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PASとは?UGSとの違いと波及事故の防止

「構内の電気事故で、近隣の工場まで停電させてしまった」

高圧受電の需要家にとって最悪のシナリオである波及事故を防ぐ門番が、本記事のテーマであるPASです。

PASとは、構内第1号柱に取り付けられる高圧の区分開閉器で、SOG制御装置と組み合わせて構内事故を引込口で切り離します。

地中引込の設備では、同じ役割をUGSが担います。

本記事では、PASの役割と「遮断器ではない」という重要な性質から、波及事故のメカニズム、SOG制御装置の地絡トリップと過電流蓄勢トリップ、方向性ともらい事故、UGSとの違い、設置・更新・保守の実務までを、表を交えて体系的に解説します。

 

 

1. PASとは|引込口を守る区分開閉器

PASとは、柱上に設置される高圧交流の気中負荷開閉器です。

Pole Air Switchの頭文字で、「パス」と読みます。

1-1. 構内第1号柱の門番

PASの定位置は、電力会社の配電線から構内へ引き込む最初の電柱です。

この柱は構内第1号柱と呼ばれ、需要家設備の入口にあたります。

 

配電線からの引込線はPASを経由して、構内ケーブルでキュービクルへ向かいます。
つまり構内のすべての電気は、必ずPASを通って入ってくる構図です。

 

この位置に開閉器があるからこそ、構内と系統を電気的に切り離せます。
構内側で何か起きたとき、PASを開けば配電線への影響を断てるのです。

 

外観は、柱上に取り付けられた箱型の機器です。
本体の開閉器と、後述するSOG制御装置(制御箱)の組み合わせで機能します。

 

普段は目立たない存在ですが、その働きは設備全体の社会的責任を背負っています。
「門番」という比喩が、これほど似合う機器はありません。

1-2. 責任分界点という考え方

PASの設置位置は、責任分界点という概念と結びついています。

責任分界点とは、電力会社と需要家の保安責任の境目です。

 

高圧受電では、原則として構内第1号柱付近に保安上の責任分界点が設定されます。
分界点より電源側は電力会社、負荷側は需要家が保安責任を負います。

 

区分開閉器であるPASは、この分界点またはその直近の負荷側に施設されます。
「自分の責任範囲を、自分の開閉器で切り離せる」状態を作るためです。

 

あわせて、設備の所有権の境目である財産分界点も定められます。
多くの場合、保安と財産の分界点は同じ位置に設定されます。

 

事故時に「どこからが誰の責任か」を明確にできるのは、この分界点の設計のおかげです。
PASは、技術と契約の両面で境界を形にした機器だといえます。

1-3. PASは遮断器ではない|負荷開閉器の限界

PASを理解するうえで最も重要なのが、この性質です。

PASは負荷開閉器であって、遮断器ではありません。

 

負荷開閉器が開閉できるのは、通常運転の負荷電流までです。
短絡事故で流れる数キロアンペア級の大電流を遮断する能力は、もっていません。

 

もし短絡電流が流れている最中にPASが開こうとすれば、アークを断ち切れず機器の破損につながります。
「切れないものは切らせない」仕組みが、どうしても必要になります。

 

その仕組みこそが、後述するSOG制御装置の過電流ロック機能です。
PASの動作ロジックはすべて、この「遮断器ではない」という制約から設計されています。

 

遮断器との能力差は、本カテゴリの遮断器・開閉器解説でも繰り返し登場する重要概念です。
「開閉器の種類ごとに切れる電流が違う」ことを、ここで再確認してください。

 

キュービクル内の開閉機器との役割の違いも、表で整理しておきます。

機器 設置場所 役割 短絡電流の遮断
PAS/UGS 引込口(第1号柱・キャビネット) 構内と系統の区分・波及防止 不可(ロックで対応)
断路器(DS) キュービクル受電部 点検時の切り離し 不可(無負荷専用)
遮断器(CB) キュービクル主遮断装置 構内事故電流の遮断 可能
LBS+PF キュービクル(PF・S形) 負荷開閉+ヒューズで短絡遮断 ヒューズが担当

 

「切れる電流」の違いが、そのまま役割の違いになっています。
この一覧が頭にあると、受電系統全体の保護分担がすっきり見えます。

1-4. PASが普及した背景

PASは、最初から義務的に付いていた機器ではありません。

普及の原動力は、波及事故の社会問題化でした。

 

