
センサを1点ずつPLCへ配線すると、盤内はすぐに線だらけになります。
しかも、信号線だけでなく電源線や共通線も増えるため、改造やトラブル調査に時間がかかります。
DeviceNetは、このような現場機器を1本のネットワークへまとめるための産業用フィールドバスです。
ただし、単なるCAN通信ではなく、CIPを使って機器のデータや診断情報を扱う点が特徴です。
本記事では、DeviceNetの仕組み、CIPとの関係、CANopenとの違い、終端抵抗と配線上の注意点を解説します。
- 1. DeviceNetとは:PLCと現場機器をつなぐフィールドバス
- 2. DeviceNetの基本構造:CANの上にCIPを載せる
- 3. DeviceNetとCANopenの違い:同じCAN系でも目的が違う
- 4. 配線方式:幹線と支線でネットワークを作る
- 5. 終端抵抗:121Ωを幹線の両端に入れる理由
- 6. ノードIDと通信速度:設定ミスが通信異常を生む
- 7. DeviceNetとEtherNet/IPの関係:CIP系ネットワークとして見る
- 8. 実務でのトラブル対策:通信異常の切り分け手順
- 9. 上位連携と保全:DeviceNetの情報をどう活かすか
- 10. まとめ:DeviceNetはCANベースのCIP系フィールドバス
1. DeviceNetとは:PLCと現場機器をつなぐフィールドバス
DeviceNetとは、PLCやコントローラとセンサ、アクチュエータ、I/O機器を接続する産業用ネットワークです。
主に工場設備の現場レベルで使われ、複数の機器を1本の幹線にぶら下げる構成を取ります。
従来の個別配線では、センサ1点ごとに入力線や電源線を盤まで戻す必要があります。
DeviceNetを使うと、複数のノードをネットワーク化し、制御信号と診断情報をまとめて扱えます。
この考え方は、設備の配線量を減らすフィールドバスの代表例です。
PLC直結配線との違い
PLC直結配線では、入力点数や出力点数が増えるほど端子台とケーブルが増えます。
配線変更のたびに図面修正、導通確認、端子番号の確認が必要になります。
DeviceNetでは、現場側にI/Oブロックやドライブを置き、通信で状態をやり取りします。
盤内配線を減らしながら、現場機器の異常や設定値も取得しやすくなります。
DeviceNetが得意な領域
DeviceNetは、高速なモーション制御よりも、センサやバルブ、リモートI/Oの分散接続に向いたネットワークです。
単純なON/OFF信号だけでなく、機器状態やエラー情報を通信で扱える点が強みです。
現在は新規設備でEthernet系が選ばれる場面も増えていますが、既設設備では今も重要です。
保全担当者にとっては、仕組みを知っておく価値が高い通信方式です。
2. DeviceNetの基本構造:CANの上にCIPを載せる
DeviceNetを理解するうえで重要なのは、物理的な通信方式と上位のデータ表現を分けて考えることです。
DeviceNetは、下位層にCANを使い、上位層にCIPを使う構成になっています。
CANは、通信の衝突調停やフレーム送受信を担当する土台です。
CIPは、機器のデータをオブジェクトとして扱うための共通的な考え方です。
つまりDeviceNetは、CANケーブルで信号を運び、CIPで産業機器として意味づける通信といえます。
CANが担当する部分
CANは、複数ノードが同じバスを共有して通信する方式です。
メッセージにはIDがあり、IDによって優先順位が決まります。
同時に複数のノードが送信しようとしても、優先度の高いメッセージが残る仕組みがあります。
この性質により、制御系で必要な短いデータを効率よく扱えます。
CIPが担当する部分
CIPは、機器の入出力、設定、診断情報を共通のモデルで扱うためのプロトコルです。
DeviceNet機器は、単なるビットの集まりではなく、通信上の機器オブジェクトとして見られます。
同じCIP系の考え方は、Ethernet上で使うEtherNet/IPにも引き継がれています。
そのため、DeviceNetからEtherNet/IPへ移行する場合も、完全に別世界の通信ではありません。
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3. DeviceNetとCANopenの違い:同じCAN系でも目的が違う
DeviceNetとCANopenは、どちらもCANを基盤にした産業用通信として説明されることがあります。
