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熱交換器とは?種類と仕組み・プレート式を解説

真夏の炎天下、エアコンのスイッチを入れた瞬間に吹き出す冷たい風。

あの快適さを生み出しているのは、室内機と室外機それぞれに搭載された熱交換器です。

熱交換器は空調だけでなく、化学プラントの反応温度制御、火力発電所の蒸気冷却、食品工場の殺菌ラインなど、あらゆる産業の「温める・冷やす」を支えています。

しかし、その種類は多管式・プレート式・フィンチューブ式と多岐にわたり、選定を誤ると伝熱効率の低下や過大なコストにつながります。

本記事では、熱交換器の基本原理から主要な種類ごとの構造と特徴、対数平均温度差を用いた伝熱計算、そして用途に応じた選定の考え方までを体系的に解説します。

 

1. 熱交換器とは

熱交換器とは、温度の異なる2つの流体の間で熱エネルギーを移動させる装置です。

高温側の流体から低温側の流体へ熱が伝わることで、一方を冷却し、もう一方を加熱します。

この熱移動は自然法則(熱力学第二法則)に従い、必ず高温側から低温側へ向かいます。

熱交換器の原理自体はシンプルですが、工業分野における重要性は非常に高いといえます。

化学プラント全体のエネルギーコストのうち、約40〜60%が加熱・冷却プロセスに費やされています。

つまり、熱交換器の効率を改善すれば、プラント全体の省エネルギーに直結するのです。

熱交換器は大きく直接接触式間接式(隔壁式)に分類されます。

直接接触式は2つの流体を直接混合して熱交換する方式です。

冷却塔(クーリングタワー)やスチームインジェクタが代表例ですが、流体が混合するため用途は限定的です。

間接式は伝熱壁(金属板や管壁)を介して2つの流体を分離しながら熱交換する方式です。

高温側と低温側の流体が混ざらないため、異なる種類の流体間でも安全に熱交換が行えます。

たとえば、有毒な化学薬品と冷却水を隔壁で分離しながら冷却するような用途にも対応できます。

工業用熱交換器の大部分がこの間接式であり、本記事でも間接式を中心に解説します。

間接式の熱交換器では、熱は3つの段階を経て移動します。

まず高温流体から伝熱壁の表面へ対流伝熱で熱が伝わります。

次に伝熱壁の内部を熱伝導で貫通します。

最後に伝熱壁のもう一方の表面から低温流体へ対流伝熱で放熱されます。

この3段階の伝熱経路を理解することが、後述する総括伝熱係数の考え方の基礎になります。

熱交換器が使われる場面は非常に幅広く、代表的な用途として以下が挙げられます。

  • エアコン・冷蔵庫などの空調冷凍機器における冷媒と空気の熱交換
  • 化学プラントにおける反応液の加熱・冷却および熱回収
  • 火力発電所における蒸気タービン排気の凝縮(復水器として使用)
  • 自動車のラジエーターによるエンジン冷却水の放熱
  • 食品工場における牛乳やジュースの殺菌・冷却プロセス
  • 空調設備における排熱回収(全熱交換器)による省エネルギー

このように、私たちの生活や産業活動のあらゆる場面で熱交換器は活躍しています。

近年では、データセンターの冷却にも液冷式熱交換器が導入されるなど、ITインフラの分野にも適用範囲が広がっています。

AI向けGPUサーバーの消費電力が急増するなか、従来の空冷方式では冷却が追いつかず、サーバーラックに直接冷却水を循環させるリアドア型熱交換器やダイレクトチップ冷却が注目を集めています。

省エネルギーや脱炭素の要請が高まるなか、工場の廃熱を回収して給湯や暖房に再利用するカスケード利用も進んでいます。

このような廃熱回収用途では、低温域の熱を効率よく回収できるプレート式熱交換器が多く採用されています。

次のセクションでは、熱交換器の設計に不可欠な伝熱計算の基礎を解説します。

 

2. 熱交換の基本原理と伝熱計算

熱交換器の設計では、必要な伝熱量から伝熱面積を決定する計算が不可欠です。

ここでは、伝熱計算の基礎となる重要な式を順に解説します。

熱量の基本式

流体が受け取る(または放出する)熱量は、質量流量・比熱・温度変化の積で求められます。

 

 Q = \dot{m} \, c_p \, \Delta T

 

ここで、Qは熱量(W)、ṁは質量流量(kg/s)、c_pは定圧比熱(J/(kg・K))、ΔTは流体の入口と出口の温度差(K)です。

この式は高温側・低温側のどちらにも適用できます。

たとえば、高温側流体の放出する熱量Q_Hと低温側流体の受け取る熱量Q_Cは、外部への熱損失を無視すれば等しくなります。

これを熱収支(エネルギーバランス)と呼び、熱交換器設計の出発点となります。

 

