
「プラスチック成形といえば射出成形」と思っていませんか?
確かに、大量生産される日用品や家電パーツの多くは射出成形で作られています。
しかし、航空機の部品、車のブレーキパッド、あるいは高価な光学レンズなど、極めて高い強度や寸法安定性が求められる分野では、最も原始的な手法である「圧縮成形(Compression Molding)」が主役の座に君臨しています。
なぜ、一見古臭いこの技術が、最先端のモノづくりで選ばれ続けるのか。
その理由は、射出成形ではどうしても避けられない「配向」や「残留応力」の問題を解決できる唯一の手段だからです。
本記事では、圧縮成形の基礎原理から、射出成形との決定的な違い、メリット・デメリット、そして最新のCFRP成形技術までを網羅的に解説します。
成形技術の引き出しを増やし、最適な工法選定ができるようになりましょう。
- 1. 圧縮成形(Compression Molding)とは?
- 2. 射出成形との決定的な違い
- 3. 圧縮成形のメリットとデメリット
- 4. 圧縮成形機の構造と種類
- 5. 主な成形材料と用途
- 6. 圧縮成形品を設計するポイント
- まとめ
1. 圧縮成形(Compression Molding)とは?
圧縮成形とは、加熱した金型のキャビティ(凹部)に成形材料を投入し、プレス機で加圧することで、材料を型通りに賦形・硬化させる加工法です。
家庭で「ワッフル」や「たい焼き」を作る工程を想像してください。
熱した鉄板に生地を乗せ、上から蓋をしてギュッと押し潰す。
まさにあの原理そのものが圧縮成形です。
プラスチック成形の中で最も歴史が古く、20世紀初頭の「ベークライト(フェノール樹脂)」の発明とともに発展してきました。
現在でも、熱硬化性樹脂やゴム、複合材料の成形における主流の工法です。
成形プロセスの4ステップ
圧縮成形の工程は非常にシンプルです。
1. 計量・投入(Charging)
ペレット状、粉末状、あるいは予備成形(プリフォーム)された材料を計量し、開いた金型(下型)の中に入れます。
金型はあらかじめヒーターや蒸気で所定の温度()に加熱されています。
2. 型締め・加圧(Clamping & Pressing)
上型(コア)を下降させ、プレス機で強力な圧力をかけます。
材料は熱と圧力によって溶融・流動し、金型の隅々まで充填されます。
この際、材料から発生するガスを逃がすために、一度型を少し開けて閉める「ガス抜き(バンピング)」を行うのが特徴的です。
3. 硬化・冷却(Curing / Cooling)
加圧状態を維持したまま、材料が化学反応(架橋反応)を起こして硬化するのを待ちます。
熱可塑性樹脂の場合は、金型を冷却して固化させます。
4. 取り出し(Ejection)
金型を開き、エジェクターピン(押し出しピン)で成形品を取り出します。
その後、製品の周囲にはみ出した余分な樹脂(バリ)を除去する仕上げ工程に入ります。
2. 射出成形との決定的な違い
設計者や生産技術者が最も理解しておくべきなのは、「射出成形(Injection Molding)」との違いです。
両者は「型を使って形を作る」点は同じですが、材料の流し方と、それに伴う品質特性が真逆です。
材料供給のメカニズム
射出成形
「閉じた金型」の中に、溶けた樹脂を狭いゲート(入口)から高圧で高速注入します。
注射器で薬液を押し込むイメージです。
圧縮成形
「開いた金型」に樹脂を置き、型を閉じながら押し広げます。
ハンバーグをプレスして平らにするイメージです。
違い1:ゲートとランナーの有無
射出成形には、樹脂の通り道である「スプルー・ランナー」と、入り口である「ゲート」が必ず存在します。
これらは製品には不要な部分(廃棄ロス)となり、ゲート跡の処理も必要です。
一方、圧縮成形にはゲートもランナーもありません。
材料を直接キャビティに置くため、材料歩留まり(利用効率)が非常に高く、ゲート位置による意匠制約もありません。
違い2:繊維の配向と残留応力
これが最も重要な品質上の違いです。
射出成形では、狭いゲートを高速で通過する際、樹脂には強い「せん断力」がかかります。
これにより、ガラス繊維などの強化繊維はボロボロに折れ、さらに流れ方向に一列に並んでしまいます(配向)。
結果として、「流れ方向には強いが、直角方向には割れやすい」という異方性が生まれ、反りの原因になります。
圧縮成形では、材料が放射状にゆっくりと広がるため、せん断力がほとんどかかりません。
繊維は折れずに長いまま残り、配向もランダムになります。
これにより、どの方向に対しても均一な強度(等方性)を持ち、残留応力が極めて少ない製品が作れます。
3. 圧縮成形のメリットとデメリット
工法選定の判断基準となるメリット・デメリットを整理します。
メリット(Pros)
1. 寸法安定性が高い(反り・ヒケが少ない)
金型全体で均一に加圧するため、成形収縮が均一になります。
また、ゲートからの流動配向がないため、反りが極めて少なくなります。
厚肉製品でもヒケ(窪み)が発生しにくいため、レンズや碍子(がいし)の成形に向いています。
2. 繊維強化材の性能を活かせる
前述の通り、長い繊維(長繊維)をそのまま製品内に残せるため、衝撃強度や剛性が格段に高くなります。