しかし、両者は同じ規格ではなく、上位プロトコルと機器モデルの考え方が異なります。
DeviceNetはCIP系のネットワークであり、ODVA系の産業通信と関係が深い方式です。
CANopenは、CiA系で広く使われるCANベースの上位プロトコルです。
そのため、同じCANトランシーバを使う機器でも、DeviceNet機器とCANopen機器をそのまま混在できません。
違いを比較表で整理
| 比較項目 | DeviceNet | CANopen |
|---|---|---|
| 基盤 | CANを下位層に使います | CANを下位層に使います |
| 上位層 | CIPを使います | CANopenのオブジェクト辞書を使います |
| 主な用途 | PLC、I/O、ドライブ、バルブ島などです | 組込み機器、モーション、機械装置などです |
| 互換性 | DeviceNet対応機器同士で使います | CANopen対応機器同士で使います |
| 移行先 | EtherNet/IPへ移行しやすいです | CANopen系のEthernet拡張を検討します |
同じCANだから接続できる、は誤解です
現場で注意したいのは、物理層が似ていても通信が成立するとは限らない点です。
ケーブル、電圧レベル、ビットレートが合っていても、上位プロトコルが違うとデータの意味を解釈できません。
これはシリアル通信でも同じで、通信条件だけでなくプロトコルの一致が重要です。
DeviceNet機器を交換するときは、CAN対応ではなくDeviceNet対応であることを確認しましょう。
4. 配線方式:幹線と支線でネットワークを作る
DeviceNetの配線は、幹線であるトランクラインと、機器へ分岐するドロップラインで構成します。
幹線の両端には終端抵抗を入れ、途中から各ノードへ支線を出します。
この構成を理解していないと、終端抵抗を支線側に入れたり、幹線の途中で切ったりしやすくなります。
通信トラブルの多くは、機器故障ではなく配線構成や終端のミスから発生します。
トランクラインとドロップライン
トランクラインは、ネットワークの背骨になるケーブルです。
幹線の両端には終端抵抗を入れ、信号反射を抑えます。
ドロップラインは、幹線から各ノードへ接続する支線です。
支線は便利ですが、長くしすぎると波形品質が悪化しやすくなります。
信号線と電源線を同じケーブルで扱う
DeviceNetでは、通信線だけでなく機器用の電源もネットワークケーブルで扱う構成があります。
一般的なケーブルには、CAN_H、CAN_L、電源、0V、シールドなどの役割があります。
このため、通信異常に見えても、実際は電源電圧低下や0V配線の問題である場合があります。
電気的な接続は、I/O信号だけを見るのではなく、通信と電源を合わせて確認する必要があります。
5. 終端抵抗:121Ωを幹線の両端に入れる理由
DeviceNetの通信品質で最も重要な部品の一つが終端抵抗です。
一般的には、幹線の両端に121Ωの終端抵抗を入れます。
これは、信号がケーブル端で反射し、CAN_HとCAN_Lの差動波形を乱すことを防ぐためです。
終端抵抗は、どこか1か所に入れればよい部品ではありません。
必ずネットワークとしての両端を見極め、幹線の端に入れる必要があります。
終端抵抗の位置
終端抵抗は、制御盤の中に2個入れるものとは限りません。
物理的な幹線の端が盤外にある場合は、現場側の末端に入れる必要があります。
途中のノード、分岐コネクタ、ドロップラインの先端に入れると、正しい終端になりません。
配線図だけで判断せず、実際の幹線ルートを追って確認することが重要です。
テスタで見るときの目安
電源を切った状態でCAN_HとCAN_L間を測ると、正常な2終端ではおおむね60Ω付近になります。
121Ω付近であれば、片側の終端が抜けている可能性があります。
極端に低い値であれば、終端抵抗の入れすぎや短絡を疑います。
ただし、機器内部回路の影響を受ける場合もあるため、最終判断はマニュアルと構成図で確認しましょう。
6. ノードIDと通信速度:設定ミスが通信異常を生む
DeviceNetでは、各ノードに識別用のアドレスを設定します。
一般にMAC IDと呼ばれ、ネットワーク内で重複しないように設定します。
また、通信速度もネットワーク全体でそろえる必要があります。
ノードIDと通信速度のどちらかが間違っているだけで、機器は正常でも通信に参加できません。
MAC IDの重複に注意する
