Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするWeb記事/機械設計/TPS/QC品質管理

公差累積とは?計算方法と公差設計のコツ

一つひとつの部品は図面どおりなのに、組み立てるとなぜか寸法が合わない。
その原因の多くが「公差累積」です。

複数の部品の公差が積み重なると、組立寸法のばらつきは思いのほか大きくなります。
これを見落とすと、ガタや干渉、組み付け不良といったトラブルにつながります。

しかし、公差累積の計算方法を知り、最悪値法とRSS法を使い分ければ、過剰品質を避けつつ確実に成立する設計ができます。
本記事では、公差累積の意味と2つの計算方法、具体的な計算例、そして公差設計のコツまでをわかりやすく解説します。

 

1. 公差累積とは

公差累積(公差の積み上げ)とは、複数の部品や寸法の公差が組み合わさって、組立全体の寸法ばらつきとして積み重なる現象のことです。
英語では tolerance stack-up と呼ばれ、組立を伴う設計では必ず考慮すべき基本概念です。
個々の部品が公差の範囲内であっても、それらを足し合わせた組立寸法は、想定以上に大きくばらつくことがあります。

 

たとえば、3つの部品を一列に並べて組み立てる場合、全長のばらつきは各部品の公差の影響をすべて受けます。
このとき、ばらつきがどの程度になるかを見積もる作業が公差解析です。
公差累積を正しく把握することで、組立後の寸法が要求範囲に収まるかを設計段階で判断できます。

 

寸法連鎖(寸法チェーン)という考え方

公差累積を考えるときの基本が「寸法連鎖(寸法チェーン)」です。
寸法連鎖とは、ある組立寸法を決定するために関わる一連の寸法のつながりのことで、起点から終点までの寸法を順にたどった経路を指します。

 

この経路上にある寸法の公差は、すべて組立寸法のばらつきに寄与します。
逆に言えば、寸法連鎖に含まれない寸法の公差は、その組立寸法には影響しません。
どの寸法が連鎖に含まれるかを正しく見極めることが、公差解析の出発点になります。

 

最終的に管理したい組立寸法を「機能寸法」と呼び、これが寸法連鎖の終点になります。
機能寸法に対してどの部品寸法が効いているかを図面上で追うことで、解析すべき公差が明確になります。

 

公差の表し方(両側公差と片側公差)

公差の表し方には、基準寸法に対して上下対称にばらつきを許す両側公差(±0.1のような表記)と、片方向だけを許す片側公差(+0.1/0 や 0/−0.1 のような表記)があります。
両側公差は寸法の中心が基準値と一致するため、RSS法のように中心が公差域の中央にあると仮定する手法と相性のよい表記です。

 

一方、はめあい記号(H7やg6など)で指定される公差は片側に寄っていることが多く、公差累積を計算する際は基準寸法を中央値に置き換えてから合成すると扱いやすくなります。
表記の違いを意識して、中央値とばらつき幅に整理しておくことが、正確な公差解析の前提になります。

 

公差設計の全体像については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

関連記事

instant.engineer

 

2. 公差累積が引き起こす問題

公差累積を考慮せずに設計すると、組立段階でさまざまな問題が発生します。
代表的なトラブルは次のとおりです。

 

  • ガタつき:すき間が大きくなりすぎて、部品ががたつく
  • 干渉:すき間が不足し、部品どうしがぶつかって組み付かない
  • 組立不良:寸法が要求範囲を外れ、手直しや選別が必要になる

 

なぜ単体合格でも組立不良が起きるのか

公差累積の怖さは、すべての部品が図面の公差内に収まっていても、組立段階で不良が生じ得る点にあります。
これは、各部品の寸法が偶然同じ方向(たとえばすべて大きめ)にそろうと、ばらつきが打ち消し合わずに足し合わされるためです。

 

検査では部品を1つずつ合否判定するため、こうした「組み合わせ」によるばらつきは見えません。
個々の図面だけを見ていては気づけず、組立段階で初めて表面化するのが公差累積の怖いところです。

 

だからこそ、設計の早い段階で公差累積を計算し、組立寸法のばらつきを予測しておくことが重要になります。
組立を前提とする設計では、単体公差の合否だけでなく、寸法連鎖全体のばらつきを評価する視点が欠かせません。

 

3. 最悪値法(ワーストケース法)

最悪値法(ワーストケース法)は、すべての公差が同時に最も悪い方向にずれた場合を想定する計算方法です。
各部品の公差を単純に足し合わせて、組立公差を求めます。

 

各部品の公差を t1、t2、…、tn とすると、組立公差 T は次の式になります。

 

 T = t_1 + t_2 + \cdots + t_n

 

