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熱伝達率とは?熱伝導率との違いと求め方

真冬の屋外で金属の手すりに触れると、一瞬で指先から体温が奪われます。

ところが同じ気温でも、木製のベンチに触れてもそこまで冷たくは感じません。

この体感差は「熱伝導率」の違いで説明できますが、実際の設備設計ではもうひとつ重要な指標があります。

それが「熱伝達率」です。

熱伝達率は固体と流体の間で熱がどれだけ効率的にやり取りされるかを示す値であり、冷却設計や熱交換器の選定において欠かせません。

本記事では、熱伝達率の定義と単位、熱伝導率との違い、ニュートンの冷却法則から導く求め方、ヌセルト数を用いた計算方法、さらに自然対流・強制対流の代表値まで、設計実務に必要な知識を体系的に解説します。

 

1. 熱伝達率とは

熱伝達率の概念図

熱伝達率(heat transfer coefficient)とは、固体表面と接する流体との間で熱がどれだけ移動しやすいかを表す係数です。

記号は h で表され、単位は W/(m²·K) です。

 

熱伝達率の値が大きいほど、固体と流体の間で効率的に熱が交換されることを意味します。

逆に値が小さければ、固体表面に熱がこもりやすく、放熱が不十分になります。

 

熱伝達率は物質固有の定数ではありません。

流体の種類(空気・水・油など)だけでなく、流速、温度差、固体表面の形状、流れの状態(層流・乱流)によって大きく変化します。

たとえば静止した空気の熱伝達率は 5〜25 W/(m²·K) 程度ですが、水の強制対流では 500〜10,000 W/(m²·K) にもなります。

同じ流体でも流速やジオメトリが異なれば、熱伝達率は何倍も変わることがあります。

 

このように熱伝達率は条件依存の係数であるため、設計では使用環境に合った値を正しく見積もることが極めて重要です。

冷却が不足すれば機器は過熱し、逆に過剰な冷却はエネルギーの無駄遣いになります。

適切な熱伝達率の見積もりは、安全性とコストのバランスを取るために不可欠なプロセスです。

 

熱伝達率の別名と英語表記

熱伝達率は文献や分野によって呼び方が異なります。

熱伝達係数」「対流熱伝達率」「膜伝熱係数」「境膜係数」などはすべて同じ物理量を指しています。

英語では heat transfer coefficient と呼ばれ、記号は h を用いるのが国際的な標準です。

 

なお「伝熱係数」という用語は、熱伝達率だけでなく総括伝熱係数(U値)を含む広い概念で使われることもあるため、文脈に応じた使い分けが必要です。

化学工学系の教科書では「境膜伝熱係数」、機械工学系では「熱伝達率」が好まれる傾向があります。

 

熱伝達率を決める5つの要因

熱伝達率の値を決定する主な要因をまとめると、次の 5 つに整理できます。

  • 流体の種類:気体(空気・窒素)は熱伝導率が低いため h が小さく、液体(水・油)は h が大きくなります。水は空気の約 23 倍の熱伝導率を持ち、この差が空冷と水冷の性能差の根本原因です
  • 流速:流速が大きいほど壁面近傍の温度境界層が薄くなり、温度勾配が急になって h が上昇します。一般に流速を 2 倍にすると、h は約 1.7〜1.8 倍になります
  • 流れの状態:乱流は層流に比べて渦による混合が活発で、h が大幅に増加します。層流から乱流への遷移が起きるとき、h は数倍に跳ね上がることがあります
  • 固体表面の形状:粗面やフィン付きの表面は実効的な伝熱面積が増え、見かけの h が向上します。ヒートシンクのフィン設計はこの原理を活用しています
  • 温度差:自然対流では壁面と流体の温度差が大きいほど浮力駆動が強まり、h が増加します。ただし温度差が極端に大きいと物性値が大きく変化するため、補正が必要になることがあります

 

2. 熱伝達率と熱伝導率の違い

熱伝達率と熱伝導率の比較

熱伝達率と混同されやすい指標に「熱伝導率」があります。

名前は似ていますが、両者は対象とする現象が根本的に異なります。

この 2 つの違いを正確に理解しておくことは、伝熱計算の第一歩として非常に重要です。

 

