ゲージR&R(Repeatability:反復性とReproducibility:再現性)は、測定システムの精度を評価するための手法です。
特に製造業や品質管理の分野で重要です。以下に詳細を説明します。
関連記事
ゲージR&Rとは?
ゲージR&Rは、品質管理や工程改善において非常に重要な手法です。
測定システムの信頼性を評価し、改善するために使用されます。
この手法は、特に製造業や品質保証の分野で広く利用されています。
本記事では、具体的な製造業の事例を交えながら、ゲージR&Rの基本概念、目的、実施方法、そして実際の適用例について詳しく解説します。
ゲージR&Rの基本概念
ゲージR&Rは、測定システムのばらつきを評価するための方法です。
具体的には、測定システムがどれだけ正確かつ一貫性を持っているかを評価します。
製造業では、さまざまな部品や製品の寸法や特性を測定する必要がありますが、測定結果にばらつきがあると、品質に大きな影響を与える可能性があります。
R&Rは「Repeatability(反復性)」と「Reproducibility(再現性)」の略で、以下のように定義されます。
Repeatability(反復性):
同じ測定者が同じ条件下で同じアイテムを測定した場合のばらつき
⇒測定器自体の精度や安定性を示す
Reproducibility(再現性):
異なる測定者が同じアイテムを測定した場合のばらつき
⇒測定手法や環境の違いによる影響を示す
ゲージR&Rの目的
ゲージR&Rの主な目的は、測定システムの信頼性を確保し、製品の品質向上に寄与することです。具体的には以下の点が挙げられます。
測定誤差の特定
製造プロセスでは、測定器や測定者、環境要因などが測定結果に影響を与えます。
誤差を明確にすることで、以下の利点があります。
・測定誤差の要因を分析し、問題の根本原因を特定できます。
・誤差が特定されることで、具体的な改善策(校正や手法の見直し)を講じることができます。
・測定誤差を減少させることで、得られたデータの信頼性が向上し、意思決定が正確になります。
品質管理
製品の品質を維持するために、信頼性の高い測定を実現します。
・測定システムの信頼性を評価することで、品質基準を明確に設定できます。
・測定誤差を減少させることで、不良品の発生を抑制できます。
・高品質な製品を提供することで、顧客満足度の向上につながります。
プロセス改善
測定のばらつきを減少させることで、全体のプロセスを改善します。
・測定データを分析することで、製造プロセスの最適化が可能になります。
・測定者間のばらつきを把握し、必要に応じてトレーニングを実施できます。
・定期的なゲージR&Rにより、プロセスの状態を継続的にモニタリングし、改善点を早期に発見できます。
ゲージR&Rの実施方法・手順
ゲージR&Rを実施するための基本的な手順は以下の通りです。
1.測定対象の選定
測定対象の選定は、ゲージR&Rの最初のステップです。
重要な製品や部品を選ぶことで、測定の意義が高まります。
例えば、自動車部品では、安全性に影響を与えるエンジン部品やブレーキ部品が優先されることが多いです。
多様なロットやバリエーションを含めることで、測定システムの信頼性を実際の製造環境で評価できます。
明確な測定基準を設けることも重要で、後の測定がスムーズに進行します。
2.測定者の選定
測定者の選定は、測定システムの信頼性に大きく影響します。
複数の技術者を選び、異なる経験やスキルを持つ人々を含めることで、測定結果のばらつきを把握できます。
選定後は、全ての測定者に同じトレーニングを行い、測定手法の一貫性を確保します。
測定者が測定対象と手順を十分に理解していることを確認することで、結果の信頼性が向上します。
3.測定の実施
選定した測定者が、同じ製品や部品を複数回測定します。通常、各測定者は同じアイテムを3回測定することが一般的です。
測定条件(温度、湿度、照明など)をできるだけ揃えることで、環境による影響を最小限に抑えることが重要です。
測定器の使い方や測定手順を統一することで、再現性を高めます。
また、測定中は測定者の行動や手順を観察し、必要に応じてフィードバックを行うことで、測定精度の向上を図ることができます。
正確な測定結果を得るためには、測定者が集中できる環境を整えることも重要です。
4.データの収集
データの収集では、測定結果を適切に記録します。
各測定者の結果をスプレッドシートや専用ソフトウェアに整理し、後の解析に備えます。