 Q_H = \dot{m}_H \, c_{pH} \, (T_1 - T_2) = Q_C = \dot{m}_C \, c_{pC} \, (t_2 - t_1)

 

T_1、T_2は高温側の入口・出口温度、t_1、t_2は低温側の入口・出口温度を表します。

実務では、4つの温度のうち3つが既知であれば、残りの1つをこの式から逆算できます。

たとえば、高温側の入口・出口温度と低温側の入口温度がわかれば、低温側の出口温度が求められます。

なお、この式は流体の比熱が温度によらず一定であることを前提としています。

実際の流体では比熱は温度に依存しますが、温度範囲が比較的狭い場合には平均比熱を用いれば十分な精度が得られます。

蒸発や凝縮をともなう相変化プロセスでは、上式のΔTの代わりに潜熱を用いた熱量計算が必要になります。

たとえば、蒸気が凝縮する場合の放熱量は以下の式で求めます。

 

 Q = \dot{m} \, L

 

Lは凝縮潜熱(J/kg)であり、水蒸気の場合は100℃・1気圧で約2,257 kJ/kgです。

相変化をともなう熱交換では、潜熱が非常に大きいため、少ない流量でも大きな熱量を移動できるという利点があります。

伝熱の基本式

熱交換器全体での伝熱量は、総括伝熱係数・伝熱面積・対数平均温度差の積で表されます。

この関係式は熱交換器の設計において最も重要であり、必要な伝熱面積の決定に直結します。

 

 Q = K \, A \, \Delta T_{lm}

 

Kは総括伝熱係数(W/(m²・K))、Aは伝熱面積(m²)、ΔT_lmは対数平均温度差(K)です。

この3つのパラメータが熱交換器の性能を支配する三大要素です。

この式を変形すると、設計で最も重要な「必要な伝熱面積」を直接求められます。

 

 A = \dfrac{Q}{K \, \Delta T_{lm}}

 

つまり、必要熱量Qが大きいほど、総括伝熱係数Kが小さいほど、温度差ΔT_lmが小さいほど、大きな伝熱面積が必要になります。

設計者はKを高める(伝熱促進)、ΔT_lmを確保する(流れ方式の工夫)、Aを適正化する(機種選定)という3つの軸でバランスを取ることになります。

総括伝熱係数の求め方

総括伝熱係数Kは、伝熱経路にある各熱抵抗の合計から求められます。

熱は高温流体→高温側境膜→伝熱壁→低温側境膜→低温流体の順に伝わります。

各段階に熱抵抗があり、それらを直列に足し合わせたものが全体の熱抵抗です。

 

 \dfrac{1}{K} = \dfrac{1}{\alpha_1} + \dfrac{\delta}{\lambda} + \dfrac{1}{\alpha_2} + R_f

 

α_1は高温側の境膜伝熱係数(W/(m²・K))、α_2は低温側の境膜伝熱係数です。

δは伝熱壁の厚さ(m)、λは壁材の熱伝導率(W/(m・K))です。

R_fは汚れ係数(ファウリングファクター、m²・K/W)で、長期運転による汚れの蓄積を見込んだ補正値です。

この式からわかるように、全体の性能は最も大きな熱抵抗に支配されます。

たとえば気体側の境膜伝熱係数が非常に小さい場合、壁面抵抗や液体側の抵抗を改善しても全体の性能はほとんど変わりません。

ボトルネックとなる最大の熱抵抗を特定し、重点的に改善することが設計上のポイントです。

汚れ係数は運転期間や流体の性質によって変わりますが、一般的には清水で0.0001〜0.0002 m²・K/W、工業用冷却水で0.0002〜0.0005 m²・K/W程度の値が使われます。

汚れ係数を大きく設定しすぎると伝熱面積が過大になりコストが上昇し、小さすぎると実際の汚れによって性能不足に陥ります。

適切な値の設定には、対象流体の運転実績データが重要な判断材料になります。

境膜伝熱係数の算出

境膜伝熱係数αは流体の流れ状態に強く依存します。

層流と乱流では伝熱係数が大きく異なるため、まずレイノルズ数で流れ状態を判定します。

レイノルズ数Reは慣性力と粘性力の比であり、管内流れでは内径dと流速vと動粘性係数νを用いて以下のように求めます。

 

 Re = \dfrac{v \, d}{\nu}

 

Re < 2,300で層流、Re > 10,000で完全乱流と判定されます。

2,300〜10,000は遷移域であり、伝熱係数の予測精度が低下する領域です。

熱交換器の設計では、伝熱性能を高めるために乱流域(Re > 10,000)で運転するのが一般的です。

ヌセルト数Nuと境膜伝熱係数αの関係は次式で表されます。

 

