Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするWeb記事/QC統計手法/公差設計・解析/TPS

設計者のためのせん断力・曲げモーメント入門!公式と求め方

「この梁(はり)は、何キロの重さまで耐えられるのか?」

機械設計や建築設計において、この問いに答えるために避けて通れないのが「せん断力(Shear Force)」と「曲げモーメント(Bending Moment)」の計算です。

外から加わる荷重が、部材の内部でどのような「破壊のエネルギー」に変換されているかを知らなければ、適切な材料も太さも決めることができません。

しかし、多くのエンジニアが「SFD(せん断力図)」や「BMD(曲げモーメント図)」の作成、あるいはプラスマイナスの符号の定義でつまずきます。

 

本記事では、せん断力と曲げモーメントの定義から、微分積分を用いた数理的な関係性、代表的な梁の計算公式、そして応力計算への展開までを、実務レベルで徹底的に解説します。

力学の基礎をマスターし、根拠のある強度設計を行うためのバイブルとしてご活用ください。

 

 

1. せん断力(Shear Force)とは何か?

せん断力とは、部材をハサミで切るように、断面を「ズレさせる」方向にはたらく内力のことです。

英語では「Shear Force」と呼び、記号は一般的に  V Q 、または  F が用いられます。

(本記事では、海外の教科書で一般的な  V を用いて解説します。)

 

メカニズムと定義

ある棒(梁)に、上から荷重がかかっている状態を想像してください。

この棒を仮想的にどこかで切断したとき、その切断面には「左側のパーツ」と「右側のパーツ」が互いに逆方向に滑ろうとする力が働いています。

これがせん断力です。

 

例えば、ボルト接合部において、プレートが互いに逆方向に引っ張られるとき、ボルトの断面には強烈なせん断力が働きます。

限界を超えると、ボルトはスパッと切断(せん断破壊)されます。

 

単位(Unit)

せん断力は「力」そのものであるため、単位はニュートン  \text{N} または キロニュートン  \text{kN} です。

 

2. 曲げモーメント(Bending Moment)とは何か?

曲げモーメントとは、部材を「弓なりに曲げようとする」回転作用の内力のことです。

英語では「Bending Moment」と呼び、記号は  M が用いられます。

 

メカニズムと定義

両端を支えられた板の上に人が乗ると、板はたわみます。

このとき、板の内部では「V字型に折れ曲がろうとする作用」が働いています。

これを数値化したものが曲げモーメントです。

 

曲げモーメントが発生している断面では、上側は「縮もうとする力(圧縮)」、下側は「伸びようとする力(引張)」が同時に発生しています。

この圧縮と引張のセットが、部材を回転(曲げ)させるモーメントとなります。

 

単位(Unit)

モーメントは「力  \times 距離」で定義されるため、単位はニュートンメートル  \text{N} \cdot \text{m} または  \text{kN} \cdot \text{m} です。

ミリメートル単位で設計する機械分野では、 \text{N} \cdot \text{mm} も多用されます。

 1 \text{N} \cdot \text{m} = 1000 \text{N} \cdot \text{mm}

 

3. 荷重・せん断力・曲げモーメントの数学的関係

ここが材料力学の最も美しい部分であり、計算の核となる概念です。

「分布荷重  w(x)」、「せん断力  V(x)」、「曲げモーメント  M(x)」の間には、以下のような微分積分の関係が成り立ちます。

 

微分関係(微小要素のつり合い)

梁の微小部分  dx を切り出して力のつり合いを考えると、以下の式が導かれます。

 

1. 曲げモーメントを微分すると、せん断力になる

 \frac{dM}{dx} = V(x)

 

つまり、曲げモーメント図(BMD)の「傾き」が、その地点のせん断力の大きさを表しています。

せん断力  V = 0 の地点で、曲げモーメント  M が最大値(または極小値)をとるというのは、この微分の関係から説明がつきます。

 

2. せん断力を微分すると、分布荷重になる

 \frac{dV}{dx} = -w(x)

(※荷重の向きを上向き正とするか下向き正とするかで符号は変わりますが、一般的に下向き荷重に対してマイナスがつきます)

 

積分関係(面積による計算)

上記の逆演算として、積分を用いることで図を描くことができます。

 

1. 荷重図の面積 = せん断力の変化量

 V(x) = -\int w(x) dx

 

