
金属を扱う製造現場では、思わぬトラブルとしてガルバニック腐食が発生することがあります。
特にアルミやステンレス、銅など異なる金属を組み合わせる設計や製造プロセスで注意が必要です。本記事では、ガルバニック腐食の基本メカニズムから防止策、具体的な現場事例まで、製造業で働く方が実務で活用できる知識を網羅的に解説します。
*参考記事
ガルバニック腐食とは何か?
定義
ガルバニック腐食とは、異なる金属が電気的に接触し、かつ電解質(湿気や水溶液)にさらされると、電位の低い金属(アノード)が腐食しやすくなる現象です。
これは電蝕(電気化学的腐食)の一種で、材料自体の選定ミスや設計不備で発生します。
メカニズム
異種金属が接触すると、金属間に電位差が生じます。
電位の低い金属がアノードとなり、溶解(腐食)し始めます。
電位の高い金属はカソードとなり、腐食はほとんど起こりません。
水分や塩分が存在すると腐食が加速します。
代表的な組み合わせとリスク
| 金属組み合わせ | 腐食リスク |
|---|---|
| アルミ × ステンレス | 高(アルミが腐食) |
| 銅 × 鉄 | 高(鉄が腐食) |
| 鋼 × 真鍮 | 中(鋼が腐食) |
製造現場での典型的な発生事例
自動車部品
自動車のボディやシャシーでは、アルミ部品とステンレスボルトを組み合わせることがあります。
湿潤環境や塩カル散布路面では、アルミが腐食しやすく、塗装下で穴やピンホールが発生するケースがあります。
建築・構造物
屋外の手すりや金属パネルで、ステンレスフレームにアルミパネルを固定する設計が見られます。
雨水が溜まる部分でガルバニック腐食が進行し、早期の塗装剥がれやフレーム破損につながることがあります。
電機・電子機器
制御盤や配電設備では、銅配線とアルミ端子が接触するケースがあります。
湿気や結露があると、アルミ端子が腐食して接触不良や火災リスクにつながることがあります。
発生条件と注意ポイント
ガルバニック腐食は単に異種金属が接触しているだけでは発生せず、特定の条件が揃うと起こります。
異種金属の接触
異種金属同士が直接接触すると、電位差によりアノード側の金属が腐食しやすくなります。
自動車や電子機器では、アルミ部品にステンレスボルトが使われる場合などが典型例です。
接触部分が隠れている場合でも腐食が進むことがあり、設計段階で接触回避や絶縁材の挿入が重要です。
電解質の存在
水分や塩分、結露などの電解質が接触面に存在すると腐食が加速します。
屋外設備や湿潤環境では雨水や塩カル、結露に注意が必要です。
表面に微量の水分でも腐食が進むため、塗装やコーティング、排水設計で水分侵入を防ぐことが効果的です。
金属の電位差
金属間の電位差が大きいほど腐食速度は速くなります。
アルミとステンレス、鉄と銅など、電位差の大きい組み合わせは避けるか絶縁材を挟むなどの対策が必要です。
さらに、現場では電位差を意識せずに材料を組み合わせる設計ミスが発生しやすく、注意が求められます。
温度・湿度条件
高温や多湿環境では腐食反応が加速します。
屋外やエンジン周辺など温湿度が高い場所では、水分の滞留や結露を避ける構造設計と定期点検が重要です。
温度変化による膨張や収縮も接触面の微細な隙間を生じさせ、腐食を助長する場合があります。
防止策・設計上の注意点
ガルバニック腐食は、設計段階や材料選定、施工、保守管理での対策によって大幅に抑制できます。
ここでは、実務で役立つ具体的な防止策と設計上の注意点をまとめます。
異種金属を使用する場合でも、適切な工夫で腐食リスクを最小化することが可能です。
材料選定の工夫
材料選定はガルバニック腐食の抑制に最も重要な要素です。
電位差の小さい金属を選び、異種金属接触を避けることで腐食リスクを大幅に低減できます。
・電位差の小さい金属同士を組み合わせることを優先する
・異種金属が不可避な場合は、樹脂やゴムの絶縁材を介して接触を防止する
・同一部位で同種金属を統一することで設計上の単純化と腐食リスク低減が可能
・材料選定時には使用環境(湿度、塩分、温度)を考慮する
表面処理・コーティング
表面処理やコーティングは、腐食の進行を防ぐ有効な手段です。
特にアノード側の金属に保護層を施すことで、電解質との接触を抑え、寿命を延ばせます。
・アルマイト処理(アルミ)やメッキ処理でアノードを保護
・塗装やラッカー、樹脂コーティングで水分や塩分の侵入を防止
・表面処理後の接合部は、摩耗や振動で剥がれないよう注意
・長期使用環境では、定期的に表面保護層の状態を確認する
設計段階での注意
設計段階での工夫により、ガルバニック腐食の発生を未然に防ぐことができます。
接触部分や水分滞留のリスクを考慮した構造設計が重要です。
・接触面に絶縁ワッシャーやスリーブを挟む
・ボルトやナットの材質を統一し、電位差を最小化
・排水経路や通気を設計に組み込み、水分の滞留を防止
・異種金属が不可避な場合は、腐食が進行しやすい箇所に補強や追加保護層を設ける
保全・メンテナンスでの対策
製造現場では、設計や材料だけでなく、保守・点検による腐食管理も重要です。
腐食の兆候を早期に発見し、適切な処置を行うことで寿命延長につながります。
・定期点検で腐食の兆候を早期に発見する
・ボルト、端子の締め直しや清掃で接触面を保護
・防食剤や潤滑剤を塗布して腐食進行を抑制
・使用環境に応じた点検周期や手順を設定し、保全計画に組み込む
まとめ
ガルバニック腐食は、設計・材料選定・施工・保全の全ての段階で注意が必要な現象です。
特に製造業では、異種金属を安易に組み合わせることによるトラブルが発生しやすく、以下のポイントが重要です。
・異種金属接触を避ける、または絶縁する
・表面処理やコーティングでアノード金属を保護する
・電位差が大きい組み合わせは避ける
・定期点検や保全で腐食の兆候を早期発見する
ガルバニック腐食の理解は、製品寿命の延長・品質保証・トラブル防止に直結します。
製造現場での具体的事例や設計改善の知見を活用することで、電蝕トラブルを未然に防ぎましょう。