 Nu = \dfrac{\alpha \, d}{\lambda_f}

 

dは代表長さ(管内径など)、λ_fは流体の熱伝導率です。

ヌセルト数は対流伝熱と熱伝導の比を表す無次元数であり、Nuが大きいほど対流による伝熱が効果的です。

管内乱流(Re > 10,000)ではディタス・ベルター(Dittus-Boelter)の式が広く使われます。

 

 Nu = 0.023 \, Re^{0.8} \, Pr^{n}

 

nは流体を加熱する場合に0.4、冷却する場合に0.3を用います。

Prはプラントル数で、運動量拡散と熱拡散の比率を表す無次元数です。

 

 Pr = \dfrac{\nu}{a} = \dfrac{c_p \, \mu}{\lambda_f}

 

νは動粘性係数、aは熱拡散率、μは粘性係数です。

水のPrは20℃で約7、100℃で約1.7であり、温度が高いほどPrは小さくなります。

空気のPrは約0.7でほぼ温度に依存せず一定です。

レイノルズ数Reが大きい(流速が速い)ほどヌセルト数が大きくなり、伝熱係数が向上します。

ただし、流速を上げると圧力損失も増加するため、ポンプ動力とのバランスが必要です。

一般的に、管内流速は液体で1〜3 m/s、気体で10〜30 m/s程度に設定されます。

 

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3. 対数平均温度差と流れ方式

熱交換器内では、高温側と低温側の温度差が入口から出口にかけて変化します。

入口付近では温度差が大きくても、出口に向かうにつれて両流体の温度が近づき、温度差は小さくなります。

この変化する温度差を平均化するために用いられるのが対数平均温度差(LMTD: Log Mean Temperature Difference)です。

対数平均温度差の計算式

対数平均温度差は、熱交換器の両端における温度差ΔT_1とΔT_2から計算します。

 

 \Delta T_{lm} = \dfrac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \dfrac{\Delta T_1}{\Delta T_2}}

 

ΔT_1とΔT_2の定義は、流れ方式(向流か並流か)によって異なります。

なお、ΔT_1 = ΔT_2の特殊な場合には、対数の分母が0になるため上式は使えません。

この場合、対数平均温度差は単純にΔT_lm = ΔT_1 = ΔT_2となります。

つまり算術平均と一致します。

また、ΔT_1とΔT_2の差が小さい(比が1に近い)場合にも、算術平均で近似して差し支えありません。

一般的に、ΔT_1/ΔT_2 ≤ 1.7であれば、算術平均との誤差は3%以内に収まります。

向流(カウンターフロー)

向流では、高温側と低温側の流体が互いに反対方向に流れます。

熱交換器の一端では高温側の入口と低温側の出口が、もう一端では高温側の出口と低温側の入口が対向する配置です。

向流の場合、温度差は以下のように定義されます。

 

 \Delta T_1 = T_1 - t_2, \quad \Delta T_2 = T_2 - t_1

 

向流の最大の特長は、低温側の出口温度t_2を高温側の出口温度T_2より高くできることです。

これは並流では不可能な温度交差(テンペラチャークロス)を実現できるという意味で、非常に重要な利点です。

たとえば、高温側の入口90℃・出口50℃、低温側の入口20℃・出口70℃というように、低温側出口70℃が高温側出口50℃を上回る設計も可能です。

この柔軟性の高さから、工業用熱交換器のほとんどは向流方式を採用しています。

理論的には、向流の熱交換効率は最大100%に近づけることが可能であり、エネルギー回収率を最大化したい場合の第一選択です。

並流(パラレルフロー)

並流では、両方の流体が同じ方向に流れます。

並流の温度差は以下のとおりです。

 

 \Delta T_1 = T_1 - t_1, \quad \Delta T_2 = T_2 - t_2

 

同じ入口・出口温度条件であれば、向流のほうが対数平均温度差が大きくなります。

つまり、向流は並流よりも少ない伝熱面積で同じ熱量を交換でき、熱交換効率が高いのです。

並流が使われるのは限定的なケースに限られます。

たとえば、高温流体の入口温度が非常に高く、低温側の管壁温度を急激に上昇させたくない場合には、並流のほうが壁面温度を穏やかに維持できます。

また、粘度の高い流体を予熱する際、並流にすることで流体の粘度低下を早期に促すことができます。

直交流と補正係数

実際の熱交換器では、流体が直角に交差する直交流(クロスフロー)もあります。

自動車のラジエーターやエアコンの室外機がこの方式の代表例です。

直交流やシェルアンドチューブ式のような複雑な流れ方式では、純粋な向流のLMTDに補正係数Fを乗じて有効温度差を求めます。

 

