Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするWeb記事/機械設計/TPS/QC品質管理

予防保全とは?事後保全・予知保全との違いを解説

設備が突然止まると、生産は停止し、納期も品質も大きな打撃を受けます。
こうした突発故障を未然に防ぐ考え方が予防保全です。

保全には、予防保全のほかに事後保全や予知保全があり、それぞれ目的とコストが異なります。
違いを理解せずに「とにかく定期点検」では、過剰保全のムダや、逆に故障の見逃しを招いてしまいます。

本記事では、予防保全の意味、保全全体の分類、事後保全・予知保全との違い、TBMとCBM、MTBF・MTTR・可用性といった指標、そして使い分けと進め方・失敗例・FAQまでを、現場で判断に使えるレベルまで掘り下げて解説します。
保全方式の選び方から関連する設計・品質・指標の知識までをひととおり押さえられる、保全の「地図」となる記事です。

 

1. 予防保全とは

予防保全(PM:Preventive Maintenance)とは、設備が故障する前に計画的に点検・整備・部品交換を行い、故障を未然に防ぐ保全活動です。
「壊れてから直す」のではなく、「壊れる前に手を打つ」という考え方です。

JIS Z 8141(生産管理用語)でも、予防保全は「アイテムの劣化の影響を緩和し、故障の発生確率を低減するために行う保全」と位置づけられています。
劣化をゆるやかにし、故障の確率そのものを下げる、という二つの効果をねらう活動だといえます。

 

身近な例でいえば、車を車検や定期点検に出すのが予防保全、故障してから修理に出すのが事後保全にあたります。
エレベーターの月次点検、エアコンのフィルター清掃、パソコンの定期バックアップなども、すべて予防保全の発想です。
定期的に手を入れることで、大きな故障や事故を防ぐわけです。
少しの手間で大きな損失を避けるのが、予防保全の基本的な考え方です。

 

予防保全のねらいは、突発的な故障による生産停止を防ぎ、設備を安定して使い続けることです。
計画的に保全できるため、生産計画への影響を抑えられ、安全や品質の確保にもつながります。

劣化した設備を使い続けると、不良の発生や事故のリスクも高まります。
予防保全は、生産性だけでなく安全と品質を守る活動でもあり、製造現場が追う品質・コスト・納期・安全の指標であるQCDSのすべてに関わってきます。

 

予防保全と生産保全・保全全般の関係

注意したいのは、「PM」という略語が予防保全(Preventive Maintenance)と生産保全(Productive Maintenance)の両方に使われる点です。
予防保全は「故障前に手を打つ」という一つの保全方式を指し、生産保全はその予防保全や事後保全・改良保全などを束ねた、設備を経済的に維持する活動全体を指します。

つまり予防保全は、生産保全という大きな枠組みのなかの中心的な一手段だと理解しておくと、用語の混乱を避けられます。
本記事ではこのあと、その全体像を順に整理していきます。

 

予防保全という考え方は、もともとアメリカで生まれ、設備を計画的に保全して故障を防ぐ手法として広まりました。
それを日本の製造業が、現場のオペレーターまで巻き込む全員参加の活動へと発展させたのがTPM(総合的生産保全)です。

「壊れたら直す」が当たり前だった時代から、「壊さないように管理する」へと発想が変わってきた、その中心にあるのが予防保全だといえます。
背景を知っておくと、なぜ保全に複数の方式があるのかも腑に落ちやすくなります。

 

なぜ予防保全が重要か

設備が突然止まると、その間の生産がすべて止まり、納期遅れや残業、不良の発生を招きます。
突発故障は「いつ起こるか分からない」ため、復旧も後手に回りがちです。

 

突発停止のこわさは、停止時間そのものの損失だけにとどまりません。
復旧のための残業や外注費といった直接コストに加え、納期遅れによる信頼の低下、再稼働直後の品質の乱れ、そして「動いていれば稼げたはずの利益」という機会損失まで、損失は何重にも積み重なります。

とくにライン全体を支えるボトルネック設備が止まれば、その1時間の停止が工場全体の1時間の停止に等しくなることもあります。
だからこそ、止まると影響の大きい設備ほど、予防保全の価値が高くなります。

 

予防保全で故障を事前に防げば、設備の停止を計画的なタイミングに置き換えられます。
生産を止めずに済む時間帯に保全をまとめれば、ライン停止の影響を最小限にできます。

