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疲労設計入門|S-N線図の読み方と寿命予測の基本

疲労破壊のビーチマーク破面模式図(アイキャッチ)

静的強度を十分に満たしているはずの軸や溶接部が、数年の運用を経て突然折損する事例は後を絶ちません。

その原因の多くは、繰返し荷重による金属疲労にあります。

疲労破壊は静的強度計算では防げず、応力振幅と繰返し数を軸にした寿命予測が必要です。

その中核がS-N線図と安全率であり、両者で破損確率を定量的に管理できます。

しかしGoodman線図やMiner則は、平均応力や変動荷重の扱いで誤用が目立つ領域です。

疲労限度・応力集中・表面補正を押さえれば、疲労設計へ軸足を移せます。

本記事では、疲労強度と安全率の計算方法およびS-N線図による寿命予測について徹底解説します。

1. 疲労破壊とは 静的強度との決定的な違い

疲労破壊とは、材料に繰返し荷重が作用することで、静的強度よりもはるかに低い応力レベルでも破断に至る現象のことです。設計応力を降伏点以下に抑えたはずの部品が、実稼働数年で突然折損するトラブルの大半は、この疲労に起因しています。機械構造物の破損原因に占める疲労の割合は、調査報告によっては80〜90%に達するとも言われており、設計者が最も意識すべき破壊モードと位置付けられます。

静的強度設計では降伏応力や引張強さを基準に安全余裕を取りますが、疲労破壊は時間軸と繰返し数を評価軸に加えなければ防げません。ここを取り違えると、静的には安全な部品が市場で折損するという最悪のシナリオに直結します。疲労破壊は「設計ミス」というよりも「設計時の評価軸不足」によって発生するケースが多く、評価手法を知っているかどうかが結果を分けます。

疲労破壊の発生メカニズム

疲労破壊は「亀裂発生」「亀裂進展」「急速破壊」の3段階で進行します。第一段階では結晶粒界や表面キズを起点に微小亀裂が生成し、第二段階で繰返し応力を受けるたびに亀裂先端が少しずつ開閉しながら進展します。第三段階に達すると残存断面では荷重を支えきれず、最終破断が瞬時に起こります。

破面にはこの段階に対応して、進展領域に同心円状のビーチマークや電子顕微鏡で観察されるストライエーションが現れ、急速破壊領域にはせん断リップや粗いディンプルが残ります。これらは破損解析における最重要の物証です。

静的破壊と疲労破壊の比較

設計判断の出発点として、静的破壊と疲労破壊の性格の違いを整理しておきます。

観点 静的破壊 疲労破壊
荷重形態 一発荷重(単調増加) 繰返し荷重(振幅+平均)
前兆 塑性変形(延性材) ほぼ無し(突然破断)
破面の特徴 カップ&コーン/ディンプル ビーチマーク/ストライエーション
設計基準応力 降伏点/引張強さ 疲労限度/時間強度
安全率の目安 3〜8 1.5〜2.5
評価式 ミーゼス応力等 S-N線図/Miner則

特に危険なのは、疲労破壊には塑性変形による前兆がほぼ無いという点です。延性材料であっても、疲労破面はまるで脆性材のように平坦かつ突発的に見えます。点検時に変形を頼りに寿命判定する発想は、疲労では通用しません。

複合応力状態での強度評価の基礎については、静的破壊側の代表指標としてミーゼス応力を押さえておくと、本記事の応力振幅との対比が鮮明になります。

疲労破壊が関わる代表的な事例

実務で疲労破壊が問題になりやすい対象は、繰返し荷重を常態として受ける部品や構造物です。自動車ではクランクシャフト・コンロッド・サスペンションアーム、鉄道では車軸・レール締結部、航空機では主翼付根・エンジンブレード、橋梁やクレーンでは溶接継手が代表格にあたります。

とりわけ溶接継手は、止端部の応力集中と残留応力が重畳することで、母材の疲労限度よりも大幅に低い応力で破壊する傾向があります。溶接部の強度評価方法については以下の記事で体系的に整理していますので、疲労設計と併せて参照すると実務判断が固まります。

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これらの事例に共通するのは、いずれも運用開始時点では静的強度を満たしていたという事実です。疲労は「時間をかけて忍び寄る破壊」であり、設計・保守の双方で意識的に評価しない限り見落とされます。

量産品や長期運用設備では、製造ばらつき・環境変動・荷重履歴の個体差が加わるため、同じ設計仕様の部品でも故障発生までの時間に大きな分散が生じます。市場不具合率のゼロ化を目指すのではなく、許容不具合率に対する寿命下限値の管理へと発想を切り替えることが、実務上の疲労設計の肝になります。

さらに近年は、EV化・大型化・高サイクル化により、従来の経験則が通用しない負荷領域に部品が押し込まれるケースが増えています。設計段階で疲労評価を行ったとしても、実働条件が想定レンジを超えれば寿命は急速に低下します。CAEによる疲労解析、実機テレメトリによる応力履歴取得、規格に基づく安全率運用の三点セットが、現代の疲労設計では必須のアプローチになっています。

 

