材料の性質
材料の性質は、大きく以下の3つに分けられる。
1.機械的性質・・・外部からの力に対する性質
2.物理的性質・・・重さや電気、熱に対する性質
3.化学的性質・・・錆びなど化学反応に対する性質
上記の観点で材料のさまざまな性質を整理した表が以下となる。
例えば強い、弱いといった感覚を数値化したものが「剛性」や「強度」である。定量化することで材料の性質が明確になり、また他の材料の比較も可能になる。
以下では、これら数値化した指標の定義をひとつずつ確認していく。
機械的性質
外部からの力に対する性質が機械的性質である。
剛性とは
曲げやねじりの力に対する変形のしづらさの度合いのこと。力に対して変形が小さい時は剛性が高い(大きい)、変形が大きい時は剛性が低い(小さい)という。
剛性が高いと、力が加わっても変形しにくい。伸びによるひずみや曲げに対するたわみが少ない。
力が加わった際の変形のしにくさである剛性は、縦弾性係数(ヤング率)で表される。
例えば次の金属のヤング率を見てみると、アルミニウム70.3GPa、銅129.8GPaである。
※
フックの法則から引っ張りによる変形量は下記の式で計算できる。
縦弾性係数(ヤング率)が式の分母にあるので、ヤング率は数値が大きいほど変形しにくいことを意味する。先のアルミニウムと銅の比較でまったく同じ大きさの試料を同じ力で引張った場合、アルミニウムの方が約2倍近く伸びる(変形)する。
強度とは
その材料が持つ変形や破壊に対する抵抗力。つまり、耐えられる力の大きさのこと。
耐えられる力が大きいと、大きな力を加えても永久ひずみが生じず、破損もしにくい。
強度には弾性の上限を示す降伏点(耐力)と、破壊限界を示す引張り強さがある。
どちらも単位はで表される。
降伏点は弾性の上限であり、これを超える力が加わるとたとえ短い時間であったとしても永久ひずみが生じ、塑性変形により元の形状には戻らない。
引張り強さは破壊限界で言葉通りこれを超える力が加わると材料が破断する。
硬度とは
物質、材料の特に表面または表面近傍の機械的性質の一つであり、材料が異物によって変形や傷を与えられようとする時の、物体の変形しにくさ、物体の傷つきにくさのこと。
つまり、硬度(硬さ)とは、材料表面に局部的に力が加わった際の抵抗の大小を表す。
測定方法は材料の種類によってさまざまあり、薄板の測定でよく使われる代表的なビッカース硬さ試験(HV)では、四角錐により測定対象物の表面に圧痕をつけ、圧痕の表面積を試験荷重を割って算出する。
じん性とは
粘り強くて、衝撃破壊を起こしにくいかどうかの程度のこと。
※「粘り強さ」・・・急激な力に対する破壊のしにくさ
ぜい性とは
物体が外力を受けたときに、あまり変形しないうちに破壊する性質(=もろさ)。
また、一般に硬くてもろく、変形能の小さい性質のこと。通常、衝撃試験における衝撃値の大小または破面の状況によって比較される。
物理的性質
重さや電気、熱に対する性質。
密度とは
密度は単位体積当たりの質量を表したもので、数値が大きいほど重いことを意味する。
単位はで表記され、基準物質である水の質量がの時、代表的な材料の密度を降順で以下に示す。
鉄の密度はであり、水に比べて質量が約8倍である。そして金、銀、銅はさらに密度が大きいことがわかる。水より密度が小さいものは、水より軽く、水に入れた時に浮く。
一方、比重は、同じ体積の「基準物質」(=水)と比べて何倍の重さであるか、を表す。
より詳細に説明すると、ある物質の密度(単位体積当たり質量)と、基準となる標準物質の密度との比である。つまり、「比」であるため比重は単位を持たない。
先ほどの例でいうと、鉄の比重は『7.87』となる。
導電率とは
導電率とは、物質中における電気の流れやすさを示す指標のこと。電気伝導率、電気伝導度、コンダクタンスとも呼ばれる。単位は『S/m』(ジーメンス パー メートル)で表す。
導電率と抵抗率(電気の通しにくさを表す物性値)は逆数の関係にある。
