
Oリングとは、断面が円形のゴムリングを溝に装着してつぶすことで流体を密封するシール部品です。油圧・空圧機器から真空装置まで幅広く使われていますが、「P規格とG規格はどう違うのか」「つぶし代や充填率はどう設計するのか」といった実務的な疑問を正確に理解しないと漏れ事故につながります。
本記事では、Oリングの密封原理からJIS B 2401のP・G・V規格体系、つぶし代・充填率の設計計算、材質別の特性比較、実機での選定手順、高圧対策としてのバックアップリング、劣化モード、そしてOリングテスト(気密試験)の方法までを体系的に解説します。
- 1. Oリングとは?構造と密封の原理
- 2. JIS B 2401の規格体系|P・G・V系列の違い
- 3. つぶし代と充填率の設計計算
- 4. Oリングの材質と特性比較
- 5. Oリングの選定手順|実機設計の5ステップ
- 6. 高圧環境での対策|バックアップリングの役割
- 7. Oリングの劣化モードと寿命
- 8. Oリングテスト|気密試験と品質管理
- まとめ
1. Oリングとは?構造と密封の原理

Oリングとは、断面が円形のリング状ゴムシール部品です。英語では O-ring と表記され、その名の通り断面がアルファベットの「O」の形をしています。
構造が単純で安価なため、シール部品の中でもっとも広く使われています。
金属部材に設けられた矩形断面の溝にOリングを装着し、相手部材で押しつぶすことで流体(油、空気、水など)の漏れを防ぎます。
Oリングの密封原理は、ゴムの弾性変形を利用した「自封作用」にあります。溝に装着されたOリングは、組み付け時のつぶし代(初期圧縮)によって接触面にシール圧力を発生させます。
さらに流体圧力が作用すると、ゴムが圧力伝達媒体として働き、接触応力は流体圧力以上に増大します。この特性を自封作用(セルフシーリング)と呼びます。
つまり、流体の圧力そのものがシール力を強める方向に働きます。
外から押さえつけるだけのシールにはない、Oリングならではの長所です。
つまりOリングは、圧力が高くなるほどシール力が増す構造を本質的に備えているのです。
この自封作用のおかげで、シンプルなゴム輪一つで高い圧力にも対応できます。
圧力が高まるほど密封が強まるという、理にかなったしくみです。
Oリングの寸法は、2つのパラメータで規定されます。
:内径(リングの内側の直径)
:線径(断面の直径、太さ)
組み付け時のつぶし量はつぶし代と呼ばれ、次の式で計算されます。
ここで はつぶし代
、
はOリングの線径
、
は溝の深さ
です。
つぶし率(圧縮率)は次のように定義されます。
つぶし率は、Oリングをどれだけ圧縮しているかを百分率で表した指標です。
適切なつぶし率に収めることが、漏れと耐久性を両立させる基本になります。
JIS B 2401では、運動用(P系列)でつぶし率8〜25%、固定用(G系列)で8〜30%を推奨しています。
運動部はつぶしすぎると摩擦が増えるため、固定部より低めの範囲が推奨されます。
用途に応じてつぶし率の範囲を使い分けることが大切です。
2. JIS B 2401の規格体系|P・G・V系列の違い

日本で使われるOリングの寸法規格はJIS B 2401(Oリング)に定められています。この規格では、用途に応じてP系列・G系列・V系列の3つの寸法系列が規定されています。
P系列(運動用)
油圧シリンダーや空圧シリンダーなど、往復運動や回転運動をする部位に使用するOリングです。ピストンシールやロッドシールが代表的な用途です。
運動部に使うため、摩擦やはみ出しに配慮した寸法設計がされています。呼び番号は「P3」「P10」「P48」のように「P+数字」で表されます。
P系列の内径 は 3 mm から 400 mm まで、線径
は 1.9 mm、2.4 mm、3.5 mm、5.7 mm、8.4 mm の5種類が規定されています。
G系列(固定用)
フランジ面、蓋、配管継手など、静止した部材間の密封に使用するOリングです。運動部と異なり摩耗の心配が少ないため、つぶし率を大きめに設定できます。
固定部はしっかりつぶしても摩擦の問題が起きないため、確実な密封を優先できます。
呼び番号は「G25」「G50」のように「G+数字」で表されます。
V系列(真空フランジ用)
真空用途に特化した寸法系列です。真空ではOリングを外側から押さえる圧力差の方向が通常と逆になるため、溝形状やつぶし代の設計思想が異なります。
呼び番号は「V30」「V200」のように「V+数字」で表されます。
なお、Oリングの国際規格としてはISO 3601が広く用いられ、AS568(米国規格)との互換性もあります。海外製の装置を取り扱う場合は、JIS番号だけでなくISO/AS568のサイズ番号も確認することが重要です。
同じ寸法でも規格によって呼び番号が異なるため、取り違えに注意が必要です。
規格をまたぐ場合は、必ず実寸法で照合するのが確実です。
3. つぶし代と充填率の設計計算

