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溶接部の強度計算:接合部の破壊を防ぐ安全な構造設計

「脚長はとりあえず板厚に合わせておけば安心」 その経験則、本当に正しいと言い切れますか?

溶接部は構造上で最も応力が集中する「ウィークポイント」であり、たった一箇所の強度不足が重大事故に直結します。だからこそ、設計者には「なんとなく」ではない、厳密な工学的根拠が求められます。

本記事では、フィレット溶接の「有効のど厚」の定義といった基礎から、複合荷重下での計算公式、疲労強度を考慮した安全率設定までを網羅的に解説します。

曖昧な知識を整理し、自信を持って図面を描くための「溶接設計バイブル」。

今すぐ実務で使える計算ノウハウを、余すことなくお届けします。

1. 溶接部強度計算の基礎理論

フィレット溶接(隅肉溶接)の幾何学

機械設計において最も多用されるのが「フィレット溶接(Fillet Weld)」です。T字継手、角継手、重ね継手など、部材同士が直角または重なり合う部分の隅(コーナー)を溶接金属で埋める手法です。

フィレット溶接の強度計算において最も重要な概念が「のど厚(Throat Thickness)」です。

  • 脚長(Leg Length, L): 母材の表面から溶接止端部までの距離。図面指示で「脚長6mm」などと指定するのはこの寸法です。
  • 理論のど厚(Theoretical Throat, H): 溶接ルート(角の頂点)から溶接表面(斜辺)への垂直距離。溶接断面を直角二等辺三角形と仮定した場合、幾何学的に H = L \times \sin(45^\circ) \approx 0.707 L となります。
  • 有効のど厚(Effective Throat): 強度計算に実際に用いる厚みです。設計基準によっては、溶け込み深さを考慮したり、余盛(補強盛り)を無視したりします。

 

一般構造用鋼の設計(JIS規格準拠など)では、計算を簡略化しつつ安全側に見積もるため、有効のど厚を 0.7 \times L として計算するのが通例です。

 

突合せ溶接(グルーブ溶接)の特性

部材の端面同士を突き合わせて接合する「突合せ溶接」は、完全溶込み(Full Penetration)であれば母材と同等の強度を持つと見なされます。この場合、有効断面積は「母材の板厚 × 溶接長さ」となります。

ただし、部分溶込みの場合は開先深さが有効のど厚となるため、強度は著しく低下します。疲労強度が要求される箇所では、突合せ溶接の余盛を削除して平滑に仕上げることで応力集中を緩和するなどの配慮が必要です。

 

溶接部にかかる応力の考え方

溶接部に作用する力は、大きく分けて以下の3つに分類されます。

  1. 引張・圧縮荷重: 溶接線に対して垂直に引っ張る、または圧縮する力。
  2. せん断荷重: 溶接線に対して平行にずらす力。
  3. 曲げ・ねじりモーメント: てこの原理で溶接部を剥がそうとする力。

フィレット溶接の場合、どのような方向から荷重がかかっても、最終的には溶接金属の「のど断面」におけるせん断破壊として評価するのが一般的です。これは、フィレット溶接の形状的にせん断方向が最も弱点になりやすいためであり、計算上も「全ての荷重をせん断応力として換算し、許容せん断応力と比較する」という安全側の手法が採られます。

 

2. 強度計算の公式とプロセス

基本公式:単純荷重の場合

溶接部に単純な荷重 F が作用する場合、発生する応力 \sigma または \tau は以下の式で求められます。

 \sigma (\text{または } \tau) = \frac{F}{A_w} = \frac{F}{\Sigma (0.7 \cdot L \cdot l)}

  • F:作用荷重(N)
  • A_w:総有効溶接断面積(mm²)
  • L:溶接脚長(mm)
  • l:有効溶接長さ(mm)

ここで重要なのは「有効溶接長さ」です。溶接の始端と終端は、クレーター(くぼみ)ができやすく欠陥を含みやすいため、溶接全長から脚長の2倍程度を差し引いた長さを有効とする場合があります(厳密な計算の場合)。