 \Delta T_{\text{eff}} = F \times \Delta T_{lm,\text{cf}}

 

Fは補正係数(Correction Factor)で、通常0.75〜1.0の範囲にあります。

F = 1.0は純粋な向流を意味し、流路の混合や折返しがあるほどFは1.0から低下します。

F < 0.75となる場合は効率が悪すぎるため、パス数の変更やシェル数の増加を検討すべきです。

補正係数Fの値は、流体の温度効率PとP-R図表(チャート)から読み取るのが一般的です。

最近では各メーカーがFの算出ツールを提供しており、手計算よりも正確で効率的に求められます。

 

4. 多管式(シェルアンドチューブ)熱交換器

多管式熱交換器は、円筒形の外殻(シェル)の内部に多数の伝熱管(チューブ)を束ねた構造を持つ熱交換器です。

英語ではシェルアンドチューブ(Shell and Tube)熱交換器と呼ばれ、工業用熱交換器として最も広く使われています。

化学プラント、石油精製、発電所など、大規模な産業設備で圧倒的なシェアを占めています。

構造と動作原理

管束(チューブバンドル)の中を一方の流体(チューブ側流体)が通ります。

管の外側(シェル側)をもう一方の流体(シェル側流体)が流れます。

管壁を介して2つの流体間で熱交換が行われる仕組みです。

シェル側にはバッフル板(邪魔板)が等間隔に設置されています。

バッフル板は流体をチューブに対して直交方向に蛇行させる役割を果たします。

この蛇行流れによって乱流が促進され、シェル側の伝熱係数が大幅に向上します。

管板(チューブシート)はチューブバンドルをシェルに固定する重要な部品です。

管板にはチューブを挿入する穴が多数空けられており、拡管やローラー溶接によってチューブが固定されます。

同時に、管板はチューブ側とシェル側の流体を隔てるシール面としても機能します。

TEMA規格と型式分類

多管式熱交換器の設計は、TEMA(Tubular Exchanger Manufacturers Association)規格に基づいて行われます。

TEMA規格では、フロントヘッド・シェル・リアヘッドの3つの構成要素をアルファベット記号で表記します。

たとえば、「BEM型」はボンネットヘッド(B)、1パスシェル(E)、固定管板式(M)を意味します。

「AES型」はチャンネルヘッド(A)、1パスシェル(E)、遊動頭式(S)を意味します。

固定管板式はシンプルで安価ですが、シェル側の機械的洗浄ができません。

遊動頭式はチューブバンドルの引き抜きが可能で、シェル側・チューブ側の両方を洗浄できます。

U字管式はチューブをU字型に曲げた構造で、熱膨張差を吸収しやすい利点があります。

多管式熱交換器の利点と課題

多管式熱交換器には以下のような利点があります。

  • 高圧・高温の条件に対応できる堅牢な構造(設計圧力30MPa以上、設計温度600℃以上も可能)
  • 大容量の熱交換に適しており、化学プラントや発電所で豊富な実績がある
  • チューブの材質を炭素鋼からチタン・ハステロイまで幅広く選択でき、腐食性流体にも対応可能
  • TEMA規格やJIS B 8249などの設計基準が整備されており、信頼性の高い設計が可能
  • パス数(チューブ側の折返し回数)を変えることで流速と伝熱係数を調整できる

一方で、プレート式と比較した場合の課題もあります。

  • 同じ伝熱量を得るために、より大きな伝熱面積(設置スペース)が必要になる
  • 総括伝熱係数がプレート式の3分の1〜5分の1程度にとどまる場合がある
  • 固定管板式ではシェル側の分解清掃が容易ではなく、メンテナンスに手間がかかる

総括伝熱係数Kの代表的な値は、液体同士の熱交換で300〜1,000 W/(m²・K)程度です。

蒸気と液体の場合は1,000〜4,000 W/(m²・K)程度に上昇します。

 