最悪値法の計算手順

最悪値法の計算は次の手順で進めます。
まず組立寸法に関わる寸法連鎖を洗い出し、各寸法の公差を整理します。
次に、それぞれの公差を符号を考えずに絶対値で足し合わせ、組立公差とします。

 

公差が±表記でない場合(たとえば +0.10 / −0.05 のような非対称公差)は、上側へのずれと下側へのずれを分けて合計します。
こうして求めた最大・最小の組立寸法が、要求範囲に収まっているかを確認します。

 

最悪値法のメリットとデメリット

最悪値法の長所は、計算した範囲内に組立寸法が100%収まることを保証できる点です。
すべての部品が同時に公差の端に振れても成立するため、安全側の設計になります。

 

一方で、すべての公差が同時に最悪方向にそろう確率は実際には非常に低く、過剰品質になりがちです。
その結果、各部品に厳しい公差を要求してコストが高くなる傾向があります。

 

そのため最悪値法は、安全性が最優先される場面や、部品点数が少ない組立に向いています。
少量生産や試作のように、ばらつきが統計的に安定しない場合にも適した方法です。

 

4. 二乗和平方根法(RSS法)

二乗和平方根法(RSS法:Root Sum Square)は、公差を統計的に扱う計算方法です。
各部品のばらつきが正規分布に従うと仮定し、公差を二乗して足し合わせ、最後に平方根をとります。

 

組立公差 T は次の式で求められます。

 

 T = \sqrt{t_1^{2} + t_2^{2} + \cdots + t_n^{2}}

 

RSS法では、各部品の公差をばらつきの3σ(標準偏差の3倍)とみなしています。
そのため、計算結果は組立寸法の約99.7%をカバーする値になります。

 

なぜ二乗和の平方根になるのか

RSS法が公差を二乗して足すのは、独立した複数のばらつきを合成するとき、分散(標準偏差の二乗)どうしが加算できるという統計の性質に基づいています。
各部品のばらつきが互いに独立であれば、組立寸法の分散は各部品の分散の和になります。

 

分散の和の平方根をとれば、組立寸法の標準偏差が得られます。
公差を3σとみなしている場合、この関係がそのまま「公差の二乗和の平方根」という形になります。
これがRSS法の数学的な根拠です。

 

RSS法を使うための前提条件

RSS法を正しく使うには、いくつかの前提が満たされている必要があります。
第一に、各部品のばらつきが正規分布に近いこと。
第二に、ばらつきの中心が公差域の中央にあること。
第三に、各部品のばらつきが互いに独立していることです。

 

これらが崩れると、RSS法の見積もりは実際のばらつきと食い違います。
RSS法の利点は、最悪値法よりも組立公差が小さく見積もられ、各部品の公差を緩められる点にあり、過剰品質を避けてコストダウンと量産性の向上につながります。
ただし前提条件への配慮を欠くと危険側の設計になりかねない点に注意が必要です。

 

正規分布の考え方は、正規分布の記事で詳しく解説しています。

 

5. 最悪値法とRSS法の比較

2つの計算方法の違いを整理すると、次の表のようになります。

 

項目 最悪値法 RSS法
計算方法 公差の単純な和 公差の二乗和の平方根
考え方 すべて最悪方向にずれると想定 ばらつきを統計的に扱う
保証範囲 100% 約99.7%(3σ)
組立公差 大きい(厳しい部品公差) 小さい(公差を緩められる)
向く場面 少量・安全最優先 量産・ばらつきが安定

 

最悪値法は確実性を重視する場面に、RSS法は量産でコストを抑えたい場面に向いています。
部品点数が多いほど両者の差は大きくなるため、設計の目的に応じて使い分けることが大切です。

 

部品点数が増えるほど差が広がる

最悪値法とRSS法の差は、部品点数が増えるほど大きくなります。
公差が等しいn個の部品を直列に並べる場合、最悪値法の組立公差はnに比例して大きくなるのに対し、RSS法は√nに比例してゆるやかにしか増えません。

 

たとえば同じ公差の部品が4個なら、最悪値法は4倍、RSS法は2倍(√4)です。
9個なら最悪値法は9倍、RSS法は3倍(√9)と、差はますます開きます。
部品点数の多い組立ほど、RSS法によるコストメリットが大きくなるわけです。

 

歩留まりとの関係

公差設計は、最終的に組立の歩留まり(良品率)に直結します。
RSS法で約99.7%をカバーするように公差を設定すれば、理論上は1000個に約3個程度しか規格外が出ない計算になります。

 

ただしこれは各工程が安定して3σを満たしている場合の理想値です。
実際には工程能力や分布の偏りで歩留まりは変動するため、量産前に試作データでばらつきを検証しておくことが欠かせません。