同じネットワーク内でMAC IDが重複すると、どの機器からの通信か判別できなくなります。
交換品を取り付けた直後に通信異常が出る場合は、まずID設定を確認します。
ディップスイッチ式、ロータリスイッチ式、ソフト設定式など、設定方法は機器によって異なります。
既設機器を交換するときは、取り外す前にIDと通信速度を記録しておきましょう。
通信速度と配線長の関係
DeviceNetでは、通信速度を上げるほど許容される幹線長は短くなります。
高速化すれば必ず安定するわけではなく、長い設備では低い通信速度の方が安全な場合があります。
通信速度、幹線長、支線長、ケーブル種類はセットで確認する必要があります。
この考え方は、終端抵抗が重要なRS-485系通信にも通じます。
7. DeviceNetとEtherNet/IPの関係:CIP系ネットワークとして見る
DeviceNetとEtherNet/IPは、物理的な通信媒体は異なります。
DeviceNetはCANを土台にし、EtherNet/IPはEthernetを土台にします。
しかし、どちらもCIPを使う産業用ネットワークとして関連しています。
このため、DeviceNetを単独の古い通信として覚えるよりも、CIP系ネットワークの一つとして見る方が理解しやすくなります。
DeviceNetからEtherNet/IPへ移行する理由
新規設備では、Ethernet系ネットワークの採用が増えています。
理由は、通信速度、診断性、上位システム連携、汎用部品の入手性にあります。
EtherNet/IPでは、CIPの考え方を維持しながら、Ethernetベースの通信へ拡張できます。
一方で、既設DeviceNetをすぐに置き換えると、配線、I/O割付、プログラム変更の影響が出ます。
他の産業用Ethernetとの違い
EtherNet/IP以外にも、PROFINETやCC-Link系のEthernet通信があります。
どれもEthernetケーブルを使う場面がありますが、プロトコルや設定ツールは同じではありません。
既設DeviceNetから移行する場合は、単にEthernet化するのではなく、PLCメーカーと既存資産の相性を見ます。
設備標準、保全部品、担当者の教育まで含めて選ぶことが重要です。
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8. 実務でのトラブル対策:通信異常の切り分け手順
DeviceNetの通信異常は、マスタ、スレーブ、配線、電源、設定のどこでも発生します。
やみくもに機器交換を進めると、原因を残したまま時間だけが過ぎます。
まずは、発生範囲が全体なのか、一部ノードだけなのかを切り分けます。
そのうえで、電源、終端、配線、ID、通信速度、ノイズ環境を順番に確認します。
全体停止と一部異常で見る場所を変える
ネットワーク全体が停止している場合は、電源、マスタ、幹線断線、終端抵抗を優先して確認します。
一部ノードだけが異常であれば、そのノード周辺のドロップライン、コネクタ、電源電圧を確認します。
特定のタイミングで異常が出る場合は、インバータや溶接機などのノイズ源も疑います。
異常履歴を確認できる場合は、PLC側の診断情報も活用しましょう。
チェックリストで確認する
| 確認項目 | 見るポイント | よくある原因 |
|---|---|---|
| 電源 | 24Vと0Vの電圧を確認します | 電圧降下、電源容量不足、接触不良です |
| 終端抵抗 | 幹線両端に入っているか確認します | 片側抜け、入れすぎ、支線側への誤挿入です |
| ID | MAC IDの重複を確認します | 交換時の設定忘れ、スイッチ読み違いです |
| 通信速度 | 全ノードで同じ値か確認します | 新旧機器の設定差、初期値の違いです |
| ノイズ | 動力線との離隔やシールドを確認します | インバータ、接地不良、シールド処理不良です |
設定変更時の記録を残す
DeviceNetの保全で意外に重要なのが、交換前後の設定記録です。
ノードID、通信速度、接続位置、EDSファイル、PLC側の割付をセットで残します。
機器交換だけなら簡単に見えても、スキャナ側の登録情報と一致しないと通信できません。
同じ型式の予備品でも、出荷時設定やファームウェア差で動作が変わる場合があります。
保全記録には、正常時の通信状態と異常時のLED表示も残しておくと役立ちます。
写真でスイッチ位置を残すだけでも、復旧時間を大きく短縮できます。