5. プレート式熱交換器

プレート式熱交換器は、波形にプレス成型された薄い金属板(伝熱プレート)を多数重ね合わせた構造の熱交換器です。

プレートとプレートの隙間に高温側と低温側の流体を交互に流すことで、効率の良い熱交換を実現します。

1930年代に食品産業向けに開発されて以来、その高い伝熱性能とコンパクトさから、現在では化学・空調・船舶・医薬品など幅広い分野で使用されています。

構造と動作原理

伝熱プレートの材質にはステンレス鋼(SUS304やSUS316L)やチタンが一般的に使われます。

プレート表面にはヘリンボーン(V字波形)パターンの凹凸が施されています。

この波形パターンが、低流速域でも流体に乱れを生じさせ、高い伝熱係数を実現する鍵です。

各プレートの周囲にはガスケット(シール材)が配置されており、高温側と低温側の流路を交互に形成します。

ガスケットの材質にはNBR(ニトリルゴム)、EPDM、フッ素ゴム(バイトン)などが使われ、流体の種類や温度に応じて選定します。

NBRは油系流体に強く耐熱温度は約130℃、EPDMは温水・蒸気系に適し耐熱温度は約160℃、フッ素ゴムは耐薬品性に優れ約180℃まで対応できます。

固定フレームと移動フレームの間にプレートを積層し、締付けボルトで圧縮することで液密性を確保します。

プレートに設けられた4つのポート穴(入口2つ、出口2つ)を通じて流体が各プレート間に分配されます。

プレート式の優れた伝熱性能

プレート式熱交換器の最大の特徴は、多管式の3〜5倍にも達する高い総括伝熱係数です。

液体同士の熱交換における総括伝熱係数Kは、1,000〜5,000 W/(m²・K)に達します。

この高い性能を生み出す要因は主に3つあります。

第一に、プレート表面の波形パターンが低いレイノルズ数でも乱流を生じさせます。

多管式では管内流速を上げなければ乱流にならない条件でも、プレート式では波形による流路の急拡大・急縮小が乱れを誘発します。

そのため、少ない流量でも高い伝熱係数が得られるのです。

第二に、プレートの板厚が0.4〜0.6mm程度と非常に薄く、壁面の熱抵抗δ/λが極めて小さくなります。

多管式のチューブ肉厚が通常1〜3mmであるのと比べると、壁面抵抗は数分の1に抑えられます。

第三に、プレート間の流路幅が2〜5mmと狭いため、流体の滞留(デッドゾーン)が少なく、均一な伝熱が実現します。

流路が狭いことで流速も上がりやすく、伝熱促進に寄与します。

プレート式の利点と制約

プレート式熱交換器の主な利点をまとめます。

  • コンパクトな設計により、多管式の3分の1〜5分の1の設置スペースで済む
  • プレートの枚数を増減することで容量変更が容易(将来の増産にも対応しやすい)
  • 分解してプレート1枚ずつの洗浄が可能であり、メンテナンス性に優れる
  • 液体のホールドアップ量(装置内の液量)が少なく、温度追従性が良い
  • 向流効率が0.95以上と高く、多管式(補正係数F = 0.8〜0.9)よりも温度に対する効率が高い

一方で、以下のような制約もあります。

  • ガスケットの耐圧・耐熱性による制限がある(一般的に設計圧力2.5MPa以下、設計温度150℃以下)
  • 高粘度流体や固形物を含む流体には不向き(流路が狭いため閉塞リスクがある)
  • ガスケットは消耗品であり、定期的な交換が必要(交換周期は5〜10年程度)
  • ガス同士の熱交換には適さない(流路が狭く圧力損失が過大になる)

食品・飲料・医薬品など衛生性が求められる分野では、分解洗浄できるプレート式が特に重宝されています。

牛乳のパストリゼーション(低温殺菌)は、プレート式熱交換器の代表的な適用事例です。

ブレージングプレートとオールウェルド

ガスケットの制約を克服するために、ガスケットレスのプレート式熱交換器も開発されています。

ブレージング(ろう付け)プレート式は、銅やニッケルのろう材でプレートを一体接合した構造です。

ガスケットが不要なため、設計圧力3〜4.5MPa、設計温度200〜225℃まで対応できます。

ただし、分解洗浄ができないため、汚れやすい流体には適しません。

オールウェルド(全溶接)プレート式は、プレート端部を溶接で密封した構造です。

設計圧力4MPa以上、設計温度350〜400℃に対応でき、多管式に近い耐圧・耐熱性能を実現しています。

化学プラントのプロセスストリーム間の熱回収など、従来は多管式しか使えなかった領域にも適用が広がっています。

 

