
「工場のモーターの大半は誘導電動機、と聞くが、なぜそんなに使われるのか」
その理由を握るのが、本記事のテーマである誘導電動機です。
誘導電動機は、構造が丈夫でメンテナンスが少なく、三相交流をつなぐだけで回るため、産業用モーターの主役となっています。
その動作を理解する鍵が、回転磁界・同期速度・すべりという3つの考え方です。
本記事では、誘導電動機の仕組みと同期速度・すべりの計算から、トルク特性、始動方法、実務での扱いまでを、数式と図表で体系的に解説します。
1. 誘導電動機とは|最も使われるモーター
誘導電動機とは、回転磁界によって回転子に電流を誘導し、その力で回るモーターです。
インダクションモーターとも呼ばれ、産業用モーターの大半を占めています。
1-1. 誘導電動機の特徴
誘導電動機の最大の特徴は、構造が丈夫で扱いやすいことです。
回転子に電気を直接送る必要がなく、ブラシなどの消耗部品がありません。
そのため、メンテナンスが少なく、長期間安定して使えます。
三相交流をつなぐだけで自然に回り出すのも、大きな利点です。
安価で丈夫、そして信頼性が高いことから、ポンプやファン、コンプレッサなど幅広く使われています。
工場の動力源として、まさに主役といえるモーターです。
1-2. 構造|固定子と回転子
誘導電動機は、外側の固定子と内側の回転子からできています。
固定子には三相のコイルが巻かれ、回転磁界を作り出します。
回転子は、その磁界の中で回転する部分です。
固定子が磁界を作り、回転子がそれに引かれて回る、という構造です。
1-3. かご形と巻線形
回転子の構造によって、かご形と巻線形に分かれます。
かご形は、導体棒をかご状に組んだ単純で丈夫な構造です。
巻線形は、回転子にもコイルを巻いた構造で、始動特性を調整できます。
多くの用途では、構造が単純で安価なかご形が使われます。
1-4. DCモーターとの違い
モーターには、誘導電動機のほかに直流で動くDCモーターもあります。
DCモーターはブラシなどで回転子に電流を送り、細かい速度制御が得意です。
一方、誘導電動機は回転子に電流を送らず、構造が丈夫でメンテナンスが少ないのが強みです。
大きな動力を安定して回す用途では、誘導電動機が圧倒的に有利です。
モーターの種類ごとの違いは、DCモーターの記事もあわせて参考になります。
用途に応じて、最適なモーターが選ばれています。
2. 回転磁界の仕組み
誘導電動機が回る原理の中心が、回転磁界です。
その仕組みを見ていきましょう。
2-1. 三相が作る回転磁界
固定子に三相交流を流すと、磁界がなめらかに回転します。
120度ずつずれた3つの電流が、回転する磁界を生み出すのです。
この回転磁界こそが、誘導電動機を回す原動力です。
三相交流が回転磁界を簡単に作れることが、誘導電動機が広く使われる理由のひとつです。
回転磁界を生む三相交流の詳細は、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
2-2. 回転子が追従する
回転磁界の中に回転子があると、電磁誘導で回転子に電流が流れます。
その電流と磁界の間に力が働き、回転子は磁界を追いかけて回り始めます。
磁界に引きずられるように回転子が回る、というイメージです。
回転子に電気を送らなくても、誘導だけで回る点が誘導電動機の名の由来です。
この誘導の仕組みのおかげで、ブラシなどの接点が不要になります。
丈夫さと信頼性の高さは、この非接触の構造から生まれています。
3. 同期速度
回転磁界が回る速さを、同期速度と呼びます。
誘導電動機の速度を理解する基準になります。
3-1. 同期速度の式
同期速度は、電源の周波数と極数で決まります。
ここで は同期速度(min⁻¹)、fは周波数、pは極数です。
周波数が高いほど速く、極数が多いほど遅くなります。
同期速度は、回転磁界そのものが回る速さを表します。