熱伝導率(thermal conductivity)は、ひとつの物質の内部を熱が伝わる速さを示す物性値です。

記号は λ(ラムダ)または k で表され、単位は W/(m·K) です。

銅の熱伝導率は約 398 W/(m·K)、ステンレス鋼は約 16 W/(m·K) と、物質ごとに固有の値を持ちます。

温度によって多少変化しますが、圧力や流れの影響は受けません。

 

一方、熱伝達率は固体と流体という「異なる物質の境界」で熱が移動する速さを示す係数です。

物質固有の値ではなく、流れの条件に大きく依存します。

同じ金属板の表面でも、静止空気中では h ≈ 10 W/(m²·K) ですが、高速の水流中では h ≈ 5,000 W/(m²·K) にもなります。

 

比較項目 熱伝導率 λ 熱伝達率 h
対象現象 固体内部の熱移動 固体と流体の境界での熱移動
単位 W/(m·K) W/(m²·K)
物質固有か 固有値(物性値) 条件依存(流速・形状・温度で変化)
支配法則 フーリエの法則 ニュートンの冷却法則
代表例 銅 398、鋼 50、空気 0.026 自然対流 5〜25、強制対流 500〜10,000
使用場面 壁や部材の断熱・伝熱設計 冷却・放熱・熱交換器の設計

 

実務では、熱伝導率で壁を通過する熱量を計算し、熱伝達率で壁面と周囲流体のあいだの熱量を計算します。

両者を組み合わせることで、系全体の「熱通過率(総括伝熱係数)」を求めることができます。

 

単位の違いに注目する

熱伝導率の単位は W/(m·K) であり、分母の長さの次元が 1 乗です。

これは「厚さ 1 m の物質を通して、温度差 1 K あたりに流れる熱流束」を意味しています。

壁が薄いほど(厚さが小さいほど)多くの熱が通過するため、熱流束 q は q = λ ΔT / t のように厚さ t で割って計算します。

 

一方、熱伝達率の単位は W/(m²·K) であり、分母に面積の次元があります。

こちらは「面積 1 m² の表面を通して、温度差 1 K あたりに流れる熱量」を意味しています。

熱伝達には「厚さ」の概念がなく、あくまで表面での境界現象です。

この単位の違いを理解しておけば、両者の混同を確実に防ぐことができます。

 

主要物質の熱伝導率一覧

参考として、設計でよく参照される主要物質の熱伝導率を以下に示します。

物質 熱伝導率 λ [W/(m·K)] 備考
398 ヒートパイプ・放熱部品に多用
アルミニウム 237 ヒートシンク・筐体に採用
炭素鋼(S45C) 50 配管・構造材の代表
ステンレス鋼(SUS304) 16 耐食性が高いが伝熱は不利
水(25°C) 0.607 液体の中では比較的高い
空気(25°C) 0.026 断熱材に閉じ込めて利用
ガラスウール 0.04 建築・プラント断熱材

 

空気の熱伝導率は水の約 1/23 しかありません。

これが、空気を冷媒とする空冷の熱伝達率が水冷と比べて桁違いに低い根本的な理由です。

また、ステンレス鋼は銅の約 1/25 の熱伝導率しかないため、ステンレス製の熱交換器はフィンやプレート構造で伝熱面積を稼ぐ工夫が必要となります。

 

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3. ニュートンの冷却法則と基本式

ニュートンの冷却法則の説明図

熱伝達率の定義は、1701年にアイザック・ニュートンが発表した「ニュートンの冷却法則」に基づいています。

この法則は、固体表面から流体へ移動する単位時間あたりの熱量が、温度差に比例するという経験則です。

シンプルな法則でありながら、工学的な伝熱設計の根幹を支えています。

 

数式で表すと、次のようになります。

 

 Q = h \cdot A \cdot (T_w - T_f)

 

各記号の意味は以下のとおりです。

  • Q:伝熱量 [W](1秒あたりに移動する熱エネルギー)
  • h:熱伝達率 [W/(m²·K)]
  • A:伝熱面積 [m²]
  • T_w:固体壁面の温度 [K または °C]
  • T_f:流体の温度 [K または °C](主流温度またはバルク温度)

 

温度差 ΔT = T_w − T_f は、ケルビン [K] でも摂氏 [°C] でも同じ値になります。

温度「差」を計算する場合は、絶対温度と摂氏の数値差は変わらないためです。

 

この式を熱伝達率 h について解くと、次の式が得られます。

 

 h = \dfrac{Q}{A \cdot (T_w - T_f)}

 

