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リーマ加工とは?種類と公差・下穴条件を解説

φ10mmの穴をドリルで開けたはずなのに、測ってみるとφ10.05mm——この「たった0.05mmのズレ」が、精密な軸受や油圧バルブの組み込みを不可能にしてしまうことがあります。

ドリル加工だけでは到達できない穴径精度の世界。

その限界を超えるために、製造現場で欠かせない仕上げ工程がリーマ加工です。

リーマ加工は「穴を開ける」工程ではなく、「すでに開いた穴を精密に仕上げる」工程であり、はめあい公差H7を安定的に実現できる数少ない手段です。

しかし、種類選定や下穴径の設定を誤ると、穴径不良や面粗さ悪化を招きます。

本記事では、リーマ加工の基本原理から種類ごとの特徴、はめあい公差との関係、下穴の条件設定、切削条件の計算方法、そして現場で起こりがちなトラブルの原因と対策、図面指示の方法までを体系的に解説します。

 

1. リーマ加工とは

リーマ加工とは、ドリルやエンドミルなどで開けた下穴に対して、リーマ(reamer)と呼ばれる多刃の仕上げ工具を通すことで、穴の内径寸法と面粗さを高精度に仕上げる切削加工法です。

ドリル加工が「穴を開ける」ための工程であるのに対し、リーマ加工は「穴の精度を上げる」ための仕上げ工程に位置づけられます。

 

ドリル加工との精度差

ドリル加工で得られる穴の寸法精度は、一般的にIT10〜IT12等級程度です。

これは、φ10mmの穴であれば公差幅が約0.058〜0.150mmに相当します。

一方、リーマ加工ではIT6〜IT8等級の精度を安定して達成でき、φ10mmでIT7の場合の公差幅はわずか0.015mmです。

 

IT等級と公差幅の関係は、基本公差の計算式から理解できます。

IT7の基本公差は次式で算出されます。

 

 \text{IT7} = 10i

 

ここで  i は公差単位と呼ばれ、基準寸法  D\,\text{(mm)} から次のように求められます。

 

 i = 0.45\sqrt\lbrack3\rbrack{D} + 0.001D

 

 D は対象寸法区間の幾何平均で、φ10mmの場合は寸法区間6〜10mmの幾何平均  D = \sqrt{6 \times 10} \approx 7.75\,\text{mm} を使います。

この値を代入すると次のようになります。

 

 i = 0.45\sqrt\lbrack3\rbrack{7.75} + 0.001 \times 7.75 \approx 0.898\,\mu\text{m}

 

したがって、IT7の公差幅は次のとおりです。

 

 \text{IT7} = 10 \times 0.898 \approx 9\,\mu\text{m}

 

実際のJIS B 0401では、φ6〜10mmの区間でIT7=15μm(丸め処理あり)と規定されています。

ドリルのIT11では公差幅が90μm、IT12では150μmですから、リーマ加工がいかに桁違いの精度を実現しているかが分かります。

 

面粗さの改善効果

リーマ加工は寸法精度だけでなく、穴内面の表面粗さも大幅に改善します。

ドリル加工後の穴内面は一般的にRa6.3〜12.5μm程度ですが、リーマ加工を施すとRa0.8〜3.2μm程度まで向上します。

この面粗さの改善は、油圧シリンダのシール面や軸受ハウジングのように、摺動面の気密性や嵌合精度が要求される部位で特に重要です。

 

リーマ加工の切削メカニズム

リーマは多数の切れ刃(通常4〜8枚)を持ち、下穴に対して極めて小さな取り代(片肉0.1〜0.3mm程度)で切削します。

各切れ刃が均等に微量の金属を除去するため、切削抵抗が安定し、高い真円度と寸法精度が得られます。

また、リーマの先端には食い付き部(テーパ部)が設けられており、この部分が穴への導入とセンタリングの役割を果たします。

食い付き角は通常1°〜3°程度で、食い付き部の長さは次式で表されます。

 

 L_{\text{食い付き}} = \dfrac{t}{\tan\theta}

 

ここで  t は片肉取り代、 \theta は食い付き角です。

例えば取り代0.15mm、食い付き角2°の場合は次のようになります。

 

 L_{\text{食い付き}} = \dfrac{0.15}{\tan 2°} \approx 4.3\,\text{mm}

 

この食い付き部が下穴に対してリーマを正確にガイドすることで、穴の直進性と真円度が確保されます。

 

リーマ加工が求められる場面

リーマ加工が必要となる代表的な場面を以下に紹介します。

 

油圧・空圧機器のバルブボディでは、スプール弁が摺動する穴にH7やH8の公差が要求されます。

穴径のばらつきが大きいとスプールの動きが渋くなり、最悪の場合は弁が固着してシステム全体が停止する深刻なトラブルに発展します。

 