測定者の名前や測定日時、条件も併せて記録することで、データの信頼性を確認できます。
リアルタイムでデータを確認できるようにすることで、異常値の早期発見が可能になります。整然としたデータ収集は、後の解析をスムーズに進めます。
5.統計解析
分散分析などの手法を用いて、測定結果のばらつきを分析します。
Repeatability(反復性)とReproducibility(再現性)の割合を計算し、測定システムの信頼性を評価します。
たとえば、Repeatability(反復性)が高い場合、同一測定者による測定が安定していることを示します。
一方、Reproducibility(再現性)が高い場合、異なる測定者間のばらつきが大きいことを示します。
これらの結果を基に、どの要因が測定結果に影響を与えているかを特定し、改善策を考えることができます。
6.結果の評価
統計解析の結果をもとに、測定システムの信頼性を判断します。
RepeatabilityとReproducibilityの割合を評価し、基準を満たしているかを確認します。
基準を満たしていない場合は、測定器の校正や手法の見直しが必要です。
結果を関係者と共有し、今後のプロセス改善に活かすことで、継続的な品質向上を図ります。
ゲージR&Rの計算・評価方法
ゲージR&Rの評価を実施する。ある製品特性について、
『PV』(製品特性値自体のばらつき) 標準偏差:1.87
『ゲージR&R』(反復性,再現性) 標準偏差:0.32
上記の場合、『TV』(測定値全体のばらつき(全変動))は
上記の計算式で求めることができます。よって、
となります。
測定全体のばらつきTV=1.90のうち、計測の反復性と再現性のばらつきを表すゲージR&R=0.32の占める割合は、16.8%(0.32/1.90=0.168)となります。
測定システム解析(MSA)では、計測の反復性と再現性のばらつきに対して、以下のような判断基準となっています。
・10%未満:許容可能なばらつきの範囲以内である
・10%以上30%以下:許容される場合もあるが、改善を考慮すべきである
・30%を超える:許容できないばらつきである
なので、今回事例の16.8%の場合、許容される場合もあるが、改善を考慮すべき、となります。
具体的な製造業(自動車部品メーカ)の事例
自動車部品メーカーの事例
A社は、エンジン部品の製造を行っている企業です。顧客からのクレームが増えてきたため、測定システムの信頼性を評価することにしました。
以下は、A社が実施したゲージR&Rのプロセスです。
測定対象:エンジンのシリンダーヘッドの寸法
測定者:3人の技術者
測定器:デジタルキャリパーとマイクロメーター
各技術者がシリンダーヘッドの寸法を3回ずつ測定した結果、以下のようなデータが得られました。
技術者Aの測定値:50.01mm, 50.03mm, 50.02mm
技術者Bの測定値:50.05mm, 50.04mm, 50.06mm
技術者Cの測定値:50.02mm, 50.01mm, 50.03mm
データ解析の結果、技術者間のばらつきが大きく、特に技術者Bの測定結果が他の技術者と比較して高い傾向が見られました。
この結果を受けて、A社は以下の改善策を講じました。
・技術者Bが使用していた測定器を再校正し、精度を向上させました。
・各技術者に対して、測定手順に関するトレーニングを実施し、一貫した測定方法を確立しました。(測定方法の標準化)
・測定システムの信頼性を維持するため、定期的にゲージR&Rを実施することを決定しました。
これらにより、A社は顧客からのクレームを大幅に減少させ、製品の信頼性を向上させることに成功しました。
まとめ
ゲージR&Rは、製造業や品質管理において不可欠な手法であり、測定システムの信頼性を高めるための強力なツールです。
本記事では、ゲージR&Rの基本概念や実施方法、具体的な適用例を通じて、その重要性を明らかにしました。
製造プロセスの精度を向上させるためには、測定誤差を特定し、品質管理を強化することが必要です。
ゲージR&Rを導入することで、測定結果の信頼性が向上し、不良品の削減や顧客満足度の向上につながります。
自動車部品メーカーの成功事例からもわかるように、適切な実施により、企業は品質向上を実現し、競争力を高めることができます。
ぜひ、ゲージR&Rを実務に取り入れ、自社の品質管理やプロセス改善に活用してみてください。
信頼性の高い測定システムを構築することで、持続的な成長と顧客の信頼を獲得できるでしょう。