つまり熱伝達率とは、「単位面積あたり、単位温度差あたりに移動する熱量」を表しているのです。

この定義式は、実験データから h を逆算する際にも直接使用されます。

 

熱流束の表現

面積で割った単位面積あたりの伝熱量を熱流束(heat flux)と呼び、q で表します。

 

 q = \dfrac{Q}{A} = h \cdot (T_w - T_f)

 

熱流束の単位は W/m² です。

壁面の温度分布や局所的な熱伝達の性能を評価する際には、全体の伝熱量 Q よりも熱流束 q のほうが便利な場面が多くあります。

 

計算例:金属板の自然空冷

たとえば、表面温度 80°C の金属板(面積 0.5 m²)が 20°C の空気中に置かれ、放熱量が 300 W であったとします。

このときの熱伝達率は次のように求まります。

 

 h = \dfrac{300}{0.5 \times (80 - 20)} = \dfrac{300}{30} = 10 \text{ W/(m²·K)}

 

この値は静止空気の自然対流における典型的な熱伝達率です。

もしファンで強制的に風を当て、h が 100 W/(m²·K) に上昇したとすると、同じ面積で同じ温度差の場合に放散できる熱量は次のようになります。

 

 Q = 100 \times 0.5 \times (80 - 20) = 3{,}000 \text{ W}

 

ファンを設けるだけで放熱量が 10 倍に増加し、機器の温度上昇を大幅に抑制できることがわかります。

この定量的な見積もりこそが、冷却方式を選定するうえでの意思決定の根拠となります。

 

4. 伝熱の3形態と熱伝達の位置づけ

伝熱の3形態

工学における伝熱は、大きく以下の 3 つの形態に分類されます。

熱伝達率がどの位置づけにあるのかを理解するために、3 形態の全体像を把握しておきましょう。

 

熱伝導(conduction)

熱伝導は、物質内部で分子振動や自由電子の運動によって熱が高温側から低温側へ伝わる現象です。

フーリエの法則で記述されます。

 

 q = -\lambda \dfrac{dT}{dx}

 

ここで q は熱流束 [W/m²]、λ は熱伝導率 [W/(m·K)]、dT/dx は温度勾配 [K/m] です。

マイナス符号は、熱が温度の高い方から低い方に向かって流れることを示しています。

固体の壁や部材を通じた伝熱の計算に使われ、断熱材の厚さ設計や壁面温度の予測に欠かせない法則です。

 

たとえば厚さ 10 mm の鋼板(λ = 50 W/(m·K))の両面温度差が 50°C のとき、熱流束は次のように計算されます。

 

 q = 50 \times \dfrac{50}{0.010} = 250{,}000 \text{ W/m²} = 250 \text{ kW/m²}

 

鋼板の熱伝導は非常に速く、壁そのものが伝熱のボトルネックになることは稀です。

 

熱伝達(convection)

熱伝達は、固体表面と流体のあいだで、流体の移動をともなって熱が輸送される現象です。

ニュートンの冷却法則で記述され、まさに熱伝達率 h がこの現象を定量化する指標です。

壁面近傍の流体は薄い境界層を形成し、この境界層内での熱の受け渡しが伝熱量を決定します。

 

対流には自然対流と強制対流の 2 種類があり、後者のほうが圧倒的に高い熱伝達率を示します。

工業設備の多くでは、ポンプやファンによる強制対流を利用して必要な放熱性能を確保しています。

 

熱放射(radiation)

熱放射は、電磁波を介して真空中でも熱が移動する現象です。

ステファン=ボルツマンの法則で記述されます。

 

 q_r = \varepsilon \sigma T^4

 

ここで ε は放射率(0〜1)、σ はステファン=ボルツマン定数(5.67 × 10⁻⁸ W/(m²·K⁴))です。

高温炉や宇宙空間のように流体が存在しない環境では、熱放射が支配的な伝熱形態となります。

一方、室温付近の工業設備では放射の寄与は小さく、対流が主な伝熱経路です。

 

温度境界層と熱伝達のメカニズム

熱伝達の物理を深く理解するには、「温度境界層」の概念が欠かせません。

流体が固体壁面に沿って流れるとき、壁面近傍には速度がゼロから主流速度へと変化する薄い層(速度境界層)が形成されます。

同様に、壁面温度から流体の主流温度へと変化する薄い層が形成され、これが温度境界層です。

 

