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NPSHとは?ポンプの計算とキャビテーション対策

ポンプが砂利を吸うような音を出し、流量や吐出し圧力が突然不安定になることがあります。

原因を軸受やモーターだけに求めると、吸込み側の配管や液面高さの設計不良を見逃してしまいます。

NPSHは、ポンプ入口で液体が蒸気にならないための圧力余裕を、メートルの水頭で表す指標です。

有効NPSHと必要NPSHを比べれば、その運転点でキャビテーションを避けられるかを事前に判断できます。

本記事では、NPSHの計算式、判定方法、余裕の取り方、ポンプ選定、吸込み配管の改善まで、設計と保全の実務目線で詳しく丁寧に解説します。

 

 

1. NPSHとは:ポンプ吸込み側の圧力余裕

NPSHは、Net Positive Suction Headの略です。

日本語では、正味吸込みヘッドと呼ばれます。

ポンプ入口の液体が、蒸気にならずに液体のまま保てる余裕を示します。

単位は圧力のPaではなく、メートルで表すヘッドです。

圧力を液柱の高さに換算することで、揚程や配管損失と同じ感覚で扱えます。

ポンプの選定では、このNPSHを確認しないと吸込み条件の安全性を判断できません。

特に注意したいのは、ゲージ圧ではなく絶対圧で考える点です。

真空に近づくほど液体は蒸発しやすくなるため、大気圧分を含めた圧力で見ます。

圧力計が正の値を示していても、局所的には蒸気圧へ近づく場合があります。

そのため、吸込みノズルの値だけでなく、羽根車入口の圧力低下も意識します。

ポンプは液体を吸い込む機械というより、吸込み側の液体を受け取って加圧する機械です。

吸込み側の供給条件が悪ければ、どれだけ吐出し能力があっても安定して働けません。

用語 意味 設計での扱い
NPSH 蒸気圧に対する吸込み側の余裕 キャビテーション判定に使う
有効NPSH 設備側が実際に用意できる余裕 配管や設置高さで変わる
必要NPSH ポンプ側が必要とする余裕 メーカー性能曲線から読む
NPSH余裕 有効NPSHと必要NPSHの差 信頼性を見込んで確保する

圧力をヘッドで考える理由

ポンプの世界では、圧力をメートルの高さで表すことが多くあります。

これは、ポンプが液体に与えるエネルギーを高さとして扱えるためです。

たとえば同じ圧力でも、液体の密度が変われば持ち上げられる高さは変わります。

ヘッドでそろえると、吸込み高さ、配管損失、揚程を一つの式で扱えます。

NPSHも同じで、吸込み側に残るエネルギーを高さに換算して判断します。

この考え方を知らないと、圧力計の値だけで安全と誤解しやすくなります。

ポンプは入口で液体を加速するため、圧力計の読み以上に局所圧力が下がることがあります。

有効NPSHと必要NPSH

NPSHには、有効NPSHと必要NPSHの二つがあります。

有効NPSHは、設備側がポンプ入口にどれだけ余裕を供給できるかを示します。

タンクの液面高さ、液面圧力、液温、吸込み配管の損失で決まります。

必要NPSHは、ポンプ自身がその流量で必要とする吸込み余裕です。

こちらは羽根車形状、回転数、ポンプ形式によって決まります。

つまり、有効NPSHは設備側、必要NPSHはポンプ側の値です。

この切り分けができると、配管を直すべきか、ポンプを替えるべきかが見えてきます。

NPSHで防げる不具合

NPSHの目的は、キャビテーションによるポンプ損傷を未然に防ぐことです。

キャビテーションが起きると、異音や振動だけでなく、羽根車表面の損傷が進みます。

気泡が多くなると、液体の連続した流れが乱れ、吐出し圧力や流量も不安定になります。

軸受、メカニカルシール、配管支持にも余計な振動負荷がかかります。

さらに、ポンプ性能が落ちるため、必要な冷却水や薬液を送れない場合があります。

NPSHを設計段階で確認すれば、こうしたトラブルを事前に潰せます。

関連する現象は、キャビテーションとは何かでも詳しく解説しています。

実務では、騒音が出てから対応するより、計算で先に危険を見つける方が確実です。

キャビテーションは発生しても、初期段階では外観から分からないことがあります。

羽根車を分解点検した時点で、すでに表面が荒れているケースもあります。

連続運転の設備では、わずかな損傷が長時間で大きな劣化へ進みます。

NPSHの確認は、性能計算であると同時に保全費用を抑える設計作業です。

 