軸受ハウジングでは、ベアリング外輪を圧入する穴にH7公差が標準です。

穴が大きすぎるとベアリングが回転中に抜け出し、小さすぎると外輪に過大な応力がかかり寿命が低下します。

 

位置決めピン穴では、H7/m6やH7/k6の中間ばめが多用されます。

治具や金型の位置決めピン穴はリーマ加工の代表的な用途であり、穴同士のピッチ精度も含めて厳しい管理が求められます。

 

ギヤ・プーリの軸穴では、H7/p6などのしまりばめで圧入固定するケースが一般的です。

穴径が公差外だと圧入力が適正範囲を外れ、組立不良や使用中の緩みにつながります。

 

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2. リーマの種類と特徴

リーマにはさまざまな種類があり、用途や加工条件に応じて最適なものを選定する必要があります。

ここでは代表的な4つの種類について、それぞれの構造的特徴と用途を解説します。

 

ハンドリーマ

ハンドリーマは、手作業での仕上げ加工に使用されるリーマです。

シャンクの端部に四角形の突起(タング)が設けられており、ここにタップハンドルを装着して手回しで加工します。

食い付き部のテーパ角が非常に緩やか(約1°以下)に設計されているのが特徴です。

これは、手回しで穴に挿入する際のセンタリングを容易にするためです。

 

ハンドリーマの最大の利点は、機械設備がない現場や修理作業など、工作機械を使えない状況でも精密な穴仕上げができる点です。

ただし、手作業のため加工速度が遅く、量産加工には不向きです。

また、切削速度が低いことから面粗さの仕上がりはマシンリーマに劣る傾向があります。

適用場面としては、組立現場でのピンホール合わせや、保守・補修時の穴径修正が挙げられます。

 

マシンリーマ

マシンリーマは、ボール盤やフライス盤、旋盤など工作機械のスピンドルに取り付けて使用するリーマです。

シャンク形状はストレートシャンクまたはテーパシャンク(モールステーパ)があり、加工機の主軸に直接装着できます。

 

食い付き角はハンドリーマより急で、一般的に1°30′〜3°程度です。

機械の回転と送りにより安定した切削が行われるため、ハンドリーマより高い面粗さ精度を得ることができます。

量産加工での標準的なリーマであり、JIS B 4402(マシンリーマ)で寸法・公差が規格化されています。

 

チャッキングリーマ

チャッキングリーマは、マシンリーマの一種ですが、特にフローティングホルダーやコレットチャックでの保持を前提として設計されたリーマです。

シャンク径が切れ刃径と異なる(通常、シャンク径が小さい)ことが多く、ホルダーの把持力で保持します。

 

チャッキングリーマの重要な特長は、フローティング構造との組み合わせにあります。

フローティングホルダーを使用すると、リーマが径方向に微小量だけ自由に動けるため、下穴の芯ズレを吸収しながら加工できます。

これにより、主軸と下穴の同軸度が完全でなくても、高精度なリーマ加工が可能になります。

マシニングセンタでの連続自動加工に特に適しており、工具交換も容易です。

 

ブローチリーマ

ブローチリーマは、通常のリーマとは切削のメカニズムが異なる特殊なリーマです。

通常のリーマが回転しながら穴を仕上げるのに対し、ブローチリーマは回転させずに穴に押し通す(または引き抜く)ことで加工します。

工具の軸方向に沿って刃径が段階的に大きくなっており、1回の通しで下穴から仕上がり寸法まで削り上げます。

 

ブローチリーマの利点は、加工時間が極めて短い点です。

1回の通し動作で仕上がるため、量産部品の穴仕上げに高い生産性を発揮します。

ただし、工具自体が高価であり、穴径ごとに専用工具が必要です。

そのため、同一寸法の穴を大量に加工する量産ライン向けの工法といえます。

 

その他の特殊リーマ

上記の4種類以外にも、用途に応じた特殊なリーマが存在します。

代表的なものを以下に示します。

  • テーパリーマ:モールステーパやブラウンシャープテーパなど、テーパ穴の仕上げに使用されます。テーパピンの取り付け穴加工に不可欠です。
  • シェルリーマ:刃部とシャンク(アーバ)が分離する構造で、刃部のみの交換が可能です。大径の穴加工でコストメリットがあります。
  • 超硬リーマ:切れ刃に超硬合金を使用し、硬質材料の加工や長寿命化を図ったリーマです。鋳鉄や焼入れ鋼の加工に用いられます。

 