かつては、区分開閉器のない構内や、手動の断路器だけの構内も多くありました。
その状態で構内ケーブルが地絡すると、事故電流は配電線へ流れ、変電所の遮断器を動作させます。

 

結果は、同じ配電線につながる地域一帯の停電です。
1軒の設備不良が、病院や工場を含む何百軒もの停電を招く構図が問題視されました。

 

そこで、構内事故を引込口で自動的に切り離す仕組みとして、SOG機能付きPASの設置が強く推奨されるようになりました。
現在では、高圧受電設備の標準装備として定着しています。

 

PASの歴史は、「自分の事故を他人に波及させない」という電気保安の倫理の歴史です。
単なる機器ではなく、系統に参加するためのマナーの結晶と考えてください。

1-5. 機器構成|本体と制御装置

PASのシステムは、大きく2つの要素で構成されます。

柱上の開閉器本体と、SOG制御装置です。

 

開閉器本体は、気中で接点を開閉する三相一括の負荷開閉器です。
内部に零相変流器(ZCT)や零相電圧検出器(ZPD)、制御用のVTを内蔵した形式が主流です。

 

SOG制御装置は、柱の下部などに取り付けられる制御箱です。
ZCTなどの信号を受けて地絡・過電流を判定し、開閉器へ開放指令を出します。

 

本体と制御箱は、制御ケーブルで接続されています。
制御電源は、本体内蔵のVTから供給されるのが一般的です。

 

このため「配電線が停電すると制御電源も失われる」という特性をもちます。
後述する無電圧開放の仕掛けは、この特性を逆手に取った設計です。

1-6. GR付きとSOG付きの違い

区分開閉器のカタログには、GR付きとSOG付きという表記が見られます。

似ていますが、安全性に関わる重要な違いがあります。

 

GR付きは、地絡継電器による地絡トリップ機能だけをもつ形式です。
地絡には対応できますが、過電流に対する備えがありません。

 

過電流ロックのない開閉器は、短絡電流が流れている最中でも開放してしまうおそれがあります。
負荷開閉器の遮断能力を超えた開放は、開閉器自身の破損・爆発という二次災害を招きます。

 

SOG付きは、地絡トリップに過電流蓄勢トリップ(過電流ロック)を加えた形式です。
短絡時には開かずにロックし、無電圧後に開放するため、能力超過の開放が起こりません。

 

現在の標準は、当然ながらSOG付きです。
古いGR付きが残っている設備は、更新時にSOG付き(できれば方向性)への置き換えを検討してください。

 

2. 波及事故とは|1軒の事故が地域を止める

PASの存在理由である波及事故を、正面から理解しておきます。

メカニズムが分かれば、対策の意味も腹落ちします。

2-1. 波及事故の定義

波及事故とは、需要家構内の電気事故が原因で、電力会社の配電線が停止し、他の需要家まで停電させてしまう事故です。

自家用電気工作物の事故区分でも、特に重大なものとして扱われます。

 

停電の影響は、同じ配電線(フィーダ)につながる需要家全体に及びます。
工場の生産停止、店舗の営業停止、医療・福祉施設への影響など、被害は面的に広がります。

 

原因者となった需要家には、社会的責任が重くのしかかります。
損害への対応や信用の失墜など、金額に換算しにくい損失も含めて深刻です。

 

電気主任技術者にとって、波及事故防止は最優先のミッションです。
そしてその技術的な切り札が、SOG付きの区分開閉器なのです。

2-2. メカニズム|変電所の保護が動くまで

波及事故の進行を、時系列で追ってみます。

出発点は、構内高圧設備の地絡や短絡です。

 

構内で地絡が起きると、事故電流は配電線を通って系統へ流れ出します。
これを検出するのは、配電用変電所に設置された保護継電器です。

 

変電所の継電器は、フィーダ単位で事故を検出し、配電線の遮断器を開放します。
この瞬間、そのフィーダにつながる全需要家が停電します。

 

変電所から見ると、事故が「どの需要家の構内か」までは分かりません。
分かるのは「このフィーダのどこかで事故」ということだけです。

 

だからこそ、事故元の需要家が自分で名乗り出る仕組みが必要になります。
引込口で自動的に切り離すPASは、その名乗りを自動化した装置だといえます。

2-3. 再閉路という配電系統の知恵

配電線の停電には、続きがあります。

変電所の遮断器は、一定時間後に自動で再投入を試みるのです。

 

これを再閉路と呼びます。
配電線事故の多くは、雷や樹木接触などの一過性で、時間をおけば消えているからです。

 