温度境界層の中では、流体の流速が遅いために対流による熱輸送が弱まります。

特に壁面に最も近い極薄の層では、流速がほぼゼロのため熱伝導のみで熱が移動します。

この薄い層の存在が、固体と流体の間に「熱抵抗」を生み出すのです。

 

温度境界層が薄いほど、壁面から主流への温度勾配が急になり、熱伝達率は高くなります。

乱流が層流よりも高い熱伝達率を示すのは、乱流の渦が温度境界層を撹乱して薄くするためです。

流速を上げたり表面にフィンを設けたりすることで温度境界層を薄くすることが、放熱設計の基本戦略です。

 

実際の設備では、熱伝導・熱伝達・熱放射の 3 つが同時に作用しています。

たとえば熱交換器では、管壁の熱伝導と管内外の流体による熱伝達の両方を考慮して、総括伝熱係数を計算します。

高温プロセスでは放射の寄与も無視できないため、3 形態すべてを含むモデルが必要となります。

 

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5. 自然対流と強制対流

自然対流と強制対流の比較

熱伝達は流体の流れ方によって「自然対流」と「強制対流」の 2 つに大別されます。

どちらの対流モードであるかによって、熱伝達率の値は桁違いに変わります。

冷却方式の選定は、この 2 つのモードの特性を正しく理解することから始まります。

 

自然対流(自由対流)

自然対流は、温度差によって生じる流体の密度差が駆動力となる流れです。

加熱された流体は軽くなって上昇し、周囲の冷たい流体が下降することで循環的な対流が発生します。

ファンやポンプなどの外部動力を一切必要としないため、電子機器の自然空冷、建築物の換気、暖房ラジエーターの放熱などに広く利用されます。

 

ただし自然対流は強制対流に比べて流速が遅く、得られる熱伝達率は低めです。

発熱量が大きい場合や密閉空間では自然対流だけでは放熱が追いつかないため、強制対流への切り替えが必要です。

 

自然対流の特性を表す無次元数として、グラスホフ数 Gr が用いられます。

 

 Gr = \dfrac{g \beta (T_w - T_f) L^3}{\nu^2}

 

ここで g は重力加速度 [m/s²]、β は体膨張係数 [1/K]、L は代表長さ [m]、ν は動粘性係数 [m²/s] です。

グラスホフ数は浮力と粘性力の比を表しており、この値が大きいほど対流が活発になります。

理想気体の場合は β ≈ 1/T_f(絶対温度の逆数)で近似でき、空気の設計計算ではこの近似がよく使われます。

 

強制対流

強制対流は、ファン・ポンプ・ブロアなどの外部動力で流体を強制的に流す場合の対流です。

流速を高くすることで熱伝達率を飛躍的に向上させることができ、工業用の冷却システム、空調設備、熱交換器の大多数は強制対流を採用しています。

 

強制対流の特性を表す無次元数としては、レイノルズ数 Re が中心的な役割を果たします。

 

 Re = \dfrac{u L}{\nu}

 

ここで u は流速 [m/s]、L は代表長さ [m]、ν は動粘性係数 [m²/s] です。

管内流では内径を代表長さとし、Re < 2,300 で層流、Re > 4,000 で乱流と判定します。

その間の 2,300〜4,000 は遷移域であり、流れが不安定に層流と乱流を行き来する領域です。

 

乱流では渦が壁面近傍の流体を激しくかき混ぜるため、温度境界層が薄くなり熱伝達率が大幅に向上します。

実務では乱流域で運転するのが一般的ですが、乱流化に伴って圧力損失も増加するため、放熱性能とポンプ動力のトレードオフを考慮する必要があります。

 

熱伝達率の代表値一覧

各対流モードと流体の組み合わせにおける熱伝達率の代表値を以下にまとめます。

対流の種類 流体 熱伝達率 h の目安 [W/(m²·K)]
自然対流 空気 5〜25
自然対流 100〜1,000
強制対流 空気 10〜500
強制対流 500〜10,000
強制対流 50〜1,500
沸騰(核沸騰) 2,500〜25,000
凝縮(膜状凝縮) 水蒸気 5,000〜100,000

 