リーマの選定では、加工する穴の寸法・精度・材質に加え、加工機械の種類(手作業か機械加工か)や生産数量も重要な判断基準になります。

 

刃の形状と材質による分類

リーマは刃の形状によっても分類されます。

溝の方向に着目すると、ストレートフルート(直溝)とスパイラルフルート(ねじれ溝)の2種類があります。

 

ストレートフルートは構造がシンプルで再研磨が容易という利点があります。

一般的な貫通穴の加工に広く使用されますが、切りくずの排出性はスパイラルフルートに劣ります。

 

スパイラルフルートはねじれ溝の効果で切りくずを進行方向に送り出す(右ねじれ)、またはワーク上方に排出する(左ねじれ)機能を持ちます。

止まり穴の加工や、切りくずが絡みやすい材料(ステンレス鋼やアルミニウム合金など)の加工に適しています。

 

刃の材質は大きくハイス(HSS)超硬合金に分けられます。

HSSリーマは靭性に優れ、欠けにくいためビビリ振動が発生しやすい条件でも安定した加工が可能です。

価格もこなれており、一般的な鋼材の加工に最適です。

 

超硬リーマは耐摩耗性に圧倒的に優れ、工具寿命がHSSの5〜10倍に達します。

鋳鉄や焼入れ鋼のような硬い材料に対しても安定した加工が可能ですが、衝撃に弱いため、機械の剛性が十分であることが使用の前提条件となります。

 

近年ではコーティング技術の進歩により、TiN(窒化チタン)やTiAlN(窒化チタンアルミ)をコーティングしたHSSリーマも普及しています。

コーティングにより耐摩耗性と耐溶着性が向上し、HSSの靭性を活かしながら超硬に近い寿命を実現できるため、コストパフォーマンスに優れた選択肢として注目されています。

 

3. リーマ加工で狙える公差と精度

リーマ加工を行う最大の理由は、JIS B 0401に規定されるはめあい公差を実現するためです。

ここでは、リーマ加工で達成できる公差等級と、はめあいの基本的な考え方を解説します。

 

はめあい公差とH7

はめあい公差とは、軸と穴の組み合わせにおける「はまり具合」を規定する寸法公差体系です。

穴の基準寸法に対する許容差を大文字アルファベットで、軸を小文字アルファベットで表記します。

 

リーマ加工で最も頻繁に指示されるのがH7公差です。

H7は穴基準はめあいの基本であり、「穴の下の寸法許容差が0(ゼロ)」という特性を持ちます。

つまり、H7の穴は基準寸法より大きい方向にのみ公差が設定されます。

 

H7公差の数値は寸法区間ごとに異なります。

代表的な寸法に対するH7公差を以下の表に示します。

 

基準寸法(mm) H7公差域(μm) 公差幅(μm)
φ6を超え φ10以下 0 〜 +15 15
φ10を超え φ18以下 0 〜 +18 18
φ18を超え φ30以下 0 〜 +21 21
φ30を超え φ50以下 0 〜 +25 25
φ50を超え φ80以下 0 〜 +30 30

 

例えばφ20mmのH7穴であれば、仕上がり寸法はφ20.000〜φ20.021mmの範囲内に収めなければなりません。

公差幅はわずか21μm(0.021mm)であり、ドリル加工のみでは到達できない精度領域です。

 

はめあいの3つの種類

穴と軸の組み合わせは、公差域の関係により3つのはめあいに分類されます。

 

すきまばめは、常に穴径が軸径より大きくなる組み合わせです。

代表的な組み合わせはH7/f6やH7/g6で、軸が穴の中で自由に回転・摺動できます。

軸受ハウジングと軸の組み合わせに多く用いられます。

 

しまりばめは、常に軸径が穴径より大きくなる組み合わせです。

代表的な組み合わせはH7/p6やH7/r6で、圧入によって組み立てます。

歯車やプーリの軸穴固定に使われます。

 

中間ばめは、製造誤差によってすきまにもしまりにもなりうる組み合わせです。

代表的な組み合わせはH7/k6やH7/m6で、位置決めピンの穴などに用いられます。

 

いずれの場合も、穴側がH7であることが基本です。

穴は軸に比べて精度を出しにくいため、穴を基準(H)とする「穴基準はめあい」が実務では標準となっています。

 

IT等級と加工法の対応

JIS B 0401で定められるIT等級(国際公差等級)は、IT01からIT18まで20段階があります。

各加工法で達成可能なIT等級の目安を理解しておくことは、工程設計において重要です。

 

ドリル加工はIT10〜IT12、リーマ加工はIT6〜IT8、研削加工はIT5〜IT7、ホーニング加工はIT4〜IT6に対応します。

リーマ加工は研削やホーニングほどの超精密加工には及びませんが、工程の手軽さと加工コストのバランスに優れた方法です。

 