事故が消えていれば、再閉路は成功し、停電は短時間で復旧します。
事故が残っていれば再び遮断され、本格的な停電に移行します。

 

ここで重要なのは、再閉路の瞬間に事故元が切り離されているかどうかです。
事故元の構内が切り離されていれば、健全な他需要家だけで再閉路が成功します。

 

SOG制御の動作シナリオは、この再閉路と組み合わさって完成します。
「再閉路までに自分を切り離す」が、PASに課された時間的ミッションです。

2-4. 波及事故の主な原因設備

どんな設備の不良が波及事故につながるのでしょうか。

統計的に目立つのは、引込口周りの高圧設備です。

原因箇所 典型的な事故モード
高圧引込ケーブル 経年劣化・施工不良による絶縁破壊(地絡)
ケーブル端末部 端末処理不良・トラッキングによる地絡
区分開閉器・断路器 経年劣化・塩じん害による絶縁低下
キュービクル内機器 小動物侵入による短絡・機器絶縁破壊
雷害 雷サージによる機器・ケーブルの絶縁破壊

 

とくに高圧ケーブルは、波及事故原因の常連です。
地中や暗きょに隠れて劣化が見えにくく、ある日突然絶縁破壊に至ります。

 

皮肉なことに、PAS自身の劣化が波及事故の原因になる例もあります。
門番が倒れれば門は守れない、という当然の帰結です。

 

だからこそ、PAS・ケーブルといった引込口設備の計画的な更新が重視されます。
保守の話は、第6章で詳しく扱います。

2-5. 波及させない3つの防衛線

波及事故対策を、防衛線として整理します。

第1の防衛線は、事故を起こさないことです。

 

絶縁劣化の管理、計画更新、小動物対策など、原因をつぶす予防保全がこれにあたります。
第2の防衛線が、起きた事故を構内で切り離すSOG付き区分開閉器です。

 

構内保護(キュービクルのGR・OCR)との協調も、この防衛線の一部です。
構内側の継電器が先に動けば、停電範囲はさらに小さくできます。

 

第3の防衛線は、事故後の対応です。
事故点の切り離し確認と電力会社への連絡を迅速に行い、復旧と原因究明を進めます。

 

PASは第2の防衛線の主役ですが、第1・第3とセットで初めて意味をもちます。
「機器を付ければ終わり」ではないことを、強調しておきます。

2-6. 波及事故と報告義務

波及事故には、法令上の報告義務が伴います。

電気関係報告規則にもとづく、国への電気事故報告です。

 

構内の事故で電力会社の配電線を停止させた場合(波及事故)は、報告対象になります。
所轄の産業保安監督部へ、速報と詳報の二段階で報告します。

 

速報は事故を知った時から24時間以内、詳報は30日以内が期限とされています。
詳報には、事故の状況・原因・再発防止対策まで記載が求められます。

 

報告は電気主任技術者まかせにせず、設置者(事業者)として体制を整えておくべき事項です。
事故時の連絡フローに、監督部への報告判断を組み込んでおきましょう。

 

報告義務の存在は、波及事故が「社会に対する事故」であることの裏返しです。
だからこそ、未然防止に投資する価値があるのです。

 

3. SOG制御装置のしくみ

PASの頭脳であるSOG制御装置を解剖します。

SOGとは、過電流蓄勢トリップ付地絡トリップ形を意味する略称です。

3-1. SOGという名前の意味

SOGは、Storage(蓄勢)・Over current(過電流)・Ground(地絡)の頭文字です。

名前の中に、2つの動作モードが織り込まれています。

 

1つ目はG動作、すなわち地絡に対するトリップです。
構内の地絡を検出したら、即座にPASを開放します。

 

2つ目はSO動作、過電流に対する蓄勢トリップです。
過電流を検出したときは即座に開かず、いったん「開放の予約」をして待ちます。

 

地絡は即切り、過電流は予約して待つ。
この非対称な動作こそ、SOGの設計の核心です。

 

なぜ非対称なのかは、PASが遮断器ではないという制約から説明できます。
順に見ていきましょう。

3-2. G動作|地絡は即時トリップ

構内で地絡が起きると、零相変流器(ZCT)が漏れ出す零相電流を検出します。

三相の電流の和がゼロでなくなることを捉える、おなじみの原理です。

 

三相一括の電流のアンバランスから地絡を見つける考え方は、キルヒホッフの法則の応用そのものです。
検出した零相電流が整定値を超えると、SOG制御装置は地絡と判定します。

 