2. S-N線図の読み方と疲労限度

疲労強度を定量化する最も基本的なツールがS-N線図(Wöhler曲線とも呼ばれます)です。S-N線図は、応力振幅Sを縦軸、破断繰返し数Nを対数軸にとって、疲労試験データをプロットした曲線であり、ある応力レベルで何回の繰返しに耐えられるかを一目で示します。19世紀にドイツの鉄道技術者August Wöhlerが車軸の折損事故調査で体系化した手法であり、150年以上にわたって疲労設計の基盤として用いられ続けています。

鋼とアルミ合金のS-N線図比較

S-N線図の基本構造

S-N線図の典型的な軸設定は、縦軸に応力振幅[MPa]、横軸に破断繰返し数Nを片対数または両対数で表示するものです。応力振幅が小さいほど破断までの繰返し数は増加し、ある境界応力を下回るとほぼ水平な漸近線に達します。この漸近線レベルが後述する疲労限度となります。鉄鋼材料では一般に繰返し数10⁶〜10⁷サイクル付近でS-N曲線が水平に遷移し、これより高サイクル側では応力振幅が疲労限度以下であれば事実上無限寿命と見なせます。

試験はJIS Z 2274(回転曲げ疲労試験)やJIS Z 2275(繰返し引張試験)に基づいて実施され、同一条件で複数本の試験片を破壊し、得られた寿命のばらつきから平均値と信頼下限値を求めます。実務設計ではばらつきを考慮して信頼度95%や99%の下限値を採用することが一般的です。

疲労限度と時間強度

鋼材には、ある応力振幅以下では理論上何回繰返しても破断しない限界値が存在します。これが疲労限度 \sigma_wで、S-N線図が水平漸近する応力レベルに相当します。鋼の疲労限度は経験的に引張強さの約半分で近似でき、以下の関係式が広く用いられています。

 \sigma_w \approx 0.5\, \sigma_B

例えば引張強さ \sigma_B = 650\,\text{MPa}のS45C焼入焼戻し材であれば、疲労限度は概ね325MPa程度が見込めます。ただしこれは磨き平滑試験片の基準値であり、実部品では後述する補正係数で大幅に下がる点に注意が必要です。

一方、アルミ合金・銅合金・オーステナイト系ステンレスには明確な疲労限度が存在せず、S-N曲線は右肩下がりに低下し続けます。これらの材料では、便宜上 N = 10^7サイクルにおける応力振幅を時間強度として基準値に採用し、疲労限度に相当する設計応力として扱います。

Basquin式と高サイクル疲労

高サイクル疲労領域(概ね N \gt 10^4)でのS-N曲線は、両対数軸上ではほぼ直線となり、以下のBasquin式で表されます。

 \sigma_a = \sigma'_f (2N_f)^b

ここで \sigma'_fは疲労強度係数、 bは疲労強度指数(鋼で−0.05〜−0.12程度)です。bが負で小さい値ほど寿命低下の勾配が緩やかになり、同じ応力振幅でも長寿命が期待できます。

Basquin式の強みは、材料係数が分かれば任意応力に対する寿命を外挿できる点にあります。試験データから \sigma'_f bを最小二乗法で同定し、設計応力を代入すれば破断繰返し数Nfが直接求まります。S-N線図を毎回作図せずに寿命見積りができるため、CAE組み込みの疲労解析でもこの式が標準的に使用されています。

代表的な材料のBasquin係数としては、S45Cで \sigma'_f \approx 950\,\text{MPa}、b≈−0.10、SUS304で \sigma'_f \approx 1250\,\text{MPa}、b≈−0.14などが材料便覧・文献値として整備されています。ただしこれらは平滑試験片の値であり、実部品の修正疲労限度を用いた運用に落とし込む際には、後章で説明する補正係数を必ず併用する必要があります。

また、低サイクル疲労領域(概ね N \lt 10^4)では、弾性応力のみでは破壊挙動を説明しきれず、塑性ひずみ振幅を軸にしたCoffin-Manson則が併用されます。高サイクル・低サイクルの境界領域では、両者を組み合わせた全ひずみ寿命則(Manson-Coffin-Basquin則)が精度面で有利とされています。本記事では高サイクル疲労に主眼を置きますが、プラント配管・タービン翼のように起動停止サイクルが支配的な部品では、低サイクル疲労評価が必須である点は押さえておく必要があります。

 

3. 応力振幅・平均応力・応力比の関係

疲労寿命を決定する応力変数は、最大応力 \sigma_{max}と最小応力 \sigma_{min}の単なる差分ではなく、応力振幅平均応力の2軸で扱う必要があります。この2軸を正しく分解することが、後述するGoodman線図やMiner則の出発点になります。

応力サイクルの4タイプ模式図(両振り・片振り・脈動・混在)

応力サイクルの4タイプ

実機の応力波形は複雑ですが、設計評価では次の4タイプに分類して考えると扱いやすくなります。完全両振り(引張と圧縮が対称)、片振り(ゼロと引張のみ)、脈動(常に引張側での振動)、引張-圧縮混在(非対称な両振り)の4分類です。