2. キャビテーションが起きる仕組み

NPSHを理解するには、キャビテーションの発生条件を押さえる必要があります。

ポンプは液体を吸い込むとき、入口付近の圧力を低くします。

この圧力が液体の蒸気圧を下回ると、液体の一部が蒸気の泡になります。

泡はポンプ内部を流れ、より高い圧力の場所で急激につぶれます。

この泡の発生と崩壊が、キャビテーションの本質です。

蒸気圧を下回ると泡が発生する

液体が沸騰するかどうかは、温度だけでは決まりません。

周囲の圧力が下がると、同じ温度でも液体は蒸発しやすくなります。

高い山では水が低い温度で沸騰するのと同じ考え方です。

ポンプの吸込み口や羽根車入口では、液体が加速して圧力が下がります。

その最低圧力が蒸気圧を下回ると、局所的に沸騰したような状態になります。

液温が高いほど蒸気圧が高くなるため、高温液では発生しやすくなります。

揮発性の高い液体も、常温水よりNPSH条件が厳しくなります。

泡の崩壊が損傷を生む

発生した泡は、羽根車の中を流れて高圧側へ移動します。

圧力が回復すると、蒸気の泡は一気につぶれます。

この崩壊時に、局所的な衝撃圧と微小な噴流が発生します。

衝撃が繰り返されると、金属表面に小さな穴が開きます。

やがて虫食い状の損傷となり、羽根車の形状が崩れます。

羽根車が荒れると効率が下がり、さらに流れが乱れて振動が増えます。

異音、振動、性能低下、損傷が一つの連鎖として進む点が厄介です。

また、キャビテーションはポンプ入口だけの問題に見えて、下流側にも影響します。

流量が不安定になると、熱交換器や冷却ジャケットの流量も揺れます。

プロセス液の供給量が変動すれば、温度や濃度の管理にも影響します。

振動は配管支持やフランジ部にも伝わり、漏れや緩みの原因になります。

小さな吸込み条件の不足が、設備全体の信頼性を落とす点に注意します。

症状 現場での見え方 疑うべき原因
異音 砂利音、パチパチ音 泡の発生と崩壊
振動 ポンプや配管が震える 気泡混入、流れの乱れ
性能低下 揚程や流量が落ちる 羽根車内の気泡占有
損傷 羽根表面に虫食い状の穴 泡の崩壊衝撃

 