判定後は、ためらわずPASを開放します。
高圧系統の地絡電流は数アンペア程度と小さく、負荷開閉器でも安全に開けるからです。

 

このG動作により、構内の地絡は変電所の保護より先に引込口で切り離されます。
波及事故の主因である地絡に対して、最速の防衛が効くわけです。

 

動作の速さは、変電所の地絡保護との時間協調で設計されています。
「構内が先、変電所が後」の順序が守られることで、停電は構内だけで済みます。

3-3. SO動作|過電流はロックして無電圧で開く

短絡などの過電流に対しては、まったく別の戦略を取ります。

SOG制御装置は、ロック電流値を超える電流を検出すると、PASをロックします。

 

ロックとは、「今は開かない。ただし開放を予約した」という状態です。
大電流が流れている最中に負荷開閉器を開けば壊れるため、あえて開かないのです。

 

やがて変電所の遮断器が短絡を検出して動作し、配電線は停電します。
電流がなくなり、PASの制御電源(内蔵VT)も失われます。

 

この無電圧を合図に、蓄えられていた開放予約が実行され、PASは自動開放します。
これが蓄勢トリップ、つまり「エネルギーを蓄えておいて無電圧で開く」動作です。

 

開くべきタイミングを「電流が消えた後」までずらすことで、能力の限界を破らずに目的を達成します。
制約を逆手に取った、見事な設計だと思いませんか。

3-4. ロック電流という整定値

SO動作の判断基準になるのが、ロック電流値です。

この電流を超えたら「開かずにロックする」という、しきい値の設定です。

 

ロック電流は、開閉器が安全に開閉できる電流の上限と関係しています。
負荷開閉器の定格開閉容量を超える電流域では、開放そのものが危険だからです。

 

通常の負荷電流や多少の過負荷では、ロックは働きません。
短絡級の大電流だけを「開いてはいけない電流」として識別する設計です。

 

整定値は、構内の負荷電流・変圧器の励磁突入電流とも関係します。
受電時の突入電流で不要にロックしないよう、余裕を見た値が選ばれます。

 

具体的な整定は、機器の形式と構内設備に応じてメーカー資料と協議で決まります。
竣工時の整定値リストを保管し、設備変更時には見直しを忘れないでください。

3-5. 再閉路成功までの時系列

SO動作の真価は、再閉路との連携で発揮されます。

構内短絡から復旧までを、時系列で追います。

 

まず構内で短絡が発生し、大電流が流れます。
SOGはロック電流を検出してPASをロック、同時に変電所の遮断器が動作して配電線が停電します。

 

無電圧になった瞬間、PASは蓄勢トリップで自動開放します。
これで事故点を含む構内は、配電線から切り離されました。

 

所定の時間の後、変電所は再閉路を実行します。
事故元はすでに切り離されているため再閉路は成功し、他の需要家の停電は短時間で終わります。

 

事故を起こした構内だけが停電を続け、原因調査と復旧に入ります。
「迷惑の範囲を自分だけに限定する」というPASの使命が、この一連の流れで完結するのです。

3-6. 地絡と過電流で動作を分ける理由の整理

2つの動作モードを、整理して見比べます。

違いの根っこは、電流の大きさです。

項目 G動作(地絡) SO動作(過電流)
対象の事故 構内の地絡 構内の短絡など
事故電流の大きさ 小さい(数A程度) 大きい(kA級)
PASの動作 即時開放(トリップ) ロック→無電圧で自動開放
切り離しの完了時期 変電所動作の前 変電所動作の後・再閉路の前

 

地絡は「切れる大きさだから今切る」、短絡は「切れない大きさだから後で切る」。
どちらも、再閉路までに切り離しを完了させる点では同じゴールを目指しています。

 

この表が頭に入れば、SOGの説明はもう完成です。
続く第4章では、検出方式の進化形である方向性SOGを見ていきます。

 

4. 方向性SOG|もらい事故を防ぐ位相判別

SOGには、無方向性と方向性の2タイプがあります。

現在の主流である方向性の意味を、もらい事故から説き起こします。

4-1. 無方向性の弱点|もらい事故

無方向性のSOGは、零相電流の大きさだけで地絡を判定します。

シンプルですが、1つ大きな弱点があります。

 

構外(他の需要家や配電線)で地絡が起きたときにも、零相電流が流れることです。
自構内の高圧ケーブルと大地の間の静電容量を通って、事故点へ向かう充電電流が流れるのです。

 