IT7の公差幅  T_{\text{IT7}} を基準寸法  D\,\text{(mm)} から概算する式は次のとおりです。

 

 T_{\text{IT7}} = 10i = 10\left(0.45\sqrt\lbrack3\rbrack{D} + 0.001D\right)\,\mu\text{m}

 

同様にIT11の公差幅は次のように表されます。

 

 T_{\text{IT11}} = 100i = 100\left(0.45\sqrt\lbrack3\rbrack{D} + 0.001D\right)\,\mu\text{m}

 

IT7とIT11の公差幅の比は10倍です。

つまり、リーマ加工はドリル加工に比べて約10分の1の寸法ばらつきに穴径を収めることができます。

 

面粗さの達成水準

リーマ加工による面粗さの理論値は、送り量とリーマの刃数・コーナR(ノーズ半径)から算出できます。

理論面粗さ  R_{\text{max}} は近似的に次式で表されます。

 

 R_{\text{max}} \approx \dfrac{f^2}{8r}

 

ここで  f は1刃あたり送り量(mm/刃)、 r はノーズ半径(mm)です。

例えば、送り量0.05mm/刃、ノーズ半径0.4mmの場合は次のように計算されます。

 

 R_{\text{max}} \approx \dfrac{0.05^2}{8 \times 0.4} = \dfrac{0.0025}{3.2} \approx 0.78\,\mu\text{m}

 

実際にはバニシング効果(刃のマージン部による押し仕上げ)も加わるため、理論値よりさらに良好な面粗さが得られることも多いです。

 

リーマの寸法公差(JIS B 4414)

リーマ自体にも製造公差が存在します。

JIS B 4414では、リーマの外径公差は加工する穴の公差等級に対応して規定されています。

 

H7穴用のリーマの場合、リーマ外径の公差域は穴の公差域の中央よりやや上に設定されます。

これは、リーマ加工で生じる「穴の拡大傾向」を見込んだ設計です。

リーマ径が穴の公差域中央にあると、加工後の穴径はリーマ径よりわずかに大きくなるため、仕上がり穴径は公差域のほぼ中央に着地します。

 

例えば、φ10mm H7穴用のリーマでは、リーマの外径公差は概ね次の範囲になります。

 

 \phi 10.003 \sim \phi 10.008\, ext{mm}

 

リーマを購入する際には、この製造公差を理解した上で、仕上がり穴径の狙い値と照合することが重要です。

高精度なリーマは公差幅が3〜5μmと極めて狭く設定されており、製造コストも高くなります。

 

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4. 下穴の条件と取り代の決め方

リーマ加工の成否を左右する最大の要因は、下穴の品質です。

下穴径が不適切だと、リーマの取り代が過大または過小となり、穴径不良や工具折損の原因になります。

ここでは、下穴径の設定方法と取り代の考え方を具体的に解説します。

 

取り代の基本

リーマ加工における「取り代」とは、下穴径と仕上がり穴径の差を指します。

取り代は直径で表す場合と片肉(半径差)で表す場合があるため、混同しないよう注意が必要です。

 

直径取り代と片肉取り代の関係は次式のとおりです。

 

 \text{直径取り代} = D_{\text{仕上がり}} - D_{\text{下穴}}

 

 \text{片肉取り代} = \dfrac{D_{\text{仕上がり}} - D_{\text{下穴}}}{2}

 

取り代が大きすぎるとリーマへの負荷が過大となり、切れ刃の欠損やびびり振動を引き起こします。

逆に取り代が小さすぎると、リーマが穴の中で「空回り」し、十分な切削が行われずに面粗さが悪化します。

 

仕上がり径別の推奨取り代

取り代の推奨値は、リーマの仕上がり径によって異なります。

JIS B 4414を参考にした一般的な目安を以下の表に示します。

 

仕上がり径(mm) 直径取り代(mm) 片肉取り代(mm)
φ3〜φ6 0.10〜0.20 0.05〜0.10
φ6〜φ10 0.15〜0.25 0.075〜0.125
φ10〜φ18 0.20〜0.30 0.10〜0.15
φ18〜φ30 0.25〜0.40 0.125〜0.20
φ30〜φ50 0.30〜0.50 0.15〜0.25

 

例えばφ20mmのH7穴をリーマ加工する場合、推奨直径取り代は0.25〜0.40mmです。

取り代の中央値0.30mmを採用するなら、下穴径は次のように求められます。

 

 D_{\text{下穴}} = D_{\text{仕上がり}} - \text{直径取り代} = 20.00 - 0.30 = 19.70\,\text{mm}

 

