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P-FMEA活用による故障モードの特定と影響評価

製造業における品質管理やリスク管理の重要性が高まる中、P-FMEA(プロセスFMEA)は非常に有効な手法として注目されています。

本記事では、P-FMEAにおける「故障モード」について詳しく解説します。

 

 

P-FMEAとは?

P-FMEA(Process Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、製造プロセス内で発生する可能性のある故障モードを特定し、それが製品やプロセスに与える影響を評価する手法です。

活用目的はリスクを軽減し、品質を向上させることです。主な要素に以下があります。

 

1.故障モード

故障モードは、製品やプロセスが期待される機能を果たさない状態を指します。

具体例として、エンジン部品の破損や接続不良が挙げられます。

これらの故障モードを特定することで、リスク管理や改善策の策定が可能となります。

 

2.影響評価

影響評価は、故障モードが発生した場合の影響を評価するプロセスです。

例えば、不良品に対する顧客クレームや生産遅延のリスクがあります。

これにより、顧客への影響や経済的損失を把握し、優先的に対策を講じるべき故障モードを特定します。

 

3.発生頻度

発生頻度は、特定の故障モードがどれくらいの確率で発生するかを示します。

過去の不具合データや、1000台中のエンジン故障件数などが具体例です。

この指標に基づき、リスク管理を行い、特に発生頻度の高い故障モードに対して対策を講じることが重要です。


4.検出可能性

検出可能性は、故障モードが発生した際にどれだけ早く発見できるかを示します。

品質検査やリアルタイムモニタリング、トレーニングの効果などが具体例です。

検出可能性が高いほど、問題を迅速に解決できるため、リスクが軽減されます。

 

5.リスク優先度数(RPN)

リスク優先度数(RPN)は、故障モードのリスクを数値化した指標です。

高RPNの故障モードや、改善策実施前後のRPN比較が具体例です。RPNの値が高いほどリスクが大きいため、優先的に対策を講じるべき故障モードを特定するのに役立ちます。

※RPNは、発生頻度・重篤度・検出可能性を掛け合わせた値で、リスクの優先度を示す

 

故障モードとは?

物理的故障は、部品や材料が外部の力や環境要因によって破損する現象です。

例えば、電子機器のケースが落下によって割れることや、風力発電機のブレードが強風で破損することが挙げられます。

これにより、製品の機能が失われるだけでなく、安全性にも影響を与えるため、十分な耐久性を考慮した設計が重要です。

 

カテゴリ①:物理的故障

機械的故障は、機械の動作部分が正常に機能しなくなる状態を指します。

具体例として、製造ラインのコンベアベルトが摩耗し、動かなくなるケースや、モーターのベアリングが破損して異音を発することがあります。

こうした故障は生産効率を低下させるだけでなく、メンテナンスコストの増加にもつながるため、定期的な点検と予防的な保守が必要です。

 

カテゴリ②:機能的故障

機械的故障は、機械の動作部分が正常に機能しなくなる状態です。

例えば、ベアリングの破損による回転不良や、ギアの噛み合わせ不良による動力伝達の失敗が含まれます。

このような故障は生産ラインの停止や効率低下を引き起こすことがあります。

 

カテゴリ③:プロセス的故障

プロセス的故障は、製造工程におけるエラーや不具合を指します。

例えば、食品加工業において、温度管理の失敗により製品が腐敗することや、組立ラインでの部品の取り付けミスによる不良品の発生が挙げられます。

これらの故障は、製品の品質を低下させるだけでなく、顧客からの信頼を損なうリスクもあるため、厳密な工程管理と従業員の教育が不可欠です。

 

故障モードの特定方法

故障モードの特定は、製造業における品質管理やリスク管理の重要なステップです。

 

1.ブレインストーミング:

ブレインストーミングは、特定の製品やプロセスに関連するチームで行います。

例えば、自動車部品メーカーが新しいブレーキシステムの故障モードを特定する際、設計、製造、品質管理の担当者が集まり、過去の不具合事例や顧客のフィードバックを基にアイデアを出し合います。

各メンバーが日常業務で経験した問題や、他社の事例を共有することで、見落とされがちな故障モード(例:ブレーキパッドの摩耗や異音)を洗い出すことができます。

このプロセスを通じて、多様な視点からの情報を集め、包括的な故障モードリストを作成することが可能です

 

2.過去データの分析:

過去データの分析は、既存の不具合記録やトラブル事例を詳細に調査する方法です。

このアプローチでは、故障の発生率や影響を定量的に評価し、頻繁に発生する故障モードを特定します。

製造業では、過去の品質管理データ、顧客クレーム、製品リコール情報などを活用することが一般的です。

これにより、故障のパターンやトレンドを把握し、将来的なリスクを予測することが可能になります。

また、データの可視化ツールを用いることで、問題点を迅速に特定しやすくなります。

 