ケーブルが大地との間にもつ静電容量のふるまいは、コンデンサそのものです。
構内ケーブルが長いほど静電容量は大きく、構外事故で流れる充電電流も大きくなります。

 

この電流が整定値を超えると、無方向性SOGは「構内の地絡」と誤判定してPASを開放します。
事故でもないのに自分だけ停電する、これがもらい事故(不要動作)です。

 

もらい事故は、生産停止という実害を伴います。
「うちは悪くないのに止まった」を防ぐ仕組みが、次の方向性判別です。

4-2. 方向性判別のしくみ|ZCTとZPDの位相比較

方向性SOGは、零相電流に加えて零相電圧を検出します。

零相電圧の検出器がZPD(零相電圧検出器)です。

 

地絡が起きると、系統には零相電圧が現れます。
このとき構内事故と構外事故では、零相電流の流れる向きが逆になります。

 

向きの違いは、零相電圧と零相電流の位相関係の違いとして観測できます。
方向性SOGは両者の位相を比較し、「事故は構内か構外か」を判別するのです。

 

構内方向と判定したときだけトリップし、構外なら動作しません。
これで、充電電流によるもらい事故を原理的に回避できます。

 

電圧と電流の位相という考え方に不安があれば、基礎から復習しておきましょう。
位相の概念は、以下の記事で扱っています。

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4-3. 方向性が標準になった背景

かつては、無方向性SOGも広く使われていました。

方向性への移行を後押ししたのは、設備環境の変化です。

 

第一に、構内引込ケーブルの長距離化です。
敷地の大型化や地中化により、ケーブルのこう長と対地静電容量は増え続けました。

 

第二に、配電系統側の地絡事故は決して珍しくないことです。
雷・樹木・飛来物による系統側の地絡は、季節によっては頻発します。

 

静電容量が大きい構内ほど、系統事故のたびにもらい事故のリスクを抱えることになります。
「構内ケーブルが長いなら方向性」が、設計の定石になりました。

 

現在の新設では、方向性SOG付きが事実上の標準です。
既設の無方向性で、もらい事故と思われる停止歴があるなら、更新時に方向性化を検討すべきです。

4-4. 充電電流の大きさを見積もる

もらい事故の原因になる充電電流は、計算で見積もれます。

構内ケーブルの対地静電容量を  C、相電圧を  V、周波数を  f とすると、1相あたりの充電電流は次式です。

 I_c = 2 \pi f C V

 

仮に対地静電容量0.2μF(こう長数百メートル級のケーブルを想定した仮の値)、50Hz、相電圧3,810V(6,600÷√3)で計算してみます。

 I_c = 2 \pi \times 50 \times 0.2 \times 10^{-6} \times 3810 \fallingdotseq 0.24 \text{A}

 

構外の完全地絡時には、この充電電流に対応した零相電流が自構内から流れ出します。
SOGの地絡整定値との大小関係しだいで、無方向性なら不要動作の領域に入ります。

 

ケーブルが長くなれば  C は比例して増え、充電電流も比例して増えます。
「うちのケーブルは何メートルか」が、方向性の要否を考える最初の数字になるのです。

 

正確な静電容量はケーブルの種類・サイズごとにメーカー資料で確認できます。
計算の型だけ覚えておけば、自社条件での見積もりは簡単です。

4-5. 整定と動作試験

SOG制御装置には、整定(設定)の要素があります。

代表的なのは、地絡動作電流値と動作位相の設定です。

 

地絡動作電流は、構内保護(キュービクルのGR・DGR)との協調を考えて選びます。
引込口のSOGは、構内側の継電器より遅れて動く整定にするのが原則です。

 

構内の地絡なら、まず構内のGRが該当回路だけを切り離します。
それでも残る事故(引込ケーブル自体の地絡など)を、SOGが受けもつ役割分担です。

 

整定どおり動くかどうかは、定期的な動作試験で確認します。
試験器でZCTに模擬電流を流し、規定の電流・位相・時間で動作することを検証します。

 

SOGの動作試験は、年次点検の重要メニューの1つです。
「最後の門番が確実に動く」ことを、試験で証明し続けてください。

4-6. 制御電源と耐雷の設計

SOG制御装置の細部にも、設計の工夫が詰まっています。

まず制御電源は、開閉器内蔵のVTから取るのが標準です。

 

外部電源に頼らないため、構内が全停電でも制御機能は配電線の電圧で生きています。
逆に配電線が停電すれば制御電源も消える性質が、蓄勢トリップの合図として活用されています。

