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以下、特に印象に残ったページの私的メモ。
巻1 (1頁目)
トリ。
巻2 第22
わたくしは、目や口は大きいが、背は低い。
わたくしには、手も足もない。
わたくしは、赤い着物を身が隠れるほどに頭からかぶっている。
足はないが、ことがってもすぐに立つ。
手はないが、投げられても倒れぬ。
みなさん、わたくしの名をご存知ですか?
巻3 第22課
「あほーカラス」
昔、一羽のカラスが孔雀という鳥の遊んでいる様子を見て、「世の中にはあのような美しい鳥もある。自分も一度はあんななりをしてみたい。」と羨ましく思いました。
そののち、このカラスは孔雀の落とした羽を拾い集めて、それを自分の身につけて孔雀の仲間へ入りました。
はじめは気がつかずにいましたが、ほどなく、孔雀どもがこの偽物を見つけました。
おのれ、憎いやつだ、と、くちばしを揃えてあほーカラスの付け羽をむしり取りました。
カラスはなくなく、元の巣に帰りましたが、友達のカラスもその仕業を憎んで、ただの一羽もあほーカラスの相手になるものがございませんでした。
巻4 第5課
「さざえの自慢」
大海の底に、鯛、カレイなど数多集まり居たり。
その時、さざえの云うよう「先日、お前らが大蟹に追いかけられ、慌てた格好は醜かった。これからは俺を見習い、常々用心なされ。こういう隠れ家を作っておけば、何物が来ても驚くことはない。と云う。
皆々、さざえの自慢を憎しと思えど、せん方なく、悔しさをこらえ居たり。
その時、ばさり、と音して、上より落ちくる物あり。
そりゃこそ、と、魚どもは皆々、うろたえて、逃げちりたり。
さざえのみは、騒がず、静かに、貝の中にひきこもり、内より蓋を閉めて、しばらく模様を伺い居たり。
やがて、そっと、蓋を開けてのぞき見るに、何となく様子変わりたり。
よくよく見れば、その身は、魚店のざるの中にありて、蓋の上には「このさざえ八厘」という商札さえ付きたり。
いつの間にか、売物となりたるなり。
巻5 第3課
「歌うたう子と大きな鬼」
お千代という子は、人形のような可愛らしい子でございました。
ある暖かな日、すみれやたんぽぽの花を摘んで、歌をうたっていました。
すると、どこからか大きな鬼が出て来て、いきなり、お千代を掴んで連れて行き、竹格子の付いた牢の中へ投げ込みました。
お千代は驚いて、泣き叫び、今さら父母に離れてひとりで遊びに出たことを悔やみましたが、取り返しがつきませぬ。
鬼は怖い顔をして、お千代のそばへ来て、「さー、さっきの通りに歌をうたえ」とせめます。
お千代は牢の片隅に小さくなって、泣いています。
「なぜ歌わぬ。歌わぬとこうだぞ」と言って、格子の間から棒を突き入れました。
「あれ、父様、母様、早う来てください」と大きな声をあげましたが、父母の耳へは届きませぬ。
よんどころなく、悲しい声をあげて、なくなく歌をうたいますと、鬼は面白そうに聞いております。
あー、可哀想なお千代でございます。
なんと、皆さん、野や山にいてさえずるきれいな小鳥は、ちょうどこのお千代ではないか。
それを捕らえて、籠に入れて、泣け泣けとせめる子は、ちょうどこの鬼ではないか。
巻6 第5課
「動物の職業」
人に様々の職業ある如く、虫や鳥にもいろいろの職業ありて、誰教えねどよくつとむ。
軒に巣をくうツバメは、手間賃を取らぬ左官ぞ。日曜日にも休まず。
蜜をつくる蜂は、生まれつきの製造者なり。暑中にもうまず。
蚕は、糸を紡ぐを業とす。見よ、蚕の棚は、一種の紡績所にあらずや。一匹の蚕の紡ぐ糸は、長さ、およそ五六町に及ぶ。三四千の蚕がことごとく繭とならば、その紡ぎ出す糸の量は、絹一反を織るに足るべし。
蜘蛛は、天然の織子とも見ゆれど、その織り出だす織物は、着物にはならで、ただ虫をとる網となるのみ。蜘蛛は、鳥獣を捕うる狩人にたとうべし。
蟻は、坑夫なり。鍬やツルハシを用いずして、巧みにトンネルをうがち、また折々土の塔を築く。
稀には蜂と同じく、一種の砂糖を製造す。
蛍は、一種の燈を灯す。種油をも、石油をも、ガスをも用いず、また電気燈のようなる機械をも持たねど、自ずと青き光を放ちて周囲を照らす。風吹くも消えず、雨降るも消えず、物を焼くこともなし。
鈴虫、松虫などは、秋の夜の楽隊にて、鶯、ヒバリ、コマドリなどは、春の日の楽隊なり。
その他の動物もそれぞれに職業あり。
何れも教えられず、習わずして、巧みなり。
人として、業なきは、虫けらにも恥ずべし。
※五六町・・・6,100メートル
巻6 第8課
「高橋東岡の妻」
高橋東岡は、貧しくて、大阪に住みし頃より天文学に志し、毎夜、屋根に出でて天文を調べけり。
妻も夫の心を汲みて、貧しき中にも、よくその志を助けたり。
東岡が家に、柿の大木ありて、秋毎によく実りぬ。
夫婦はそれを売りて暮らし向きの助けとせり。
或年の秋、近所の悪者ども、毎夜のように忍び入りて、実を盗みぬ。
東岡、これをこらさんとて、毎夜、天文を調ぶる傍ら、音すれば庭に降り立ちて、追いなどし、その心落ち着かざりき。
或日、外より帰りて見るに、意外にも、柿の木は根元より切り倒してあり。
東岡驚き、血眼になりて妻を呼び、訳を問えば、妻は静かに「柿は私が切らせたるなり。なまなかに、この木あるがため、御心ちりて、学問の邪魔となる。それゆえわざと切らせたり」と言う。
東岡げにも、と感じて、これより家事はすべて妻に任せ、己は一心不乱に天文学を修めければ、ついに秀でたる学者となりけり。