受け入れるか」を決めるしかありません。
その合意を数値にしたものがAQLであり、抜取検査の土台になっています。
「サンプルが全部良品でも、ロット全体に不良がゼロとは限らない」のが抜取検査の本質です。
だからこそ、どれだけのリスクを受け入れるかをAQLで明示し、関係者で共有しておくことが重要になります。
計数値抜取と計量値抜取
抜取検査は、データの種類によって大きく2つに分かれます。
良品か不良品かを「個数」で数える計数値抜取検査と、寸法や重量などの「測定値」で判定する計量値抜取検査です。
JIS Z 9015(ISO 2859)は計数値抜取検査の規格で、本記事もこれを中心に扱います。
計量値の場合は別の規格(JIS Z 9003など)を用い、同じサンプル数でもより少ない個数で精度の高い判定ができるのが特徴です。
たとえば寸法のように測定値が得られる特性では、平均と標準偏差から合否を判断でき、少ないサンプルで済みます。
一方、外観のキズの有無のように「良・不良」しか分からない特性では、計数値抜取検査を使います。
ただし計量値抜取は、特性が正規分布に従うことが前提になるなど、適用条件に注意が必要です。
1回・2回・多回抜取
抜取の回数にも種類があります。
1回だけサンプルを取って判定する「1回抜取」、最初のサンプルで判定がつかなければ追加で取る「2回抜取」、さらに細かく繰り返す「多回抜取」です。
2回・多回抜取は、品質が明らかに良い(または悪い)ロットを少ないサンプルで早く判定でき、平均的な検査個数を減らせます。
そのぶん管理は複雑になるため、運用のしやすさとのバランスで選びます。
現場で広く使われているのは、運用が単純な1回抜取です。
検査コストを下げたい大量品では2回・多回抜取、というように、手間と効率のバランスで選びます。
2回抜取では、1回目で「合格」「不合格」「判定保留」の3通りに分け、保留のときだけ2回目を取ります。
明らかに良い・悪いロットを早く判定できるぶん、平均の検査個数を減らせるのが理屈です。
品質が安定している取引では、平均検査個数の差が年間で大きなコスト差になります。
一方で2回抜取は判定手順が増えるため、現場の教育とセットで導入することが大切です。
どの抜取方式でも、合否の判断基準を検査員が迷わず使えることが、正しい運用の前提になります。
工程平均不良率とのつながり
AQLを使いこなすには、「工程平均不良率」を意識することが大切です。
工程平均不良率とは、その工程が長期的に作り出す平均的な不良率のことで、いわば工程の実力です。
工程平均がAQLより十分小さければ、ほとんどのロットが楽に合格します。
逆に工程平均がAQLに近い、あるいは上回る状態では、不合格が頻発し、検査もきつい検査へ移行してしまいます。
AQLは「現実の工程実力」と「顧客の要求」の両方を見て設定するものだといえます。
顧客要求だけで厳しいAQLを設定しても、工程がついてこなければ不合格だらけになります。
まず工程能力を高め、それに見合うAQLを顧客と合意する、という順序が現実的です。
目安として、工程平均不良率はAQLの半分以下に保てると、安定して合格できるといわれます。
検査をくぐり抜けることではなく、工程そのものを良くすることが、結局は最も確実な合格への近道です。
3. AQLの数値の決め方

AQLは検査の厳しさを直接左右します。
どのように値を決めるのか、考え方を整理します。
AQLの決め方は、技術というより「どこまでの品質を約束するか」という取り決めの色合いが濃いものです。
欠点の重要度で分ける
AQLは、欠点の重要度に応じて使い分けます。
けがや事故につながる「致命欠点」には0.065〜0.10%のような小さいAQL、機能に影響する「重欠点」には0.65〜1.0%、外観のような「軽欠点」には2.5〜4.0%、といった割り当てが一般的です。
重要な欠点ほどAQLを小さくすると、サンプル数が増え、わずかな不良でも不合格になりやすくなります。