Oリングの溝設計では、つぶし代と充填率の2つが最も重要な設計パラメータです。
つぶし代の設計
つぶし代が小さすぎるとシール性能が確保できず漏れが生じます。逆に大きすぎるとゴムへの負荷が増大し、摩擦力の増加や圧縮永久ひずみの促進につながります。
つぶし代は「小さすぎず大きすぎず」の適正範囲に収めることが肝心です。
範囲を外れると、漏れか早期劣化のどちらかを招きます。
運動用(P系列)の場合、推奨つぶし率は次の範囲です。
固定用(G系列)では、運動による摩耗がないため、やや広い範囲が許容されます。
Step 1:溝深さを計算する
目標つぶし率を 、Oリングの線径を
とした場合、溝深さ
は次のように求まります。
溝を浅くするほどつぶし率が上がり、深くするほど下がる、という関係になっています。
目標のつぶし率から逆算して溝の深さを決めるのが基本の流れです。
実際にはJIS推奨溝寸法表から最も近い値を選定します。
充填率の検証
充填率とは、溝の断面積に対するOリングの断面積の割合です。充填率が高すぎるとOリングが溝から押し出される(はみ出し)リスクが高まります。
Oリングの断面積 と溝の断面積
は次のように計算されます。
ここで は溝幅
です。
充填率 は次の式で求められます。
充填率は、溝の中をOリングがどれだけ占めるかを表します。
溝に余裕がなさすぎると、つぶれたゴムの逃げ場がなくなってしまいます。
Step 2:充填率を検証する
、溝幅
、溝深さ
のとき、充填率は次のように計算されます。
充填率70〜85%が適正範囲とされていますので、この値は適正範囲内です。充填率が85%を超える場合は、溝幅を広げるか線径の小さいOリングに変更する必要があります。
逆に充填率が低すぎると、シール面が不足して漏れの原因になります。
つぶし率と充填率の両方を適正範囲に収めることが、確実な密封の条件です。
4. Oリングの材質と特性比較

Oリングの性能は、使用するゴム材質によって大きく変わります。用途に応じた材質選定が漏れ防止と長寿命化の鍵を握ります。
NBR(ニトリルゴム)
最も汎用性が高く、Oリングの材質として最も多く採用されています。耐油性に優れ、鉱物油系の作動油に対して安定した性能を発揮します。使用温度範囲は約−30℃〜+120℃です。
油圧・空圧機器の標準材質として、まずNBRを検討するのがセオリーです。
迷ったらまずNBR、というのが油圧・空圧の現場での基本方針です。
コストと性能のバランスがよく、入手もしやすい材質です。
FKM(フッ素ゴム)
耐熱性・耐薬品性に極めて優れた高性能ゴムです。使用温度範囲は約−20℃〜+200℃と広く、多くの化学薬品や溶剤に耐えます。
ただし価格がNBRの5〜10倍と高価なため、NBRでは対応できない高温・腐食環境に限定して使うのが一般的です。
EPDM(エチレンプロピレンゴム)
耐候性・耐オゾン性に優れ、屋外で使用する水系シールに適しています。使用温度範囲は約−40℃〜+150℃です。
ただし鉱物油には膨潤するため、油圧系には使用できません。スチーム配管や水道関連で多用されます。
VMQ(シリコーンゴム)
耐熱性・耐寒性に優れ、使用温度範囲が−60℃〜+200℃と非常に広い材質です。食品衛生法に適合するグレードもあり、食品・医療分野で需要があります。
ただし機械的強度が低く、摩耗しやすいため、高圧の運動用シールには不向きです。
材質選定では、使用流体・温度範囲・圧力の3条件を優先的に確認します。Oリングの多くはトランスファー成形で製造されており、材質ごとの成形条件も選定に影響します。条件が厳しい場合は材料メーカーのカタログで耐性データを個別に確認することをお勧めします。
材質を間違えると、膨潤や硬化で短期間に漏れが発生します。
流体との相性は、選定でもっとも慎重に確認すべき項目です。
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5. Oリングの選定手順|実機設計の5ステップ