この一覧からわかるように、同じ流体でも自然対流と強制対流では熱伝達率が 10 倍以上異なることがあります。

また沸騰や凝縮をともなう場合は、潜熱の放出・吸収が加わるためさらに高い熱伝達率が得られます。

蒸気タービンの復水器や冷凍サイクルの凝縮器は、この高い熱伝達率を活用した代表的な装置です。

 

設計の初期段階で対流の種類を正しく見極め、上表の概算値でまず放熱の可否を判断することが、適切な冷却設計の第一歩です。

 

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6. ヌセルト数による熱伝達率の求め方

ヌセルト数の計算フロー

実務で熱伝達率を求める際、最もよく使われる手法が「ヌセルト数(Nusselt number)」を経由する方法です。

ヌセルト数は、対流による熱伝達と静止流体の熱伝導の比を表す無次元数で、次のように定義されます。

 

 Nu = \dfrac{h L}{\lambda}

 

ここで h は熱伝達率 [W/(m²·K)]、L は代表長さ [m]、λ は流体の熱伝導率 [W/(m·K)] です。

ヌセルト数が 1 に等しければ、対流は熱伝導と同程度しか熱を運べていないことを意味します。

Nu > 1 であるほど、対流による伝熱促進の効果が大きいということです。

 

この式を h について変形すると、次のように熱伝達率が求まります。

 

 h = \dfrac{Nu \cdot \lambda}{L}

 

つまり、ヌセルト数さえわかれば、流体の熱伝導率と代表長さから熱伝達率を計算できるのです。

ヌセルト数は膨大な実験データから得られた相関式(実験式)として整備されており、条件に合った式を選んで使います。

 

強制対流でのヌセルト数

強制対流では、ヌセルト数はレイノルズ数 Re とプラントル数 Pr の関数として表されます。

 

 Nu = f(Re, Pr)

 

代表的な実験相関式として、管内乱流の ディッタス=ベルター式(Dittus-Boelter equation)があります。

1930年に発表されて以来、最も広く使われている相関式のひとつです。

 

 Nu = 0.023 \cdot Re^{0.8} \cdot Pr^{n}

 

ここで n は加熱時(壁面温度 > 流体温度)に 0.4、冷却時(壁面温度 < 流体温度)に 0.3 をとります。

適用範囲は Re > 10,000(十分に発達した乱流)、0.7 < Pr < 160、L/d > 10(助走区間を超えた十分に発達した流れ)です。

 

管内層流(Re < 2,300)で壁面温度が一定の場合は、次の理論解が使われます。

 

 Nu = 3.66 \quad (\text{十分に発達した層流、壁面温度一定})

 

層流では Nu が定数になるという特徴的な結果が得られます。

これは、層流では流速分布と温度分布が安定しているため、熱伝達率が流速に依存しなくなるためです。

 

自然対流でのヌセルト数

自然対流では、レイノルズ数の代わりにグラスホフ数 Gr を用い、ヌセルト数は次のように表されます。

 

 Nu = C \cdot (Gr \cdot Pr)^{m} = C \cdot Ra^{m}

 

ここで Ra = Gr × Pr はレイリー数(Rayleigh number)と呼ばれ、自然対流の強さを表す代表的な無次元数です。

定数 C と指数 m は対象形状(平板・円柱・球など)と流れの状態(層流・乱流)によって異なります。

 

たとえば垂直平板の自然対流では、次の相関式が広く用いられます。

 

 Nu = 0.59 \cdot Ra^{0.25} \quad (10^4 \leq Ra \leq 10^9 \text{、層流})

 

 Nu = 0.13 \cdot Ra^{1/3} \quad (10^9 \leq Ra \leq 10^{13} \text{、乱流})

 

水平円柱の場合は Churchill-Chu の相関式が標準的に使用されます。

形状ごとに使用する相関式が異なるため、伝熱工学のハンドブックで確認することが実務上重要です。

 

プラントル数とは

プラントル数 Pr は、流体の運動量拡散と熱拡散の比を表す無次元数で、次のように定義されます。

 

 Pr = \dfrac{\nu}{\alpha} = \dfrac{c_p \mu}{\lambda}

 

ここで ν は動粘性係数 [m²/s]、α は温度伝導率 [m²/s]、c_p は定圧比熱 [J/(kg·K)]、μ は粘度 [Pa·s] です。

Pr が大きい流体ほど、速度境界層に比べて温度境界層が薄くなります。

 