この下穴をドリルで加工する場合は、φ19.5mmまたはφ19.8mmのドリルを使用し、必要に応じて下穴の仕上げ精度を確認します。

 

被削材による取り代の補正

上記は一般的な炭素鋼(S45Cなど)に対する推奨値です。

被削材の硬さや粘りによって取り代を補正する必要があります。

 

アルミニウム合金は軟質で切りくずが溶着しやすいため、取り代をやや大きめ(標準の1.2〜1.5倍)に設定します。

溶着を防ぐために切削油の供給も重要です。

 

ステンレス鋼(SUS304など)は加工硬化しやすいため、取り代が小さすぎると加工硬化層の上をリーマが滑り、かえって穴径が拡大する場合があります。

標準値の下限よりやや大きめに設定し、確実に加工硬化層の下まで切り込むことが重要です。

 

鋳鉄(FC材)は脆性材料であり、切りくずが粉状になります。

取り代は標準値の範囲内で問題ありませんが、切りくずの排出性を確保するため、スパイラルフルート(ねじれ溝)付きリーマの使用が推奨されます。

 

下穴の精度要件

取り代を正しく設定しても、下穴自体の品質が悪ければリーマ加工は成功しません。

下穴に求められる条件は次のとおりです。

  • 真円度:下穴の楕円量は取り代の1/2以下であること。楕円が大きいとリーマの切り込みが不均一になり、仕上がり穴も楕円になります。
  • 真直度:穴の曲がりがリーマのガイド能力を超えないこと。深穴(L/D>5)では特に注意が必要です。
  • 面粗さ:下穴の面粗さはRa12.5μm以下が望ましいです。粗すぎる下穴はリーマの刃先に不均一な負荷を与えます。

 

深穴におけるL/D比と加工難易度の関係は実務上の重要な指標です。

一般的に  L/D \leq 3 は通常加工、 3 < L/D \leq 5 は注意域、 L/D > 5 は深穴加工として特別な対策(ガイドブッシュ使用など)が必要になります。

 

下穴径の設計計算例

ここでは、φ16mmのH7穴をリーマ加工する場合の下穴設計を具体的に計算します。

 

まず、φ16mmはJIS B 0401の寸法区間「φ10を超えφ18以下」に該当し、H7の公差域は0〜+18μmです。

したがって、仕上がり穴径の許容範囲は次のとおりです。

 

 \phi 16.000 \sim \phi 16.018\,\text{mm}

 

次に取り代を決定します。

φ10〜φ18の寸法区間では、推奨直径取り代は0.20〜0.30mmです。

被削材がS45C(一般的な炭素鋼)の場合、標準値の中央0.25mmを採用します。

 

 D_{\text{下穴}} = 16.000 - 0.25 = 15.75\,\text{mm}

 

φ15.75mmのドリルは標準規格品にないため、実務では次の2つの方法で対応します。

 

1つ目は、φ15.5mmの標準ドリルで下穴を加工する方法です。

この場合の直径取り代は0.50mmとなり、推奨範囲の上限を超えます。

リーマへの負荷が大きくなるため、切削速度を下げるか、段階的にリーマ加工を行う(荒リーマ→仕上げリーマ)対策が必要です。

 

2つ目は、φ15.8mmのドリルで下穴を加工する方法です。

この場合の直径取り代は0.20mmで、推奨範囲の下限に収まります。

標準的な条件での加工が可能であり、こちらの方法が推奨されます。

 

5. 切削条件の設定方法

リーマ加工の切削条件は、ドリル加工やエンドミル加工と比べて「低速・低送り」が基本です。

適切な切削条件の設定は、穴径精度と面粗さの品質を直接左右します。

 

切削速度と回転数の計算

リーマ加工の切削速度  V_c は、被削材とリーマの材質によって決まります。

切削速度から主軸回転数を計算する式は次のとおりです。

 

 n = \dfrac{1000 \times V_c}{\pi \times D}

 

ここで  n は回転数(min⁻¹)、 V_c は切削速度(m/min)、 D はリーマ径(mm)です。

 

被削材別の推奨切削速度を以下の表に示します。

 

被削材 HSSリーマ(m/min) 超硬リーマ(m/min)
炭素鋼(S45C) 5〜10 15〜40
合金鋼(SCM440) 3〜8 10〜30
ステンレス鋼(SUS304) 3〜6 8〜20
鋳鉄(FC250) 8〜15 20〜50
アルミ合金(A5052) 15〜25 40〜80

 

例えば、HSSリーマ(φ10mm)でS45Cを加工する場合、切削速度8m/minを採用すると回転数は次のようになります。

 

 n = \dfrac{1000 \times 8}{\pi \times 10} = \dfrac{8000}{31.42} \approx 255\,\text{min}^{-1}

