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【一元配置実験】エクセルのみで解析:化学製品の強度向上

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繰り返し数が等しい場合の一元配置実験

例1.1:化学製品の強度向上

ある化学製品の強度を高める目的で、製造温度を100℃、120℃、140℃、160℃と変え、それぞれの温度で3回ずつ製造して製品の強度を測定した。強度(特性値)は変換してあり、単位はない。また、値は高い方が良いとする。

実験の結果、以下の特性が得られた。 

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この実験では、「製造温度」が因子であり、これを因子Aとする。

水準は100℃、120℃、140℃、160℃の4つである。

同一水準での繰り返しが3回なので、1因子x4水準x3回=計12回実験を行う。

今回の例のように因子が1つだけの実験を「一元配置法」と呼ぶ。

 

今回の例での統計学的な調査は、以下の手順で実施する。

手順①:製造温度(因子)による特性値に違いがあるかを確認

手順②:製造温度(因子)によって特性値に違いがある場合、最適な製造温度は何℃になるかを調査

手順③:最適な製造温度の時、期待される化学製品の強度はどの程度になりそうかを調査

では、順番に確認していく。

 

手順①:製造温度(因子)による特性値に違いがあるかを確認

データ表をエクセルに入力し、散布図を描いた。実験繰り返し数は3回なので、因子Aの各水準につき3つのプロットがある。

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A1~A3は同じ程度の特性値だが、A4で小さくなっているように見える。

これが実験誤差によるものなのか、因子A(製造温度)による効果なのかを検討したいので、1要因の分散分析を行う。

 

 ↓具体的なやり方については、こちらの過去記事を参照。

instant.engineer

 

手順①の検討では、製造温度によって特性値が変わるかを確認したいので、

帰無仮説は「製造温度による特性値に差はない」 

また、対立仮説は「製造温度による特性値に差がある」となる。

 

郡内の平方和と、群間の平方和を計算し、分散分析表を作っていく。

郡内・・・同水準間のデータばらつき

群間・・・全体の平均から各水準平均のばらつき

 

計算した結果を以下に示す。

A1水準の各項目(J列)について、セルに入力した計算式をオレンジ色文字で右側に示した。

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郡内の平方和:61.33

群間の平方和:184.67 がわかったので、分散分析表を作る。

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自由度については、埋めていく手順はどこからでも良いが、私はまず合計の自由度(全データ数-1)を真っ先に埋めて、次に群間の自由度(因子の水準数-1)を埋めて、「全体ー群間」で郡内の自由度を求める、という順番で計算をしている。

今回の例では、各水準の繰り返し数が3回で同じだが、ここが違う時にも混乱しないのでこの方法が最も良いと思っている。

もちろん、郡内の自由度(水準1のデータ数-1+水準2のデータ数-1+水準3のデータ数-1+水準4のデータ数-1)を先に計算しても、過程が違うだけで最終結果には何ら変わりない。

 

分散分析の結果、F値=8.03が得られた。これがどの程度の確率で起こることなのかを、F分布表から確認する。

F=群間÷郡内なので、分子の自由度3、分母の自由度8がクロスするところを読み取ると、

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http://ktsc.cafe.coocan.jp/distributiontable.pdf

 

有意水準5%(α=0.05)でF=4.07

有意水準1%(α=0.01)でF=7.59

なので、今回の例題(製造温度による特性値)はF値8.03であり、7.59よりもさらに大きいため、有意水準1%で棄却域に入る。よって、帰無仮説は棄却され、対立仮説が採択される。つまり、製造温度によって特性値(強度)に差があるという結論である。

 

*補足

F分布表から読み取った値との大小比較での有意判断についてメモしておく。

(手書きの見にくい図はご容赦ください)

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F分布表で、左側の白で示した大きい部分の面積は95%でこの時、F値は4.07より小さい値を取る。つまりF値が4.07より小さくなる確率が95%であるということだ。言い換えると、F値が4.07より大きくなる確率は5%未満であるともいえる。

さらに、F値が7.59より小さい確率は99%で、同様に言い換えると、F値が7.59より大きくなる確率は青で示した部分の1%未満である。

今回の例題では計算したF値が8.03であり、このようなことが起きるのは確率上は1%未満であり、誤差とは判定しがたいということだ。

  

さて、ここまでをまとめると、

「製造温度の違いによって強度が変わる」ということがわかった。

ただし、それだけの情報では実際の仕事の場面では活用できず、製造温度によって強度が変わるとすれば、何℃にするのが最適なのか?までをセットで明らかにする必要があるので次はこの部分を考えていく。

 

 

手順②:強度を高めるためには製造温度(因子)を何℃にするのが最適なのかを調査 

最適水準は、各水準での「母平均の点推定値」を比較することで簡単にわかる。

母平均の点推定値とは、繰り返した実験データの平均を意味する。

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母平均の点推定値はA1水準の「44.00」が最も高く、最適水準はA1であることがわかった。

さらに95%の確率で母平均を含む区間(=範囲)を求める。

これを信頼率95%の信頼区間といい、以下の式で計算する。

 

信頼区間=母平均の点推定値 ± t(φe,0.05) x \sqrt{ \dfrac{Ve}{r} }

 

Ve・・・誤差分散 *分散分析表で計算済みの誤差項(郡内の平方和)の平均平方

r・・・実験の繰り返し回数

t(φe,0.05)でφeは誤差の自由度であるため、今回の例ではt(8,0.05)となりt分布表から自由度8でのα0.05 t値は2.306である。

 

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よって、t(φe,0.05) x √(Ve/r)=t(8,0.05) x √(7.67/3)=2.306 x 1.60=3.69 となり、A1水準の信頼区間は

下限:44.00 - 3.69 = 40.31

上限:44.00 + 3.69 = 47.69 の区間(範囲)に母平均があると推定される。

 

手順③:最適な製造温度の時、個々の化学品の強度はどの範囲になるか

最後に、最適水準A1(製造温度100℃)で化学品を製造した時の、製品の強度がどのくらいになるかを推定する。

これを予測区間といい、以下の式で計算する。

 

予測区間=母平均の点推定値 ± t(φe,0.05) x \sqrt{ (1+\dfrac{1}{r}) ×Ve}

 

今回の例では、

t(φe,0.05) x √( (1+1/r) x Ve )

=t(8,0.05) x √( (1+1/3) x 7.67)

=2.306 x √10.23

=7.37となる。よって、予測区間は

下限:44.00 - 7.37 = 36.63

上限:44.00 + 7.37 = 51.37

 

製造温度100℃で製造した化学品のほとんど(95%)の強度は、36.63~51.37の範囲であると推定できた。

 

↑例題はこちらのテキストを参考にした。