Oリングを正しく選定するためのフローを5つのステップで整理します。
Step 1:使用条件の確認
最初に確認すべきは以下の4条件です。
- 温度:使用中の最高温度と最低温度
- 圧力:最大使用圧力(MPa)
- 流体:封止する流体の種類(鉱物油、水、蒸気、薬液など)
- 運動/固定:Oリングが摺動するか静止状態かの区別
Step 2:材質の選定
Step 1で確認した条件に基づいて、適切なゴム材質を選びます。一般的な判断基準は次の通りです。
- 鉱物油 + 常温〜120℃ → NBR
- 薬品・溶剤 + 高温 → FKM
- 水・スチーム → EPDM
- 食品・広温度範囲 → VMQ
Step 3:規格系列の決定
運動用ならP系列、固定用ならG系列、真空用ならV系列を選びます。海外製装置の場合はISO 3601やAS568の対応番号を確認します。
Step 4:寸法の決定
ハウジングの溝内径(ピストン溝の場合)またはシャフト外径(ロッド溝の場合)に適合するOリングの内径 を選びます。
ピストン用(外周シール)の場合、Oリング内径はシリンダー内径とOリング線径から次のように計算されます。
ここで はシリンダー内径、
は溝深さ、
は隙間クリアランスです。実際にはJIS寸法表から最も近い規格品番を選定します。
計算値そのものではなく、入手しやすい規格品に合わせるのが実務の基本です。
特殊寸法品は納期もコストもかかるため、まず標準品で成立するかを検討します。
Step 5:溝寸法の設計
選定したOリングに対して、つぶし率と充填率が適正範囲に収まるように溝寸法(溝深さ ・溝幅
)を決定します。JIS B 2401の推奨溝寸法表に従うのが基本です。
溝寸法は自己流で決めず、規格の推奨表を出発点にすると失敗が少なくなります。
推奨表どおりに設計すれば、つぶし率と充填率もおおむね適正範囲に収まります。
6. 高圧環境での対策|バックアップリングの役割

Oリングの使用圧力が高くなると、ゴムが溝の隙間(クリアランス)に押し出されるはみ出し(エクストルージョン)が発生します。
はみ出しが起きると、Oリングの端部がちぎれたり削れたりして、急速にシール性能が低下します。
はみ出しは高圧で急に進行するため、設計段階での予防が何より重要です。
いったん損傷すると、Oリングの交換以外に回復手段はありません。
はみ出しが発生する限界は、ゴムの硬さ(ショアA硬度)と隙間寸法によって決まります。一般的な目安として、NBR 70度のOリングの場合、次の条件ではみ出しリスクが高まります。
ここで は使用圧力、
は溝と相手部材の間の片側隙間です。
圧力が高く隙間が大きいほど、はみ出しのリスクが高まることを示しています。
高圧で使う場合は、まず隙間を小さく抑える設計が基本になります。
高圧環境での対策として最も効果的なのがバックアップリングの併用です。バックアップリングは、Oリングの低圧側に配置する硬質のリング(通常はPTFE製やナイロン製)で、ゴムが隙間に押し出されるのを物理的に阻止します。
ゴムが逃げようとする隙間を、硬いリングで物理的にふさぐイメージです。
低圧側に置くことで、押し出される方向をしっかり受け止めます。
バックアップリングの使用基準は一般に次の通りです。
- 3.5 MPa以下:バックアップリング不要
- 3.5〜7 MPa:片側にバックアップリング1枚
- 7〜14 MPa:両側にバックアップリング各1枚
- 14 MPa以上:Oリング以外のシール方式(圧力容器向けメタルシール等)を検討
また、隙間を小さくすることもはみ出し対策として有効です。隙間 とはみ出し限界圧力
の関係は、ゴム硬度と温度に依存しますが、定性的には次の傾向があります。
ここで はショアA硬度です。硬度が高いほど、また隙間が小さいほど、はみ出しに対する耐性が向上します。
硬めのゴムを選ぶか、加工精度を上げて隙間を詰めることが対策になります。
硬度と隙間の両面から、はみ出し耐性を高めるのが定石です。
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7. Oリングの劣化モードと寿命