 

6. 公差累積の計算例

具体的な数値で、両方の計算方法を比べてみましょう。
公差が±0.1mmの部品を3つ、一列に並べて組み立てる場合を考えます。

 

まず最悪値法では、3つの公差を単純に足し合わせます。

 

 T = 0.1 + 0.1 + 0.1 = 0.3 \, \mathrm{mm}

 

つまり、組立全長のばらつきは ±0.3mm と見積もられます。
次にRSS法では、二乗和の平方根をとります。

 

 T = \sqrt{0.1^{2} + 0.1^{2} + 0.1^{2}} \approx 0.17 \, \mathrm{mm}

 

RSS法では ±0.17mm となり、最悪値法のおよそ半分にまで小さくなりました。
このように、同じ部品構成でも計算方法によって見積もりが大きく変わることがわかります。

 

部品点数を増やした場合の比較

部品点数を6個に増やして、同じ±0.1mmの公差で比べてみます。
最悪値法では公差をそのまま6個分足し合わせます。

 

 T_{\mathrm{worst}} = 0.1 \times 6 = 0.6 \, \mathrm{mm}

 

RSS法では、6個分の二乗和の平方根をとります。

 

 T_{\mathrm{rss}} = \sqrt{6 \times 0.1^{2}} \approx 0.245 \, \mathrm{mm}

 

3個のときは約1.7倍だった差が、6個では最悪値法0.6mmに対しRSS法は約0.245mmと、2.4倍以上に開きました。
部品点数が増えるほどRSS法の見積もりが有利になることが、数値からも確認できます。

 

寄与の大きさが異なる場合(感度係数)

ここまでは各寸法が組立寸法に1対1で効く前提でした。
しかし、てこ比や角度を含む機構では、ある寸法のずれが組立寸法へ与える影響が1対1にならないことがあります。

 

このとき、各寸法の影響度を表す感度係数 ai を掛けてから合成します。
RSS法の一般形は次のように書けます。

 

 T = \sqrt{\sum_{i=1}^{n} (a_i t_i)^{2}}

 

単純な直列の積み上げでは感度係数はすべて1となり、もとの式に一致します。
複雑な機構では、各寸法が機能寸法にどれだけ効くかを見積もって感度係数を求めることが重要です。

 

すき間(クリアランス)の計算例

部品どうしのすき間(クリアランス)も、公差累積の考え方で評価できます。
たとえば、幅 50±0.1mm の溝に、幅 49.6±0.05mm の部品をはめ込む場合を考えます。

 

すき間の基準値は 50 − 49.6 = 0.4mm です。
最悪値法では、溝が最小・部品が最大のときにすき間が最小となり、その値は 0.4 −(0.1 + 0.05)= 0.25mm です。
逆に最大すき間は 0.4 +(0.1 + 0.05)= 0.55mm となります。

 

すき間が常に正であれば干渉せずに組み付くため、この例では最小すき間 0.25mm が確保され、干渉しないと判断できます。
はめあい部の設計では、最小すき間が負にならないことを必ず確認します。

 

統計的に評価するRSS法では、最小すき間側の変動幅は √(0.1² + 0.05²) ≒ 0.11mm と小さく見積もられます。
同じ部品でも、量産で工程が安定していればRSS法でより緩い公差を許容でき、コストを下げられます。

 

7. 公差設計のコツ

公差累積を踏まえた公差設計には、いくつかのコツがあります。
主なポイントは次のとおりです。

 

  • 公差にメリハリをつける:重要な寸法には厳しく、影響の小さい寸法には緩い公差を割り当てる
  • 工程能力を考慮する:加工がその公差を安定して満たせるか(工程能力指数Cpk)を確認する
  • 部品点数を減らす:積み重なる公差の数そのものを減らす

 

重要寸法に公差を集中させる

すべての寸法に一律の厳しい公差を与えると、コストばかりが膨らみます。
組立寸法への影響が大きい寸法を見極め、そこに公差を集中させるのが効率的です。

 

感度係数の大きい寸法ほど機能寸法へ効くため、優先的に厳しい公差を割り当てます。
逆に影響の小さい寸法は思い切って公差を緩め、加工やコストの負担を下げます。
このメリハリが、限られたコストの中で品質を確保するための要点です。

 

工程能力(Cpk)と公差の整合をとる

図面で与えた公差が、実際の加工で安定して満たせるかどうかは別問題です。
公差が加工能力に見合っているかは、工程能力指数(Cpk)で確認できます。

 

Cpkが小さい工程に厳しい公差を要求すると、不良率が高まり、選別や手直しのコストがかさみます。
公差を決めるときは、その寸法を担う工程のCpkを把握し、無理のない値に設定することが大切です。