3. 有効NPSHの計算式:設備側で決まる余裕

有効NPSHは、設備側がポンプに供給できる吸込み余裕です。

英語ではNPSHAと書かれ、AvailableのAを付けて区別します。

ポンプを変えなくても、配管や設置条件を変えれば改善できる値です。

計算では、吸込み側のエネルギーから蒸気圧分を差し引きます。

設計者が最初に計算すべきNPSHが、この有効NPSHです。

開放タンクでの基本式

開放タンクからポンプへ吸い込む場合、基本式は次の形になります。

 NPSH_A = \dfrac{p_a}{\rho g} + z - \dfrac{p_v}{\rho g} - h_f

 p_a は液面にかかる絶対圧、 p_v は液温での蒸気圧です。

 z は液面とポンプ基準位置の高さ差で、押込みなら正になります。

 h_f は吸込み配管の摩擦損失と局部損失の合計です。

配管入口、エルボ、弁、ストレーナの損失も吸込み側ならすべて効いてきます。

式の各項は、すべてメートルでそろえて扱います。

この式では、液面を基準にしたエネルギーがポンプ入口へ届くまでを追います。

液面にある大気圧やタンク圧は、吸込み側を押す力として働きます。

一方で、蒸気圧、吸上げ高さ、配管損失は、使える余裕を削ります。

式の符号を機械的に覚えるより、何が余裕を増やし何が減らすかで整理します。

密閉タンクでは、大気圧ではなくタンク内の絶対圧を使います。

真空気味のタンクから吸う場合は、その分だけ有効NPSHが小さくなります。

圧力をヘッドに換算するときは、液体密度を実条件に合わせます。

配管損失の考え方は、圧力損失の計算も参考になります。

吸上げと押込みの符号

液面より低い位置にポンプを置くと、押込みになります。

この場合、液面高さがポンプ入口へ圧力を与えるため有効NPSHは増えます。

逆に液面より高い位置へポンプを置くと、吸上げになります。

吸上げでは高さ差が余裕を減らすため、NPSH不足が起きやすくなります。

図面上で数メートルの差に見えても、NPSHではそのまま数メートルの差になります。

高温液や揮発性液体では、できるだけ押込み配置にするのが基本です。

屋外タンクでは、最低液位時でも押込みが残るかを確認します。

既設設備では、図面上の高さと実際のポンプ基準位置が違うことがあります。

モータ架台、ポンプ中心線、吸込みノズル中心を取り違えると計算がずれます。

メーカーが指定する基準位置がある場合は、その位置に合わせて高さを読みます。

液面計の表示も、ポンプ基準位置からの高さへ換算して使います。

水槽の運転水位が大きく変わる設備では、最低水位を見落とさないことが重要です。

最悪条件で計算する

NPSH計算は、平均条件ではなく最悪条件で行います。

最低液位では、押込み高さが減り、吸上げ高さが増えます。

最高液温では、蒸気圧が上がって有効NPSHが小さくなります。

ストレーナ目詰まりや弁開度の不足は、吸込み配管損失を増やします。

標高が高い場所では、大気圧が低くなるため液面圧力分も小さくなります。

これらを良い条件で計算すると、運転開始後に余裕不足が露見します。

NPSHは、実運転で最も厳しい吸込み条件を基準に確認します。

条件 有効NPSHへの影響 設計で見る値
液位 低いほど小さくなる 最低液位
液温 高いほど小さくなる 最高液温
配管損失 大きいほど小さくなる 最大流量時の損失
標高 高いほど小さくなる 設置場所の大気圧

 

4. 必要NPSHの読み方:ポンプ側で決まる条件

必要NPSHは、ポンプがその運転点で必要とする最小の吸込み余裕です。

英語ではNPSHRと書かれ、RequiredのRを付けて区別します。

これは設備側の計算ではなく、ポンプメーカーの試験で決まります。

同じ流量でも、ポンプ形式や羽根車径、回転数によって値が変わります。

選定時は、必ず候補ポンプの性能曲線から読み取ります。

必要NPSHは、ポンプの性能そのものではなく吸込み条件の要求値です。

揚程や効率がよいポンプでも、必要NPSHが大きいと設備に合わない場合があります。

逆に、必要NPSHが小さいポンプは、吸込み条件の厳しい設備で有利になります。

ポンプ選定表では、流量と揚程だけを先に決めがちです。

しかし、NPSHを後回しにすると、候補を選び直すことになりやすいです。

重要設備では、候補比較の早い段階で必要NPSHを並べて確認します。

性能曲線から読み取る

ポンプカタログには、流量に対する揚程、効率、軸動力が示されます。

そこに必要NPSHの曲線が併記されることがあります。

必要NPSHは、実際に運転する流量の位置で読み取ります。

同じポンプでも、流量が増えるほど必要NPSHは大きくなる傾向があります。

設計点だけでなく、最大流量側や並列運転時の流量も確認します。

カタログに余裕があるように見えても、運転点が右側へずれると不足する場合があります。

NPSH3の意味

カタログの必要NPSHは、NPSH3として示されることがあります。

NPSH3は、キャビテーションにより全揚程が3%低下する点のNPSHです。

つまり、完全にキャビテーションがない状態を示す値ではありません。

そのため、NPSH3と同じ有効NPSHで運転するのは余裕不足です。

騒音、振動、エロージョンを抑えるには、NPSH3より上の余裕が必要です。

特に重要設備では、メーカー推奨や用途別のNPSH余裕を確認します。

また、NPSH3は試験条件で得られる代表値です。

実機では、液体の性質、溶存ガス、入口配管の偏流で条件が変わります。

ポンプ入口に曲がり管が近いと、羽根車へ均一に流れ込まない場合があります。

偏った流れは局所的な圧力低下を生み、カタログ値より厳しい状態を作ります。

そのため、必要NPSHの確認と同時に、吸込み配管の直管長も確認します。

流量と回転数で変わる

必要NPSHは、ポンプの運転点で変わります。

流量を増やすと、羽根車入口の流速が上がり、圧力低下が大きくなります。

そのため、必要NPSHは流量増加とともに上がりやすくなります。

回転数を上げる場合も、吸込み側の条件は厳しくなります。

インバータ運転では、低速時だけでなく高速時の余裕も確認します。

流量と回転数を変更した後に異音が出た場合は、NPSH再確認が必要です。

配管の流れの状態は、レイノルズ数の考え方とも関係します。

 