 

曲げモーメントを受ける場合

片持ち梁の付け根など、曲げモーメント M が作用する場合、溶接部はてこの原理で引き剥がされる力を受けます。このとき、溶接部を「線状の断面」として捉え、断面係数 Z を用いて計算します。

 \sigma_b = \frac{M}{Z_w}

ここで Z_w は溶接部の断面係数です。例えば、全周溶接された円形断面や、上下に溶接されたI型断面など、形状ごとに公式が異なります。算出された曲げ応力 \sigma_b と、せん断応力 \tau を合成して評価します。

 

合成応力の算出

せん断応力 \tau と垂直応力(引張・曲げ) \sigma が同時に作用する場合、それらを合成して等価応力を求める必要があります。一般的には以下の式を用います。

 \sigma_{eq} = \sqrt{\sigma^2 + 3\tau^2}

あるいは、簡易的にベクトル合成のように以下の式を用いることもあります(設計規格による)。

 \tau_{max} = \sqrt{(\sigma/2)^2 + \tau^2}

この合成応力が、許容応力以下であることを確認します。

 

3. 実践:複雑な荷重条件下での計算例

ケーススタディ1:ブラケットのフィレット溶接

条件:

  • 壁面にT字型に溶接されたプレート(長さ H=100\,\mathrm{mm}
  • 先端(距離 L_{arm}=200\,\mathrm{mm})に荷重 F=5000\,\mathrm{N} が作用
  • 両側フィレット溶接、脚長 S=6\,\mathrm{mm}
  • 使用材料:SS400(許容せん断応力 80\,\mathrm{MPa} と仮定)

この場合、溶接部には「直接せん断力」と「曲げモーメントによる応力」の2つが作用します。

① 直接せん断応力の計算

有効のど厚 t_e = 0.7 \times 6 = 4.2\,\mathrm{mm}

溶接総長さ l_{total} = 100 \times 2 = 200\,\mathrm{mm} (両側)

断面積 A_w = 4.2 \times 200 = 840\,\mathrm{mm^2}

 \tau_s = \frac{5000}{840} \approx 6.0\,\mathrm{MPa}

② 曲げ応力の計算

モーメント M = 5000 \times 200 = 1,000,000\,\mathrm{N\cdot mm}

溶接部の断面係数 Z_w(長方形断面の上下端)は、溶接ラインを細長い長方形と考えて近似計算します。

2本の溶接線(幅 t_e、高さ H)の断面係数:

 Z_w \approx 2 \times \frac{t_e \cdot H^2}{6} = \frac{4.2 \times 100^2}{3} = 14,000\,\mathrm{mm^3}

 \sigma_b = \frac{1,000,000}{14,000} \approx 71.4\,\mathrm{MPa}

③ 合成応力と判定

 \sigma_{total} = \sqrt{71.4^2 + 3 \times 6.0^2} \approx 72.1\,\mathrm{MPa}

許容応力 80\,\mathrm{MPa} に対して 72.1\,\mathrm{MPa} なので、安全と判断できます。

 

ケーススタディ2:ねじりを受ける円筒軸の溶接

フランジにパイプを隅肉溶接し、トルク T をかける場合です。溶接線は円周状になります。

この場合、溶接部の極断面係数 Z_p を用いてせん断応力を計算します。

 \tau_t = \frac{T}{Z_p}

円環状のフィレット溶接の極断面係数(近似式):

 Z_p \approx 2\pi r^2 t_e

r: パイプ平均半径、t_e: のど厚)

ねじり荷重のみであれば単純ですが、これに自重による曲げなどが加わると計算は複雑化します。

 

4. 材料別許容応力と安全率の設定

材料強度の基準

溶接部の許容応力は、母材の降伏点(または耐力)および引張強さを基準に決定されます。一般的に溶接棒(溶加材)は母材と同等以上の強度のものが選定されますが、熱影響部(HAZ)での強度低下を考慮し、母材強度の数値をベースに計算します。