同じ応力振幅でも、平均応力が引張側に寄るほど寿命は低下する傾向があります。これは引張平均応力が亀裂開口を促進し、亀裂進展速度を高めるためです。したがって実務では振幅だけを見るのではなく、常に「振幅+平均」のペアで応力状態を評価します。

応力振幅と平均応力の計算式

応力振幅と平均応力は次式で定義します。応力波形から最大値と最小値を拾えば、機械的に算出できる量です。

 \sigma_a = \dfrac{\sigma_{max} - \sigma_{min}}{2}

 \sigma_m = \dfrac{\sigma_{max} + \sigma_{min}}{2}

例として、作動中に最大180MPa、最小-60MPaを往復する部品では、応力振幅は \sigma_a = (180-(-60))/2 = 120\,\text{MPa}、平均応力は \sigma_m = (180+(-60))/2 = 60\,\text{MPa}となり、片振りに近い引張優勢の応力状態であることが一目で把握できます。

荷重が曲げ・せん断・ねじりなど複数成分を含む場合は、まず主応力またはミーゼス応力に変換してから、その時間波形から振幅と平均を抽出する手順が取られます。曲げ・せん断の基本計算はせん断力側の整理も併せて確認すると、応力分解の流れが腹落ちします。

応力比Rと疲労寿命への影響

応力比Rは、最小応力と最大応力の比として定義されます。

 R = \dfrac{\sigma_{min}}{\sigma_{max}}


R=−1は完全両振り(平均応力ゼロ)、R=0は片振り、R>0は脈動を示します。S-N線図はR=−1を前提に作成されていることが多いため、R≠−1の実機条件では後述するGoodman線図等で平均応力補正を行う必要があります。

実験的には、応力比が大きくなる(引張平均応力が増える)ほど、同じ応力振幅でも破断繰返し数が短くなる傾向が確認されています。特に引張平均応力が材料の降伏点に迫る領域では、寿命低下が急激に進み、S-N線図の外挿では安全側の評価が困難になります。この領域での取り扱いが、次章の線図比較における論点となります。

逆に、圧縮平均応力はひずみ振幅を同じに保ちつつも亀裂開口を抑制する方向に働き、疲労寿命を延長する効果があります。ショットピーニングや浸炭焼入れといった表面処理が疲労強度を向上させるのは、表面近傍に圧縮残留応力を導入することで、この平均応力効果を人為的に活用しているためです。実測では、適切なショットピーニングを施したばね鋼で疲労限度が1.3〜1.5倍向上する事例も報告されており、量産部品の寿命延長に広く活用されています。

一方で、溶接部や鋳物表面には引張残留応力が残存していることが多く、これは平均応力を実質的に押し上げて疲労寿命を短縮する要因となります。溶接後熱処理(PWHT)や機械的応力除去(ピーニング)を実施する目的の多くは、この引張残留応力の緩和にあります。設計段階で残留応力を加味する際は、標準的には降伏応力の30〜50%相当の引張残留応力が溶接止端部に残ると仮定し、平均応力にオフセットを与える保守的評価が採用されます。

 

4. Goodman・Soderberg・Gerber線図の使い分け

平均応力の影響を取り込んだ疲労限度の補正には、Goodman・Soderberg・Gerberという3つの代表的な線図が存在します。いずれも横軸に平均応力、縦軸に応力振幅をとり、疲労破壊しない領域の境界を曲線または直線で表現します。

Goodman・Soderberg・Gerber線図の比較図

3つの線図の定式化

Goodman線図は、疲労限度 \sigma_wと引張強さ \sigma_Bを直線で結んだもので、最もシンプルで広く使われています。

 \dfrac{\sigma_a}{\sigma_w} + \dfrac{\sigma_m}{\sigma_B} = 1

 

Soderberg線図は、引張強さの代わりに降伏応力 \sigma_yを終点に置く、より保守的な直線式です。平均応力が大きい領域でも降伏を確実に回避したい場合に用いられます。

 

 \dfrac{\sigma_a}{\sigma_w} + \dfrac{\sigma_m}{\sigma_y} = 1

 

Gerber線図は、実験データへのフィットが最も良好とされる放物線式で、平均応力の影響を2乗項で扱います。

 

 \dfrac{\sigma_a}{\sigma_w} + \left(\dfrac{\sigma_m}{\sigma_B}\right)^2 = 1

 

3式ともに左辺が1以下であれば「疲労破壊しない領域」と判定し、1を超えた段階で設計変更が必要になります。

保守度と適用範囲の比較

3線図は保守度と精度のトレードオフを取っており、設計対象や要求安全性に応じて使い分けます。

線図 終点 形状 保守度 精度 推奨用途
Goodman 引張強さ \sigma_B 直線 一般機械部品・汎用設計
Soderberg 降伏応力 \sigma_y 直線 降伏回避最優先・圧力容器
Gerber 引張強さ \sigma_B 放物線 試験データ豊富な量産品

同じ平均応力・振幅に対し、許容領域の広さはGerber>Goodman>Soderbergの順になります。したがって同じ部品でもSoderbergで評価すると最も厳しい判定となり、Gerberでは最も緩やかな判定となります。

