
「機器が時々誤動作する、原因はノイズだと言われたが、ノイズとは何なのか」
その正体と対策を整理してくれるのが、本記事のテーマであるノイズ対策とEMCです。
電気的なノイズは、機器の誤動作や通信障害を引き起こす厄介な存在で、電子機器が増えた現代ではますます重要な課題になっています。
このノイズと正しく付き合うための考え方が、EMC(電磁両立性)です。
本記事では、ノイズとEMCの基本から、ノイズの種類と伝わり方、対策の基本、具体的な対策部品、EMC規格までを、図表を交えて体系的に解説します。
- 1. ノイズとEMCとは|電気的な妨害との付き合い方
- 2. ノイズの種類
- 3. ノイズの伝わり方
- 4. ノイズ対策の基本
- 5. 具体的なノイズ対策
- 6. ノイズフィルタと部品
- 7. EMC規格と実務
- まとめ
1. ノイズとEMCとは|電気的な妨害との付き合い方
ノイズとは、機器の正常な動作を妨げる、不要な電気的な信号のことです。
このノイズを管理する考え方が、EMC(電磁両立性)です。
1-1. ノイズとは
電気的なノイズとは、本来必要な信号に混じり込む、不要な電気の乱れです。
電源や信号線に乗って、機器の動作を狂わせます。
例えば、センサの信号にノイズが乗ると、誤った値を読み取ってしまいます。
マイコンがノイズの影響を受けると、暴走や誤動作を起こすこともあります。
ノイズは目に見えず、発生も不規則なため、原因の特定が難しいのが特徴です。
「ときどき調子が悪い」というトラブルの裏に、ノイズが潜んでいることがあります。
電子機器が高性能・高密度になるほど、ノイズの影響を受けやすくなります。
現代の機器設計では、ノイズ対策が欠かせない要素になっています。
1-2. EMCとは
EMCは、Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)の略です。
機器が、ノイズを出しすぎず、かつノイズに強くあることを意味します。
EMCは、2つの側面から成り立っています。1つは、ノイズを出さないこと(EMI)です。
もう1つは、ノイズに耐えること(EMS、イミュニティ)です。
自分がノイズ源にならず、他からのノイズにも強い。この両立がEMCの目標です。
多くの機器が共存する環境で、互いに妨害し合わないために重要な考え方です。
EMCは、機器が社会の中で問題なく動くための、いわばマナーと耐性の両立です。
出す側と受ける側の両方を考えるのが、EMCの本質です。
1-3. なぜノイズが問題になるのか
ノイズが問題になるのは、機器の誤動作や故障を引き起こすからです。
制御機器が誤動作すれば、設備の停止や事故につながりかねません。
また、ノイズは通信を妨害し、データの誤りや通信不良を招きます。
無線機器やテレビ、ラジオへの妨害も、ノイズが原因です。
電子機器が社会のあらゆる場所で使われる今、ノイズの影響は広がっています。
1つの機器のノイズが、周りの多くの機器に影響することもあります。
だからこそ、ノイズを抑え、ノイズに強い機器を作ることが求められます。
EMCは、電子機器が安心して共存するための基盤なのです。
1-4. EMIとイミュニティ
EMCを構成する2つの側面を、もう少し詳しく見ておきましょう。
EMI(電磁妨害)は、機器が外へ出すノイズに関する側面です。
EMIには、電線を伝わる伝導妨害と、空間へ放射される放射妨害があります。
機器が周囲に迷惑をかけないよう、これらを基準値以下に抑えます。
もう一方のイミュニティ(EMS)は、外から来るノイズへの耐性です。
静電気や、電源の変動、外来の電波などにさらされても、正常に動き続ける能力です。
出す側のEMIと、受ける側のイミュニティ。この両方を満たして、初めてEMCが達成されます。
どちらか一方だけでは、機器の共存は実現できません。
2. ノイズの種類
ノイズには、伝わり方や性質によっていくつかの種類があります。
分類を知ることが、対策の第一歩です。
2-1. 伝導ノイズ
伝導ノイズは、電線を伝わって伝わるノイズです。
電源線や信号線を通じて、ノイズが機器から機器へと伝わります。
電源ラインに乗ってくるノイズは、この伝導ノイズの代表です。
配線でつながっている経路を通って伝わるのが特徴です。
伝導ノイズには、フィルタを電線に挿入する対策が有効です。