計画的な停止は、休日や段取り替えのタイミングに合わせられるため、損失をコントロールできます。
予測できない停止と、計画できる停止とでは、現場の負担がまったく違います。

突発停止は段取りや人の手配が間に合わず、復旧後も品質が安定しないことがあります。
計画停止なら、人員も部品も準備したうえで効率よく作業できます。

 

保全費用と故障損失のバランス

予防保全は「やればやるほど良い」わけではありません。
保全を手厚くすれば保全費用は増え、減らせば突発故障による損失が増える、というトレードオフがあります。

 

目指すのは、保全費用と故障損失の合計(総保全コスト)が最小になる点です。
点検や部品交換を増やすほど故障損失は減りますが、ある点を超えると保全費用の増加が故障損失の減少を上回り、トータルでは損になります。
この「ちょうど良いところ」を探すのが、予防保全の設計だといえます。

 

そのために有効なのが、設備を重要度でランク分けする考え方です。
止まると生産全体が止まる設備をA、影響が限定的な設備をB、止まっても代替がきく設備をC、というように区分し、Aには手厚く、Cには軽く、とメリハリをつけます。
「全設備を一律に点検」では、重要設備は不足し、そうでない設備は過剰になりがちです。

限られた保全の人手と予算を、効く設備に集中させることが、トータルコストを抑える近道です。
予防保全は「平等」ではなく「重点」で考えるのが基本です。

 

簡単な数字で考えてみます。
あるラインのボトルネック設備が1時間止まると、機会損失と復旧費で20万円の損失が出るとします。
この設備が年に5回突発停止していたなら、年間の故障損失は100万円です。

ここに年間40万円の予防保全(定期点検と部品交換)を入れて突発停止を年1回まで減らせれば、故障損失は20万円に下がります。
保全費用40万円を足しても合計60万円となり、何もしない100万円より40万円安く済む計算です。
このように「保全費用+故障損失」を一つの数字で比べると、予防保全に投資すべきかどうかを冷静に判断できます。

 

2. 保全の種類(全体像)

予防保全を理解するには、保全全体の地図を知っておくと整理しやすくなります。
保全活動は、目的や担い手によって、いくつかの種類に分かれます。

 

事後保全と予防保全

保全は、まず「事後保全」と「予防保全」に分かれます。
事後保全(BM:Breakdown Maintenance)は故障してから直す保全、予防保全(PM)は故障前に手を打つ保全です。

 

事後保全には、さらに二つの顔があります。
影響が小さく、あえて壊れるまで使うと割り切った「通常事後保全」と、想定外の故障で急いで直す「緊急事後保全」です。
同じ「直す」でも、計画のうえでの事後保全と、不意打ちの事後保全とでは意味が大きく違います。

 

さらに予防保全は、一定周期で行う「時間基準保全(TBM)」と、状態に応じて行う「状態基準保全(CBM)」に分かれます。
状態を監視して故障を予測する「予知保全(PdM)」は、このCBMを発展させたものと位置づけられます。
TBMとCBMの詳しい違いは、後半の第5章で掘り下げます。

 

改良保全と保全予防

故障してから直す、あるいは故障前に手を打つだけでなく、「そもそも故障しにくくする」というアプローチもあります。
「改良保全(CM:Corrective Maintenance)」は、故障の原因をつぶすように設備自体を改良すること、「保全予防(MP:Maintenance Prevention)」は、設計・導入の段階から保全しやすく・故障しにくくつくり込むことです。

 

改良保全では、なぜ壊れたのかを突き止める故障解析が出発点になります。
どの部品がどう壊れて影響が出るかを洗い出すFMEA(故障モード影響解析)や、トラブルの原因を木構造でさかのぼるFTA(故障の木解析)を使えば、改良すべき弱点を論理的に特定できます。
同じ故障を二度と起こさないよう設備に手を入れるのが、改良保全の本質です。

保全予防は、その学びを次の設備の設計や購入仕様に反映する活動です。
「現場で繰り返した故障を、設計で根絶する」ことを目指すため、改良保全より上流での取り組みになります。

 

これらを組み合わせて生産設備を経済的に維持する活動全体は、「生産保全(PM:Productive Maintenance)」と呼ばれます。
全員参加でこれを進める考え方がTPMで、詳しくはTPM(全員参加の生産保全)の記事で解説しています。