6. その他の熱交換器

多管式とプレート式以外にも、用途や条件に応じたさまざまな熱交換器があります。

代表的なものを紹介します。

二重管式熱交換器

二重管式は、外管の中に内管を通した最もシンプルな構造の熱交換器です。

構造が単純なため製作コストが低く、完全な向流を実現できる利点があります。

小規模な実験設備や少量処理のライン、パイロットプラントに適しています。

伝熱面積を大きく取れないため、大容量の処理には向きません。

伝熱面積を増やすために複数の二重管を並列・直列に接続する場合もありますが、配管が複雑になります。

大学の伝熱工学実験では、二重管式熱交換器を用いた向流・並流の比較実験が定番のテーマです。

構造がシンプルで温度分布を測定しやすいため、対数平均温度差や総括伝熱係数の概念を体感的に学べる教材として広く使われています。

フィンチューブ式熱交換器

フィンチューブ式は、管の外表面にフィン(ひれ状の薄板)を取り付けた構造です。

フィンによって伝熱面積を大幅に拡大できるため、気体と液体の熱交換に最適です。

気体側の境膜伝熱係数は液体側に比べて1桁以上小さいため、そのままでは気体側が律速段階(ボトルネック)になります。

フィンで気体側の有効伝熱面積を5〜20倍に拡大することで、この不均衡を補います。

エアコンの室内機・室外機、自動車のラジエーター、空気加熱器、給湯器など、空気を相手にする熱交換器の多くがこの方式を採用しています。

フィンの形状にはプレートフィン、コルゲートフィン、ルーバーフィンなどがあり、風量や圧力損失の条件によって使い分けます。

ルーバーフィンはフィン表面に小さな切り起こしを設けることで境界層を分断し、伝熱係数を向上させる高性能な形状です。

近年の家庭用エアコンでは、ルーバーフィンの採用が主流となっています。

スパイラル式熱交換器

スパイラル式は、2枚の金属板を渦巻き状に巻いて流路を形成する構造です。

流体が渦巻きの中心から外周(またはその逆)へ流れ、隣接する流路の流体と熱交換します。

スパイラル式の最大の利点は自浄作用です。

渦巻き流路の曲率によって生じる二次流れが、壁面に付着した汚れを剥離させる効果があります。

そのため、スラリーや繊維質を含む液体、汚水処理プラントなど、汚れやすい流体の処理に強みがあります。

排水処理プラント、パルプ工場、化学プラントの廃液処理などで実績があります。

また、流路断面積が比較的大きいため、多少の固形物を含む流体でも閉塞しにくいという特長があります。

プレートフィン式熱交換器

プレートフィン式は、波形のフィンを挟んで平板を積層した構造です。

極めてコンパクトで軽量な設計が可能であり、単位体積あたりの伝熱面積が非常に大きくなります。

航空宇宙分野の環境制御システムやLNG(液化天然ガス)プラントの極低温プロセスで使われます。

アルミニウムのろう付けで一体化するため分解洗浄はできず、清浄な流体にのみ適用されます。

単位体積あたりの伝熱面積密度は1,000〜2,500 m²/m³にも達し、他の方式を大きく凌駕します。

 

7. 伝熱面積の計算例

ここでは、向流式の熱交換器を例に、必要な伝熱面積を求める計算手順を示します。

プレート式と多管式の両方で計算し、必要面積の差を比較します。

設計条件

高温側流体(温水)の入口温度T_1 = 90℃、出口温度T_2 = 60℃とします。

低温側流体(冷水)の入口温度t_1 = 20℃、出口温度t_2 = 50℃とします。

高温側の質量流量ṁ_H = 2.0 kg/s、水の比熱c_p = 4.18 kJ/(kg・K)とします。

プレート式熱交換器の総括伝熱係数をK_p = 3,000 W/(m²・K)とします。

多管式熱交換器の総括伝熱係数をK_s = 800 W/(m²・K)とします。

Step 1:必要熱量を求める

高温側の熱量バランスから、必要な熱交換量Qを計算します。

 

 Q = \dot{m}_H \times c_p \times (T_1 - T_2) = 2.0 \times 4.18 \times (90 - 60) = 250.8 \; \text{kW}

 

つまり、約251 kWの熱を高温側から低温側へ移動させる必要があります。

念のため、低温側の質量流量も確認しておきます。

低温側の温度上昇は50 - 20 = 30 Kですので、以下のとおりです。

 

 \dot{m}_C = \dfrac{Q}{c_p \times (t_2 - t_1)} = \dfrac{250{,}800}{4{,}180 \times 30} = 2.0 \; \text{kg/s}

 

この例では、たまたま高温側と低温側の質量流量が等しくなっています。

質量流量が等しい(かつ比熱が同じ)場合、両流体の温度変化幅も等しくなり、対数平均温度差の計算がシンプルになります。

実際のプラントでは高温側と低温側の流量が異なる場合がほとんどですので、一般的にはΔT_1 ≠ ΔT_2となり、対数平均温度差の公式を適用する必要があります。

Step 2:対数平均温度差を求める

向流方式ですので、両端の温度差は以下のとおりです。

 

 \Delta T_1 = T_1 - t_2 = 90 - 50 = 40 \; \text{K}

 

 

 \Delta T_2 = T_2 - t_1 = 60 - 20 = 40 \; \text{K}

 