Oリングは消耗品であり、使用条件や環境によって劣化が進行します。主な劣化モードを理解しておくことで、適切な保全計画を立てることができます。
圧縮永久ひずみ(CS: Compression Set)
Oリングが長期間圧縮された状態に置かれると、ゴムの弾性回復力が低下し、溝から取り出しても元の形状に戻らなくなります。この現象を圧縮永久ひずみと呼びます。
圧縮永久ひずみ率は次の式で定義されます。
ここで は圧縮解除後のOリング線径です。
が100%に近いほど回復力が失われていることを意味し、シール性能の低下に直結します。
温度が高いほど圧縮永久ひずみは加速されます。熱膨張と熱応力の影響も相まって、アレニウス則に基づく経験則では、温度が10℃上昇すると寿命が約半分になるとされています。
高温で使うほど寿命が急速に縮むため、使用温度の把握が保全計画の鍵になります。
ここで は温度
での寿命、
は温度
での寿命です。たとえばNBRのOリングが80℃で5年持つ場合、90℃では約2.5年、100℃では約1.25年に短縮される計算になります。
わずか20℃の差で寿命が4分の1になることからも、温度管理の重要性がわかります。
使用温度に余裕のある材質を選ぶことが、長寿命化の近道です。
はみ出し損傷(エクストルージョン)
前節で解説した通り、高圧によってゴムが隙間に押し出される損傷モードです。Oリングの端部にギザギザの削れ跡が見られるのが特徴です。
摩耗
運動用Oリングで生じやすい劣化モードです。摺動面の表面粗さが粗いほど、また潤滑が不十分なほど摩耗が加速します。摺動面の表面粗さは Ra 0.1〜0.4 程度に仕上げることが推奨されます。
膨潤
封止する流体とゴムの化学的な相互作用により、ゴムが膨張する現象です。膨潤が進むとOリングの機械的強度が低下し、はみ出しや破断のリスクが高まります。材質選定で防ぐのが基本です。
膨潤は流体とゴムの相性の問題なので、適切な材質を選べば防げます。
使用流体に対する耐性データの確認が、膨潤対策の第一歩です。
8. Oリングテスト|気密試験と品質管理

Oリングの性能を確認するために、実機組み付け前後にいくつかの試験が行われます。
気密試験(リーク試験)
最も一般的な検査方法です。密封された空間に圧縮空気や窒素ガスを封入し、圧力降下やバブルの発生でリークの有無を判定します。
圧力降下法の場合、許容リーク量は次の式で評価されます。
単位時間あたりに漏れる気体の量で、密封性能を定量的に評価できます。
許容値と比べることで、合否を客観的に判定できます。
ここで はリーク量
、
は試験容積
、
は圧力降下量
、
は測定時間
です。
圧縮永久ひずみ試験(JIS K 6262)
Oリングを一定のつぶし率で圧縮し、規定温度・時間で保持した後、解放してからの回復量を測定する試験です。材料の耐久性評価に用いられます。
硬さ試験(JIS K 6253)
ショアA硬度計を用いてゴムの硬さを測定します。規格通りの硬度であることを確認するための受入検査として行われます。
品質管理の観点では、ロット受入時にOリングの外観検査(傷・バリ・変色の有無)と寸法検査(内径・線径の計測)を行い、規格公差内であることを確認することが基本です。
組み付け前の検査で不良を弾くことが、漏れ事故の予防につながります。
小さな傷やバリでも、シール面では致命的な漏れの原因になります。
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まとめ
Oリングは、断面が円形のゴムリングを溝に装着してつぶすことで流体を密封するシール部品です。自封作用により、圧力が高くなるほどシール力が増大する優れた特性を持っています。
JIS B 2401では、運動用のP系列、固定用のG系列、真空用のV系列の3つの寸法系列が規定されています。選定にあたっては、つぶし率(8〜25%が運動用の目安)と充填率(70〜85%が適正範囲)を設計計算で検証することが必要です。
材質選定ではNBR(汎用・耐油)、FKM(高温・耐薬品)、EPDM(耐候・耐水)、VMQ(広温度範囲・食品用)の特性を使用条件に照らして判断します。
高圧環境では3.5 MPaを超えるとはみ出しのリスクが高まるため、バックアップリングの併用が必要です。また、圧縮永久ひずみや摩耗といった劣化モードを理解し、適切な保全計画を立てることが装置の信頼性確保につながります。
Oリングは小さな部品ですが、選定や溝設計を誤ると重大な漏れ事故につながります。
規格・つぶし率・充填率・材質という基本を押さえ、確実な密封設計を心がけてください。
正しく選び、正しく組めば、Oリングは長期間にわたり確実な密封を保ってくれます。