逆に軽微な欠点に小さいAQLを設定すると、検査コストばかりかかって割に合いません。
AQLを小さくすればするほど検査は厳しくなり、サンプル数も不合格も増えます。
品質と検査コストはトレードオフであり、製品の重要度に見合った「ちょうど良い厳しさ」を選ぶことが肝心です。
顧客との合意が前提
AQLは、供給側が勝手に決めるものではなく、顧客と取り決める基準です。
受け入れ側がどの品質を求めるかによって、適切なAQLは変わります。
同じ部品でも、用途や納入先が違えば求められる品質は変わります。
だからこそ、AQLは供給側の都合ではなく、顧客との合意で決めるのが原則です。
取引開始時にAQLと検査水準を文書で合意しておくことが、後の「合格・不合格」をめぐるトラブルを防ぎます。
工程能力との整合も重要で、工程の実力を示す指標は工程能力指数Cpkの記事で詳しく解説しています。
抜取検査の3つの型
抜取検査には、目的に応じた3つの型があります。
あらかじめ決めた品質を保証する「規準型」、実績に応じて検査の厳しさを変える「調整型」、不合格ロットを全数選別して品質を底上げする「選別型」です。
JIS Z 9015(ISO 2859)が採用しているのは、AQLを指標に検査をなみ・きつい・ゆるいに切り替える「調整型」です。
継続的な取引で、相手の品質実績に応じて検査の手間を増減できるのが、調整型の大きな利点です。
規準型は単発の取引や受け入れ判定に向き、調整型は継続的な購入や工程管理に向きます。
同じ抜取検査でも、取引の形に合わせて型を選ぶことが大切です。
調整型は「相手の品質実績に応じて検査を増減する」発想のため、長く付き合う取引先ほど効果を発揮します。
初めての取引や単発の受け入れでは、保証内容が明確な規準型が分かりやすいでしょう。
4. JIS Z 9015による抜取方式の使い方

AQLを実際の検査に落とし込むのが、JIS Z 9015(ISO 2859)の抜取表です。
具体的な引き方を、例で追ってみます。
表は「サンプル文字を決める表」と「Ac・Reを決める主抜取表」の2段階で使うのが基本です。
サンプル文字とサンプルサイズ
まず、ロットサイズと検査水準(通常はII)から「サンプル文字(コードレター)」を求めます。
たとえばロットサイズが3,000個・検査水準IIなら、サンプル文字はKとなり、サンプルサイズは125個です。
次に、サンプル文字KとAQLの交点を主抜取表で引くと、AcとReが決まります。
AQL1.0%・なみ検査ならAc=3、Re=4となり、「125個調べて不良3個までは合格、4個以上で不合格」と判断できます。
このAc・Reは規格表で一意に決まるため、検査員の主観が入りません。
同じロット・同じ条件なら、誰が検査しても同じ判定になるのが、表に基づく抜取検査の強みです。
なお、サンプル数がロットサイズを超えるような小ロットでは、全数検査として扱う指示が表に書かれていることもあります。
表の見方そのものを一度しっかり押さえておくと、現場で迷わずに使えます。
検査水準の選び方
検査水準には通常水準I・II・IIIがあり、IIが標準です。
サンプル数を抑えたいときは水準I、より厳しく見たいときは水準IIIを選びます。
水準Iは水準IIよりサンプル数が少なく、水準IIIは多くなります。
特に指定がなければ標準の水準IIを使う、と覚えておけば実務ではまず困りません。
このほか、コストを抑える特別検査水準(S-1〜S-4)もあります。
水準を上げるほどサンプル数が増えて精度は上がりますが、検査の手間も増えるため、リスクとコストのバランスで選びます。
特別検査水準(S-1〜S-4)は、サンプル数を特に少なく抑えたい場合に使います。
破壊検査や非常に高価な製品など、たくさん検査できない事情があるときの選択肢です。
ただしサンプルが少ないほど判別の精度は下がり、OC曲線はなだらかになります。