2. せん断力図(SFD)の面積 = 曲げモーメントの変化量

 M(x) = \int V(x) dx

 

この「SFDの面積を計算すれば、モーメントが求まる」というテクニックは、複雑な計算を検算する際に非常に役立ちます。

 

4. 符号の約束事(サインコンベンション)

計算を始める前に、プラスとマイナスの定義を明確にしておく必要があります。

これを間違えると、計算結果が逆になり、設計ミスに繋がります。

一般的な材料力学の定義は以下の通りです。

 

せん断力  V の符号

・プラス(+):時計回りに回転させようとする向き。

(切断面の左側が上向き、右側が下向き)

・マイナス(-):反時計回りに回転させようとする向き。

 

曲げモーメント  M の符号

・プラス(+):下に凸に変形させる向き(笑った口の形)。上側が圧縮、下側が引張。

・マイナス(-):上に凸に変形させる向き(への字口の形)。上側が引張、下側が圧縮。

 

5. 実践計算:単純梁(集中荷重)

最も基本的な「単純梁(Simply Supported Beam)」の中央に、集中荷重  P がかかるケースを計算してみましょう。

これを理解すれば、他のパターンも応用できます。

 

条件:

・梁の長さ: L

・左端(A点)と右端(B点)で支持。

・中央( x = L/2)に荷重  P が下向きにかかる。

 

Step 1:反力(Reaction Force)を求める

まず、支点が梁を支える力(反力)を計算します。

対称性から明らかですが、力のつり合い式とモーメントのつり合い式を立てます。

 

 R_A + R_B = P (鉛直方向のつり合い)

 R_B \times L - P \times \frac{L}{2} = 0 (A点周りのモーメントつり合い)

 

これらを解くと、

 R_A = \frac{P}{2}, \quad R_B = \frac{P}{2}

となります。

 

Step 2:せん断力  V(x) を求める

梁を任意の地点  x で切断し、左側のピースだけを取り出して考えます。

 

区間 ①:  0 \le x < L/2 (荷重より左側)

切断面には下向きのせん断力  V が働くと仮定します。

力のつり合い:  R_A - V = 0

よって、

 V(x) = R_A = +\frac{P}{2} (一定)

 

区間 ②:  L/2 < x \le L (荷重より右側)

荷重  P が区間内に含まれます。

力のつり合い:  R_A - P - V = 0

よって、

 V(x) = R_A - P = \frac{P}{2} - P = -\frac{P}{2} (一定)

 

結果として、SFD(せん断力図)は、中央までプラス、中央でガクンと下がり、以降はマイナスとなる階段状のグラフになります。

 

Step 3:曲げモーメント  M(x) を求める

同様に、切断面に反時計回りのモーメント  M が働くと仮定してつり合いを考えます。

 

区間 ①:  0 \le x < L/2

切断点周りのモーメントつり合い:  M - R_A \cdot x = 0

よって、

 M(x) = R_A \cdot x = \frac{P}{2}x

これは原点を通る右上がりの直線です。

 

区間 ②:  L/2 < x \le L

荷重  P によるモーメントも考慮します。

モーメントつり合い:  M + P \cdot (x - L/2) - R_A \cdot x = 0

よって、

 M(x) = \frac{P}{2}x - P(x - \frac{L}{2}) = \frac{PL}{2} - \frac{P}{2}x

これは右下がりの直線です。

 

BMD(曲げモーメント図)は、中央で頂点を持つ三角形のグラフになります。

最大曲げモーメント  M_{max} は、 x = L/2 の地点で発生し、その値は以下の有名な公式になります。

 

 M_{max} = \frac{PL}{4}

 

6. 実践計算:単純梁(等分布荷重)

次に、梁全体に均一な重さがかかる「等分布荷重(Uniformly Distributed Load)」のケースです。

自重を考慮する場合や、水圧を受ける壁、雪が積もった屋根などの計算に使われます。

 

条件:

・梁の長さ: L

・単位長さあたりの荷重: w  [\text{N/m}]

・全荷重  W = w \times L

 

Step 1:反力

対称性より、

 R_A = R_B = \frac{wL}{2}

 

Step 2:せん断力  V(x)

任意の位置  x までの荷重の合計は  w \times x です。

力のつり合い:  R_A - wx - V = 0

 

 V(x) = \frac{wL}{2} - wx

 

