Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするWeb記事/QC統計手法/公差設計・解析/TPS(トヨタ生産方式)

【三元配置実験】スタットワークス解析手順:外壁パネルの接着強度

 

[例3.1:外壁パネルの接着強度に関する繰り返しのない三元配置実験] -p42

建材メーカーのZ社では、新規外壁パネルを開発中である。この度、その表面材と内側にある亜鉛鉄板との接着強度を向上させるために実験を行うこととした。

取り上げた因子は、接着強度の種類(因子A)、接着剤の熟成温度(因子B)、接着剤塗布量(因子C)である。水準は下記の通りで、繰り返しのない三元配置法で行った。特性値は接着強度(単位:kgf)で、値は高い方が良い。これを解析せよ。

 

因子と水準

f:id:yuinomi:20201103070742p:plain

得られた実験データ

f:id:yuinomi:20201104065633p:plain

この例題をスタットワークス(StatWorks)を用いて解析していく。

 

「繰り返しがない」とは?

三元配置実験で繰り返しがある場合とない場合で異なるのは、3因子の交互作用を検出できるかである。繰り返しがあると、AxBxCという三元配置実験における因子数の最も多い交互作用が検出できるのに対して、繰り返しがないとそれが誤差と交絡し検出できなくなるという部分に違いがある。

ただし、繰り返しがない三元配置実験であってもAxB、AxC、BxCという2因子の交互作用は問題なく検出できる。

 

一般に多元配置実験においては、繰り返しがあるとすべての交互作用を検出できるが、繰り返しがないと最も多い因子数間の交互作用が検出できなくなる。例えば、四元配置実験では繰り返しがないとAxBxCxDが検出できなくなる。

しかし、3因子以上の交互作用が存在することは少なく、また技術的に解釈することが難しいので通常は無視することが多い。したがって、多元配置実験においては繰り返しを入れないで実験を行うことの方が多い。

 

繰り返しのない三元配置実験の分散分析表は以下の表のようになる。 

f:id:yuinomi:20201104071114p:plain

 

スタットワークス(StatWorks)による多元配置分散分析の解析手順

ソフトを起動して、新規のワークシートを立ち上げる。

f:id:yuinomi:20201103071036p:plain

 

まずは解析するワークシートの作成からはじめる。既に実施済みの外部データがCSVなどであればそれを読み込んでも良いが、今回はテキストの実験データと同じものをスタットワークス上で作成する。

上タブ「手法選択」→「実験計画法」→「要因配置実験のための計画」を選択。

f:id:yuinomi:20201103071040p:plain

 

「因子の設定」ウィンドウが表示されるので、左上の黄色ボタンを押して必要な因子を追加していく。

f:id:yuinomi:20201103071043p:plain 

 

因子の設定が完了。今回の例題では因子数は3つで、それぞれ下記の通り。

因子A:接着剤の種類   水準数3

因子B:接着剤の熟成温度 水準数2

因子C:接着剤塗布量   水準数4

入力が完了したら「次へ」をクリック。ちなみに後からでも水準名を変えたり、因子を追加するのは簡単にできるので、この段階で完璧を目指して頑張らなくても良い。

f:id:yuinomi:20201103071050p:plain

 

設定した因子と水準に従った実験条件一覧表が表示される。実験回数としては各因子ごとの水準数と繰り返し回数を掛けて、3x2x4x1=24回となる。

この表をもとに実験を行う場合、リボンにある「ランダマイズ」をクリックすると実験順序を無作為に順序を並べ替えてくれるというちょっと便利な機能がある。

f:id:yuinomi:20201103071053p:plain

 

さらに、この画面で「表示形式 変更」ボタンを押すと、因子と水準の表示形式が変更できる。

水準名として登録した任意の文字列か、ラベルとしての記号数字かだけの違いで並びは同じ。都度見やすい方を選択すれば良い。

実験条件一覧に問題ないことが確認できれば、「4:変数への登録」をクリックでワークシートに反映される。

f:id:yuinomi:20201103071111p:plain

 

再度ワークシートを開くと、先ほど登録した因子と水準一覧が反映されている。

3~5列目が実験条件(因子A,B,C)で、自動で質的変数として登録されていることが確認できる。6列目の”N 接着強度”が特性値である。Nは量的変数を意味する。

ワークシート上で6 列目に実験データを入力する。

f:id:yuinomi:20201103071121p:plain

 

データの入力が完了したら、解析に移る。タブの「手法選択」→「実験計画法」→「多元配置分散分析」を選択。

”変数の指定”ウィンドウが表示される。デフォルトではワークシートで作成した列データが左側のボックスに一覧として出ているので、その中から解析対象の実験条件と特性値を選んで右側に移動させる。

f:id:yuinomi:20201103071127p:plain

 