これが、自動車の構造部材にBMC(バルクモールドコンパウンド)やSMC(シートモールドコンパウンド)による圧縮成形が多用される理由です。
3. 金型コストが比較的安い
ランナーシステムや複雑な冷却回路、ホットランナーなどが不要なため、射出成形金型に比べて構造が単純で、製作コストを抑えられます。
デメリット(Cons)
1. 成形サイクルが長い
最大の弱点です。
射出成形が数秒〜数十秒で完了するのに対し、圧縮成形は材料の投入、昇温、硬化反応に時間がかかり、数分〜数十分を要することも珍しくありません。
大量生産における生産性では、射出成形に劣ります。
2. バリ(Flash)の処理が必須
圧縮成形は構造上、金型の合わせ面(パーティングライン)から樹脂が必ずはみ出します。
これを「バリ」と呼びますが、このバリを後工程で除去(バリ取り)する作業が不可欠です。
バリ取りの工数は無視できないコスト要因となります。
3. 複雑な形状が苦手
材料を垂直に押し潰すため、深いリブや複雑なアンダーカット(横穴など)がある形状は成形困難です。
また、インサート金具の位置決めも、射出成形ほど高精度にはできません。
4. 圧縮成形機の構造と種類
圧縮成形機は、基本的には「垂直プレス機」です。
しかし、単に押すだけでなく、温度制御や圧力制御の機能が付加されています。
基本的な構造
・フレーム:高い剛性を持つ本体枠。
・ラム(シリンダー):油圧によって上下し、加圧力を発生させる。
・熱盤(プラテン):金型を取り付け、加熱(ヒーターまたは蒸気)する台。
能力は「トン数(型締力)」で表されます。
必要な型締力 は、製品の投影面積
と成形圧力
から求められます。
一般的な熱硬化性樹脂の場合、成形圧力は 程度が必要です。
トランスファー成形(Transfer Molding)
圧縮成形の派生形で、より精密な製品を作るための方式です。
材料をキャビティに直接入れるのではなく、金型上部の「ポット」に入れ、プランジャーで加圧して、スプルーを通してキャビティに注入します。
「低圧の射出成形」のようなイメージです。
ICチップ(半導体)の封止工程で標準的に使われています。
インサート部品(ワイヤーボンドなど)へのダメージを減らせるメリットがあります。
真空圧縮成形機
金型全体を真空チャンバーで覆い、内部を真空にしてからプレスする機械です。
ゴム製品や光学部品など、気泡(ボイド)の混入が許されない製品で使用されます。
空気だまりによる不良(ショートショットや焼け)を完全に防ぐことができます。
5. 主な成形材料と用途
圧縮成形は、特に「熱硬化性樹脂」と「ゴム」の成形で真価を発揮します。
フェノール樹脂(ベークライト)
耐熱性、電気絶縁性に優れます。
用途:鍋の取っ手、配電盤のブレーカー、自動車の灰皿。
メラミン樹脂
表面硬度が高く、着色が自由で美しい。
用途:子供用の食器、化粧板。
不飽和ポリエステル(BMC / SMC)
ガラス繊維を大量に含んだ粘土状(BMC)またはシート状(SMC)の材料です。
用途:ユニットバスの浴槽、浄化槽、自動車のトランク蓋、バンパー。
シリコーンゴム・フッ素ゴム
Oリングやパッキン、キーボードのスイッチ接点など。
ゴム成形の9割以上は圧縮成形です。
CFRP(熱可塑性・熱硬化性)
近年、最も注目されている分野です。
炭素繊維シートを積層し、プレスで成形する「PCM(Prepreg Compression Molding)」工法は、航空機や高級車のボディパネル製造に不可欠です。
オートクレーブ(圧力釜)成形に比べて圧倒的にサイクルが短いため、量産車への採用が進んでいます。
6. 圧縮成形品を設計するポイント
圧縮成形で高品質な製品を作るためには、設計段階での配慮が必要です。
加圧方向(パーティングライン)の考慮
圧縮成形は、上下方向の圧力で成形します。
したがって、製品の最大外径部分に必ずパーティングライン(分割線)が来ます。
ここにバリが発生するため、バリ取りがしやすい形状にするか、バリが機能に影響しない位置に設定する必要があります。
抜き勾配(Draft Angle)
射出成形以上に、抜き勾配は重要です。
成形品全体に圧力がかかっており、エジェクターピンの跡が付きやすいため、スムーズに離型できるよう、最低でも 、できれば
以上の勾配を確保してください。
肉厚の均一化
厚肉部と薄肉部が混在すると、硬化速度に差が出ます。
厚肉部は内部の発熱で焦げたり、逆に硬化不足になったりしやすいため、できるだけ均一な肉厚設計(肉盗み)を行います。
まとめ
圧縮成形は、プラスチック成形の歴史そのものでありながら、今なお進化を続ける「いぶし銀」の技術です。
射出成形のような派手さやスピードはありませんが、その「残留応力のなさ」と「繊維配向のなさ」は、他の追随を許しません。
・射出成形とは異なり、ゲートがなく、材料歩留まりが良い。
・せん断力がかからないため、繊維強化材の強度を最大限に引き出せる。
・成形サイクルは長いが、高強度・高精度な製品には不可欠。
・ゴム、熱硬化性樹脂、そしてCFRP成形の主役である。
「とにかく安く大量に」なら射出成形ですが、「過酷な環境に耐える部品」や「歪みのない精密部品」を作るなら、圧縮成形こそが最適解となるでしょう。