 

柱上という設置環境ゆえ、雷への備えも重要です。
避雷器を内蔵した避雷器内蔵形PASが普及しており、雷サージから本体と構内を守ります。

 

制御箱や制御ケーブルにも、誘導雷への対策が施されています。
雷の多い地域では、耐雷強化形の採用や接地の整備が効果を発揮します。

 

こうした細部の仕様は、地域の雷環境・塩害環境で選び分けます。
カタログの形式記号には、その土地で生き抜くための装備が刻まれているのです。

 

5. UGSとの違い|地中引込の門番

引込が地中ケーブルの場合、門番はUGSに交代します。

役割は同じ、住む場所が違う兄弟機です。

5-1. UGSとは

UGSとは、地中線用の高圧負荷開閉器です。

地中引込の需要家で、PASと同じ区分開閉器の役割を担います。

 

都市部のビルや大規模施設では、配電線からの引込が地中ケーブルになることがあります。
柱がなければPASは付けられないため、地上または地下の機器で代替する必要があります。

 

UGSは、キャビネット(ピラーボックス)内や地下ピットに設置されます。
SOG制御装置と組み合わせて、地絡トリップと過電流ロックを行う点はPASと同じです。

 

つまり「波及事故を防ぐ区分開閉器」という機能は共通で、設置環境への適応が異なります。
PASの解説で学んだことは、ほぼそのままUGSに通用します。

5-2. ガス絶縁という選択

UGSの多くは、密閉容器にガスを封入した開閉器です。

気中のPASと違い、絶縁と消弧を絶縁ガスに頼ります。

 

地中・地上の狭い空間では、気中絶縁に必要な距離が確保しにくくなります。
絶縁性能の高いガスを使えば、機器を大幅に小型化できるのです。

 

密閉構造は、湿気・粉じん・小動物にも強いという利点をもたらします。
設置環境の厳しい地中・半地下でも、安定した性能を保てます。

 

一方で、ガス圧の管理という独自の保守項目が生まれます。
容器の健全性が性能の前提になるため、外観と圧力表示の確認が点検の柱になります。

 

環境面では、温室効果の大きいガスからの転換も進んでいます。
更新の際には、環境対応形の機種情報もチェックしておきたいところです。

 

UGSの設置形態として代表的なのが、供給用キャビネット(ピラーボックス)への収納です。
敷地境界付近に置かれた金属箱の中に、電力会社側の機器と需要家側のUGSが区画されて同居します。

 

地下ピットに設置される場合は、浸水と結露への備えが管理の焦点になります。
排水・換気の維持と、点検時の安全確保(酸欠対策・はしごの状態)も忘れてはいけません。

 

キャビネットの鍵の管理と表示も、実務では大切です。
「どの箱の中に自社のUGSがあるか」を、担当者全員が知っている状態にしてください。

5-3. PASとUGSの比較表

両者の違いを一覧に整理します。

項目 PAS UGS
正式な位置づけ 柱上用の気中負荷開閉器 地中線用の(ガス絶縁)負荷開閉器
引込方式 架空引込 地中引込
設置場所 構内第1号柱の柱上 キャビネット内・地下ピット
絶縁方式 気中 ガス絶縁が主流
SOG機能 あり(地絡トリップ・過電流ロック) あり(同じ)
主な環境リスク 雷・塩じん害・風雨 浸水・結露・ガス圧低下

 

覚え方は「空のPAS、地のUGS」です。
自社の引込が架空か地中かを見れば、どちらが門番かは自動的に決まります。

 

機能が同じである以上、SOGの整定・試験・更新の考え方も共通です。
本記事のPASの解説は、UGSの管理にそのまま読み替えてください。

5-4. 形式バリエーションの読み方

PAS・UGSには、環境や機能に応じた形式バリエーションがあります。

カタログでよく見る区分を押さえておきます。

 

避雷器内蔵形は、雷サージ対策の避雷器を本体に組み込んだ形式です。
外付け避雷器の施工が不要になり、雷の多い地域の標準選択になっています。

 

耐塩形・重耐塩形は、海岸地域の塩じん害に備えた強化仕様です。
がいし部の形状や材質、外箱の防食が強化されています。

 

定格電流(200A・300Aなど)や、制御方式の違いによる区分もあります。
更新時は、既設と同等以上の定格・機能を確認して選定します。

 