「検査個数を減らす」と「見分ける力を保つ」は相反するため、特別水準は事情を踏まえて慎重に選びます。
主抜取表の引き方(具体例)
実際の表引きを、もう一段具体的に追ってみます。
ロットサイズ501〜1,200個・通常検査水準IIなら、サンプル文字はJで、サンプルサイズは80個です。
このサンプル文字Jの行と、AQLの列が交わるところにAcとReが書かれています。
たとえばAQL2.5%なら、80個のサンプルでAc=5・Re=6、つまり不良5個までは合格、6個以上で不合格、と読み取れます。
ロットサイズが変わってサンプル文字が動けば、サンプル数もAc・Reも変わるため、表は必ずそのつど引き直します。
ロットサイズが大きいほどサンプル文字は先のほう(サンプル数の多い側)に進みます。
ただしサンプル数はロットサイズに比例して増えるわけではなく、大きなロットでも検査個数は緩やかにしか増えないように設計されています。
複数のAQLを同時に使う
実務では、1つの製品に複数のAQLを同時に設定するのが一般的です。
致命欠点・重欠点・軽欠点をそれぞれ別のAQLで検査し、欠点の重さに応じた厳しさで合否を判断します。
たとえば「致命欠点はAQL0.10%、重欠点はAQL1.0%、軽欠点はAQL4.0%」と分けて検査します。
致命欠点は1個でも見つかれば即不合格にするなど、欠点の重さで判定の厳しさを変えます。
こうすることで、重大な欠点には厳しく、外観程度の軽い欠点にはゆるく、と検査資源にメリハリをつけられます。
同じサンプルを使い、欠点の種類ごとにAc・Reを変えて判定するのが一般的です。
「致命欠点が1個でもあれば不合格、軽欠点は数個まで許容」といった運用になります。
5. OC曲線と2つのリスク

抜取検査の性能を表すのがOC曲線です。
この曲線から、検査につきまとう2つのリスクが読み取れます。
OC曲線を見れば、その検査方式が「どの不良率のロットを、どのくらいの確率で合格させるか」が一目で分かります。
OC曲線が示すもの
OC曲線(検査特性曲線)は、横軸にロットの不良率、縦軸にそのロットが合格する確率をとったグラフです。
不良率が低いロットは高い確率で合格し、不良率が高いロットは低い確率でしか合格しない、右下がりの曲線になります。
理想は「AQL以下は必ず合格、それを超えたら必ず不合格」という垂直の線ですが、抜取である以上そうはなりません。
現実の曲線はなだらかなS字を描き、そのカーブの形が検査の見分け能力を表します。
サンプル数を増やすと曲線は急になり、良いロットと悪いロットをよりはっきり見分けられるようになります。
逆にサンプルが少ないと曲線がなだらかになり、判別の精度が下がります。
OC曲線は計算で描ける
OC曲線は感覚ではなく、確率の計算で描けます。
サンプルサイズn・合格判定個数c(Ac)の1回抜取で、ロット不良率Pのときに合格する確率Paは、サンプルに不良がc個以下入る確率として求められます。
サンプル数が多く不良率が小さい場合は、ポアソン分布で近似できます。
ここでmは「サンプル中に含まれる不良数の期待値」で、m=n×Pで計算します。
この式に不良率Pを変えながら代入すれば、横軸P・縦軸PaのOC曲線が描け、その検査方式の見分け能力を数値で評価できます。
たとえばn=125・c=3で、不良率P=1%ならm=1.25となり、合格確率Paは約96%と計算できます。
同じ方式で不良率が5%に悪化するとPaは数%まで落ち、悪いロットがしっかりはじかれることが数値で確認できます。
このように、検査方式の「良し悪しを見分ける力」を、感覚ではなく確率で裏づけられるのがOC曲線の価値です。
サンプル数を増やすほど曲線は立ち、合格と不合格の境目がシャープになります。
生産者危険αと消費者危険β
OC曲線には、2つのリスクが現れます。
一つは「生産者危険α」で、AQLを満たす良いロットを誤って不合格にしてしまう確率です(通常5%程度に設計されます)。