経路上でノイズを取り除くことで、伝わりを断ちます。
2-2. 放射ノイズ
放射ノイズは、空間を電波として飛んで伝わるノイズです。
電線を伝わるのではなく、電磁波として周囲に放射されます。
高速にスイッチングする回路などは、放射ノイズの発生源になりやすいものです。
放射されたノイズは、離れた機器のアンテナや配線に飛び込みます。
放射ノイズには、金属でおおうシールドが有効です。
電磁波を遮ることで、放射と侵入の両方を防ぎます。
2-3. コモンモードとノーマルモード
伝導ノイズは、伝わり方でコモンモードとノーマルモードに分けられます。
ノーマルモードは、行きと帰りの線を逆向きに流れるノイズです。
コモンモードは、複数の線を同じ向きに流れ、大地を通って帰るノイズです。
コモンモードノイズは、接地やシールドに関わり、対策がやや難しいものです。
どちらのモードのノイズかによって、効果的な対策が変わります。
ノイズの性質を見極めることが、適切な対策の前提になります。
2-4. ノイズの発生源
ノイズは、さまざまなものから発生します。
スイッチング電源やインバータは、高速なオンオフでノイズを出します。
モーターやリレーの接点、蛍光灯なども、ノイズの発生源です。
雷や静電気のような自然現象も、強いノイズを生みます。
身の回りには、多くのノイズ源が存在しています。
発生源を知ることが、ノイズ対策を考える出発点になります。
2-5. サージ性のノイズ
ノイズの中でも、瞬間的に非常に大きくなるものをサージと呼びます。
雷や、大きな電流を急に切ったときに生じる、急峻で高い電圧のノイズです。
サージは、エネルギーが大きいため、機器を誤動作させるだけでなく破壊することもあります。
通常のノイズフィルタだけでは抑えきれない、強力なノイズです。
サージには、専用のサージ保護素子による対策が必要になります。
瞬間的な高電圧を吸収して、機器を守ります。
日常的なノイズとは別に、このサージ性のノイズにも備える必要があります。
とくに雷の多い地域や、誘導性負荷の多い設備では重要です。
3. ノイズの伝わり方
ノイズがどう伝わるかを理解すると、対策の勘所が見えてきます。
主な伝わり方を見ていきましょう。
3-1. ノイズの3要素
ノイズの問題は、発生源・伝わる経路・受ける側の3つの要素で成り立ちます。
ノイズを出すもの、それが伝わる道、そして影響を受ける機器です。
この3つのどれかを断てば、ノイズの影響を抑えられます。
発生源を抑える、経路を遮る、受ける側を強くする、という3つの方向です。
対策を考えるときは、この3要素のどこに手を打つかを意識します。
3要素の視点が、ノイズ対策の基本的な枠組みになります。
3-2. 静電結合と電磁結合
ノイズが空間を通じて伝わる仕組みに、静電結合と電磁結合があります。
静電結合は、電圧の変化が、近くの配線に電界を通じて飛び移る現象です。
電磁結合は、電流の変化が、磁界を通じて近くの配線に影響する現象です。
配線どうしが近いと、これらの結合でノイズが移りやすくなります。
配線を離す、ねじる、シールドするといった対策で、これらの結合を弱められます。
ノイズがなぜ飛び移るかを知ると、対策の理由が理解できます。
3-3. グランドを通じた伝わり
ノイズは、グランド(接地)を通じて伝わることもあります。
複数の機器が同じグランドを共有していると、一方のノイズが他方に伝わります。
グランドにわずかな抵抗があると、そこに電位差が生じてノイズになります。
これをコモンインピーダンス結合と呼びます。
グランドのとり方を工夫することが、この種のノイズ対策になります。
接地は安全だけでなく、ノイズ対策の面でも重要なのです。
4. ノイズ対策の基本
ノイズ対策は、3要素のどこに手を打つかで整理できます。
基本的な考え方を見ていきましょう。
4-1. 発生源での対策
最も効果的なのは、ノイズの発生源で抑えることです。
そもそもノイズを出さなければ、伝わりも影響もありません。
スイッチングの波形をなめらかにしたり、発生源にフィルタを付けたりします。
ノイズ源に近いところで対策するほど、効果が高くなります。
大もとを断つのが、最も根本的なノイズ対策です。
可能なら、発生源での対策を優先します。
4-2. 経路での対策
次に、ノイズが伝わる経路を断つ対策があります。