材料規格 引張強さ \sigma_u (MPa) 降伏点 \sigma_y (MPa) 許容せん断応力 (目安)
SS400 (軟鋼) 400~510 245 (t≦16) 80~90 MPa
SM490 (溶接構造用鋼) 490~610 325 (t≦16) 110~120 MPa
SUS304 (ステンレス) 520以上 205以上 100~110 MPa
A5052 (アルミ合金) 195以上 - 40~50 MPa

※許容せん断応力は、一般的に \sigma_y / \sqrt{3} に安全率を見込んで設定されます。

 

安全率(Safety Factor)の考え方

計算値が許容応力を下回っていても、以下の要因により破壊するリスクがあります。

  1. 施工不良: 溶け込み不足、アンダーカット、ブローホール。
  2. 応力集中: 溶接止端部の形状による応力集中係数(通常1.5〜3.0倍)。
  3. 疲労荷重: 繰り返し荷重がかかる場合、静的強度の半分以下でも破壊する。

これらを考慮し、用途に応じた安全率 S を適用します。

  • 静荷重(一般機器): S = 3 \sim 4
  • 動荷重・衝撃荷重あり: S = 5 \sim 8
  • 重要保安部品・クレーン等: S = 8 \sim 12

特に、溶接ビードの表面形状が凸凹している場合や、繰り返し荷重がかかる場合は、疲労限度線図(S-N曲線)を用いた疲労強度設計が必須となります。

 

5. 現場での品質確保と設計者の役割

図面指示の重要性

いくら計算が完璧でも、それが現場に伝わらなければ意味がありません。設計者は以下の情報を図面に明記する必要があります。

  • 溶接記号: JIS Z 3021に基づき、脚長、溶接の種類(すみ肉、開先)、全周溶接などを正確に指示する。
  • 開先形状: 突合せ溶接の場合、V型、X型などの開先角度やルート間隔を指定する。
  • 検査等級: 「全数カラーチェック(PT)」「重要部は超音波探傷(UT)」など、要求品質レベルを記載する。

 

溶接欠陥と強度の関係

溶接強度は「欠陥がないこと」を前提としています。代表的な欠陥とその影響を知っておく必要があります。

1. アンダーカット(Undercut):

溶接止端部の母材がえぐれて溝になる現象。断面積の減少に加え、深刻な応力集中源となり、疲労破壊の起点になります。

2. 溶込み不良(Incomplete Penetration):

ルート部まで溶融していない状態。のど厚が確保できず、計算通りの強度が出ません。

3. ブローホール(Blowhole):

溶接金属内の気泡。断面積の減少につながります。

 

メンテナンスと寿命予測

溶接構造物は永久不変ではありません。経年劣化に対する保全計画も設計の一部です。

腐食環境下では「腐食代(しろ)」を見込んで板厚や脚長を厚く設定します。また、振動機器のフレームなどでは、定期的なクラック検査(探傷試験)ができるよう、点検口を設けたり、検査機器が入るスペースを確保したりする「メンテナンス性への配慮」も、優れた設計者の条件です。

 

まとめ:安全な溶接設計のために

溶接部の強度計算は、単なる数値合わせではありません。それは、不確定要素の多い「溶接」というプロセスに対し、工学的な裏付けを持って安全を保証する行為です。

  1. のど厚の概念を正しく理解し、有効断面積を算出する。
  2. 荷重タイプ(せん断、曲げ、ねじり)を見極め、適切な応力解析を行う。
  3. 母材の熱影響や施工誤差を考慮し、十分な安全率を設定する。
  4. 現場が施工しやすく、検査可能な構造形状にする。

これらのプロセスを丁寧に行うことで、過酷な環境でも機能を維持し続ける、真に信頼性の高い構造物を生み出すことができます。本記事の計算ロジックと設計思想を、ぜひ日々の設計業務にお役立てください。