仕分けが完了したのが以下の状態。

右上の特性値には接着強度、右下の実験条件には接着剤の種類、熟成温度、接着剤塗布量の3つを移動させた。ここで「No」とはワークシート上での列番号を意味している。

仕分けができたことを完了したら、「次へ進む」をクリック。

f:id:yuinomi:20201103071130p:plain

 

”計画種類の指定”ウィンドウが表示される。今回の例題では、多元配置法で問題ないのでそのまま「次へ」をクリックで解析が実行される。(一瞬で完了する)

f:id:yuinomi:20201103071132p:plain

 

ここからは解析結果を確認していく。

「実験データ」→「データプロット」で縦軸:特性値である接着強度、横軸に各因子の水準と交互作用の散布図グラフを確認できる。

f:id:yuinomi:20201103071138p:plain

このグラフから、以下のようなことが推測される。

・因子AとCは効果がありそうである。(水準による効果=主効果)

・因子Bは効果が小さそうである。

・交互作用についてはAxBは存在しそうであるがAxC、BxCでは認められなさそうである。

などデータプロットだけでも様々なことが予想できるが、定性的で人による判断もまちまちなので、次に分散分析で定量化する。

 

タブの「分散分析表」をクリックすると、三元配置実験での分散分析結果が確認できる。表の中で「検定」列に注目する。

因子A:接着剤の種類および因子C:接着剤塗布量の主効果、AxB交互作用については検定の結果1%で有意。因子B:熟成温度は5%で有意であることがわかる。

さらにAxC、BxC交互作用も確認すると、検定の結果は有意ではなく、且つ分散比も1.0以下と効果が極めて小さい因子であることがわかる。

特別な理由がない限り、効果の小さい因子はプーリングを行う。

f:id:yuinomi:20201103071146p:plain

 

プーリングとは、効果のない項を誤差と見なして、それらの平方和と自由度を誤差項の平方和と自由度に足し込み、新たな誤差分散を求める作業である。

これにより、誤差の自由度が増え、誤差分散の推定精度が上がる。

理解しやすくするために上記の図に少し書き込みをした。赤枠の数字をそれぞれ青枠に加算して7行目の”誤差:ABC”をより大きくするということだ。

f:id:yuinomi:20201105055715p:plain

 

プーリングの仕方は、表の5行目と6行目をクリックして選択すると色が変わる(白から水色)のでその状態で「プーリング」をクリック。「AxC」「BxC」をプーリングし再計算した分散分析結果が以下である。

因子A、B、Cと交互作用AxBが1%で有意になった。

f:id:yuinomi:20201103071150p:plain

 

次は最適条件を推定する。推定をするためには、推定式に取り込む要因を指定する必要がある。今回の例題では、分散分析表の1~4行すべてが1%有意であるという結果なので、1~4行をすべてクリックして選択状態にしてタブ「推定値」を押す。

推定値の各水準組み合わせによる一覧が表示される。

今回の例題で特性値は接着強度で値は高い方が望ましいので、最適水準は”max”が表示された A_1 B_1 C_1 である。その条件での母平均の点推定値や母平均の95%信頼区間、個々のデータの95%予測区間などが確認できる。

f:id:yuinomi:20201103071208p:plain

 

「推定値プロット」にすると、横軸に因子A~Cの水準組み合わせ、縦軸に特性値を取った母平均の95%信頼区間のグラフ一覧が表示される。 

f:id:yuinomi:20201103071214p:plain

 

さらに推定値プロットのところで、表示変更を押すと以下のようにグラフが変更される。個人的にはこちらの方が見やすい。今回の例題では、交互作用AxBが有意であるので因子AとBについては全ての組み合わせの結果を確認する必要があるが、因子Cについては主効果だけを見れば良いので以下の2つのグラフに大別することができる。 

f:id:yuinomi:20201103071218p:plain

 

最後にタブの「残差」→「残差一覧表」で、各水準組み合わせの残差とt値について確認する。

残差e_i_jとは、実測値から推定値を引いた値である。(言い換えると「個々の実験生データ」から「その水準での母平均の点推定値」を引いた値)

また残差t値は以下の式で計算できる。

 t = \dfrac{e_ {ij}}{\sqrt{\dfrac{S_e}{N}}}

Se:誤差eの平方和 / N:全データ数

t値は誤差の平均値である0からの離れ具合を見る指標である。

慣例的にこれが2.5を超える場合は、外れ値と見なし実験条件に誤りがなかったか等を確認する。

実際の例題の残差一覧表を確認する。まず「実測値」は実験データのことであり、「推定値」は因子A各水準での母平均の点推定値である。 

f:id:yuinomi:20201103071221p:plain

 

「残差」→「正規確率プロット」では、t値の正規性を表示できる。

正規確率座標上にデータが右上がり45°で直線的にプロットされる時、データは正規分布であるとみなされる。右側には基本統計量と正規性検定による検定統計量とP値が表示される。P値の値から解析対象の特性値が正規分布に従っているかを判断する。

f:id:yuinomi:20201103071225p:plain