フィルタで伝導ノイズを取り除いたり、シールドで放射ノイズを遮ったりします。
配線を離す、ねじるといった工夫も、経路での対策にあたります。
ノイズが目的の機器に届く前に、途中で食い止めます。
発生源を抑えられない場合は、この経路対策が中心になります。
ノイズの通り道を断つ、という発想です。
4-3. 受ける側での対策
最後に、ノイズを受ける側を強くする対策があります。
ノイズに強い回路設計や、信号の処理でノイズの影響を減らします。
多少のノイズが入っても誤動作しないように、機器の耐性を高めます。
これがEMCのうちのイミュニティ(耐性)にあたります。
発生源・経路・受ける側の3つを組み合わせて、総合的に対策します。
1つの対策に頼らず、多重に手を打つのが効果的です。
5. 具体的なノイズ対策
実際のノイズ対策に使われる、代表的な手法を見ていきましょう。
いずれも、ノイズの種類に応じて使い分けます。
5-1. シールド
シールドは、金属で機器や配線をおおって、電磁波を遮る対策です。
放射ノイズの放出と侵入の、両方を防ぎます。
ノイズを出す機器をおおえば放出を抑え、守りたい機器をおおえば侵入を防げます。
シールドされたケーブルは、信号線へのノイズの飛び込みを防ぎます。
シールドは、適切に接地して初めて十分な効果を発揮します。
金属でおおうだけでなく、そのおおいを接地することが重要です。
5-2. フィルタ
フィルタは、必要な信号を通し、不要なノイズを取り除く回路です。
主に伝導ノイズの対策に使われます。
コンデンサやコイルを組み合わせ、ノイズの周波数成分を取り除きます。
電源ラインに入れるノイズフィルタが、その代表例です。
通したい信号とノイズの周波数の違いを利用して、ノイズだけを除きます。
フィルタは、ノイズ対策の中心的な手段のひとつです。
5-3. 接地(アース)
適切な接地も、重要なノイズ対策です。
ノイズを大地へ逃がし、機器の電位を安定させます。
シールドの効果も、接地があって初めて十分に発揮されます。
ただし、接地のとり方を誤ると、かえってノイズを呼び込むこともあります。
1点で接地するか、複数点で接地するかは、状況に応じて判断します。
接地は、安全とノイズ対策の両面で、慎重な設計が求められます。
5-4. ツイストとペア配線
信号線を2本ねじり合わせるツイストペアも、有効なノイズ対策です。
行きと帰りの線をねじることで、外部からのノイズの影響を打ち消します。
ねじられた線では、ノイズが両方の線にほぼ等しく乗り、差し引きで打ち消されます。
LANケーブルがツイストペアなのは、このノイズ対策のためです。
配線の工夫だけでノイズを減らせる、手軽で効果的な方法です。
信号線の取り回しは、ノイズ対策の基本になります。
5-5. 配線の分離
ノイズを出す線と、影響を受けやすい線を離すことも、効果的な対策です。
電力線と信号線を近づけると、電力線のノイズが信号線に飛び移ります。
そのため、電力線と信号線は離して配線するのが基本です。
やむを得ず交差させる場合は、直角に交わるようにすると影響が小さくなります。
制御盤の中でも、主回路の配線と制御回路の配線を分けて配置します。
配線を分けるだけで、ノイズの結合を大きく減らせます。
お金をかけずにできる、基本的で重要なノイズ対策です。
設計や施工の段階で、配線の分離を意識することが大切です。
6. ノイズフィルタと部品
ノイズ対策に使われる主な部品を見ていきましょう。
受動部品の性質が、ノイズ除去に活かされています。
6-1. コンデンサ(バイパス)
コンデンサは、高い周波数のノイズを逃がすバイパスとして使われます。
高周波を通しやすいコンデンサの性質を利用しています。
電源とグランドの間にコンデンサを入れると、高周波ノイズはそこを通って逃げます。
必要な直流や低周波は通さず、ノイズだけをグランドへ流します。
ICのそばに置くパスコンも、この働きでノイズを抑えています。
コンデンサの周波数特性は、ノイズ対策の基本に活かされています。
6-2. コイル(チョーク・フェライト)
コイルは、高い周波数のノイズを通しにくい性質でノイズを抑えます。
電源ラインに直列に入れて、高周波ノイズの伝わりを妨げます。
この用途のコイルを、チョークコイルと呼びます。
ケーブルに取り付けるフェライトコアも、コイルと同じ原理でノイズを抑えます。