誘導電動機の回転子は、これよりわずかに遅い速度で回ります。
3-2. 極数と速度
極数とは、固定子が作る磁石の極(N極とS極)の数です。
極数を増やすと、同じ周波数でも回転磁界はゆっくり回ります。
2極なら速く、4極・6極と増えるほど遅くなります。
用途に必要な速度に合わせて、極数が選ばれます。
3-3. 同期速度の計算例
4極の誘導電動機を、50Hzの電源で動かすときの同期速度を求めます。
同期速度は毎分1500回転と求まります。
60Hzの地域なら、同じ4極で1800回転になります。
このように、同期速度は周波数と極数だけで決まります。
回転子の実際の速度は、これよりすべりのぶんだけ遅くなります。
3-4. 極数と同期速度の早見
極数と周波数ごとの同期速度を、表で整理します。
| 極数 | 50Hz | 60Hz |
|---|---|---|
| 2極 | 3000 min⁻¹ | 3600 min⁻¹ |
| 4極 | 1500 min⁻¹ | 1800 min⁻¹ |
| 6極 | 1000 min⁻¹ | 1200 min⁻¹ |
| 8極 | 750 min⁻¹ | 900 min⁻¹ |
極数を2倍にすると、同期速度は半分になることがわかります。
必要な回転数に近い極数を選び、細かい調整はインバータで行うのが一般的です。
4. すべり
誘導電動機の回転子は、同期速度よりわずかに遅く回ります。
このずれを表すのが、すべりです。
4-1. すべりとは
すべりとは、同期速度に対して回転子がどれだけ遅れて回っているかを表す割合です。
回転子が同期速度と完全に同じ速さでは、誘導電流が流れず力が生まれません。
そのため、回転子は必ず同期速度よりわずかに遅く回ります。
この遅れ(すべり)があるからこそ、誘導電動機はトルクを生み出せます。
4-2. すべりの式
すべりsは、同期速度と回転速度の差を、同期速度で割って求めます。
ここでNは回転子の実際の速度です。
すべりは通常、数%程度の小さな値になります。
負荷が重くなるほどすべりは大きくなり、回転は少し遅くなります。
すべりは、誘導電動機の運転状態を表す重要な指標です。
4-3. すべりの計算例
同期速度1500min⁻¹の電動機が、1450min⁻¹で回っているときのすべりを求めます。
すべりは約0.033、つまり3.3%と求まります。
多くの誘導電動機は、定格運転でこの程度のすべりになります。
4-4. すべりと回転速度の関係
すべりがわかれば、逆に回転子の実際の速度も計算できます。
回転速度Nは、同期速度とすべりから次のように求められます。
例えば同期速度1500min⁻¹ですべりが0.05なら、回転速度は1425min⁻¹です。
負荷が重くなるとすべりが増え、回転速度はさらに下がります。
すべりが0なら回転速度は同期速度に一致しますが、その状態ではトルクが生まれません。
わずかなすべりがあって初めて、誘導電動機は力を出して回り続けられます。
5. トルクと特性
誘導電動機のトルクは、すべりとともに変化します。
その特性を見ていきましょう。
5-1. トルク特性
誘導電動機のトルクは、すべりが大きくなるとともに増え、ある点で最大になります。
この最大トルクを、停動トルクと呼びます。
通常の運転では、すべりの小さい安定した領域で動きます。
負荷が増えるとすべりが増え、それに応じてトルクも増えてつり合います。
5-2. 始動トルク
回転子が止まっている始動の瞬間は、すべりが1(100%)の状態です。
このときのトルクを始動トルクと呼びます。
かご形は始動トルクがやや小さく、巻線形は調整できるという違いがあります。
重い負荷を始動するには、十分な始動トルクが必要です。
5-3. 巻線形の比例推移
巻線形誘導電動機には、比例推移という便利な性質があります。
回転子の抵抗を変えると、同じトルクを出すすべりが比例して変わる現象です。