 

この回転数は、同じドリル径でのドリル加工(通常800〜1200min⁻¹)と比較すると、3分の1〜4分の1程度の低速であることが分かります。

リーマ加工では低速回転で安定した切削を行うことが、精度確保の基本です。

 

送り量の設定

リーマ加工の送り量  f は、1回転あたりの送り量(mm/rev)で指定します。

推奨される送り量の範囲は、リーマ径と被削材によって異なりますが、一般的な目安は次のとおりです。

 

HSSリーマの場合、1回転あたり送り量は次の範囲です。

 

 f = 0.5D \times 0.01 \sim 1.0D \times 0.01\,\text{mm/rev}

 

簡略化すると、リーマ径の0.5%〜1.0%が目安です。

φ10mmのリーマであれば、送り量は0.05〜0.10mm/revとなります。

 

送り速度  v_f(mm/min)は、回転数と送り量の積で算出されます。

 

 v_f = f \times n

 

先ほどの例(n=255min⁻¹、f=0.08mm/rev)であれば次のようになります。

 

 v_f = 0.08 \times 255 = 20.4\,\text{mm/min}

 

加工深さが30mmの穴であれば、リーマの通過時間は約1.5分と見積もれます。

 

切削油の選定

リーマ加工における切削油は、潤滑と冷却の両面で極めて重要な役割を果たします。

切れ刃とワーク間の摩擦を低減し、構成刃先の生成を抑制するとともに、切りくずの排出を助けます。

 

被削材別の推奨切削油は次のとおりです。

  • 炭素鋼・合金鋼:水溶性切削油(エマルション)または不水溶性切削油(切削油剤JIS K 2241の種類2種)。面粗さを重視する場合は不水溶性が有利です。
  • ステンレス鋼:極圧添加剤入りの不水溶性切削油が推奨されます。加工硬化を抑えるために十分な潤滑が不可欠です。
  • アルミニウム合金:灯油ベースの切削油や専用アルミ用切削油を使用します。鉱油系は溶着を防ぐ効果が高いです。
  • 鋳鉄:乾式(ドライ加工)またはエアブローで対応可能です。鋳鉄は自己潤滑性(黒鉛の効果)があるため、切削油が不要な場合も多いです。

 

切削油の供給方法も重要です。

外部給油の場合はリーマの溝に沿って油が流入するようノズル角度を調整します。

内部給油(スルークーラント)方式のリーマは、切削点に直接油を供給できるため、深穴加工での精度安定性に優れています。

 

実務で注意すべき加工手順

リーマ加工を安定して行うために、実務で押さえておくべき加工手順のポイントを解説します。

 

第一に、リーマは絶対に逆回転させないことです。

リーマを穴から引き抜く際に主軸を逆回転させると、切れ刃の裏面で穴内面を引っ掻き、面粗さが著しく悪化します。

引き抜き時も正回転のまま、送りを反転させて抜くのが正しい手順です。

 

第二に、加工開始時の位置合わせを慎重に行うことです。

リーマの食い付き部が下穴に正確に導入されるよう、主軸の送りを手動でゆっくり下ろします。

CNC加工の場合は、食い付き開始位置でのドウェル(一時停止)を設定し、リーマがセンタリングされる時間を確保します。

 

第三に、加工後の穴径測定を適切なタイミングで行うことです。

リーマ加工直後のワークは切削熱で膨張しているため、室温に戻ってから測定するのが原則です。

精密測定が必要な場合は、20°Cの恒温室での測定が推奨されます。

温度差による測定誤差は、ワーク材質の線膨張係数から次式で見積もれます。

 

 \Delta D_{ ext{測定誤差}} = D imes lpha_{ ext{ワーク}} imes \Delta T_{ ext{温度差}}

 

例えば鋼材( lpha pprox 12 imes 10^{-6}\, ext{/°C})のφ20mm穴が加工後に10°C高い状態で測定すると、次の誤差が生じます。

 

 \Delta D = 20 imes 12 imes 10^{-6} imes 10 = 0.0024\, ext{mm} = 2.4\,\mu ext{m}

 

H7の公差幅21μmに対して2.4μmは約11%に相当するため、精密なはめあい管理では無視できない誤差です。

 

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6. リーマ加工のトラブルと対策

リーマ加工は高精度な加工であるがゆえに、条件設定のわずかなズレがトラブルに直結します。

ここでは、現場で発生しやすい3つの主要トラブルについて、原因と対策を解説します。

 

穴径が大きくなる(穴径拡大)