生産者危険は、良い物を作ったのに不合格にされる側(生産者)の損失にあたるため、この名で呼ばれます。
αが大きいと、まじめに良品を作っても理不尽にはじかれることが増えてしまいます。
もう一つは「消費者危険β」で、本来不合格にすべき悪いロットを誤って合格にしてしまう確率です(通常10%程度を目安とします)。
サンプル数を増やせば両方のリスクを下げられますが、検査コストは増えるため、許容できるαとβの水準を踏まえて検査方式を選びます。
消費者危険βは、悪いロットを受け入れてしまう側(消費者)の損失です。
αとβはトレードオフではなく、サンプル数を増やせば両方下げられますが、その分コストがかかる、という関係にあります。
ロットの作り方とサンプリング
抜取検査が正しく機能する前提が、ロットの作り方とサンプルの取り方です。
ロットは、できるだけ同じ条件(同じ材料・設備・期間)で作られたものをひとまとめにします。
条件の違うものを混ぜてロットを作ると、平均的には合格でも、一部に不良が偏って潜むことがあります。
たとえば午前と午後で設備の調子が違うのに同じロットにすると、午後ぶんだけ不良が固まることがあります。
サンプルはロット全体を代表するよう、乱数表などを使って偏りなくランダムに抜き取るのが原則です。
箱の上のほうだけ、取りやすい場所だけ、といった抜き方では、OC曲線が示す性能は成り立ちません。
抜き取る位置やタイミングに作為が入ると、ロットの一部しか評価していないことになります。
乱数や等間隔抽出など、決めた方法で機械的に抜くことが、公平なサンプリングの基本です。
ロットが層に分かれている場合は、各層から比例して抜き取る層別サンプリングも有効です。
「どこから抜いても代表になる」ようにすることが、抜取検査の信頼性を支えます。
サンプリングが偏っていると、どんなに正しい抜取表を使っても結果は信頼できません。
抜取検査の精度は、表の正しさと同じくらい、サンプルの取り方に支えられています。
OC曲線上のAQL点とLTPD点
OC曲線の上では、2つの代表的な品質水準が重要です。
合格させたい良い品質水準が「AQL点」、不合格にしたい悪い品質水準が「LTPD(ロット許容不良率)点」です。
AQL点では合格確率が高く(生産者危険αだけ落ちる)、LTPD点では合格確率が低い(消費者危険βだけ通る)よう設計します。
この2点をどこに置き、αとβをどれだけ許すかを決めることが、検査方式を設計するということにほかなりません。
厳しい検査ほどLTPD点を低く(より良い品質でないと通さない)設定でき、そのぶんサンプル数も増えます。
必要な保証レベルとコストの折り合いをつけるのが、検査設計の腕の見せどころです。
「絶対に流出させたくない」と考えてサンプル数を増やしすぎると、検査コストが製品の価値に見合わなくなります。
守るべき品質と払えるコストの境界を見極めることが、現実的な検査設計です。
6. 全数検査・無検査との使い分け

抜取検査は万能ではありません。
全数検査・無検査との使い分けを整理します。
どの検査方式を選ぶかは、欠点の重さ・生産量・コスト・工程の実力を総合して決めます。
全数検査が向く場面
致命的な欠点があってはならない部品や、不良の流出が人命や重大事故に直結する製品は、全数検査が原則です。
少量生産で1個あたりの価値が高い場合も、全数検査のコストが見合いやすくなります。
ただし全数検査でも、人による検査では見逃しが生じます。
「全数検査だから不良ゼロ」とは限らない点には注意が必要です。
人の目視検査では、見逃し率が数%生じるという報告もあります。
確実を期すなら、自動検査機やポカヨケ(ミス防止のしくみ)と組み合わせることが有効です。
また、全数検査は時間もコストもかかるため、件数が多い品では現実的でないこともあります。
「全数だから安心」と思い込まず、検査の限界も理解して使うことが大切です。