代表的な金属材料の導電率(電気伝導率)を以下に示す。
銀と銅が特に電気を通しやすいことがわかる。一般的に電気配線では、コスト面を考慮して銅線が採用される。
線膨張係数とは
熱による影響として、温度の上昇により材料は伸びる。熱による伸びの度合いは材料ごとの「線膨張係数」で決まり、数値が大きいほど伸びやすいことを表す。
この数値を使う利点は、上昇温度がわかれば具体的に伸び量を計算できることと、材料ごとの伸び度合いを比較できること。
線膨張係数の単位は以下のいずれかで表す。
・1/℃ (℃は摂氏温度の単位)
・1/K (Kは絶対温度の単位)
線膨張係数の単位を「1/K」から「1/℃」に換算しても値は同一となる。
例えば鉄(SS400)の線膨張係数はである。
長さ300mmの鉄の棒が温度20℃から40℃に上昇した場合の伸び量は以下のように計算できる。
伸び量=元の長さ×上昇温度×線膨張係数
よって、この例では0.07mm(=70μm)材料が伸びることになる。
代表的な金属材料の線膨張係数を以下に示す。
熱伝導率とは
熱による影響のうち、熱の伝わるスピードを「熱伝導率」という。単位は「W/(m・K)」。
熱伝導率の定義は、厚さ1mの板の両端に1℃の温度差がある時、その板のを通して、1秒間に流れる熱量とされる。
熱伝導率の値が大きいほど熱が伝わりやすい材料で、言い換えれば熱を逃がしやすいので冷却が必要な構造部品で重要な選定基準となる。
一方、熱が伝わりにくい空気やガラスは熱伝導率が極めて小さい。
主な材料の室温付近における熱伝導率を以下に示す。
熱伝導率が高い金属材料としては、銀、銅、金、アルミニウムがあり、ヒートシンクといった冷却が必要な部品にはコストの観点からアルミニウムが用いられる。
一方、断熱材として用いられる発砲ポリスチレンや空気は0.02~0.03と小さな値であることがわかる。
耐熱性とは
耐熱性とは、物質が高温にさらされた際に、物性を維持する性質のことで樹脂材料やプラスチック材料を用いる際に検討される。
耐熱性には、大きく「化学的耐熱」と「物理的耐熱」の2つがある。
化学的耐熱は、高温環境下でも酸化や熱分解による劣化が無いこと、連続して使用できる温度が高いこと、化学変化を起こさないことを示し、
物理的耐熱は、高温環境下でも機械的強度が大きく低下しないことと、軟らかくなるといった物理的変化が起きないことを示す。
耐熱温度を超えた状態で材料を使用すると、変形や変色を起こしたり、接着剤などでは機能の消失(接着力)が起きたりにする。
磁性とは
磁性とは、物質が原子あるいは原子よりも小さいレベルで磁場に反応する性質であり、他の物質に対して引力や斥力を及ぼす性質の一つである。簡略化すると、磁石につく性質のこと。
(厳密には、磁場そのものにはすべての物質が反応するものの、電子運動の方向が打ち消し合って磁石につかないものがあり、それを磁性がないと表現している。磁石につかないからといって「磁性がない」ことにはならないので注意。)
磁石につく金属材料は鉄、コバルト、ニッケルがある。
他の金属、例えば金、銀、銅、アルミニウムなどは磁石につかない。
化学的性質
腐食や錆びなどの化学反応に対する性質のこと。化学的性質とは、周囲の気体や金属などと化学反応を起こし、錆びが発生したり溶けて穴があたりする腐食への抵抗力を示し、これを耐食性という。
金属の表面はその周辺の気体や水分などとの間で酸化還元反応という化学反応により金属化合物に変化する。その変化の過程で本来その金属材料が持っていた外観や機能が損なわれる状態を腐食といい、その腐食の反応速度を比較したものが耐食性である。
酸化還元反応が起きるためにはその金属がイオン化する必要があり、金、銀、白金といったイオン化傾向が小さい金属はイオン化しにくく、腐食が起きにくい。
一方、リチウム、カリウム、カルシウムなどはイオン化傾向が大きく、腐食が起きやすい。
イオン化のしやすさのことをイオン化傾向といい、イオン化傾向が大きい材料ほど腐食しやすい。