リーマ加工後の穴径が規定公差の上限を超えてしまう現象は、最も頻度の高いトラブルです。

 

主な原因と対策は次のとおりです。

  • リーマ径の摩耗・不良:リーマの外径が摩耗により規格外になっていないか、マイクロメータで確認します。摩耗したリーマは交換が必要です。
  • 切削速度が高すぎる:回転数が高すぎるとリーマが熱膨張し、穴径が拡大します。推奨範囲の下限側に切削速度を下げます。
  • 取り代が大きすぎる:切削抵抗が増大し、リーマがたわんで穴径が拡大します。取り代を推奨値内に見直します。
  • 主軸とリーマの同軸度不良:フローティングホルダーを使用して芯ズレを吸収します。

 

穴径拡大量の簡易評価として、熱膨張による影響を見積もることができます。

リーマの温度上昇  \Delta T によるリーマ径の変化量は次式で表されます。

 

 \Delta D = D \times \alpha \times \Delta T

 

ここで  \alpha は線膨張係数(HSSの場合、 \alpha \approx 11 \times 10^{-6}\,\text{/°C})です。

例えばφ20mmのHSSリーマが加工中に30°C温度上昇した場合の径変化は次のようになります。

 

 \Delta D = 20 \times 11 \times 10^{-6} \times 30 = 0.0066\,\text{mm} \approx 7\,\mu\text{m}

 

H7公差幅が21μmのφ20mm穴に対して7μmの変動は、公差の33%を占めます。

切削油による冷却が不十分だと、この熱膨張だけで公差外れの原因になり得ます。

 

面粗さが悪化する

リーマ加工後の穴内面がRa3.2μmを超えるなど、期待した面粗さが得られないケースです。

 

主な原因と対策は次のとおりです。

  • 送り量が大きすぎる:理論面粗さは送り量の2乗に比例するため、送りの影響は非常に大きいです。送り量を推奨値の下限に下げます。
  • 構成刃先の生成:特にアルミ合金や低炭素鋼で発生しやすいです。切削油の変更(極圧添加剤入り)や切削速度の変更で対策します。
  • リーマ刃先の摩耗・チッピング:刃先を拡大鏡で確認し、摩耗やチッピングがあれば再研磨または交換します。
  • 切りくずの噛み込み:スパイラルフルートリーマの使用や、切削油の流量増加で切りくず排出を改善します。

 

面粗さに対する送り量の影響は  R_{\text{max}} \propto f^2 の関係にあるため、送り量を半分にすれば理論面粗さは4分の1に改善されます。

加工に時間はかかりますが、面粗さの改善には最も効果的な手段です。

 

工具の折損

リーマはドリルに比べて刃体が細いため、過大な負荷がかかると折損するリスクがあります。

 

主な原因と対策は次のとおりです。

  • 取り代が過大:推奨値を大幅に超える取り代は、切削抵抗の増大により工具折損を招きます。取り代を推奨範囲に収めます。
  • 下穴の曲がり:下穴が曲がっているとリーマに曲げ応力がかかり、折損の原因になります。深穴ではガイドブッシュを使用します。
  • 切りくず詰まり:特に止まり穴(貫通していない穴)で発生しやすいです。定期的にリーマを引き上げて切りくずを除去するペッキング加工が有効です。
  • 機械の剛性不足:主軸やワーク固定の剛性が不足するとびびり振動が発生し、刃先に衝撃的な負荷がかかります。クランプの見直しや切削条件の緩和で対策します。

 

特に小径リーマ(φ6mm以下)は断面積が小さく折れやすいため、取り代と送り量を控えめに設定することが重要です。

リーマの断面二次モーメント  I はリーマ径の4乗に比例するため、径が半分になると曲げ剛性は16分の1に低下します。

 

 I = \dfrac{\pi D^4}{64}

 

この関係からも、小径リーマの折損防止には特別な注意が必要であることが分かります。

 

トラブル予防のための管理ポイント

リーマ加工のトラブルを未然に防ぐためには、日常的な管理と加工前の確認作業が重要です。

 

まず、リーマの定期測定を行います。

加工穴数ごと(例えば100穴ごと)にリーマの外径をマイクロメータで測定し、摩耗量を記録します。

摩耗量がリーマの寸法公差の50%に達したら、交換または再研磨の判断を行います。

 

次に、下穴の抜き取り検査を実施します。

リーマ加工の前に、下穴径をプラグゲージやシリンダゲージで確認し、取り代が適正範囲にあることを検証します。

特にロット先頭のワークは必ず測定し、ドリルの摩耗による下穴径の変動を早期に検出します。

 