EDSファイルと設定ツールの役割
DeviceNet機器では、設定ツールが機器情報を読み込むためにEDSファイルを使う場合があります。
EDSファイルは、機器の通信パラメータや入出力サイズをツールへ知らせる説明書のようなものです。
現場で機器を交換したのに登録できない場合は、対応するEDSファイルが不足していることがあります。
古い設備では、当時の設定ツールやファイルを探すだけで時間がかかることもあります。
そのため、PLCプログラムだけでなく、設定ファイル一式も設備資料として保管しておきましょう。
DeviceNetの保全では、配線図、ノード一覧、設定ツール、EDSファイルをひとまとめに管理することが重要です。
9. 上位連携と保全:DeviceNetの情報をどう活かすか
DeviceNetは、現場機器の制御信号だけを運ぶものではありません。
機器状態、通信異常、診断情報を取得できる点も重要です。
ただし、上位システムと直接つなぐ用途では、現在はEthernet系やOPC UAの方が扱いやすい場面があります。
DeviceNetは現場レベル、EtherNet/IPやOPC UAは上位連携を含む設備データ活用、と役割を整理すると理解しやすくなります。
OPC UAやMQTTとの位置づけ
OPC UAは、PLCや設備データを上位システムへ渡す用途で使われます。
MQTTは、軽量なメッセージ送信を使ってIoTデータを集める場面で使われます。
DeviceNetは、これらの上位連携技術と競合するというより、現場機器側の通信として位置づけると自然です。
現場のI/O情報をPLCで集約し、上位へはOPC UAなどで渡す構成が考えられます。
Modbusとの違い
Modbusは、シンプルなレジスタ読み書きで使いやすい産業通信です。
DeviceNetは、CIPの機器モデルを使い、I/O接続や診断を扱いやすい点が特徴です。
どちらが優れているというより、設備標準、対応機器、保守性で選ぶべき通信です。
既設設備では、通信方式を変えるよりも、保守手順を整備する方が効果的な場合もあります。
新規設計では採用理由を明確にしましょう。
新規設備でDeviceNetを採用する場合は、既設資産との互換性が主な理由になります。
対応機器の入手性や将来保守を考えると、Ethernet系へ寄せた方がよい場面もあります。
一方で、既存ラインに同じ予備品や保守手順が整っている場合は、統一性を優先する判断もあります。
重要なのは、安いから、使ったことがあるから、という理由だけで選ばないことです。
通信方式は、制御盤、現場配線、保全教育、予備品管理に長く影響します。
設備の寿命全体で見て、どの方式が管理しやすいかを確認しましょう。
10. まとめ:DeviceNetはCANベースのCIP系フィールドバス
DeviceNetは、PLCとセンサ、I/O、ドライブなどをつなぐCANベースの産業用フィールドバスです。
CANの通信機構に、CIPによる機器モデルを組み合わせている点が大きな特徴です。
CANopenとは同じCAN系でも上位プロトコルが異なるため、互換性を前提にしてはいけません。
配線では、トランクライン、ドロップライン、電源、シールド、終端抵抗の扱いが重要です。
特に終端抵抗は、幹線の両端に正しく入れる必要があります。
通信異常が出た場合は、機器交換の前に、電源、終端、ID、通信速度、配線経路を順番に確認しましょう。
新規設備ではEthernet系へ移行する場面が増えていますが、既設DeviceNetを理解することは保全上とても重要です。
DeviceNetをCIP系ネットワークの一部として理解すると、EtherNet/IPへの移行や上位連携の検討もしやすくなります。
また、DeviceNetの不具合は一度復旧すると再現しにくい場合があります。
原因を記録せずに復旧だけで終えると、次回も同じ確認を繰り返すことになります。
終端抵抗の実測値、通信速度、交換したコネクタ、清掃した端子を残しておくと再発防止に役立ちます。
特に稼働年数の長い設備では、ケーブル劣化やコネクタ緩みが少しずつ進行します。
通信異常を単発トラブルとして扱わず、ネットワーク全体の保全情報として蓄積しましょう。
設備停止時にしか調査できない項目もあるため、点検タイミングを決めておくことも大切です。
予防保全としてコネクタ増し締め、シールド確認、予備抵抗の保管まで決めておくと安心です。
小さな記録の積み重ねが、次の停止時間を短くし、復旧判断をさらに早めます。