このように保全は単一の方法ではなく、事後保全・予防保全・改良保全・保全予防を組み合わせた体系として捉えるのが正確です。
予防保全は、その体系の中心に位置づけられる活動です。

 

この体系を「自社の設備にどう当てはめるか」を一覧にしておくと、現場の判断が安定します。
設備ごとに、事後保全・TBM・CBM・予知保全のどれを採るかを決め、表にまとめておくのです。

担当者が変わっても、その一覧があれば「この設備はなぜこの保全方式なのか」が引き継がれます。
保全方式の選択は、属人的な勘ではなく、誰が見ても理由の分かる体系にしておくことが大切です。

 

自主保全と専門保全

保全は、誰が担うかによっても分けられます。
オペレーター自身が日常点検・清掃・給油を行う「自主保全」と、保全部門が専門的に行う「専門保全」です。

 

自主保全の基本は、「清掃・給油・増し締め」と日常点検です。
清掃は単にきれいにするだけでなく、汚れを落とす過程でゆるみや漏れ、傷といった異常を見つける点検も兼ねています。
給油は摩耗や焼き付きを防ぎ、増し締めは振動でゆるんだボルトによるトラブルを防ぎます。
こうした地道な活動が、故障の芽を日々摘み取る土台になります。

 

自主保全では、設備を毎日使う人が「いつもと違う」音や振動、においといった変化に気づき、早期に異常を発見できます。
専門保全は、分解整備や精密診断など、専門知識と工具を要する高度な保全を担います。
両者の役割分担が、予防保全を現場で機能させる鍵になります。

「自分の設備は自分で守る」という意識が現場に根づくと、異常の早期発見につながります。
日常の小さな気づきを記録に残す習慣は、ハッとした出来事を共有するヒヤリハットの活動とも相性がよく、故障や事故の芽を早い段階で摘み取れます。

オペレーターと保全部門が連携してこそ、予防保全は効果を発揮します。
点検は「保全部門だけの仕事」ではなく、現場全員の活動だと捉えることが大切です。

 

3. 事後保全との違い

予防保全と事後保全は、対極にある考え方です。
それぞれの長所と短所、そして向く場面を見ていきます。

 

事後保全の特徴

事後保全は、壊れるまで使い、故障したら直す保全です。
保全の手間が最小限で済み、まだ使える部品を捨てるムダがない、という利点があります。
部品を寿命いっぱいまで使い切れるため、計画どおりに使えば最も部品費が安くなる方式でもあります。

 

一方で、いつ止まるか分からず、突発停止による生産への影響が読めません。
復旧に時間がかかれば、生産停止の損失は保全費用をはるかに上回ることもあります。

とくにライン全体が止まる設備では、1時間の停止が膨大な機会損失になることもあります。
「保全費用をケチった結果、もっと大きな損失を出す」のは避けたいところです。

そのため、止まったときの被害が大きい設備では、故障しても安全側に止まるフェールセーフ設計を組み合わせ、事後保全のリスクを抑える工夫も求められます。

 

予防保全のメリットとデメリット

予防保全のメリットは、突発故障の減少、生産計画の安定、安全と品質の確保です。
故障を計画的なタイミングに置き換えられるため、ライン停止の影響を最小化できます。
結果として、納期遵守や残業削減にもつながります。

 

一方でデメリットは、まだ使える部品まで交換する過剰保全のムダと、点検・部品の費用、そして保全工数の増加です。
定型的な点検が増えると、保全員の負担やモチベーションの問題も出てきます。
メリットとデメリットを天秤にかけ、設備の重要度に見合った保全水準を選ぶことが大切です。

 

使い分けの基準

事後保全が向くのは、故障しても影響が小さく、すぐ交換できる安価な設備や部品です。
たとえば予備が常にあり、止まっても他でカバーできる設備なら、事後保全で十分なこともあります。

 

逆に、止まると生産全体が止まる重要設備や、安全に関わる部分には予防保全が必要です。
「壊れたときの影響の大きさ」で、事後保全と予防保全を使い分けるのが基本です。

判断材料は影響度だけではありません。
故障の起こりやすさ(発生頻度)、そして異常の見つけやすさ(検出性)も合わせて考えると、判断がぶれません。
影響が大きく・起こりやすく・気づきにくい故障ほど、予防保全や予知保全で先回りする価値が高くなります。