回転子に外部抵抗を加えると、最大トルクの大きさは変えずに、それが現れるすべりをずらせます。
これを利用して、始動時に大きなトルクを出しつつ始動電流を抑えられます。
かご形にはできない、巻線形ならではの調整方法です。
大きな始動トルクが必要なクレーンなどで活用されてきました。
6. 始動方法
誘導電動機は、始動時に大きな電流が流れる点に注意が必要です。
その対策となる始動方法を見ていきましょう。
6-1. 始動電流の問題
誘導電動機を直接電源につなぐと、始動の瞬間に定格の数倍もの電流が流れます。
この大きな始動電流は、電源や配線に大きな負担をかけます。
周りの機器の電圧を一時的に下げてしまうこともあります。
そのため、始動電流を抑える工夫が必要になります。
6-2. スターデルタ始動
始動電流を抑える代表的な方法が、スターデルタ始動です。
始動時はスター結線で電圧を抑え、回転が上がったらデルタ結線に切り替えます。
スター結線では各巻線にかかる電圧が下がり、始動電流を3分の1に抑えられます。
運転時はデルタに切り替え、本来の能力を発揮させます。
6-3. インバータによる始動
近年は、インバータを使って始動する方法が主流になっています。
周波数を低くして始動し、徐々に上げることでなめらかに加速します。
始動電流を抑えつつ、回転速度も自在に制御できます。
省エネにもつながるため、インバータ制御の採用が広がっています。
6-4. 始動方法の比較
主な始動方法を、表で整理します。
| 始動方法 | 始動電流 | 特徴 |
|---|---|---|
| 直入れ始動 | 大きい(定格の数倍) | 小型機向き・簡単 |
| スターデルタ始動 | 約3分の1に低減 | 中容量で定番 |
| インバータ始動 | 小さく抑えられる | 速度制御・省エネ |
小型機なら直入れ、中容量ならスターデルタ、速度制御も必要ならインバータ、と使い分けます。
近年は、省エネ効果の大きいインバータ始動が主流になりつつあります。
7. 実務での誘導電動機
誘導電動機は、工場の動力として日常的に使われています。
実務での要点を押さえておきましょう。
7-1. 力率への注意
誘導電動機は、コイルを含むため遅れ力率になります。
特に軽負荷時は力率が低下し、効率が悪くなります。
このため、進相コンデンサで力率を改善するのが一般的です。
力率の詳しい考え方は、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
7-2. 保護と点検
誘導電動機は、過負荷や欠相から保護する必要があります。
サーマルリレーなどで、過大な電流を検出して停止させます。
また、絶縁の劣化や軸受の摩耗も、定期点検で確認します。
適切な保護と点検が、長期間の安定運転につながります。
7-3. 効率と省エネ
誘導電動機は、工場の消費電力の大きな割合を占めています。
そのため、モーターの効率を高めることは、省エネに直結します。
近年は、高効率なプレミアム効率モーター(IE3など)への置き換えが進んでいます。
損失の小さい材料や設計を採用し、同じ仕事をより少ない電力でこなします。
さらに、インバータで負荷に合わせて回転数を絞れば、大幅な省エネになります。
ファンやポンプでは、回転数を下げると消費電力が大きく減るためです。
まとめ
本記事では、産業用モーターの主役である「誘導電動機」について、回転磁界の仕組みと同期速度・すべりの計算から、トルク特性、始動方法、実務での扱いまでを体系的に解説しました。
同期速度は で求められ、回転子はこれよりすべりのぶんだけ遅く回ります。
すべりは で表され、通常は数%程度の小さな値です。
始動時の大きな電流には、スターデルタ始動やインバータ始動で対応します。
誘導電動機は、丈夫で信頼性が高く、工場の動力に欠かせない機器です。
同期速度とすべりの計算を押さえ、同期電動機など次の電気機器へと理解を広げていってください。