実務での選び方

実務での選択指針は以下のように整理できます。まず新規設計や試験データの蓄積が乏しい段階では、Goodman線図を第一選択とするのが無難です。直線式で計算が容易なうえ、保守性と精度のバランスが良く、日本のJIS設計指針でも事実上のデファクトになっています。

次に、平均応力が降伏点に近くなる可能性がある高応力設計では、Soderberg線図に切り替えます。圧力容器の胴板や高張力ボルトなど、降伏と疲労の両方を同時に回避したい部位が該当します。

最後に、試験データが豊富にあり、かつコスト・重量要求が厳しい量産品ではGerber線図が有効です。自動車量産部品では、実測疲労データのフィットに基づくGerber評価で設計余裕を適正化し、過剰設計を回避する方針が一般的に取られています。

いずれの線図を採用する場合も、線図上にプロットした動作点が境界直線(または放物線)の内側に入ることを確認し、さらに後述する安全率を上乗せして最終判定を行う点は共通しています。設計審査では、どの線図を選択したか・その根拠は何かを明確にドキュメント化しておくことが、後工程でのトレーサビリティ確保に欠かせません。

具体的な数値で3線図の違いを比較すると、S45C( \sigma_B=650MPa、 \sigma_y=530MPa、 \sigma_w=275MPa)で平均応力200MPa、応力振幅σaの許容値を各式で計算すると、Goodmanでは約190MPa、Soderbergでは約171MPa、Gerberでは約249MPaとなります。同じ材料・同じ平均応力でも、許容応力振幅に最大で約1.5倍の差が生じる計算です。どの線図を選ぶかで設計余裕や製品重量・コストに直結するため、採用根拠は設計書に明記しておくことが望ましい対応です。

なお、実務設計ではこの3線図に加え、JIS B 8265等の規格が設計用疲労評価曲線を別途提供している場合があります。規格曲線は長年の破損事例データに基づいて保守的に引かれており、個別の線図計算と併用することで、法令・顧客要求への適合と技術的妥当性の両立が図れます。

 

5. 疲労強度の補正係数と切欠き係数β

S-N線図から読み取れる疲労限度 \sigma_wは、磨き平滑の標準試験片を回転曲げ試験にかけた条件下の値です。実部品はこれよりも表面が粗く、寸法が大きく、切欠きが存在するため、実効疲労限度は大幅に低下します。この低下を定量評価するのが各種補正係数の役割です。

5つの補正係数

実務で広く用いられる補正係数は、表面仕上げ係数Ka、寸法係数Kb、信頼性係数Kc、温度係数Kd、その他(腐食・表面処理等)係数Keの5種類です。

係数 意味 目安値
Ka(表面仕上げ) 表面粗さの影響 鏡面1.0/研磨0.90/機械加工0.80/黒皮0.65
Kb(寸法) 試験片より大径化で低下 φ10以下1.0/φ30前後0.85/φ100で0.75
Kc(信頼性) ばらつきの下限値補正 信頼性50%で1.0/90%で0.90/99%で0.81
Kd(温度) 高温・低温での材料変化 室温1.0/200℃で0.95/500℃で0.75
Ke(その他) 腐食・表面処理・残留応力 腐食環境0.5〜0.7/ショットピーニング1.2〜1.5

特にKaは影響が大きく、黒皮仕上げのまま使う鋳造品や粗加工面では、それだけで疲労限度が35%も低下します。海水環境や酸性雰囲気下での腐食疲労ではさらに深刻で、Keが0.5を下回る場合もあります。腐食と疲労の相互作用については、腐食側の基礎として電蝕、表面処理の選択肢として粉体塗装が参考になります。

切欠き係数βとKtの関係

切欠き・段差・穴などの応力集中部では、局所的にピーク応力が跳ね上がります。このピーク応力と公称応力の比が応力集中係数Ktで、幾何形状から理論的に算出できる値です。ただし実材料の疲労では、応力集中そのままがそのまま疲労寿命を縮めるわけではなく、材料の切欠き感度ηを通じて切欠き係数βに変換されます。

 

 \beta = 1 + \eta(\alpha - 1)

 

ここで \alphaが応力集中係数Kt、 \etaは切欠き感度(0〜1の無次元数)です。高張力鋼ではη≈0.9、一般構造用鋼でη≈0.7、鋳鉄でη≈0.3程度が目安で、脆性材料ほど切欠きに鈍感になる傾向があります。

切欠き形状と応力集中係数の算出については応力集中係数Ktで詳しく扱っていますので、β換算に進む前にKtの取得方法を押さえておくと、補正の流れが一本の線でつながります。

修正疲労限度の総合計算

上記の補正係数と切欠き係数を組み合わせ、実部品の修正疲労限度 \sigma_w^{*}は次式で求まります。

 

 \sigma_w^{*} = \dfrac{K_a K_b K_c K_d K_e}{\beta}\,\sigma_w

 