この「影響度・発生頻度・検出性」で故障を評価する考え方は、FMEAの発想とも共通しています。
すべてを予防保全にするのではなく、設備や部品ごとに最適な方式を選ぶ姿勢が大切です。

 

具体的な設備で考えると、使い分けのイメージがつかみやすくなります。
工場の照明や汎用の手元工具は、壊れてから替えても影響が小さいため、事後保全で十分です。
一方、ラインを駆動する主モーターや、止まると全工程が滞る搬送コンベアは、計画的な予防保全の対象になります。

さらに、人の安全に直結する安全弁やインターロック、圧力容器などは、法令上も定期点検が求められ、予防保全が必須です。
そして高価で劣化の進み方が読みにくい主軸やベアリングは、状態を監視するCBMや予知保全の出番です。
このように「影響の小ささ→事後保全」「安定稼働が重要→TBM」「高価で状態を見たい→CBM・予知保全」と並べると、方式選びの軸が見えてきます。

 

予備品の管理も保全の一部

保全をスムーズに行うには、交換部品(予備品)の在庫管理も欠かせません。
重要設備の部品が手元になければ、いざ故障したときに復旧が大幅に遅れ、MTTR(平均修復時間)が悪化します。

 

一方で、何でも在庫すれば保管コストや陳腐化のリスクがかさみます。
故障時の影響が大きく入手に時間がかかる部品は常備し、汎用品は必要時に調達する、とメリハリをつけるのが基本です。
このバランスは在庫管理の考え方そのものであり、保全方式の選定と予備品の方針は、セットで考える必要があります。

とくに古い設備では、メーカーの生産終了で純正部品が入手できなくなることもあります。
こうした場合に備え、互換品やアフターマーケット部品の調達ルートを把握しておくと、長期停止のリスクを下げられます。

故障の多い部品や寿命のある消耗品は、交換時期を見越して計画的に手配します。
予備品切れによる長期停止は、せっかくの予防保全の効果を台無しにしてしまいます。

 

4. 予知保全との違い

近年注目されるのが予知保全です。
予防保全との違いと、その仕組みを整理します。

 

予知保全(PdM)とは

予知保全とは、センサで設備の状態(振動・温度・電流など)を常時監視し、データから故障の兆候を予測して保全する方法です。
劣化の進み具合をデータでとらえ、「壊れる直前」に手を打つことを目指します。

時間で区切る予防保全に対し、予知保全は「その設備の今の状態」で判断する点が異なります。
同じ機種でも、使い方や負荷によって劣化の速さは違うため、状態で判断するほうがムダがありません。

ただし、状態を正しく測れなければ判断を誤るため、センサの選定や診断の精度が重要になります。
測り方を誤れば、劣化を見逃したり、正常を異常と誤判定したりして、かえって混乱を招きます。

 

IoTやAIの普及で、振動や温度の傾向から故障を予測する予知保全が実用化されてきました。
状態に基づく点では状態基準保全(CBM)の一種で、その精度をデータ分析で高めたものといえます。
計画したスケジュールで点検する予防保全に対し、予知保全は「異常の兆候をつかんだタイミング」で動く、という違いがあります。

 

予知保全の代表的な手法

予知保全では、設備の状態を測るためにいくつかの診断技術が使われます。
回転機械の異常をとらえる「振動診断」、発熱を見る「赤外線サーモグラフィ(温度監視)」、潤滑油中の摩耗粉を調べる「油分析」、モーターの電流から異常を探る「電流診断(MCSA)」などが代表的です。

 

たとえば振動診断では、ベアリングやギアの異常がそれぞれ特有の周波数に現れるため、振動を周波数ごとに分解することで、どの部品が傷んでいるかまで推定できます。
機械の異常振動は共振とも関わりが深く、危険な振動を避ける知識は予知保全の基礎になります。

温度監視では、配電盤やモーターの発熱を赤外線サーモグラフィで画像化し、局所的な異常発熱を見つけます。
油分析では、潤滑油に含まれる金属摩耗粉の量や種類を調べ、どの部品がどれだけ摩耗しているかを推定します。
どの手法も、人の五感では気づけない初期の劣化を、数値として早めにとらえられる点が共通の強みです。