また、切削油の管理も欠かせません。

水溶性切削油は濃度の低下や腐敗により潤滑性能が落ちるため、屈折計による濃度管理とpH測定を定期的に行います。

不水溶性切削油の場合は、切りくずや異物の混入による汚染に注意し、必要に応じてフィルターで清浄化します。

 

7. 図面でのリーマ穴指示方法

設計図面でリーマ加工を指示するには、加工の精度要求を明確に伝える必要があります。

指示方法には大きく2つのアプローチがあり、設計意図と現場の運用に応じて使い分けます。

 

はめあい公差による指示

最も一般的な指示方法は、穴径にはめあい記号を付記する方法です。

図面上では寸法線の後ろに公差記号を記入します。

 

例えばφ10mmのH7穴であれば、次のように指示します。

 

 \phi 10\text{H7}

 

この指示は「φ10mmの穴をIT7等級のH(穴基準)で仕上げてください」という意味です。

具体的な公差値は  \phi 10^{+0.015}_{0} であり、仕上がり寸法はφ10.000〜φ10.015mmの範囲です。

 

はめあい公差による指示は、加工方法を指定しません。

つまり、リーマで仕上げるか研削で仕上げるかは現場の判断に委ねられます。

ただし実務上、H7公差の穴は90%以上がリーマ加工で仕上げられるため、H7と書かれていれば「リーマ加工が前提」と理解して差し支えありません。

 

加工記号による指示

図面にリーマ加工を明示的に指定する場合は、穴の引出線に「リーマ仕上げ」を示す加工記号を付記します。

JIS B 0122(加工方法記号)では、リーマ加工の記号は「FR」と規定されています。

 

加工記号と加工方法の対応を以下に示します。

 

加工記号 加工方法
FR リーマ加工(機械リーマ)
FRH ハンドリーマ加工
FD ドリル加工
FB ボーリング加工
FG 研削加工(内面研削)

 

加工記号は穴の引出線上に記載するか、注記として図面の空白部に「リーマ仕上げ」と明記します。

 

表面性状の指示

面粗さの要求がある場合は、JIS B 0031に基づく表面性状記号で指示します。

リーマ加工で一般的に指示される面粗さはRa1.6〜Ra3.2μmです。

 

表面性状記号の三角マーク(▽)は、加工面であることを示します。

▽▽(二つ三角)はRa1.6μm相当、▽▽▽(三つ三角)はRa0.8μm相当に対応します。

ただし現行JISでは数値指示が推奨されており、Ra値を直接記入する方法が主流です。

 

図面指示の実務的なポイント

設計者が図面を描く際に注意すべきポイントをまとめます。

 

まず、はめあい公差のみの指示を基本とすることです。

加工方法の指定は現場の裁量を狭めるため、特別な理由がない限り避けるべきです。

H7と指示すれば現場はリーマ加工を選択しますので、わざわざ「FR」を追記する必要はありません。

 

次に、穴の深さと貫通/止まりの区別を明確にすることです。

止まり穴の場合はリーマ加工の有効深さ(食い付き部を除いた仕上がり深さ)を寸法で指示する必要があります。

リーマの食い付き部が加工穴底に到達しないよう、十分な余裕深さを確保します。

 

また、面取りの指示も重要です。

リーマ穴の入口にはC0.3〜C0.5mm程度の面取りを指示するのが一般的です。

面取りはリーマの食い付きを円滑にし、穴入口のバリ除去にも役立ちます。

 

さらに、相手部品との研削加工エンドミル加工との関連寸法を明記しておくと、現場での判断ミスを防ぐことができます。

 

まとめ

本記事では、リーマ加工の基本原理から種類ごとの特徴、はめあい公差との関係、下穴条件の設定方法、切削条件の計算、トラブル対策、そして図面指示の方法まで、体系的に解説しました。

 

リーマ加工は、ドリルで開けた穴をIT6〜IT8等級の精度に仕上げる工程であり、はめあい公差H7を実現する最も実用的な手段です。

 

成功のカギは、適切な取り代の設定と下穴品質の確保にあります。

取り代が大きすぎても小さすぎても穴径不良や面粗さの悪化を招くため、仕上がり径と被削材に応じた推奨値を遵守することが重要です。

 

切削条件は「低速・低送り」が基本であり、切削速度はドリル加工の3分の1〜4分の1程度に抑えます。

切削油の選定と供給も精度に直結するため、被削材に適した油種を選び、十分な流量を確保してください。

 

図面での指示はH7などのはめあい公差記号を基本とし、必要に応じて表面性状や加工記号を補足します。

設計段階から加工の制約(取り代・食い付き部の余裕・穴深さ)を意識することで、現場との認識齟齬を防ぎ、品質の安定した製品設計につながります。