5. NPSH判定と計算例

NPSHの判定は、有効NPSHと必要NPSHを同じ単位で比較します。

どちらもメートルで表し、同じ運転流量で見ることが重要です。

式だけを見ると簡単ですが、前提条件の取り方で結果が変わります。

最低液位、最高液温、ストレーナ目詰まりなど、悪い条件で確認します。

最良条件で満足しても、実運転では不足することがあります。

基本の判定式

基本の判定式は、次の通りです。

 NPSH_A > NPSH_R

ただし、実務では等号ぎりぎりでは不十分です。

NPSH余裕を差で見る場合は、次の式で考えます。

 M = NPSH_A - NPSH_R

比で見る場合は、次のように表します。

 R = \dfrac{NPSH_A}{NPSH_R}

差の余裕は小型ポンプでも直感的に見やすく、比の余裕は大きなNPSHを扱う設備で使いやすくなります。

どちらを使う場合でも、液体と用途に応じた安全余裕を取ります。

計算例:常温水を吸い上げる場合

常温水を開放タンクから吸い上げる例で考えます。

大気圧水頭を10.3m、蒸気圧水頭を0.3mとします。

ポンプは液面より2.0m高く、吸込み配管損失は1.0mとします。

このとき、有効NPSHは次のように求まります。

計算例では、まず各項をヘッドへ換算してから足し引きします。

圧力のまま足し引きしたり、メートルとPaを混ぜたりしないようにします。

水以外の液体では、密度が変わるため同じ圧力でもヘッド値が変わります。

薬液や油では、蒸気圧だけでなく密度と粘度も確認します。

温度で物性が変わる場合は、設計温度ごとの値を使い分けます。

 NPSH_A = 10.3 - 0.3 - 2.0 - 1.0 = 7.0\,\text{m}

候補ポンプの必要NPSHが4.5mなら、差は2.5mです。

比で見ると、 7.0 \div 4.5 = 1.56 になります。

この条件では、NPSHの観点では運転可能と判断できます。

ただし、液温上昇やストレーナ詰まりを見込むと、余裕はさらに小さくなります。

たとえばストレーナ損失が1.0m増えると、有効NPSHはそのまま1.0m減ります。

液位が1.0m下がる場合も、同じく余裕が1.0m減ります。

このように、NPSHは改善効果と悪化要因をメートル単位で直感的に比較できます。

対策案の優先順位を決めるときも、何メートル改善できるかで評価できます。

費用の大きいポンプ交換の前に、配管や液位で改善できないかを検討します。

余裕の考え方

NPSH余裕は、固定の一律値だけで決めるものではありません。

簡易目安として、一定の差や一定比率を置く考え方はあります。

しかし実際には、液体、ポンプサイズ、吸込みエネルギー、用途で必要な余裕が変わります。

特に高エネルギーポンプや連続運転設備では、標準やメーカー推奨を優先します。

短時間の試運転で音が出なくても、長期運転で損傷が進むことがあります。

必要NPSHを少し上回るだけで安全と判断しないことが重要です。

条件変化 有効NPSHへの影響 確認ポイント
液位低下 小さくなる 最低液位で計算する
液温上昇 小さくなる 最高液温の蒸気圧を使う
配管損失増加 小さくなる ストレーナ目詰まりを考慮する
流量増加 下がりやすい 必要NPSHも増える