 

これらで得たデータの傾向を追うことで、劣化の進行や故障の兆候を早期に察知できます。
たとえば振動値が少しずつ増えていけば、ベアリングの摩耗が進んでいるサインと判断できます。

こうした傾向管理は、しきい値を超える前に手を打てるのが強みです。
突然の故障ではなく、ゆるやかな劣化として故障をとらえ直せるため、計画的な対応が可能になります。

 

予防保全との関係と導入の考え方

時間基準の予防保全は「まだ使える部品も周期で交換する」ため、過剰保全になりがちです。
予知保全なら、本当に劣化したときだけ保全するため、部品も保全工数もムダなく使えます。

 

ただし、予知保全にはセンサやデータ分析の仕組みが必要で、導入コストがかかります。
すべての設備に予知保全を入れるのではなく、重要な設備から段階的に適用するのが現実的です。

まずは止まると影響の大きい設備に絞って導入し、効果を確かめてから広げる「スモールスタート」が定石です。
どの設備のどの故障を、どの兆候でとらえるのか、という見立てができていないと、データを集めても活用できません。
故障の起こり方をあらかじめ整理する潜在的故障モードの洗い出しが、予知保全の設計でも役立ちます。

投資に見合う効果が出る設備を見極めることが、予知保全成功の前提です。
予防保全で土台をつくり、重要設備から予知保全へ発展させる、という順序が現実的だといえます。

 

予知保全とDX(IoT・AI)

予知保全は、近年のDX(デジタル化)の流れと結びついて急速に広がっています。
設備に取り付けたセンサのデータをネットワークで集め、クラウド上で常時監視・分析する仕組みが、以前より手軽に構築できるようになったためです。

 

AIを使えば、過去の故障時のデータパターンを学習させ、「この振動と温度の組み合わせは故障の前触れ」と自動で判定させることもできます。
人が一つひとつの数値を見張らなくても、異常の兆候が出たときだけ通知を受け取る、という運用が可能になります。

さらに、実機の状態を仮想空間に再現する「デジタルツイン」を使えば、劣化の進行をシミュレーションし、最適な交換時期を予測する試みも進んでいます。
ただし、これらはあくまで道具です。
どの故障を、どの兆候で、どこまでの精度でとらえたいのかという目的が先にあって初めて、IoTやAIが生きてきます。

 

5. 時間基準保全(TBM)と状態基準保全(CBM)

予防保全は、保全のきっかけによってTBMとCBMに分かれます。
両者の違いと、それぞれの決め方を見ていきます。

 

時間基準保全(TBM)

TBM(Time Based Maintenance)は、一定の周期で点検や部品交換を行う方法です。
「3か月ごとにオイル交換」「稼働1,000時間ごとにベアリング交換」のように、時間や稼働量を基準にします。

カレンダー上の暦日で区切る方法と、実際の稼働時間で区切る方法があり、設備の使われ方に応じて選びます。
稼働にばらつきがある設備は、暦日より稼働時間で管理するほうが実態に合います。

 

身近な例では、油圧装置の作動油を半年ごとに交換する、エアフィルターを月1回清掃する、駆動ベルトを稼働2,000時間ごとに張り直す、といった項目がTBMにあたります。
これらを保全カレンダーに落とし込み、「いつ・何を・誰が」やるかを決めておけば、抜け漏れなく計画的に回せます。
暦と稼働量のどちらで管理するかは、その項目が時間で劣化するか使用量で劣化するかで決めるのが基本です。

 

計画が立てやすく、管理もシンプルなのが利点です。
一方で、実際の劣化に関係なく交換するため、まだ使える部品を捨てる過剰保全や、逆に周期が長すぎて故障する取りこぼしが起こり得ます。

それでも、管理のしやすさから多くの現場でTBMが基本になっています。
まずTBMで土台をつくり、重要設備からCBMや予知保全に発展させる、という順序が現実的です。

 

保全周期の決め方

TBMで難しいのが、保全周期をどう決めるかです。
まずはメーカー推奨の周期を基準にし、自社の使用条件や過去の故障データを踏まえて調整します。

 

たとえば過去のMTBF(平均故障間隔)が分かれば、それより短い周期で保全することで故障を未然に防げます。
転がり軸受のように寿命を計算で見積もれる部品もあり、回転数や荷重から寿命を求めるベアリングの寿命計算(L10寿命)は、周期設定の有力な根拠になります。