3.フィードバックシステム:

フィードバックシステムは、顧客や現場作業者からの意見を集め、製品やプロセスの問題を把握する重要な手段です。

例えば、ある家電メーカーが洗濯機のユーザーからのクレームを分析したところ、「洗濯中の異音」が頻繁に報告されていることがわかりました。

この情報を基に、製品開発チームは異音の原因となっている部品(例:モーターやベアリング)の設計を見直し、改良版を開発することで、顧客満足度の向上を図ります。

また、現場作業者からのフィードバックも活用し、製造工程での組立ミスを防ぐための手順を改善することで、全体の品質向上に寄与します。

 

4.シミュレーション:

シミュレーションは、製造プロセスや製品性能を仮想的に再現する手法です。

例えば、航空機部品メーカーが新しい翼の設計を行う際、CFD(計算流体力学)ソフトウェアを使用して、風圧やストレスをシミュレーションします。

このプロセスにより、「翼の接合部」での故障リスクや、特定の飛行条件下での性能低下を事前に把握できます。

シミュレーションを通じて、設計段階での問題を解決し、製造後の不具合を未然に防ぐことができるため、コスト削減や品質向上に寄与します。

 

故障モードの分類

洗い出した故障モードを分類することは、リスク管理や改善策を効果的に策定するために重要です。

故障モードを体系的に分類することで、問題の特定や優先順位付けが容易になり、効率的な対策を講じることができます。

以下に、一般的な分類方法とその具体例を紹介します。

 

1.故障の原因による分類

故障モードを原因に基づいて分類します。この分類は、根本原因を特定し、効果的な対策を講じるための基盤となります。

 

設計上の問題:設計不良や仕様の不適切さに起因する故障。例えば、強度不足の部品設計による破損が該当します。

製造プロセスの問題:製造工程でのミスや不備による故障。具体的には、溶接不良や組立ミスなどがあります。

材料の問題:使用材料の特性や品質に起因する故障。例えば、耐熱性のない材料を使用したことによる熱膨張の問題です。

 

2.故障の影響度による分類

故障モードの影響度に応じて、重要度を評価、分類します。これにより、優先的に対策を講じるべき故障モードが明確になります。

 

重大な影響:安全性や機能に深刻な影響を与える故障モード。例として、航空機のエンジン故障が挙げられます。

中程度の影響:操作や性能に影響を与えるが、致命的ではない故障。例えば、家庭用電化製品の機能が一時的に不安定になる場合です。

軽微な影響:使用に大きな影響を与えない故障モード。例えば、外装の小さな傷がこれに該当します。

 

3.故障の発生頻度による分類

故障モードの発生頻度に基づいて分類することで、リスクを管理しやすくなります。

 

高頻度故障:定期的に発生する故障モード。例えば、特定の部品がサイクルごとに摩耗する場合です。

中頻度故障:ときおり発生する故障モード。過去のデータに基づいて一定の発生率が見込まれるものです。

低頻度故障:稀にしか発生しない故障モード。製品の設計や材料の特性によっては、非常に稀な事象です。

 

故障モードの影響評価

特定した故障モードについては、その影響を評価する必要があります。

評価には以下の要因が含まれます。

 

発生頻度:故障が発生する確率を示します。過去のデータやトレンドを分析し、特定の故障モードがどの程度の頻度で発生するかを把握します。

重篤度:故障が発生した場合の影響の大きさを評価します。これは、顧客や製品に対する影響を考慮し、安全性や機能性にどの程度のリスクをもたらすかを判断するための重要な要素です。

検出可能性:故障が発生した場合にどれだけ早く発見できるかを示します。この指標は、故障の早期発見が可能かどうか、またそれがどのように製品の信頼性に影響を与えるかを評価するために使用されます。

 

これらの要因を基に、リスク優先度数(RPN: Risk Priority Number)を算出し、対策が必要な故障モードを特定します。

RPNは、発生頻度、重篤度、検出可能性の数値を掛け合わせたものであり、数値が高いほどリスクが大きいことを示します。

このプロセスにより、企業はリソースを効率的に配分し、最も重要なリスクに対処するための効果的なアクションプランを策定できます。最終的には、影響評価を通じて、製品やプロセスの安全性と信頼性を向上させることが目的です。

 

まとめ

P-FMEAは、製品の品質や安全性を確保するための重要なプロセスです。

故障が発生した場合の影響を的確に評価し、リスクを管理することで、顧客満足度を向上させ、企業の信頼性を高めることができます。

継続的な評価と改善が、製造業における競争力を維持するための鍵となります。