例えばS45C焼入焼戻し材(基準疲労限度275MPa)で、機械加工面Ka=0.80、φ30寸法Kb=0.85、信頼性99%Kc=0.81、常温Kd=1.0、表面処理無しKe=1.0、切欠き係数β=1.8の場合、修正疲労限度は \sigma_w^{*} = (0.80 \times 0.85 \times 0.81 \times 1.0 \times 1.0 / 1.8) \times 275 \approx 84.1\,\text{MPa}となります。基準値の275MPaから実効値84.1MPaへ、実に69%もの低下です。この実効値を設計応力と比較することが、疲労設計の出発点となります。

 

6. 寿命予測の計算実例|回転軸の曲げ疲労

ここからは、これまでの公式を使って具体的な寿命予測を実行します。題材はS45C製の回転軸の曲げ疲労で、量産現場で最も頻出する検討ケースに該当します。理論式を一つ一つ数値に落とし込む過程を追うことで、補正係数の影響度と安全率の意味が実感として掴めるようになります。

条件設定

設計対象は以下の条件とします。

項目 条件
材料 S45C焼入焼戻し品
引張強さ \sigma_B 650MPa
降伏応力 \sigma_y 530MPa
基準疲労限度 \sigma_w 275MPa
軸径d φ30mm
曲げモーメントM ±80N・m(完全両振り)
応力集中 肩R部、Kt=2.0
切欠き感度η 0.80
表面仕上げ 機械加工(Ka=0.80)
寸法係数Kb 0.85
信頼性 99%(Kc=0.81)
環境温度 常温(Kd=1.0)
その他 特殊処理なし(Ke=1.0)

この軸は回転しながら曲げを受けるため、軸表面の任意点は1回転あたり1サイクルの完全両振り応力(R=−1、平均応力0)を経験します。ボールねじのような往復駆動部品と類似の繰返し荷重環境ですが、回転部品では回転数がそのまま繰返し数になる点が特徴です。

応力振幅の算出

丸軸に作用する曲げモーメントから生じる最大曲げ応力は、断面二次モーメントを用いて次式で表されます。

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 \sigma_a = \dfrac{32M}{\pi d^3}

 

値を代入すると、 \sigma_a = (32 \times 80) / (\pi \times 0.030^3) = 2560 / (8.482 \times 10^{-5}) \approx 30.2\,\text{MPa}となります。完全両振りですので、これがそのまま応力振幅であり、平均応力はゼロです。軸の回転・慣性評価まで含めた検討では慣性モーメント側の整理と組み合わせると、動的効果まで含めた応力履歴を追跡できます。

修正疲労限度の算出

次に、この軸の実効疲労限度を補正係数式で算出します。切欠き係数βは \beta = 1 + 0.80 \times (2.0 - 1) = 1.80です。

 

 \sigma_w^{*} = \dfrac{0.80 \times 0.85 \times 0.81 \times 1.0 \times 1.0}{1.80} \times 275

 

分子の係数積は 0.80 \times 0.85 \times 0.81 = 0.5508、これを1.80で除して0.3060を得ます。基準疲労限度275MPaを乗ずると、修正疲労限度は \sigma_w^{*} \approx 84.1\,\text{MPa}です。素材の疲労限度275MPaの約30%まで低下していることになり、表面・寸法・切欠き・信頼性の重畳が設計余裕を大きく食いつぶしていることが分かります。

安全率判定と寿命予測

実効疲労限度に対する安全率は以下で計算します。

 

 S = \dfrac{\sigma_w^{*}}{\sigma_a} = \dfrac{84.1}{30.2} \approx 2.79

 

回転機械の推奨安全率が2.0〜2.5ですので、このS=2.79という値は十分に余裕のある疲労設計と評価できます。応力振幅が実効疲労限度を下回る領域(無限寿命域)に入っているため、理論上は繰返し数に依存せず破断しないと見なせます。

仮に曲げモーメントが倍増して \sigma_a = 60.4\,\text{MPa}となった場合でも、実効疲労限度84.1MPaの内側にあり安全率1.39と低下するものの、無限寿命領域は維持されます。一方で \sigma_aが84.1MPaを超える設計応力に達すると、有限寿命領域(S-N線図の傾斜部)に入り、Basquin式で破断繰返し数 N_fを明示的に計算する必要があります。この場合、 \sigma'_fとbを試験または材料便覧から取得し、寿命を具体的なサイクル数で評価する流れに切り替えます。

この計算例で読み取っておきたいのは、材料基準疲労限度275MPaが、補正後には84.1MPaまで圧縮されるという事実です。設計者が「S45Cは疲労限度275MPaだから安心」と認識してしまうと、実機では3分の1以下しか余裕がない状況が見落とされます。補正係数を経由した実効値ベースの判断こそが、フィールド故障ゼロ化の出発点になります。

なお、応力振幅が実効疲労限度のさらに半分以下(本例では42MPa以下)に収まる設計では、製造ばらつきや使用条件変動を吸収しても無限寿命を維持できる可能性が高まります。量産品でバラツキを詰め切れない場合は、この2倍余裕ラインを設計目標値として採用するのも現実的な手です。

 