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6. 有効NPSHを大きくする対策

キャビテーション対策では、まず有効NPSHを大きくする方法を考えます。

これは設備側の改善であり、配管やタンク配置で対応できます。

ポンプ交換より前に検討できる対策が多い点も特徴です。

ただし、吐出し側ではなく吸込み側に効く対策を選ぶ必要があります。

吸込み側で失った余裕は、ポンプ内部で取り戻すことが難しいためです。

ポンプを低く置く

もっとも効果が分かりやすいのは、ポンプを液面に近づけることです。

ポンプを低く設置すれば、吸上げ高さが減ります。

液面より下に置ければ、押込み高さとして有効NPSHを増やせます。

高温液やボイラ給水のような用途では、押込み配置が特に重要です。

レイアウト変更の自由度がある段階で、必ず検討したい対策です。

既設設備で難しい場合は、サブタンクや中間槽の追加も選択肢になります。

吸込み配管を太く短くする

吸込み配管の損失を減らすことも、非常に有効です。

配管径を大きくすると流速が下がり、摩擦損失が小さくなります。

配管を短くし、エルボやバルブを減らすことも効果があります。

入口直前の急拡大、急縮小、偏流も避ける必要があります。

ストレーナは必要な部品ですが、目詰まりするとNPSHを大きく削ります。

吸込み側の弁は全開運転を基本とし、流量調整を吸込み側で行わないようにします。

吸込み配管では、空気だまりを作らないことも大切です。

配管が途中で山なりになると、気体が溜まって有効断面が小さくなります。

空気がポンプへ断続的に流れ込むと、キャビテーションに似た振動が出ます。

水平配管には適切な勾配をつけ、空気が抜ける向きに設計します。

ポンプ入口直前の偏心レジューサの向きも、空気だまり防止に関係します。

液温を下げる・液面を加圧する

液温を下げると、蒸気圧が下がります。

蒸気圧が下がれば、有効NPSHの差し引き分が小さくなります。

冷却できるプロセスなら、ポンプ入口温度を下げることが有効です。

一方で、密閉タンクでは液面を加圧する方法もあります。

液面にかかる絶対圧が上がれば、その分だけ有効NPSHが増えます。

ただし、タンクや配管の耐圧、逃し弁、安全管理も同時に必要です。

温度を変える場合は、粘度変化にも注意します。

粘度と流れの関係は、動粘性係数とは何かも参考になります。

 

