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初心者向けシーム溶接入門!連続スポット溶接の仕組みを5分で理解

自動車の燃料タンク、マフラー、あるいは飲料缶。

これらの中身が漏れてはいけない製品の接合に使われている技術が「シーム溶接(Seam Welding)」です。

原理はスポット溶接と同じ「抵抗溶接」ですが、回転する円盤状の電極を用い、連続的にナゲット(溶接部)を重ねていく点で大きく異なります。

 

一見、コロコロと転がすだけの単純な工法に見えますが、そこには「電流の分流」や「断続通電」といった、スポット溶接以上に複雑な制御技術が詰め込まれています。

本記事では、シーム溶接の基本メカニズムから、重ね合わせシームとマッシュシームの違い、特有の設備構造、そして気密不良を防ぐための実践的なノウハウまでを網羅的に解説します。

「漏れない溶接」を実現するための技術的要件をマスターしましょう。

 

 

1. シーム溶接(Seam Welding)とは?

シーム溶接とは、重ね合わせた金属板を、円盤状の回転電極(電極輪)で挟み込み、加圧と通電を行いながら回転させることで、連続的な溶接ビードを形成する抵抗溶接の一種です。

英語の「Seam」は「縫い目」を意味します。

ミシンで布を縫うように、金属板を連続的に接合していく様子から名付けられました。

 

スポット溶接との関係

シーム溶接は、理屈の上では「スポット溶接の連続打点」です。

スポット溶接では、点(ナゲット)と点の間は離れていますが、シーム溶接では、前のナゲットが冷え固まる前に次のナゲットを少し重ねて(オーバーラップさせて)形成します。

これにより、点ではなく「線」の接合となり、水や気体が漏れない「気密性(Airtightness)」と「水密性(Watertightness)」が確保されます。

 

主な用途

・自動車部品:ガソリンタンク、マフラー、ショックアブソーバー

・家電製品:冷蔵庫のコンプレッサー容器、洗濯機のドラム

・容器類:ドラム缶、ペール缶、エアゾール缶

・建材:暖房用放熱器(パネルヒーター)

 

2. シーム溶接のメカニズムと重要パラメータ

基本的な発熱原理は、ジュールの法則  Q = I^2 R t に従いますが、シーム溶接特有の現象として「分流」と「断続通電」を理解する必要があります。

 

電流の「分流(Shunt)」現象

これがシーム溶接を難しくしている最大の要因です。

スポット溶接の場合、電流は電極直下の溶接点に集中して流れます。

しかし、シーム溶接の場合、直前に溶接した箇所(すでに繋がっている金属部分)がすぐ隣に存在します。

電気は抵抗が低い方へ流れる性質があるため、これから溶接したい箇所(接触抵抗が高い)よりも、すでに溶接された箇所(抵抗が低い)の方へ、電流の一部が逃げてしまいます。

これを「分流」と呼びます。

 

この分流ロスを見越して、シーム溶接ではスポット溶接に比べて  1.5 \sim 2.0 倍程度の大電流を流す必要があります。

したがって、電源設備も大型化する傾向があります。

 

断続通電(ヒートコントロール)

シーム溶接では、電極が常に接触していますが、電流を「流しっぱなし」にすることは稀です。

連続通電すると、熱が蓄積しすぎて表面が焼け焦げたり、電極がワークに癒着したりします。

そのため、以下のようなサイクルで、電流を高速でON/OFFさせています。

 

・通電時間(Heat Time / On Time)

電流を流し、ナゲットを形成する時間。

 

・休止時間(Cool Time / Off Time)

電流を止め、加圧のみでナゲットを冷却・凝固させ、電極を冷却する時間。

 

このON/OFFのピッチと、電極の回転速度(溶接速度)のバランスが崩れると、ナゲットが重ならず、気密漏れの原因となります。

 

3. シーム溶接の種類:ラップとマッシュ

接合部の形状によって、大きく2つの方式に分類されます。

 

① 重ね合わせシーム溶接(Lap Seam Welding)

最も一般的な方式です。

2枚の板を数mm〜10mm程度重ね合わせ(ラップさせ)、その上から電極輪で加圧します。

溶接後も板厚分の段差が残ります。

燃料タンクやマフラーなど、段差があっても機能上問題ない部品に使用されます。

 

② マッシュシーム溶接(Mash Seam Welding)

「マッシュ(Mash)」とは「すり潰す」という意味です。

板の重ね代を板厚の  1.0 \sim 1.5 倍程度と極めて小さく設定し、高い加圧力ですり潰しながら溶接します。

溶接後の接合部は、元の板厚の  1.1 \sim 1.2 倍程度まで薄くなり、段差がほとんど目立たなくなります。

 

特徴と用途

・外観が美しく、後工程でのプレス成形や塗装への影響が少ない。

・製鉄所のコイル繋ぎ目(連続ライン)や、自動車のテーラードブランク(厚さの違う板の接合)、洗濯機のドラムなどに採用されます。

・高い位置決め精度と、電極の管理が求められる高度な技術です。

 

4. シーム溶接機の構造と特徴

シーム溶接機は、スポット溶接機とは異なる特殊な構造を持っています。

 

電極輪(Wheel Electrode)

銅合金製の円盤です。

摩耗に強く、導電性が高い「クロム銅」や「ベリリウム銅」が使用されます。

溶接中は常に回転し、摩擦熱とジュール熱にさらされるため、内部水冷または外部注水による強力な冷却が不可欠です。

摩耗して形状が変わると電流密度が変化するため、定期的にバイトで削って形を整える「ドレッシング機構」を装備している機械もあります。

 