7. Miner則による累積損傷評価の計算手順

実機の応力履歴は一定振幅の単純な繰返しではなく、大小の応力振幅が混在した変動荷重であるのが普通です。自動車のサスペンション部品を例にとれば、路面状態・速度・積載量によって毎サイクル異なる応力振幅を経験しています。この変動荷重下での疲労寿命を予測する古典的な手法がMiner則(線形累積損傷則)です。

Miner則の変動荷重ヒストグラム例

Miner則の原理

Miner則は、応力レベルごとの損傷を線形に加算する単純明快なモデルです。応力振幅 \sigma_iにおける破断繰返し数を N_i、実際に経験した繰返し数を n_iとすると、各レベルの損傷度は n_i / N_iで定義され、その総和が1に達した時点で破断に至ると仮定します。

 

 \sum_{i=1}^{n}\dfrac{n_i}{N_i} = 1

 

この式はシンプルながら、疲労設計では事実上の標準手法として自動車・航空・建設のいずれの分野でも採用されています。損傷の線形加算という仮定には本来限界がありますが、信頼性評価や寿命試験の代替計算としての実用性は極めて高いものがあります。

変動荷重のヒストグラム化

実機の応力時系列データをMiner則に投入するには、まず応力レベルごとの繰返し数をカウントしたヒストグラムに変換する必要があります。連続的な応力波形から振幅を機械的に抽出する手法として、レインフロー法が広く用いられています。

レインフロー法は応力履歴を「屋根に降る雨」のアナロジーで追跡し、閉じたヒステリシスループを1サイクルとしてカウントする手法です。抽出された個々のサイクルは応力振幅と平均応力のペアで整理され、設計用のヒストグラムとして2次元または1次元にまとめられます。CAEの疲労解析ソルバでは、このレインフローカウントが自動化されており、時間領域の応力解析結果から直接損傷度を算出する流れが標準です。

計算実例:3段階荷重

ここでは、先ほどのS45C軸が以下のような変動荷重を受ける想定で、Miner則による累積損傷度を計算します。素材の修正疲労限度は前章の84.1MPaとし、有限寿命領域のS-N曲線から各応力振幅に対する破断繰返し数 N_iを読み取って、以下の値を用いるものとします。

荷重段階 応力振幅 \sigma_i 実績繰返し数 n_i 破断繰返し数 N_i 損傷度 n_i/N_i
段階1 150MPa 1.0×10⁴回 約1.6×10⁵回 0.063
段階2 120MPa 5.0×10⁴回 約6.4×10⁵回 0.078
段階3 90MPa 2.0×10⁵回 約4.3×10⁶回 0.047
累積損傷度合計 0.188

累積損傷度D=0.188ですので、この使用パターン1セットに対して寿命倍率は 1/0.188 \approx 5.3セットに相当します。すなわち同じ負荷サイクルを約5.3セット繰返した時点で、Miner則上は破断予測となります。

ポイントは、段階1の応力振幅150MPaが修正疲労限度84.1MPaを大きく超えて有限寿命領域にあるのに対し、段階3の90MPaは疲労限度に近接し損傷寄与が相対的に小さい点です。実務では大振幅イベントの頻度管理が疲労寿命のドライバーになることが、このヒストグラム計算から読み取れます。

この知見は設計・運用の両面で重要な示唆を与えます。設計段階では、想定される大振幅イベント(起動停止、過渡応力、衝突荷重等)の発生回数を過小評価しないことが寿命見積りの精度を決めます。運用段階では、高応力イベントの頻度をモニタリングし、設計想定を超えた使用があれば早期に点検・交換に切り替える運用ルールが求められます。IoTセンサによる実働応力の常時取得と、Miner則ベースのダッシュボード可視化は、現代のプラント保全で標準化が進む方向性です。

実務補正と安全側評価

Miner則は線形加算という強い仮定を置いているため、実測寿命は理論値の0.3〜2.0倍程度にばらつくことが知られています。航空機設計やプラント設計では、損傷度合計1.0ではなくD=0.3〜0.7で寿命到達とみなす「修正Miner則」が採用されることが一般的です。品質管理側の信頼性指標との整合については、工程能力指数Cpkの考え方と組み合わせると、統計的な余裕設計の視点が補強されます。

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また、Miner則は荷重順序の影響を考慮しないという限界も認識しておく必要があります。高応力が先に作用してから低応力に移る場合と、その逆の場合では、実際の破断寿命に差が生じることが実験的に確認されています。高応力を先に負荷した場合にはD<1で破断し、低応力を先に負荷した場合にはD>1まで持つ傾向があります。この順序効果を取り扱う手法として、Mansonの二段階修正Miner則や、Corten-Dolanモデルなどの非線形損傷則が提案されていますが、実務での適用はデータ取得コストの面から限定的です。

 

8. 安全率の決め方|静的設計値との対比

疲労設計における安全率は、静的設計の安全率とは性格も数値レンジも異なります。両者を混同すると、過剰設計あるいは致命的な設計不足を招きます。安全率はただの数字ではなく、荷重の不確実性・材料ばらつき・製造品質・運用条件の総合的な余裕度を表す設計判断そのものです。本章では業界実務での安全率運用を整理します。

静的設計の安全率(復習)