抜取検査・無検査が向く場面
抜取検査は、量産品・破壊検査・検査コストを抑えたい場面に向きます。
OC曲線の性質上、一定の見逃しは避けられないため、致命欠点ではなく重欠点・軽欠点の管理に適しています。
工程能力が十分高く、長期間にわたって不良がほとんど出ない実績があれば、無検査(または検査の大幅な簡略化)も選択肢になります。
検査は「工程で品質をつくり込む」ことの補助であり、検査だけに頼らない発想が重要です。
検査をいくら厳しくしても、不良そのものは減りません。
本当に品質を上げるのは工程改善であり、抜取検査はその実力を確認し、異常を早期に知らせる役割を担います。
抜取検査を「合否を出す道具」で終わらせず、「工程の異常を知らせるセンサー」として使うことが理想です。
検査と工程改善が両輪で回ってはじめて、品質は継続的に高まっていきます。
選別型とAOQL
不合格ロットを全数選別し、不良品を良品に置き換える運用を「選別型抜取検査」と呼びます。
合格ロットはそのまま、不合格ロットは全数選別して良品にするため、長期的に見ると出ていく品質(平均出検品質)が一定以下に保たれます。
この平均出検品質の最大値を「AOQL(平均出検品質限界)」といいます。
選別型は、検査の手間はかかるものの、流出する不良率に上限を設けられるのが強みです。
合格ロットはそのまま使い、不合格ロットだけを全数選別するため、全数検査よりは手間を抑えられます。
「ある程度の不良は混じるが、上限は保証したい」という場面に向く方式です。
選別型は、出荷先に「最悪でもこの不良率までに抑えられている」と示せるのが利点です。
ただし全数選別の手間がかかるため、選別コストと品質保証のバランスで採否を判断します。
検査記録と継続的な見直し
抜取検査は、検査して終わりではなく、結果を記録して活用することで価値が高まります。
ロットごとの合否・不良数・不良の内容を記録し、傾向を見れば、工程平均の変化や特定の不良の増加に気づけます。
記録がたまれば、設定したAQLや検査水準が実態に合っているかも検証できます。
不良がほとんど出ないならゆるい検査や無検査への移行を、逆に増えているなら工程改善を、とデータに基づいて判断できます。
検査記録は、顧客への品質報告や監査対応の資料としても役立ちます。
「いつ・どのロットを・どの基準で・どう判定したか」を残すことが、品質保証の証跡になります。
記録をグラフ化して傾向を見れば、工程が少しずつ悪化している兆候にも気づけます。
抜取検査の記録は、合否判定だけでなく、工程の健康診断データとしても活用できます。
7. AQL運用の実務ポイント・FAQ

最後に、AQLを実務で回すためのポイントと、よくある質問をまとめます。
検査の切替ルール(スイッチング)
JIS Z 9015では、品質の実績に応じて検査の厳しさを切り替えます。
標準は「なみ検査」で、品質が悪化して不合格が続くと「きつい検査」へ、安定して良い品質が続けば「ゆるい検査」へと移行します。
きつい検査が連続して続く場合は、検査の停止を検討し、供給側に工程の改善を求めます。
この切替ルールにより、品質の良し悪しに応じて検査の手間を自動的に調整できます。
検査のスイッチングルール(具体条件)
調整型のJIS Z 9015では、検査を切り替える条件が具体的に決められています。
「なみ検査」から「きつい検査」へは、連続5ロットのうち2ロットが不合格になったときに移行します。
逆に「きつい検査」から「なみ検査」へは、きつい検査で連続5ロットが合格すれば戻れます。
「なみ検査」から「ゆるい検査」へは、連続10ロット合格など品質が十分安定した条件で移行します。
さらに、きつい検査が連続5ロット続いてしまった場合は、検査を一時停止し、供給側が品質を改善するまで受け入れを止めます。
このルールにより、品質が良ければ検査が楽になり、悪ければ自動的に厳しくなる、という調整が働きます。