コンデンサが高周波を逃がすのに対し、コイルは高周波を妨げます。
正反対の性質を組み合わせて、効果的にノイズを除きます。
6-3. LCフィルタ
コイル(L)とコンデンサ(C)を組み合わせると、効果の高いLCフィルタになります。
コイルでノイズを妨げ、コンデンサでノイズを逃がす、両方の効果を得られます。
電源ラインのノイズフィルタは、このLCの組み合わせで作られています。
必要な周波数だけを通し、ノイズを効果的に除去します。
部品の周波数特性を理解すると、フィルタの設計が見えてきます。
受動部品の性質が、ノイズ対策の土台になっているのです。
6-4. コモンモードチョーク
対策が難しいコモンモードノイズに有効なのが、コモンモードチョークです。
1つのコアに、行きと帰りの線を同じ向きに巻いた特殊なコイルです。
正常な信号(ノーマルモード)に対しては、磁界が打ち消し合い、ほとんど影響しません。
一方、コモンモードノイズに対しては、大きなインピーダンスとして働き、これを抑えます。
必要な信号は通しつつ、コモンモードノイズだけを選んで抑えられるのが利点です。
電源ラインやUSB、LANなど、さまざまな場所で使われています。
コモンモードノイズに悩まされたとき、有力な対策部品になります。
ノイズのモードに合わせた部品選びが、効果的な対策の鍵です。
7. EMC規格と実務
EMCは、規格によって基準が定められ、製品はそれを満たす必要があります。
実務での扱いを見ていきましょう。
7-1. EMC規格
電子機器は、EMCに関する規格を満たすことが求められます。
ノイズを出しすぎないこと(EMI)と、ノイズに耐えること(EMS)の両方に基準があります。
製品を販売するには、これらの規格への適合が必要なことが多くあります。
規格は、機器どうしが互いに妨害せず共存するためのルールです。
EMCを満たさない製品は、市場に出せないこともあります。
EMC対策は、製品開発の重要な工程になっています。
7-2. EMCの測定
機器がEMC規格を満たすかは、専用の設備で測定して確認します。
機器が出すノイズの大きさや、ノイズへの耐性を測定します。
放射ノイズの測定は、外部の電波を遮へいした特別な部屋で行います。
正確な測定には、専門の知識と設備が必要です。
測定結果をもとに、対策を加えて規格に適合させていきます。
設計と測定を繰り返して、EMC性能を作り込みます。
7-3. 設計段階からの対策
ノイズ対策は、設計の早い段階から考えることが重要です。
後から対策を追加するより、最初から織り込むほうが効果的で低コストです。
基板の配線、部品の配置、接地のとり方を、設計時にEMCの観点で検討します。
シールドやフィルタを後付けすると、コストもスペースもかさみます。
EMCは、できてしまった製品に貼り付ける対策ではなく、作り込むものです。
設計段階からの配慮が、ノイズに強い機器を生み出します。
7-4. ノイズトラブルの切り分け
現場でノイズトラブルが起きたら、原因を切り分けて特定します。
まず、いつ・どの機器が動いたときに問題が起こるかを観察します。
特定の機器が動くたびに不具合が出るなら、その機器がノイズ源の可能性が高いといえます。
ノイズ源を止めてみて、症状が消えるかを確認すると切り分けが進みます。
伝導ノイズか放射ノイズかは、配線をたどったり、距離を変えたりして見極めます。
フィルタやシールドを試しに加えて、効果を確認する方法も有効です。
ノイズは原因が見えにくいだけに、地道な切り分けが解決の近道です。
発生源・経路・受信側の3要素を意識して、順に確かめていきます。
まとめ
本記事では、ノイズ対策とEMCについて、その基本から、ノイズの種類と伝わり方、対策の基本、具体的な対策部品、EMC規格までを体系的に解説しました。
EMCは、ノイズを出しすぎないこと(EMI)と、ノイズに耐えること(EMS)の両立を意味します。
ノイズ対策は、発生源・経路・受ける側という3要素のどこに手を打つかで整理できます。
具体的には、シールド・フィルタ・接地・ツイストといった手法と、コンデンサやコイルの部品で対策します。
ノイズ対策とEMCは、電子機器が安心して共存するために欠かせない技術です。
接地やコンデンサ・コイルの性質とあわせて、電気設備への理解を深めていってください。