静的設計では、引張強さまたは降伏応力を基準に安全率を乗じて許容応力を設定します。延性材料では3前後、脆性材料(鋳鉄・セラミックス)では5〜8が目安で、荷重の不確かさ・材料ばらつき・環境条件を包括的に吸収する役割を担っています。複数部材からなる構造物の応力解析では、トラス構造のように部材ごとの応力評価と組み合わせて、最終的な許容応力判定が行われます。

疲労設計の安全率

疲労設計では、基準となる応力が静的設計の降伏応力や引張強さではなく、修正疲労限度 \sigma_w^{*}となります。この修正疲労限度に対して応力振幅の比で安全率を定義します。

 

 S = \dfrac{\sigma_w^{*}}{\sigma_a}

 

安全率の目安は1.5〜2.5と、静的設計の3〜8よりもかなり小さい値に見えますが、これは補正係数KaからKeおよびβですでに多段の保守評価を済ませているためです。静的設計のように「引張強さ×大きめの安全率」で一気に余裕を取る構造ではなく、補正係数で実効値まで絞り込んでから控えめの安全率を乗せるという2段構えの設計思想になっています。

業界別の参考値(3領域)

業界ごとの疲労安全率の目安を、自動車部品・圧力容器・回転機械の3領域で整理します。

領域 疲労安全率の目安 基準応力 主な適用規格 背景
自動車部品 1.5〜2.0 修正疲労限度 JIS D 0203系、社内規格 量産・重量制約・試験データ豊富
圧力容器 2.5〜3.0 修正疲労限度/降伏応力 JIS B 8265、ASME BPVC Sec. VIII 破損時被害甚大・長期運用
回転機械 2.0〜2.5 修正疲労限度 ISO 1940/JSME S 008等 高サイクル数・バランス要求

自動車部品ではコスト・重量制約が厳しく、安全率は1.5〜2.0と絞り込まれています。これは試験データが膨大で材料・製造ばらつきが統計的に管理されていることが前提であり、個別の試作段階では必ず実機疲労試験(耐久試験)で裏付けが取られます。

圧力容器では破損時の人的・環境影響が甚大であることから、安全率2.5〜3.0と最も厳格な運用になります。JIS B 8265およびASME BPVC Sec. VIIIでは、静的設計と疲労設計の両面で余裕を取る規定があり、実効応力を降伏応力に対しても余裕を持たせる設計指針が示されています。溶接部の強度計算と併せて、継手部の疲労強度低減係数を必ず考慮することが要請されます。

回転機械(タービン・ポンプ・圧縮機等)では、高サイクル数が前提となるため、疲労限度を基準にした2.0〜2.5が一般的です。ISO 1940系のバランス規格、JSME S 008(構造健全性評価)と組み合わせた運用が標準で、インペラ翼やシャフトの疲労評価は修正疲労限度に対して比較的控えめな安全率で管理されます。

 

9. 疲労設計チェックリストと規格(JIS/ISO)対応

疲労設計の成否は、設計段階・製造段階・運用段階のそれぞれでチェックポイントを漏らさないことにかかっています。本章では実務で使えるチェックリストと、主要規格の対応関係を整理します。

設計段階のチェック項目

設計段階で最も効果の大きいポイントは、応力集中を徹底的に排除することです。具体的には以下の確認項目が挙げられます。

  • 段差部・肩R部には十分な隅Rを確保しているか(R/D≧0.1が目安)
  • 穴・溝・キー溝の配置が主応力方向に対して最適化されているか
  • ボルト締結部・溶接部の止端処理が規格要件を満たしているか
  • 想定される使用環境(温度・腐食・振動)に対する補正を織り込んでいるか
  • 荷重履歴のピーク・頻度を実測または推定で定量化しているか
  • 材料選定時に疲労限度と引張強さの比(σw/σB)を確認しているか
  • 表面処理(ショットピーニング・窒化等)の有無とその効果を係数Keに反映しているか

このチェックリストは設計レビュー(DR)の標準議題に組み込むと有効です。特に隅R・止端処理の2項目は、設計者が図面上で直接管理できるにもかかわらず、現場で最も見落とされやすい項目でもあります。設計審査でこれらを指摘項目としてルーチン化することで、疲労起因の市場不具合を未然に防止する効果が期待できます。

材料・試験面のチェック

試作段階では、設計値の妥当性を疲労試験で裏付けることが不可欠です。JIS Z 2274(回転曲げ疲労試験)、JIS Z 2275(繰返し引張圧縮疲労試験)、ISO 1099(軸荷重疲労試験)が代表的で、量産移行前に最低でも10本以上の試験片で下限値を確認する運用が標準です。

受託試験機関を活用する場合、試験費用は1条件あたり50万〜150万円程度が相場で、材料・形状・荷重条件の水準設計を事前に詰めておくことでコストを抑制できます。設計部門と材料・試験部門の連携が取れていると、試験水準を絞り込みながら有意な設計データを得ることが可能になります。