検査の厳しさが実績に連動するため、供給側にとって品質を良く保つ動機づけにもなります。
不合格ロットの扱いと改善
不合格になったロットは、選別(全数選別)して良品だけを使うか、ロットごと返却・廃棄します。
重要なのは不合格を「はじいて終わり」にせず、なぜ不良が出たかを掘り下げることです。
原因究明にはなぜなぜ分析、未然防止にはFMEAといった手法が役立ちます。
不合格ロットの選別でかかった工数やコストも記録しておくと、工程改善の費用対効果を示す材料になります。
検査結果を工程改善にフィードバックしてこそ、AQLの運用が品質向上につながります。
不合格を「検査ではじけたから良し」とするのは、入口で止めただけにすぎません。
なぜ不良が出たのかを工程までさかのぼって対策し、次から不合格そのものを減らすことが本当のゴールです。
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よくある質問
「AQL1.0%は不良を1%まで認めるという意味ですか」——いいえ。AQLは合格させたい品質水準の上限であり、実際の検査ではAQLより良い品質を目指します。
「AQLを0%にできますか」——抜取検査では原理的に不可能です。見逃しをゼロにしたいなら全数検査か工程でのつくり込みが必要です。
「AQLとLTPDの違いは何ですか」——AQLは合格させたい良い品質水準、LTPD(ロット許容不良率)は不合格にしたい悪い品質水準を指し、OC曲線上の別の点にあたります。
「ppmとの関係は」——AQLは%表示ですが、近年はppm(百万分の一)で管理することも多く、AQL0.1%は1,000ppmに相当します。
「サンプルはどう選びますか」——ロットを代表するよう、ランダムに抜き取ることが前提です。偏った抜き方では、OC曲線が示す性能が成り立ちません。
「AcとReはなぜ連続しないことがありますか」——1回抜取では通常Re=Ac+1ですが、2回・多回抜取では途中判定があるため数値が変わります。
「サンプル数はロットサイズの何%ですか」——一定割合ではありません。ロットが大きくてもサンプル数は緩やかにしか増えず、大ロットほど1個あたりの検査負担は小さくなります。
「ロットが小さいときは」——サンプル文字が手前になり、場合によっては全数検査に近い扱いになることもあります。
8. まとめ
本記事では、AQLの意味、抜取検査の流れ、AQLの決め方、JIS Z 9015の抜取表の引き方、OC曲線と2つのリスク、全数・無検査との使い分け、運用ポイントとFAQを解説しました。
AQLは「合格させたい品質水準の上限」を表す指標で、ロットサイズ・検査水準・AQLからサンプル文字を求め、抜取表でサンプルサイズとAc・Reを決めます。
計数値か計量値か、1回か多回か、調整型か選別型か——目的に合わせて方式を選ぶ点も押さえておきたいところです。
たとえばロット3,000・水準II・AQL1.0%なら、サンプル125個・Ac3・Re4、という具体的な判定基準が得られます。
抜取検査には生産者危険αと消費者危険βという2つのリスクが必ず伴うため、致命欠点は全数検査、量産の重欠点・軽欠点は抜取検査、と使い分けます。
品質の実績に応じた検査の切替ルールも、AQL運用の要です。
なみ・きつい・ゆるいの切替を正しく運用してこそ、調整型抜取検査の利点が生きます。
実績が良ければ検査を軽く、悪ければ重くと、自動的にメリハリがつく仕組みです。
AQLは顧客と合意し、工程能力と整合させ、検査結果を改善に活かしてはじめて生きてきます。
「何個調べて、いくつまで許すか」を根拠をもって決め、品質保証に役立ててください。
抜取検査は、少ないサンプルでロットの品質を見極める、合理的でありながら奥の深い手法です。
AQL・サンプル数・Ac/Re・OC曲線・スイッチングの関係を押さえれば、自信をもって検査を設計し、説明できるようになります。