方向性SOGか無方向性かも、形式選定の重要ポイントです。
迷ったら、構内ケーブル長と地域の系統事故頻度を判断材料にしてください。

5-5. 選定とキュービクル側保護との関係

区分開閉器の選定は、単体では完結しません。

構内側、つまりキュービクルの保護装置との関係で考えます。

 

キュービクルの主遮断装置にもGR・DGRがあり、構内の地絡保護を受けもっています。
SOGの整定は、これらと時間・感度の協調を取る必要があります。

 

協調の基本は「事故点に近い保護が先に動く」です。
構内負荷側の地絡はキュービクル側で、引込ケーブルの地絡はSOGで、という役割分担になります。

 

方向性の有無も、キュービクル側のDGR・GRの構成とあわせて検討します。
もらい事故対策は、引込口と構内の両方で整合してこそ効きます。

 

受電設備全体の保護設計の中に、区分開閉器を位置づける視点をもってください。
単線結線図の上で、保護の分担を一度なぞってみることをおすすめします。

5-6. 架空引込と地中引込の得失

PASとUGSの違いの背後には、引込方式そのものの得失があります。

波及事故防止と保全の観点から、整理しておきます。

 

架空引込は、建設費が安く、事故点の発見と復旧が比較的容易です。
一方で、雷・台風・飛来物・鳥獣など、自然環境の影響を受けやすい方式です。

 

地中引込は、風雨や雷の直撃に強く、景観面でも優れます。
その代わり、ケーブル事故時の事故点探索と復旧に時間がかかる傾向があります。

 

保全の重点も方式で変わります。
架空は雷対策とがいし・腕金まわり、地中はケーブル劣化診断と水対策が中心です。

 

引込方式は需要家が自由に選べるとは限らず、地域の配電事情にも左右されます。
自社の方式の弱点を理解し、それに合わせた点検・更新計画を立てることが本質です。

 

6. 設置・更新・保守の実務

最後に、PAS・UGSを長く確実に働かせるための実務です。

門番の健康管理が、波及事故防止の最後のピースです。

6-1. 法的位置づけと管理責任

PAS・UGSは、需要家の自家用電気工作物の一部です。

管理責任は需要家側、実務は電気主任技術者(または外部委託先)が担います。

 

柱上にあっても、第1号柱から負荷側は需要家の設備です。
「電柱の上だから電力会社のもの」という誤解は、管理の空白を生みます。

 

保安規程にもとづく点検対象に、PAS・UGSも当然含まれます。
月次の外観確認と、年次の停電点検・動作試験が標準的なメニューです。

 

設置・更新の工事には、電力会社との協議と停電調整が伴います。
引込口の工事は系統との接点だけに、段取りには時間の余裕を見てください。

 

新設時には、SOGの整定値を電力会社の保護と協調させる確認も行われます。
竣工書類として、整定値と試験成績を確実に保管しましょう。

6-2. 経年劣化と更新の目安

PAS・UGSは、屋外・地中という過酷な環境で働き続けます。

経年劣化は避けられず、計画更新が必要な機器です。

 

PASの劣化要因は、風雨・紫外線・温度変化・雷・塩じんです。
がいし部の汚損や本体の腐食、内部の絶縁劣化が進行します。

 

更新の目安は、メーカー推奨でおおむね10〜15年程度とされています。
雷や塩害の厳しい地域では、さらに短い周期での更新が推奨されることもあります。

 

「動いているから大丈夫」は、この機器には通用しません。
劣化したPASは、波及事故を防ぐどころか波及事故の原因そのものになるからです。

 

設置年を台帳で管理し、推奨時期を過ぎる前に更新を予算化します。
引込ケーブルの更新と同時に行うと、停電調整も費用も効率的です。

6-3. 更新工事の流れ

PAS更新工事の標準的な流れも知っておきましょう。

段取りの大半は、停電調整と各所協議です。

 

まず、電力会社へ工事の申し込みと協議を行います。
引込線の切り離し・接続は電力会社側の作業となるため、日程は共同で決めます。

 

工事当日は、構内を全停電し、引込線を切り離してから旧PASを撤去します。
新PASの取り付け・結線後、SOG制御装置の整定と動作試験を実施します。

 

絶縁抵抗測定などの竣工試験を経て、引込線を再接続し受電します。
受電後は、計器指示と各部の異常がないことを確認して完了です。

 

停電時間は半日程度が目安ですが、柱の建て替えを伴う場合は延びます。
キュービクル年次点検と同日に組むと、停電回数を増やさずに済みます。

6-4. 点検項目の実際

日常的にできる点検と、停電時の点検を整理します。

月次の巡視では、地上からの外観確認が中心です。

 