金属疲労が関わる部品では、応力の繰り返し回数と寿命の関係を扱う疲労設計(S-N線図)の考え方も、交換時期を決める助けになります。
稼働が厳しい設備は周期を短く、軽負荷の設備は長く、と実態に合わせて見直すことで、過剰保全と取りこぼしの両方を避けられます。

 

周期は一度決めて終わりではなく、故障やヒヤリハットが起きるたびに見直します。
実績データの蓄積こそが、最適な周期に近づく唯一の道です。

むやみに短くすれば安心ですが、その分コストと停止時間が増えます。
「故障させない」と「ムダにしない」のちょうど良い周期を、データで探っていきます。

 

周期を決めるときは、ばらつきを見込んだ「安全係数」の考え方も役立ちます。
故障までの時間には個体差や使用条件によるばらつきがあるため、平均寿命のとおりに周期を組むと、平均より早く壊れる個体を取りこぼします。
そこで、想定寿命に対して余裕をもたせた周期にしておくことで、ばらつきがあっても故障の前に保全できます。

どれだけ余裕をとるかは、故障したときの影響の大きさで決めます。
止まると致命的な設備は余裕を大きく、影響が小さい設備は寿命ぎりぎりまで、と調整するのが合理的です。

 

状態基準保全(CBM)

CBM(Condition Based Maintenance)は、設備の状態を点検・測定し、劣化の程度に応じて保全する方法です。
振動や温度、摩耗量などを監視し、あらかじめ決めた基準を超えたら保全します。

 

CBMを支える重要な考え方が「P-F曲線」です。
故障には、異常の兆候が現れ始める点(Potential failure)から、実際に機能を失う点(Functional failure)までの時間があり、この区間を「P-F間隔」と呼びます。
P-F間隔のあいだに異常を検出し、機能喪失の前に手を打つのが、CBMや予知保全のねらいです。

つまり、点検の間隔をP-F間隔より短くしておけば、故障に至る前に必ず兆候をとらえられる、という設計ができます。
逆に点検間隔が長すぎると、兆候を見逃したまま機能喪失に至ってしまいます。

 

実態に合わせて保全するため、過剰保全のムダを抑えられます。
状態の測定と判断が必要になる点が手間ですが、詳しくは状態基準保全(CBM)の記事で解説しています。

CBMで難しいのは、「どの値を超えたら保全するか」というしきい値の決め方です。
厳しすぎれば正常でも保全してしまい、ゆるすぎれば故障を見逃します。
多くの現場では、まずメーカー基準や業界の判定基準を出発点にし、自社の故障実績と突き合わせて調整していきます。

たとえば振動値であれば、「注意」と「危険」の二段階のしきい値を設けるのが一般的です。
注意レベルを超えたら監視を強化して交換の準備を進め、危険レベルに達する前に計画的に手を入れる、という運用にすれば、突発停止を避けながらムダな交換も減らせます。

 

点検のたびに状態を記録すれば、劣化の傾向も見えてきます。
TBMの「念のため交換」を、CBMの「劣化したら交換」に置き換えることで、部品費を抑えられます。

関連記事

instant.engineer

 

6. 予防保全の指標(MTBF・MTTR・可用性)

保全の効果は、数値で管理してこそ改善につながります。
代表的な指標を見ていきます。

 

MTBFとMTTR

MTBF(平均故障間隔)は、故障から次の故障までの平均時間で、長いほど故障しにくい(信頼性が高い)ことを表します。
MTTR(平均修復時間)は、故障してから直すまでの平均時間で、短いほど早く復旧できる(保全性が高い)ことを表します。

 

似た指標にMTTF(平均故障寿命)があり、これは修理せずに使い捨てる部品に使う指標です。
修理して使い続ける設備にはMTBF、交換して終わりの部品にはMTTF、と使い分けます。
三つの指標の違いは、MTBF・MTTR・MTTFの記事で詳しく解説しています。

 

MTBFは、実績から簡単に求められます。
たとえば同じ設備10台を1,000時間ずつ動かして、合計で5回の故障が起きたなら、総稼働時間10,000時間を故障5回で割って、MTBFは2,000時間と計算できます。
このように稼働時間と故障回数を記録しておけば、保全の効果が数字で見えてきます。