代表的な流体のプラントル数を以下に示します。

  • 空気:Pr ≈ 0.71(速度境界層と温度境界層がほぼ同じ厚さ)
  • 水(25°C):Pr ≈ 6.1(温度境界層が速度境界層より薄い)
  • 水(80°C):Pr ≈ 2.2(温度上昇で粘度が下がり Pr が低下)
  • 機械油:Pr ≈ 100〜1,000(温度境界層が非常に薄い)
  • 液体金属(ナトリウム):Pr ≈ 0.01(温度境界層が速度境界層より厚い)

 

プラントル数は物性値だけで決まるため、温度さえわかれば物性表から読み取ることができます。

 

7. 管内強制対流の計算例

管内強制対流の計算手順

ここまでの知識を使い、具体的な条件で熱伝達率を求める計算例を示します。

実際の設計手順に沿ったステップ形式で進めますので、自分の設計条件に当てはめて練習してみてください。

 

問題設定

内径 d = 50 mm の円管内を、平均流速 u = 2.0 m/s で水が流れています。

管壁を加熱して水を温める状況を想定します。

水の物性値は次のとおりとします(平均温度 40°C における値)。

  • 密度 ρ = 992 kg/m³
  • 動粘性係数 ν = 6.58 × 10⁻⁷ m²/s
  • 熱伝導率 λ = 0.631 W/(m·K)
  • プラントル数 Pr = 4.34

 

Step 1:レイノルズ数を求める

まずレイノルズ数を計算し、流れが層流か乱流かを判定します。

管内流の代表長さは内径 d です。

 

 Re = \dfrac{u \cdot d}{\nu} = \dfrac{2.0 \times 0.050}{6.58 \times 10^{-7}} \approx 152{,}000

 

Re ≈ 152,000 であり、臨界レイノルズ数 2,300 をはるかに超えているため、流れは十分に発達した乱流です。

したがって、ディッタス=ベルター式を適用できます。

 

Step 2:ヌセルト数を求める

加熱の場合(n = 0.4)を用いてディッタス=ベルター式を計算します。

 

 Nu = 0.023 \times Re^{0.8} \times Pr^{0.4}

 

まず各項を個別に計算します。

 

 Re^{0.8} = (152{,}000)^{0.8} \approx 17{,}500

 

 Pr^{0.4} = (4.34)^{0.4} \approx 1.87

 

これらを代入すると、

 

 Nu = 0.023 \times 17{,}500 \times 1.87 \approx 753

 

ヌセルト数が 753 ということは、対流による熱移動が静止水の熱伝導の 753 倍も効率的であることを意味しています。

 

Step 3:熱伝達率を求める

ヌセルト数の定義式から熱伝達率を計算します。

 

 h = \dfrac{Nu \cdot \lambda}{d} = \dfrac{753 \times 0.631}{0.050} \approx 9{,}500 \text{ W/(m²·K)}

 

このように、管内の水の強制対流では約 9,500 W/(m²·K) という非常に高い熱伝達率が得られます。

空気の自然対流(5〜25 W/(m²·K))と比較すると、400 倍近い差があることがわかります。

これが、水冷却が空冷よりも圧倒的に効率的である理由です。

 

計算結果の検証

得られた h = 9,500 W/(m²·K) が妥当かどうか、前述の代表値一覧で確認してみましょう。

水の強制対流の目安は 500〜10,000 W/(m²·K) でしたので、9,500 は上限付近ですが範囲内です。

流速 2.0 m/s はかなり高速(Re ≈ 152,000 の十分な乱流)であるため、高めの値が出ることは合理的です。

 

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8. 総括伝熱係数(熱通過率)への展開

総括伝熱係数の概念図

実際の熱交換器や配管設備では、熱は「流体A → 管壁 → 流体B」のように複数の伝熱過程を経て移動します。

この系全体の伝熱性能を示す指標が「総括伝熱係数 U」(overall heat transfer coefficient、熱通過率とも呼ばれます)です。

熱交換器の設計では、個々の熱伝達率よりもこの U 値が最終的な設計指標となります。

 

総括伝熱係数の導出

平板壁の場合、高温側流体から低温側流体への伝熱過程は 3 つの直列抵抗で構成されます。

  • 高温側流体の対流熱伝達(熱抵抗 1/h₁)
  • 壁の熱伝導(熱抵抗 t/λ_w)
  • 低温側流体の対流熱伝達(熱抵抗 1/h₂)