通電回転軸(Current Collector)

シーム溶接機の心臓部です。

固定されたトランスから、回転している電極軸へ大電流(数万アンペア)を流さなければなりません。

通常のベアリングでは電食で焼き付いてしまいます。

そのため、特殊な「銀接点(シルバーコンタクト)」や、液体金属である水銀を使った「水銀接点(マーキュリーコンタクト)」を用いて、回転しながら通電できる構造になっています。

(※水銀は環境規制により、現在は銀接点や特殊なブラシ構造が主流です)

 

駆動方式

・片側駆動:上部(または下部)の電極のみモーターで回す。

・両側駆動:上下両方の電極を回す(スリップしにくい)。

・ナール駆動:電極のエッジ部を小さなギア(ナール)で駆動し、同時に電極整形も行う方式。ドラム缶製造などで一般的。

 

5. 代表的な欠陥(不良)と対策

シーム溶接は連続加工であるため、一度条件が外れると、数メートルにわたって不良を作り続けてしまうリスクがあります。

 

① 散り(Expulsion / Surface Flash)

溶接部から溶けた金属が火花となって飛び散る現象です。

表面が汚くなるだけでなく、板厚が減少して強度が低下したり、穴が開いたりします。

 

原因と対策

・電流が高すぎる ⇒ 電流を下げる。

・加圧力が低い ⇒ 加圧力を上げ、接触抵抗を下げる。

・電極の汚れ ⇒ ドレッシングを行う。

 

② 溶け込み不足・ステッチ溶接(Lack of Penetration)

ナゲットが小さすぎる、またはナゲット同士が繋がっておらず、点線状(ステッチ)になっている状態です。

これでは気密性が確保できず、漏れ(リーク)が発生します。

 

原因と対策

・電流不足 ⇒ 電流を上げる。

・溶接速度が速すぎる ⇒ 速度を落とすか、ON/OFFのサイクルを短くする。

・分流が多い ⇒ スポット溶接よりも電流設定を高くする。

 

③ 割れ(Crack)

溶接部や熱影響部に亀裂が入る現象です。

特にメッキ鋼板やアルミ合金で発生しやすいトラブルです。

 

原因と対策

・急熱急冷 ⇒ 通電パターン(スロープ制御)を見直す。

・低融点金属の侵入 ⇒ 電極の清掃、メッキ材に適した条件設定。

・収縮応力 ⇒ 溶接後の冷却時間を調整する。

 

6. シーム溶接 vs 他の溶接法

「漏れない溶接」をする方法は他にもあります。

なぜTIG溶接やレーザー溶接ではなく、シーム溶接を選ぶのか、その比較基準を解説します。

 

vs TIG溶接 / MIG溶接(アーク溶接)

アーク溶接は、母材を溶かすため確実な溶け込みが得られますが、以下の点でシーム溶接に劣ります。

・速度:アークは遅い(数十cm/min)。シームは速い(数m/min)。

・熱歪み:アークは入熱が大きく、薄板はベコベコに歪む。シームは加圧拘束しているため歪みが少ない。

・コスト:シームはガスや溶接ワイヤが不要でランニングコストが安い。

 

vs レーザー溶接

レーザーは高速で低歪みですが、以下の課題があります。

・ギャップ管理:レーザーは隙間に弱く、高い加工精度と治具精度が求められる。

・設備費:レーザー発振器は非常に高価。

・メッキ材:亜鉛メッキ鋼板の場合、亜鉛蒸気が爆発して穴が開きやすい。

 

結論として、「薄板(3mm以下)」の「重ね合わせ」で、「長い距離」を「高速」に溶接したい場合、シーム溶接が最もコストパフォーマンスに優れた選択肢となります。

 

7. 設計者が知っておくべきシーム溶接の制約

製品設計の段階で、シーム溶接を前提とするならば、以下の制約を考慮する必要があります。

 

フランジ幅の確保

電極輪が通るためのスペース(フランジ)が必要です。

電極幅に加え、絶縁のためのクリアランスを含めると、最低でも  10 \sim 15 \text{mm} 程度の平坦なフランジ幅が必要になります。

壁際ギリギリの溶接は、電極が干渉するため不可能です。

 

形状の制約

基本的には直線、または緩やかな曲線しか溶接できません。

鋭角なコーナー(角部)は、電極輪が追従できないため、Rを大きく取る(R50以上など)必要があります。

小径の円周溶接を行う場合も、電極径より小さなRは加工できません。

 

板厚比の制限

極端に厚さの違う板(例:3.0mm と 0.5mm)の溶接は困難です。

熱容量の差が大きすぎて、薄い方が先に溶け落ちたり、厚い方が溶けなかったりします。

板厚比は  3:1 程度以内に収めるのが無難です。

 

まとめ

シーム溶接は、スポット溶接の高速性と、アーク溶接の気密性を兼ね備えた、薄板板金加工の強力な武器です。

単純に転がしているように見えて、その接合部では「加圧・通電・冷却」のサイクルが高速で繰り返されています。

 

・原理は「連続したスポット溶接」。

・「分流」を考慮し、大電流が必要となる。

・燃料タンクやドラム缶など、漏れが許されない製品に最適。

・段差のない「マッシュシーム」は外観部品にも使える。

 

レーザー溶接が台頭している現在でも、その圧倒的な生産性とランニングコストの安さから、シーム溶接は量産工場の最前線で活躍し続けています。

その特性と制約を正しく理解し、設計に織り込むことで、高品質で安価な製品づくりが可能になるはずです。