7. 必要NPSHを小さくする選定

設備側の改善だけで余裕が足りない場合は、ポンプ側を見直します。

必要NPSHが小さいポンプを選ぶと、同じ設備でも判定が有利になります。

ただし、NPSHだけでポンプを選ぶと、効率や運転範囲を外す恐れがあります。

流量、揚程、液質、運転時間、保全性と合わせて判断します。

必要NPSHを下げることは、選定全体の一部として扱います。

低NPSH形のポンプを選ぶ

ポンプによって、吸込み性能は大きく異なります。

同じ流量と揚程でも、必要NPSHが小さい機種を選べる場合があります。

両吸込ポンプや低NPSH形の羽根車が候補になることもあります。

カタログ上の必要NPSHだけでなく、実運転点で比較することが大切です。

メーカーに液温、液質、標高、吸込み条件を伝えて確認します。

ポンプ選定では、最低流量側と最大流量側の両方を確認します。

通常運転点だけなら安全でも、洗浄運転やバイパス運転で流量が増える場合があります。

並列ポンプでは、台数切替時に一台あたりの流量が変わることがあります。

その瞬間に必要NPSHが増え、余裕が不足するケースもあります。

運用パターンを含めて確認することが、実務での失敗を減らします。

薬液、温水、冷媒などでは、水の試験値をそのまま信用しすぎない注意も必要です。

運転点とインデューサを見直す

運転点を見直すことで、必要NPSHを下げられる場合があります。

過大流量で運転していると、必要NPSHは大きくなりやすくなります。

バルブ開度やインバータ周波数を見直し、適正流量へ戻します。

回転数を下げれば、吸込み条件が緩くなる場合もあります。

吸込み条件が厳しい用途では、インデューサが使われることがあります。

インデューサは、主羽根車の前段に置く小さな補助羽根です。

液体を事前に少し加圧し、主羽根車でのキャビテーションを抑えます。

現場トラブル時の切り分け

NPSH不足が疑われるときは、吐出し側だけを見ても判断できません。

吸込み圧、液位、液温、ストレーナ差圧、流量を同時に確認します。

回転数を下げて異音や振動が軽くなるなら、NPSH不足の可能性があります。

吸込み弁の絞り、ストレーナ詰まり、配管内の空気だまりも確認します。

入口配管に渦が入り、空気を巻き込んでいる場合も似た症状になります。

単純にポンプ交換へ進まず、吸込み側の条件を順番に潰すことが大切です。

試運転では、流量を少しずつ上げながら吸込み圧と振動を確認します。

異音が出る流量があれば、その流量でのNPSH余裕を再計算します。

吐出し弁を絞ると流量が下がり、異音が軽くなる場合があります。

これは必要NPSHが下がったためで、原因切り分けの手がかりになります。

ただし、常時絞り運転で逃げるのではなく、根本条件を見直すことが必要です。

吸込み側の圧力低下は、ピトー管による流速測定の考え方ともつながります。

また、試運転時には吸込み圧力の測定位置にも注意します。

ポンプ入口から離れた場所で測ると、入口直前の損失を見落とす場合があります。

圧力計の高さがポンプ中心と違う場合は、その高さ差もヘッドへ換算します。

真空計の読みを使う場合は、ゲージ圧と絶対圧の違いを必ず整理します。

大気圧を基準にした負圧表示のまま、蒸気圧と比較してはいけません。

現場記録には、流量、液温、液位、吸込み圧力を同じ時刻で残します。

どれか一つだけを測っても、NPSH不足の判定はあいまいになります。

特に液温は、運転開始直後と連続運転後で変わることがあります。

温度上昇後にだけ異音が出るなら、蒸気圧上昇による余裕低下を疑います。

間欠運転では、停止中の液戻りやエア噛みも確認します。

吸込み配管に空気が残ると、NPSH計算上は安全でも不安定になります。

液面近くに吸込み口がある場合は、渦による空気巻込みも見ます。

タンク内の流入位置が悪いと、ポンプ吸込み口へ直接気泡が届く場合があります。

液面の渦を防ぐには、十分な浸没深さや邪魔板の検討が必要です。

既設設備では、ストレーナの差圧管理を保全項目に入れると効果的です。

差圧が増えれば吸込み損失が増え、有効NPSHがその分だけ小さくなります。

流量測定の基本は、オリフィスの流量計算も参考になります。

こうした測定と記録をそろえると、ポンプ選定の見直しにも使えるデータになります。

さらに、ポンプを更新するときは既設配管をそのまま使うことが多くあります。

この場合、新しいポンプの必要NPSHだけが変わり、余裕が不足することがあります。

既設ポンプで問題がなかったからといって、更新後も安全とは限りません。

羽根車径、回転数、運転流量が変われば、必要NPSHも変わります。

更新設計では、既設吸込み条件と新ポンプ曲線を必ず照合します。

また、能力に余裕を持たせすぎたポンプは、実際の運転点が過大流量側へ流れやすくなります。

その結果、必要NPSHが上がり、かえってキャビテーションに近づく場合があります。

ポンプを大きくすれば安全という考えは、NPSHでは成立しません。

流量、揚程、効率、必要NPSHを同じ性能曲線上で読み合わせます。

最終的には、配管系の抵抗曲線とポンプ曲線の交点で判断します。

この運転点が変わると、NPSH判定の前提も変わります。

設計時の計算値と試運転時の実測値を照合すると、将来のトラブル予防にも役立ちます。

なお、NPSH計算は一度だけで終わるものではありません。

生産条件が変わり、液温や流量が変われば再確認が必要です。

タンクを更新したとき、配管を延長したとき、ストレーナを追加したときも条件が変わります。

保全では、以前より音が大きい、振動が増えた、流量が下がったという変化を拾います。

その変化をNPSHの式へ戻して考えると、原因の候補を絞りやすくなります。

設計、試運転、保全をつなぐ共通言語としてNPSHを使うのが理想です。

流体のエネルギー収支は、ベルヌーイの定理とも深く関係します。

対策 主に効く方向 注意点
ポンプを低く置く 有効NPSHを増やす 基礎、冠水、保守性を確認
吸込み配管を太くする 配管損失を減らす 既設改造ではスペースが必要
液温を下げる 蒸気圧を下げる 粘度変化も確認する
低NPSHポンプを選ぶ 必要NPSHを下げる 効率と運転範囲も見る
インデューサを使う 吸込み性能を補う メーカー確認が前提

 

8. まとめ

NPSHは、ポンプ入口で液体が蒸気にならないための圧力余裕です。

有効NPSHは設備側で決まり、必要NPSHはポンプ側で決まります。

有効NPSHは、液面圧力、高さ差、蒸気圧、吸込み配管損失から計算します。

必要NPSHはメーカー性能曲線から、実際に使う流量で読み取ります。

NPSH3は揚程が3%低下する点であり、安全余裕そのものではありません。

判定では、有効NPSHが必要NPSHを十分に上回ることを確認します。

対策は、ポンプを低く置く、吸込み配管損失を減らす、液温を下げることです。

設備側とポンプ側の両面から見れば、キャビテーションを防ぐ選定ができます。