 

公差解析は設計の上流で行う

公差解析は、図面が固まる前のできるだけ早い段階で行うのが効果的です。
詳細設計が進んでから公差の問題が見つかると、寸法や形状の手戻りが大きくなり、コストと日程に響きます。

 

デザインレビューの段階で寸法連鎖と公差累積を確認しておけば、過剰公差も公差不足も早期に発見できます。
公差設計を上流に組み込むことが、後工程のトラブルを防ぐもっとも確実な方法です。

 

関連記事

instant.engineer

 

8. 公差累積を抑える設計の工夫

公差累積そのものを小さく抑えるには、設計の工夫が効果的です。
代表的な方法を紹介します。

 

  • 基準面を統一する:寸法の基準(データム)をそろえ、公差が連鎖しないようにする
  • 位置決めをシンプルにする:一つの基準から各部を位置決めし、累積の経路を短くする
  • 調整代を設ける:シムや調整機構で、累積したばらつきを吸収する

 

基準(データム)を統一する

特に、寸法の基準をそろえることは公差累積の抑制に大きく効きます。
基準が部品ごとにばらばらだと、公差が次々に連鎖して累積が膨らんでしまいます。

 

一つの基準面から各部の寸法を直接指示する「基準寸法方式」にすると、寸法連鎖が短くなり、累積する公差の数を減らせます。
これは、累積の経路そのものを短くするという考え方です。

 

幾何公差の基準となる平面の精度については、平面度真直度の記事も参考になります。

 

調整代で吸収する

累積したばらつきを設計だけで吸収しきれない場合は、調整機構を設けるのも有効です。
シム(厚みを調整する薄板)やねじによる調整機構を組み込むことで、組立時にばらつきを補正できます。

 

調整代を設ければ、各部品の公差を必要以上に厳しくせずに済み、コストを抑えられます。
ただし調整工数が増えるため、量産品では自動化のしやすさとあわせて検討します。

 

部品点数を減らして累積経路を短くする

公差累積を減らすもっとも根本的な方法は、部品点数そのものを減らすことです。
複数の部品を一体化して1つにまとめれば、その分の合わせ面と公差が消え、寸法連鎖が短くなります。

 

一体成形や一体加工によって接合部を減らせば、累積する公差の数が減り、組立寸法のばらつきを構造的に小さくできます。
ばらつきを後から吸収するよりも、そもそも累積を生まない設計が理想です。

 

9. 公差累積解析の注意点

公差累積を解析するときは、いくつかの前提に注意が必要です。

 

非正規分布・分布の偏りへの対応

まず、RSS法はばらつきが正規分布に従うことを前提としています。
工具摩耗などで分布が片寄っている場合や、少量生産でばらつきが安定しない場合には、RSS法の前提が崩れます。
そのような場合は、安全側の最悪値法を選ぶ方が適切です。

 

また、分布の中心が公差域の中央からずれていると、計算結果と実際のばらつきが食い違います。
解析の前提と実際の工程が合っているかを、工程能力のデータで確認することが大切です。

 

より高度な手法:モンテカルロ法

より複雑な組立や非線形な寸法関係では、モンテカルロ法による公差解析が有効です。
モンテカルロ法は、各部品の寸法を分布に従って乱数で大量に生成し、組立寸法のばらつきをシミュレーションで求める方法です。

 

最悪値法やRSS法のような単純な式では扱いにくい、角度や複雑な幾何関係を含む組立でも、実際の分布形状を反映した精度の高い予測ができます。
近年は3D CADや専用の公差解析ソフトに機能が組み込まれており、設計段階での検証に活用されています。

 

計算方法の選択は、生産数量・加工方法・要求品質を総合的に見て判断しましょう。

 

10. まとめ

本記事では、公差累積の意味と2つの計算方法、計算例、公差設計のコツまでを解説しました。

 

公差累積とは複数部品の公差が積み重なって組立寸法のばらつきになる現象で、設計段階での予測が欠かせません。
その評価には寸法連鎖をたどり、どの寸法が機能寸法に効くかを見極めることが出発点になります。

 

最悪値法は公差を単純に足して100%を保証する安全側の方法、RSS法は二乗和平方根で約99.7%をカバーし公差を緩められる方法です。
部品点数が多いほど両者の差は広がるため、生産数量や要求品質に応じて使い分けることが重要です。

 

公差にメリハリをつけ、基準面を統一し、工程能力を踏まえた公差設計で、品質とコストの両立をめざしてください。
複雑な組立ではモンテカルロ法も活用し、設計段階でばらつきを見える化することが、組立トラブルを防ぐ近道です。