 

予防保全はMTBFを延ばす(故障そのものを減らす)方向、保全のしやすさの改善はMTTRを縮める方向の取り組みです。
両方を追うことで、設備の使える時間を最大化できます。

MTBFの改善には予防保全や改良保全が、MTTRの改善には部品の標準化や保全手順の整備、予備品の常備が効きます。
どちらの指標が悪いかを見れば、打つべき手も見えてきます。

関連記事

instant.engineer

 

故障率と信頼性

故障の起こりやすさは「故障率」で表し、偶発故障期では一定とみなせます。
故障率は平均故障間隔の逆数にあたり、MTBFが長いほど故障率は低くなります。

 

 \lambda = \dfrac{1}{\text{MTBF}}

 

故障率が一定とみなせる期間では、ある時間まで故障せずに動き続ける確率(信頼度)は、次の式で表せます。

 

 R\left(t\right) = e^{-\lambda t}

 

この信頼度は、設備や部品の信頼性を評価する基礎になります。
故障を減らすには、保全だけでなく設計段階での作り込みも重要で、止めない設計の考え方は冗長設計の記事で解説しています。

 

可用性(アベイラビリティ)

MTBFとMTTRから、設備が使える割合を表す「可用性」を求められます。

 

 \text{可用性} = \dfrac{\text{MTBF}}{\text{MTBF} + \text{MTTR}}

 

たとえばMTBFが200時間、MTTRが5時間なら、可用性は200÷205で約0.976、つまり約97.6%の時間は使える計算になります。
仮にMTTRを5時間から2時間に縮められれば、可用性は200÷202で約99.0%まで上がります。
同じ故障の少なさでも、早く直せるほど設備は長く使えるわけです。

可用性や設備の稼働状況を表す指標は、稼働率や可動率との違いも含めて可用性とは(稼働率との違い)の記事で詳しく解説しています。

 

可用性を上げるには、MTBFを延ばす(壊れにくくする)か、MTTRを縮める(早く直す)かのどちらかです。
予防保全は前者に効く中心的な手段であり、予備品の整備や手順の標準化は後者に効きます。
指標を見ながら、どちらを攻めるかを決めていきます。

 

可用性と稼働率・設備総合効率の違い

可用性とよく似た言葉に「稼働率」や「可動率」があり、混同されがちです。
可用性は、故障と修理に着目して「使える時間の割合」を表す指標で、計画停止や段取り替えは含めずに考えるのが基本です。

 

一方、現場でいう「時間稼働率」は、計画した稼働時間のうち実際に動いた割合を指し、段取りや小停止も含めて評価します。
つまり可用性は設備そのものの信頼性・保全性を、稼働率は運用も含めた実際の動き具合を見る指標だといえます。

さらに、稼働の度合いに加えて、速度のロスや不良によるロスまで掛け合わせて総合的に設備の効率を測るのが「設備総合効率(OEE)」です。
予防保全は、このうち故障による停止ロスを減らすことで、可用性とOEEの両方を底上げします。
どの指標で何を見ているのかを区別しておくと、改善の議論がかみ合います。

 

7. 予防保全の進め方・使い分け・FAQ

最後に、予防保全の進め方と、保全方式の使い分け、よくある失敗例とFAQをまとめます。

 

バスタブ曲線で考える

設備の故障率は、時間とともに「初期故障期→偶発故障期→摩耗故障期」と変化し、その形からバスタブ曲線と呼ばれます。
使い始めは初期不良で故障率が高く、安定期は低く、寿命が近づくと摩耗で再び高くなります。

 

この三つの時期では、効く保全が異なります。
初期故障期には、慣らし運転や初期点検を手厚くして、初期不良を早く取り除くことが有効です。
偶発故障期のランダムな故障は周期保全では防ぎにくく、CBMや事後保全が向きます。
そして摩耗故障期に入る前に部品交換する予防保全は、摩耗型の劣化にこそ効果を発揮します。

つまり「いつ・どんな故障が起こりやすいか」を見極めて保全方式を選ぶことが大切で、故障率の変化はバスタブ曲線の記事で詳しく解説しています。

 

予防保全の進め方(ステップ)

予防保全は、設備ごとにやみくもに始めるより、手順を踏むと効果的です。
まず設備台帳で対象を洗い出し、「止まったときの影響の大きさ」で設備の重要度を評価します。

 