 

これらを直列に足し合わせると、総括伝熱係数は次のように求められます。

 

 \dfrac{1}{U} = \dfrac{1}{h_1} + \dfrac{t}{\lambda_w} + \dfrac{1}{h_2}

 

ここで h₁ は高温側の熱伝達率、h₂ は低温側の熱伝達率、t は壁の厚さ、λ_w は壁材料の熱伝導率です。

この式は電気回路のオームの法則における直列抵抗と完全にアナロジーが成り立ちます。

電圧が温度差、電流が熱流束、抵抗が熱抵抗に対応しています。

 

計算例:気液熱交換器

高温側の水の熱伝達率 h₁ = 5,000 W/(m²·K)、低温側の空気の熱伝達率 h₂ = 50 W/(m²·K)、鋼壁(λ_w = 50 W/(m·K)、厚さ t = 5 mm)の場合を考えます。

 

 \dfrac{1}{U} = \dfrac{1}{5{,}000} + \dfrac{0.005}{50} + \dfrac{1}{50}

 

各項を計算します。

 

 \dfrac{1}{U} = 0.0002 + 0.0001 + 0.02 = 0.0203

 

 U = \dfrac{1}{0.0203} \approx 49.3 \text{ W/(m²·K)}

 

各抵抗の内訳を見ると、次のことがわかります。

  • 高温側(水)の熱抵抗:0.0002 → 全体の 1.0%
  • 壁の熱抵抗:0.0001 → 全体の 0.5%
  • 低温側(空気)の熱抵抗:0.02 → 全体の 98.5%

 

低温側の空気の熱伝達率 50 W/(m²·K) が全体の 98.5% の熱抵抗を占めています。

つまり、高温側の水側をいくら改善しても、空気側がボトルネックである限り効果は限定的です。

 

ボトルネック改善の実務的対策

このようにボトルネックが特定されたら、その部分を集中的に改善します。

空気側の熱抵抗が支配的な場合の主な対策は次のとおりです。

  • フィンの追加:空気側の管外にフィンを設けて伝熱面積を 10〜20 倍に拡大する(フィンチューブ型熱交換器)
  • 強制対流化:ファンやブロアで空気を強制的に送り、h を 50 → 200 W/(m²·K) に引き上げる
  • 流路設計の最適化:空気の流路を狭くして流速を上げ、乱流化を促進する

 

これらの対策を講じることで、U 値を 2〜5 倍に向上させることが可能です。

逆に、両側がともに水の液液熱交換器では、壁の熱伝導が相対的に無視できるため、U 値は両側の h の調和平均に近い値になります。

 

9. 設計実務での活用ポイント

設計実務のチェックポイント

熱伝達率を設計に活用する際に、押さえておくべき実務上のポイントを整理します。

理論式を正しく適用するだけでなく、現場特有の不確実性に対処することが信頼性の高い設計につながります。

 

安全率の考え方

実験相関式で求めたヌセルト数には ±20〜30% 程度の誤差が含まれます。

これは相関式が平均的な実験結果から導かれたものであり、個別の条件に完全に一致するとは限らないためです。

そのため設計では、やや厳しめの値を採用するのが一般的です。

具体的には、放熱設計なら低めの h(冷却能力を安全側で評価)、加熱設計なら高めの h(加熱量を安全側で評価)を選びます。

 

物性値の温度依存性

流体の物性値は温度によって大きく変化します。

特に水の動粘性係数は温度依存性が顕著です。

20°C で約 1.0 × 10⁻⁶ m²/s、80°C で約 0.36 × 10⁻⁶ m²/s と、温度が上がると動粘性係数は約 1/3 に減少します。

動粘性係数が小さくなるとレイノルズ数が増加し、その結果としてヌセルト数も大きくなり、熱伝達率は高くなります。

 

物性値は平均膜温度(壁面温度と流体温度の算術平均)で評価するのが標準的な手法です。

 

 T_m = \dfrac{T_w + T_f}{2}

 

この温度における物性値をハンドブックや物性表から読み取って使用します。

壁面温度と流体温度の差が大きい場合(例:100°C以上)は、粘度補正項を追加した Sieder-Tate 式の使用を検討します。

 

汚れ係数(ファウリング)