ΔT_1 = ΔT_2 = 40 Kですので、対数平均温度差は算術平均と一致します。

ΔT_lm = 40 Kです。

Step 3:必要伝熱面積を求める

伝熱基本式を変形して、プレート式と多管式それぞれの必要伝熱面積Aを算出します。

プレート式の場合は以下のとおりです。

 

 A_p = \dfrac{Q}{K_p \times \Delta T_{lm}} = \dfrac{250{,}800}{3{,}000 \times 40} = 2.09 \; \text{m}^2

 

多管式の場合は以下のとおりです。

 

 A_s = \dfrac{Q}{K_s \times \Delta T_{lm}} = \dfrac{250{,}800}{800 \times 40} = 7.84 \; \text{m}^2

 

プレート式では約2.1 m²、多管式では約7.8 m²の伝熱面積が必要です。

プレート式は多管式の約4分の1の面積で同じ伝熱量を実現でき、コンパクトさが定量的に確認できます。

ただし、実際の設計では汚れ係数や安全率を加味するため、計算面積の1.2〜1.5倍程度の余裕を持たせるのが一般的です。

設計余裕(ファウリングマージン)は、流体の汚れやすさと清掃頻度に応じて決定します。

清水系であれば1.2倍程度で十分ですが、冷却水に海水を使う場合は生物付着を見込んで1.5倍以上とすることもあります。

将来的な処理量の増加が見込まれる場合は、さらに余裕を持った面積設計が推奨されます。

 

8. 熱交換器の選定ポイント

熱交換器を選定する際には、流体の条件、運転条件、設置環境を総合的に考慮する必要があります。

ここでは主要な選定基準と、機種ごとの得意分野を整理します。

流体の種類と性状

最初に確認すべきは、熱交換する流体の相(液体・気体・蒸気・二相流・スラリー)です。

気体と液体の組み合わせでは、気体側の伝熱係数が小さいため、フィンで面積を拡大できるフィンチューブ式が有利です。

液体同士の熱交換では、プレート式の高い総括伝熱係数が活きます。

蒸気の凝縮や液体の蒸発をともなう相変化プロセスでは、多管式やプレート式のどちらも使われます。

腐食性の強い流体を扱う場合は、伝熱面の材質選定が重要です。

チタンやハステロイなどの耐食材料への変更が必要になる場合があります。

キャビテーションのリスクがある場合は、流路設計にも注意が必要です。

固形物やスラリーを含む流体では、流路の閉塞リスクを考慮します。

スパイラル式は自浄作用があるため、このような用途に強みを発揮します。

温度・圧力条件

高温・高圧の条件では、構造的な強度が求められるため多管式が第一選択です。

設計圧力10MPa以上、設計温度400℃以上のような過酷な条件は、多管式の独壇場といえます。

プレート式はガスケットの耐熱・耐圧限界に注意が必要ですが、オールウェルド型であれば350〜400℃・4MPa程度まで対応できます。

温度変化が大きい条件では、熱応力による部材の疲労にも配慮が必要です。

多管式のU字管型は熱膨張差を吸収しやすく、このような条件に適しています。

設置スペースとメンテナンス

設置スペースに制約がある場合は、コンパクトなプレート式が有利です。

同じ伝熱性能で比較すると、プレート式は多管式の3分の1〜5分の1のスペースで済みます。

定期的な分解洗浄が必要な食品・医薬品ラインでは、ガスケット式プレート熱交換器が最適です。

一方、長期連続運転を前提とする化学プラントでは、耐久性の高い多管式が適しています。

ライフサイクルコストの考え方

熱交換器の選定では、初期導入コストだけでなくライフサイクルコスト(LCC)の視点が重要です。

LCCにはイニシャルコスト(機器購入費・設置費)に加え、ランニングコスト(ポンプ動力・メンテナンス費・洗浄費)が含まれます。

プレート式は初期費用が安くメンテナンスも容易ですが、ガスケット交換の定期費用が発生します。

多管式は初期費用が高めですが、堅牢な構造で長期運転に向いており、交換部品が少ない利点があります。

総括伝熱係数の目安一覧

選定の参考として、主要な流体条件における総括伝熱係数の代表値を示します。

流体条件 多管式 K値 プレート式 K値
水 ⇔ 水 800〜1,500 3,000〜5,000
油 ⇔ 水 200〜500 600〜1,200
蒸気 ⇔ 水 1,000〜4,000 2,500〜5,000
気体 ⇔ 気体 10〜50 適用困難

※ 単位はすべて W/(m²・K) です。実際の値は流速・汚れ・プレートパターンなどの条件で変動します。

上記のK値一覧と選定フローに沿って機種を絞り込んだうえで、メーカーに詳細設計を依頼するのが一般的な実務の進め方です。

メーカーへの引合い(見積依頼)時には、流体の種類と物性、流量、入口・出口温度、設計圧力、材質の希望、設置スペースの制約を明記することで、適切な提案を受けやすくなります。