本体・がいし部の汚損や破損、さび、鳥の巣などの異物を双眼鏡で確認します。
SOG制御箱の表示ランプ、扉の閉まり、制御ケーブルの状態も見ておきます。

 

年次点検では、停電のうえで絶縁抵抗測定とSOG動作試験を行います。
開閉器の手動操作で、機構の固着がないことも確認します。

 

UGSでは、キャビネット内の浸水跡・結露・ガス圧表示の確認が加わります。
地下ピットの設備は、点検環境の安全確保(酸欠・浸水)にも注意が必要です。

 

見落とされがちなのが、SOG制御装置そのものの劣化です。
制御装置の内部には、開閉器を引き外すためのエネルギー源(コンデンサなど)や電子回路があり、これらも年月とともに確実に劣化します。

 

外観がきれいでも、引き外しエネルギーが衰えていれば、いざという日に開放できません。
定期的な動作試験は、開閉器本体だけでなく制御装置の健全性を確かめる機会でもあるのです。

 

本体と制御装置はセットで更新するのが原則です。
制御ケーブルの劣化・損傷も、あわせて確認しておきましょう。

 

点検記録は、劣化傾向の判断材料として蓄積します。
「前回と比べてどうか」が言える記録が、更新判断を支えます。

6-5. 動作実績の確認と事故後対応

PASが動作したという事実は、重要な情報です。

停電からの復旧時には、必ず動作の有無と原因を確認します。

 

SOG制御装置には、動作表示(地絡・過電流の別)が残ります。
どちらの要素で動いたかが、原因調査の最初の手がかりです。

 

地絡動作なら、構内の絶縁を測定して事故点を探します。
原因不明のまま再投入することは、事故の再発と機器損傷を招くため厳禁です。

 

もらい事故が疑われる場合は、動作時刻と系統側の事故情報を突き合わせます。
電力会社への問い合わせで、配電線事故の有無を確認できます。

 

動作履歴は、整定見直しや方向性化の判断材料になります。
「なぜ動いたか」を毎回確定させる文化が、設備を強くします。

 

あわせて、開閉器の累計開閉回数も台帳に記録しておきましょう。
負荷開閉器には機械的・電気的な開閉寿命があり、操作回数は更新判断の根拠データになります。

 

停電点検のたびに1回、事故動作でさらに加算、という地道な積み上げです。
数字で語れる台帳が、計画保全の説得力を生みます。

6-6. 波及事故ゼロへのチェックリスト

本記事の内容を、実務チェックリストに凝縮します。

自社の状態を確認してみてください。

チェック項目 確認ポイント
区分開閉器の有無 引込口にSOG付きPAS/UGSが設置されているか
方向性の有無 構内ケーブルが長い場合、方向性SOGか
設置年と更新計画 設置からの年数を把握し、更新が予算化されているか
動作試験 年次点検でSOG動作試験を実施しているか
保護協調 キュービクル側GR・DGRとの協調が確認されているか
引込ケーブル 劣化診断・更新計画があるか
事故時手順 動作表示の確認と連絡の手順が決まっているか

 

すべてにチェックが付けば、波及事故への備えは一級です。
空欄があれば、それが次の保安課題になります。

 

波及事故防止は、地域の電気を共に使う者としての責務です。
門番を整え、鍛え、定期的に交代させて、構内事故を構内で終わらせましょう。

まとめ

本記事では、構内第1号柱で波及事故を防ぐ区分開閉器「PAS」について、責任分界点と「遮断器ではない」という性質から、波及事故のメカニズムと再閉路、SOG制御装置の地絡トリップ(G動作)と過電流蓄勢トリップ(SO動作)、ZPDとZCTの位相比較によってもらい事故を防ぐ方向性SOG、地中引込用のUGSとの違い、10〜15年を目安とする計画更新と動作試験までを体系的に解説しました。

PASは負荷開閉器であるため、地絡は即時開放し、短絡はロックして無電圧後に開放するという非対称な動作で再閉路までに構内を切り離します。

構内ケーブルの長い設備では、充電電流によるもらい事故を防ぐ方向性SOGが標準です。

劣化した区分開閉器は波及事故の原因にもなるため、点検・動作試験・計画更新の3点セットで管理します。

 

引込口の小さな機器が、地域全体の停電を防ぐ大きな役割を果たしています。
まずは自社のPAS・UGSの設置年と方向性の有無を、台帳と銘板で確かめてみてください。