試験方式の選定も重要なポイントです。回転曲げ疲労試験は最も歴史が長く試験データが蓄積されていますが、応力比R=−1に限定されるという制約があります。平均応力の影響を直接評価したい場合は、繰返し引張圧縮試験(軸荷重試験)で任意の応力比を設定する方式が有効です。また、実部品形状を模擬した要素試験(溶接継手試験・ねじ部試験・切欠き試験片試験)を組み合わせることで、CAEでは表現しきれない製造ばらつきの影響を実測ベースで把握できます。

試験片の寸法・本数についても統計的検討が必要です。ISO 12107では、疲労限度の下限値推定に必要な試験片本数とばらつきの扱い方が規定されており、1水準あたり最低6本、可能であれば15本以上の試験が推奨されています。本数が少ない段階では上側信頼限界が大きく、保守的な設計値しか取れませんが、本数を増やすことで統計的根拠に基づく設計余裕の圧縮が可能になります。

主要規格の適用関係

疲労設計で参照される主要規格と適用対象を以下に整理します。

規格 対象 要点
JIS B 8265 圧力容器 許容応力・疲労評価曲線を規定。溶接継手の減衰係数あり
ASME BPVC Sec. VIII Div.2 圧力容器(国際標準) 詳細疲労解析・簡易疲労評価の2ルート
ISO 12107 金属材料の疲労試験データ統計解析 試験データの統計処理手順を規定
JIS Z 2274/2275 疲労試験方法 回転曲げ/繰返し引張の試験条件を規定
JIS G 0567 鋼材の高温引張試験 高温での降伏・引張強さの取得方法
ISO 1099 軸荷重疲労試験 引張圧縮疲労試験の国際標準
JIS D 0203系 自動車部品耐久 量産部品の耐久試験基準

これらの規格は相互に補完関係にあり、単一規格で完結させるのではなく、対象製品・市場・顧客要求に応じて組み合わせて適用するのが実務の姿です。特にグローバル向け製品では、JISとASME/ISOの両対応が求められる場面が多く、設計段階から両規格の整合性を意識した評価フローを構築しておくことが重要です。

運用段階でのチェックリストも、設計段階と同等に疲労信頼性を左右します。運用段階では、実負荷の荷重履歴が設計前提からずれていないか、表面キズや腐食による実効疲労限度の低下が進行していないか、定期点検で累積損傷度の進行が設計寿命と整合しているかを継続的に確認する必要があります。点検周期は、設計段階で想定した累積損傷度D=0.5到達時点を目安に設定する運用が一般的で、そこで非破壊検査(磁粉探傷・超音波探傷・渦流探傷)を実施し、微小亀裂の有無を早期に検出します。

また、設計・製造・運用の各段階で取得したデータは、疲労データベースとして社内に蓄積することで、次世代設計への反映が可能になります。試験データ・市場不具合データ・CAE解析結果を統合的に管理できる環境が整っていると、新規設計時の初期値精度が向上し、試作段階での手戻り削減に直結します。PLMシステムやCAE疲労解析プラットフォームとの連携は、この領域のDX施策として投資対効果が高い領域です。

 

10. まとめ

本記事では、疲労強度と安全率の計算方法およびS-N線図による寿命予測について、定義・原理・計算・応用の4層で整理しました。製造業の現場では、静的強度計算からの発展課題として疲労設計に取り組むケースが大半であり、その移行を円滑にするための体系的な知識が求められます。

第一に、疲労破壊は静的強度では防げず、応力振幅と繰返し数を軸にした設計が必須です。第二に、S-N線図の疲労限度に対しては表面・寸法・信頼性・切欠きの各補正を重畳し、修正疲労限度で実効値を把握する必要があります。第三に、平均応力が作用する場合はGoodman・Soderberg・Gerberの3線図から適切なものを選択し、動作点が許容領域内にあるかを確認しなければなりません。第四に、変動荷重ではMiner則で累積損傷度を評価し、実務では修正Minerによる安全側評価を行うことが推奨されます。第五に、安全率は1.5〜2.5と静的設計より小さいですが、これは補正係数側で十分な余裕をすでに確保しているためです。

疲労設計は「見えない破壊」を扱う領域であるだけに、計算手順・規格適用・試験裏付けの3点セットで取り組むことが、フィールド故障の防止と設計最適化の両立につながります。実機部品のコスト低減と信頼性向上は一見相反する要求ですが、疲労強度の定量評価フレームを持っていれば、補正係数で余裕を絞り込んだうえで控えめの安全率を乗せるという現代的な設計アプローチで両立可能です。

設計者に求められるのは、単に公式を当てはめる作業ではなく、評価式がどの仮定の上に成り立っているかを理解したうえで、実機条件との整合性を吟味する姿勢です。S-N線図の外挿限界、Miner則の線形仮定、補正係数の適用範囲といった各手法の限界値を意識することが、過剰設計と設計不足の両方を回避する最短経路になります。

疲労寿命の見積りに自信が持てない段階では、まずはGoodman線図による平均応力補正と、補正係数を重畳した修正疲労限度の計算を手順通りに実施し、安全率2.0以上が確保できているかを確認することから始めるとよいでしょう。そのうえで、変動荷重の実測や疲労試験による裏付けを段階的に加えることで、設計精度を着実に引き上げていくことができます。