熱交換器の長期運転では、伝熱面にスケール(水垢)、サビ、微生物膜、油膜などの汚れが付着します。

これらの汚れは追加の熱抵抗として機能し、実質的な総括伝熱係数を低下させます。

この影響を「汚れ係数(fouling factor)」R_f として定量的に組み込みます。

 

 \dfrac{1}{U_d} = \dfrac{1}{U_c} + R_{f1} + R_{f2}

 

ここで U_d は汚れ考慮後の総括伝熱係数、U_c はクリーン状態の総括伝熱係数、R_f1 と R_f2 はそれぞれの流体側の汚れ係数です。

汚れ係数の代表値として、清浄水は 0.0001〜0.0002 m²·K/W、冷却塔循環水は 0.0002〜0.0004 m²·K/W、重質油は 0.001 m²·K/W 程度が目安です。

設計段階で汚れ係数を見込んでおくことが、長期安定運転のための必須事項です。

 

代表長さの選び方

ヌセルト数やレイノルズ数の計算では「代表長さ」の選定が重要です。

断面形状ごとに使用する代表長さが異なります。

  • 円管:内径 d
  • 非円形ダクト:等価直径(水力直径)D_h
  • 平板上の外部流:流れ方向の長さ L
  • 垂直壁の自然対流:壁の高さ H

 

非円形ダクトの等価直径は次のように計算します。

 

 D_h = \dfrac{4 A_c}{P}

 

ここで A_c は流路の断面積 [m²]、P は濡れ縁長さ [m](流体が壁面と接触する周長)です。

たとえば一辺 a の正方形ダクトでは A_c = a²、P = 4a なので D_h = a となります。

代表長さの選び方を誤ると、レイノルズ数やヌセルト数の計算結果が大きくずれるため、注意が必要です。

 

フィンによる伝熱促進

空気側の熱伝達率が低い場合、フィン(放熱板)を設けて伝熱面積を拡大するのが最も一般的かつ効果的な対策です。

フィンの効果は「フィン効率」η_f で評価されます。

 

 \eta_f = \dfrac{\tanh(mL_f)}{mL_f}

 

ここで m は次のように定義されます。

 

 m = \sqrt{\dfrac{2h}{k_f \cdot t_f}}

 

k_f はフィンの熱伝導率 [W/(m·K)]、t_f はフィンの厚さ [m]、L_f はフィンの長さ [m] です。

フィン効率が高いほど、フィン全体が有効に放熱に寄与していることを意味します。

一般に、アルミニウム製のフィンは熱伝導率が高く、薄くても高いフィン効率を維持できるため、ヒートシンクやラジエーターに広く採用されています。

 

熱伝達率の測定と検証

実験的に熱伝達率を測定する場合は、壁面温度と流体温度、そして伝熱量を個別に計測します。

壁面温度は熱電対やサーモグラフィで測定し、伝熱量はヒーターの入力電力や流体の入口・出口温度差から求めます。

得られた実測値をニュートンの冷却法則に代入すれば、h を逆算できます。

 

CFD(数値流体力学)シミュレーションでは、壁面近傍のメッシュを十分に細かくして温度境界層を解像することで、局所的な熱伝達率の分布を算出することも可能です。

設計の初期段階では相関式で概算し、詳細設計でCFDや実験で検証するのが一般的な進め方です。

 

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まとめ

本記事では、熱伝達率の定義からニュートンの冷却法則、伝熱の 3 形態における位置づけ、自然対流と強制対流の違い、ヌセルト数を用いた計算方法、総括伝熱係数への展開、そして設計実務での活用ポイントまで体系的に解説しました。

 

熱伝達率は物質固有の値ではなく、流体の種類・流速・温度・形状などの条件に依存する係数です。

自然対流の空気では 5〜25 W/(m²·K) 程度ですが、水の強制対流では 10,000 W/(m²·K) にも達し、設計時の条件選定が性能を大きく左右します。

 

設計実務では、ヌセルト数の実験相関式を活用して熱伝達率を見積もり、総括伝熱係数としてシステム全体の伝熱性能を評価します。

特に熱抵抗のボトルネックを特定し、最も効果的な部分に改善を集中させることが、効率的かつ経済的な熱設計のカギです。

 

汚れ係数や安全率を含めた余裕のある設計を行い、長期にわたって安定した伝熱性能を維持できるシステムを目指しましょう。