 

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9. エアコンにおける熱交換器の役割

最も身近な熱交換器の応用例がエアコンです。

エアコンは冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)によって、室内と室外の間で熱を移動させる装置です。

この冷凍サイクルの中で、凝縮器と蒸発器という2つの熱交換器が中心的な役割を担っています。

冷凍サイクルの概要

エアコンの冷房運転時、冷媒は以下の4つのプロセスを繰り返します。

まず、圧縮機で冷媒ガスを高温高圧に圧縮します。

圧縮された冷媒は室外機の凝縮器(熱交換器)に送られ、外気に放熱して液化します。

液化した冷媒は膨張弁で減圧されて低温低圧になります。

低温低圧になった冷媒は室内機の蒸発器(熱交換器)で室内空気から吸熱して蒸発し、ガスに戻ります。

この過程で室内の空気は冷やされ、吸い取られた熱は室外へ排出されます。

暖房運転時は、四方弁で冷媒の流れを逆転させることで、室外から室内へ熱を汲み上げます。

エアコンに使われる熱交換器の種類

エアコンの室内機・室外機にはフィンチューブ式熱交換器が使われています。

銅管(最近ではアルミ管も増加)の内部を冷媒が流れ、管に取り付けられたアルミフィンを通じて空気と熱交換します。

冷媒側は相変化(凝縮・蒸発)をともなうため、伝熱係数が非常に高くなります。

凝縮時で5,000〜10,000 W/(m²・K)、蒸発時で3,000〜8,000 W/(m²・K)程度です。

一方、空気側の伝熱係数は30〜80 W/(m²・K)程度と1〜2桁小さいため、フィンによる伝熱面積の拡大が不可欠です。

フィンピッチ(フィンの間隔)は1.2〜2.0mm程度が一般的で、結露水の排水性と伝熱面積のバランスで設計されます。

エアコンの成績係数と熱交換器の関係

エアコンの省エネ性能を示す指標が成績係数(COP: Coefficient of Performance)です。

 

 COP = \dfrac{Q}{W}

 

Qは冷暖房能力(移動させた熱量、kW)、Wは圧縮機の消費電力(kW)です。

COP = 5であれば、1 kWの電力で5 kW分の冷暖房ができることを意味します。

熱交換器の伝熱性能が高いほど、冷媒と空気の温度差を小さく設計できます。

冷媒の蒸発温度を高く(冷房時)、凝縮温度を低く(暖房時)できれば、圧縮機の仕事量が減りCOPが向上します。

近年のルームエアコンでは、COP 5〜7を実現する高性能な熱交換器が搭載されています。

フィン表面に親水コーティングを施して結露水の排水性を改善したり、マイクロチャネル構造で冷媒側の伝熱を促進したりと、熱交換器の技術革新がエアコンの省エネ性能向上に直結しています。

また、環境規制によりフロン冷媒からR32やR290(プロパン)などの低GWP冷媒への転換が進んでおり、冷媒の熱物性変化に対応した熱交換器の再設計も重要な課題となっています。

 

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まとめ

本記事では、熱交換器の基本原理から主要な種類、伝熱計算の方法、選定のポイントまでを解説しました。

熱交換器は、高温側と低温側の流体間で熱を移動させる装置であり、その性能は総括伝熱係数K、伝熱面積A、対数平均温度差ΔT_lmの3つの因子で決まります。

この基本式Q = KAΔTlmを理解することが、熱交換器の設計・選定における第一歩です。

多管式(シェルアンドチューブ)は高圧・大容量に対応できる堅牢な構造が強みです。

化学プラントや発電所など、過酷な条件下での長期連続運転に適しています。

プレート式は多管式の3〜5倍の総括伝熱係数を実現し、コンパクトな設計で省スペース化に貢献します。

食品・医薬品など衛生性が求められる分野では、分解洗浄できるプレート式が特に重宝されています。

フィンチューブ式は空気を相手にする用途で欠かせない存在であり、エアコンや自動車のラジエーターに搭載されています。

スパイラル式は自浄作用でスラリー処理に強みを持ち、二重管式はシンプルな構造で小規模プロセスに適しています。

用途に応じた適切な機種選定と正確な伝熱計算が、効率的な熱管理システムの構築につながります。

近年では、データセンターの液冷や工場廃熱のカスケード利用など、新たな適用分野も広がっています。

熱交換器は省エネルギーと脱炭素を推進するうえで、ますます重要性を増している技術要素です。

本記事の計算例や選定フローを参考に、最適な熱交換器の設計を進めてみてください。