次に、重要度に応じて保全方式(事後保全・TBM・CBM・予知保全)を割り当て、点検項目・周期・基準をまとめた保全基準書や保全カレンダーを作ります。
あとは計画どおり実施し、結果を記録して、故障の発生状況を見ながら周期や項目を見直していきます。
この「計画→実施→記録→見直し」のサイクルを回すことが、予防保全を生きた活動にします。

 

保全の成果を見える化するには、KPI(管理指標)を決めておくことも有効です。
突発故障の件数や停止時間、前述のMTBF・MTTR・可用性、保全費用、計画保全の実施率などを定点観測すれば、活動が効いているかを数字で確かめられます。
「故障が減ったか」「ムダな保全が増えていないか」を指標で振り返ることで、次の打ち手が見えてきます。

 

近年は、この台帳や点検記録、保全履歴をシステムで一元管理するCMMS(設備保全管理システム)の導入も進んでいます。
記録が紙やバラバラの表に散らばっていると、傾向を読み取れず、せっかくのデータが改善に生きません。
トヨタ生産方式の現場で磨かれた実践的な進め方は、トヨタで学ぶ予防保全の実践方法の記事も参考になります。

関連記事

instant.engineer

 

よくある失敗例

よくある失敗は、保全周期が実態と合っていないケースです。
周期が短すぎれば過剰保全でコストがかさみ、長すぎれば故障を取りこぼします。

 

点検が形骸化し、チェックを付けるだけで記録を活用しないのも典型的な失敗です。
記録から傾向を読み取り、周期見直しに使えているかを、定期的に振り返ることが大切です。

予備品切れで復旧が長引く、保全のノウハウが特定の人に偏って引き継がれない、といった失敗もよく見られます。
仕組みと記録で属人化を防ぐことが、予防保全を続けるコツです。

 

よくある質問(FAQ)

「予防保全と予知保全の違いは何ですか」——予防保全は周期や状態に応じて計画的に保全し、予知保全はセンサのデータで故障を予測して保全します。
予知保全は、予防保全のなかでも状態基準保全(CBM)を発展させた方法だと整理できます。

 

「事後保全は悪い保全なのですか」——いいえ、そうとは限りません。
影響が小さく代替がきく設備では、あえて壊れるまで使う事後保全が合理的で、要は設備の重要度に応じた使い分けが大切です。

 

「すべての設備を予防保全にすべきですか」——いいえ、過剰保全になります。
「TBMかCBMか予知保全か事後保全か」を設備ごとに割り当てた一覧(保全方式の体系)を持つと、判断がぶれません。

 

「予防保全はどの指標で評価すればよいですか」——MTBF・MTTR・可用性が基本です。
故障の減り(MTBF)と復旧の速さ(MTTR)、そして使える割合(可用性)を見れば、改善の方向が分かります。

 

「予防保全を始めるには、まず何からすべきですか」——設備台帳の整備と、重要度の評価からです。
どの設備が止まると困るのかを洗い出せば、限られた人手をどこに振り向けるべきかが見えてきます。
すべてを一度に変えようとせず、重要設備の数台から始めて、記録を取りながら広げていくのが続けるコツです。

 

8. まとめ

本記事では、予防保全の意味、保全の分類、事後保全・予知保全との違い、TBMとCBM、MTBF・MTTR・可用性、進め方と使い分け・FAQを解説しました。

 

予防保全とは、故障する前に計画的に保全して突発故障を防ぐ活動で、時間基準のTBMと状態基準のCBMに分かれます。
故障してから直す事後保全、データで予測する予知保全と並べて、設備の重要度や故障の型に応じて使い分けます。

 

効果はMTBF・MTTR・可用性といった指標で管理し、可用性はMTBF÷(MTBF+MTTR)で求められます。
バスタブ曲線で見れば、摩耗型の故障には予防保全、偶発故障にはCBMや事後保全、と整理できます。

 

保全周期を実態に合わせ、点検記録を改善に活かすことが、予防保全を生かすコツです。
「壊れる前に手を打つ」発想で、設備を安定して動かし続けてください。

予防保全は、目立たないが効果の大きい、地に足のついた改善活動です。
日々の点検と記録の積み重ねが、止まらない現場をつくります。