これは  x の一次関数(傾き  -w の直線)です。

左端で最大( +wL/2)、中央でゼロ、右端で最小( -wL/2)となります。

 

Step 3:曲げモーメント  M(x)

分布荷重の合力は、作用区間の中央( x/2)に働くとみなして計算します。

モーメントつり合い:  M + (wx) \cdot \frac{x}{2} - R_A \cdot x = 0

 

 M(x) = \frac{wL}{2}x - \frac{w}{2}x^2

 

これは  x の二次関数(上に凸の放物線)となります。

最大値は、せん断力がゼロになる  x = L/2 の地点です。

式に代入すると、以下の超重要公式が導かれます。

 

 M_{max} = \frac{wL^2}{8}

 

この「8分のwL二乗」は、機械設計者が暗記すべき公式トップ3に入ります。

 

7. 実践計算:片持ち梁(カンチレバー)

片方が壁に固定され、もう片方が浮いている「片持ち梁(Cantilever)」のケースです。

バルコニーや飛び込み台、機械のアーム部分に相当します。

 

条件:

・左端(A点)で固定、右端(B点)は自由。

・先端(B点)に集中荷重  P

 

Step 1:反力と固定モーメント

固定端には、垂直反力  R_A と、回転を止めるための固定モーメント  M_A が発生します。

 

 R_A = P

 M_A = P \times L

 

Step 2:せん断力  V(x)

どの位置で切っても、先端の荷重  P とつり合う必要があります。

 

 V(x) = +P (一定)

 

Step 3:曲げモーメント  M(x)

先端(自由端)からの距離を  x' とすると計算が楽ですが、ここでは固定端基準( x)で考えます。

 

 M(x) = -P(L - x)

 

固定端( x=0)で最大値  -PL となり、先端( x=L)でゼロになります。

符号がマイナスなのは、梁が「への字(上に凸)」に曲がるためです。

 

最大モーメントの公式:

 |M_{max}| = PL

 

単純梁( PL/4)と比較すると、同じ荷重・同じ長さでも、片持ち梁の根元には4倍ものモーメントがかかることがわかります。

これが「片持ち構造は弱い」と言われる所以です。

 

8. モーメントから応力へ:設計への応用

 V M が求まれば、ようやく材料の強度計算(応力計算)ができます。

ここが「壊れるか壊れないか」の判定ラインです。

 

曲げ応力  \sigma の計算

最大曲げモーメント  M を、断面係数  Z で割ることで、最大曲げ応力  \sigma が求まります。

 

 \sigma = \frac{M}{Z}

 

ここで、断面係数  Z は断面の形状だけで決まる値です。

・長方形断面(幅  b、高さ  h):  Z = \frac{bh^2}{6}

・円形断面(直径  d):  Z = \frac{\pi d^3}{32}

 

計算された  \sigma が、材料の許容応力(降伏点  \div 安全率)以下であれば、その梁は安全です。

 

せん断応力  \tau の計算

せん断力  V を断面積  A で割ることで、平均せん断応力  \tau が求まります。

 

 \tau = \frac{V}{A}

 

ただし、厳密には断面内でせん断応力は一様ではなく、中央部で最大となります。

(長方形断面の場合、最大せん断応力は平均値の1.5倍になります:  \tau_{max} = 1.5 \frac{V}{A}

通常、細長い梁では曲げ応力が支配的になるため、せん断応力は軽視されがちですが、短い梁(深梁)やピンなどはせん断で破壊するため注意が必要です。

 

まとめ

せん断力と曲げモーメントは、構造物の安全性を担保するための最も基本的なパラメータです。

 

・せん断力  V:断面をズラす力。BMDの傾きに等しい。

・曲げモーメント  M:断面を曲げる力。SFDの面積に等しい。

・単純梁の最大モーメント:集中荷重なら  PL/4、等分布なら  wL^2/8

・片持ち梁の最大モーメント: PL

・これらを断面係数  Z で割ることで、応力が求まる。

 

設計現場では、CAEソフトを使えば一瞬で結果が出ますが、その結果が正しいかどうかを判断するのは、人間の頭の中にある「基礎力学の感覚」です。

公式を暗記するだけでなく、SFDとBMDを自分の手で描き、力の流れをイメージできるようになること。それが、信頼できるエンジニアへの近道です。