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トヨタ危機管理の核心:9つの特徴と実践事例

コロナショックからいち早く業績回復したトヨタ

リーマンショック時には赤字となったトヨタだが、コロナショック時は他の自動車会社に先駆けて業績を回復させ、また他社が決算の見通しを示せない、同社だけはいち早く対応できた。

コロナで日本中に不安が立ち込める中でのトヨタの活躍、果たした役割は大きい。本業を素早く回復させ、関連会社含む雇用や経済活動を維持しただけでなく、フェイスシールドの製造、医療機器メーカへの生産性向上の支援活動などが記憶に新しい。

リーマンショックの時に何を反省し、その後どういった実践を重ねて危機管理を行ってきたかについて述べた本。よく、企業の「体質改善」という言葉を耳にする。

トヨタにおいても平時から常に体質改善を続けているが、それは「原価の低減」と「生産性の向上」を追求し続けることを意味する。

 

株主総会で当時の豊田章男社長が「体質強化は進んでいるのか?」に答えて語った言葉が以下である。

トヨタは確実に強くなったと思います。そして、その強さを自分以外の誰かのために使いたいと思っております。なんといってもリーマン・ショック時よりも200万台以上、損益分岐点を下げることができたのですから

 

そんなトヨタの危機管理には9つの特徴がある。

 

トヨタの危機管理 9つの特徴

1.「深刻に考えずに真剣にやろう」

この言葉は当時社長の豊田章男氏が2020年3月19日、自動車工業会の定例会見で述べたものだ。新型コロナ危機に際して、トヨタが社会に向けてリリースした第一声と言える。

「(新型コロナ危機になった今)我々自身が何をしていかなければいけないか・・。あえて、前向きな言葉を使わせていただければ、”改革を一気に進めていく時”と捉えたいと思っております。(略)

『深刻にならずに、真剣に。』

『みんなで助け合って、感謝しあう。』

道徳の授業のようですが、このトンネルの先に光を見出すためには、みんなでこれをやっていくしかないと考えております。

 

「深刻に考えずに真剣にやろう」というトヨタの姿勢は、2011年の東日本大震災の際にも発揮された。

震災直後、トヨタの生産ラインは大きな打撃を受け、部品供給網が途絶えた。この状況において、トヨタは混乱に陥ることなく迅速な対応に出た。被災地に対する人的・物資の支援はもちろん、供給網の再構築に向けた具体的なアクションが速やかに取られた。

例えば、被災した部品メーカーのサポートに全力を挙げ、代替生産ラインの設置や技術支援を提供した。これにより、部品供給の再開が迅速に行われ、生産ラインの停止期間を最小限に抑えることができた。

また、トヨタはこの経験を教訓として、今後の災害に備えるための危機管理体制を一層強化した。例えば、部品の二重調達体制を整備し、災害発生時でも生産が続けられるようにした。

このように、「深刻に考えずに真剣にやろう」という姿勢は、トヨタが危機に直面した際に、混乱せず、冷静かつ迅速に行動し、問題を解決する力となっている。

 

2.常在危機——トヨタ生産方式のある日常風景

トヨタにはトヨタ生産方式というものがある。変化に対応する生産方式で、トヨタの従業員は生産現場に限らず、この方式を学んで仕事をしている。

彼らは日頃から変化に対応する体質になっているので、実際に危機という大きな変化が起きても、あわてずに対応することができる。危機管理とは平時から行うものだ。

 

トヨタ生産方式(TPS)は、変化に強い生産体制を築くために開発された、独自の生産管理システムである。この方式は、ムダ、ムラ、ムリを排除し、効率的かつ柔軟な生産体制を実現することを目的としている。

トヨタの従業員は生産現場に限らず、オフィス業務や研究開発など様々な場面でTPSを活用し、日々の業務を遂行している。

TPSは、変化に対応するだけでなく、変化を予測し、それに備える力も従業員に与えている。日々の業務の中で小さな変化や異常を見逃さず、それを解決することで、従業員は変化に対応する体質を自然と身に付けている。

これにより、大きな危機が訪れた際にも、彼らはあわてず、効果的に対応することができる。

 

トヨタでは、「危機管理は日常業務の一環である」という考え方が根付いている。日頃から変化に対応し、危機を未然に防ぐことで、企業としてのレジリエンスを高めているのである。

このような平時からの取り組みが、大きな危機が訪れた際に、迅速かつ効果的な対応を可能にしている。危機管理は、事態が起こってからではなく、平時からしっかりと行うことでその効果を最大限に発揮するものである。

 

3.「それしかない」と「それでもやれる」は根本的に違うことだ

危機が起きて部品が滞留しそうになると、生産調査部の若手が先遣隊として派遣される。それは日頃から生産調査部が協力工場に生産性向上の指導に行っているので土地勘があるからだ。

また、危機からの復旧とは設備、機械を直して生産すること、その際、リードタイムを短くしてなるべく早く製品を出すことで、それは元から生産調査部がやっている仕事だ。

そして、被災した現場で重要な考え方が「『それしかない』と『それでもやれる』は根本的に違う」である。

これはトヨタ生産方式を体系化した大野耐一の補佐役だった鈴村喜久男の言葉だ。

危機に慣れていない当事者は「あれもない、これもない、ここには何もない」とパニックになる。

もしくは、「助けが来るまで待とう」と復旧をあきらめてしまう。

しかし、トヨタ生産方式の改善で鍛えられているスタッフは、「それでもできる、これでもできる」と頭を切り替える。そうすれば突破口は開ける。

 

危機的状況においては、通常の思考パターンが機能しなくなることが多い。リソースが限られている中で、通常通りの方法で問題解決を試みても、解決に至らないことがある。

危機に慣れていない当事者が「あれもない、これもない」と思い込んでしまうと、視野が狭まり、パニック状態に陥りやすい。

また、「助けが来るまで待とう」と受動的な態度を取ることで、解決のチャンスを逃すこともある。

このような状況で重要となるのは、思考の切り替えである。

前向きな姿勢を持つことで、限られたリソースの中でも最大限のパフォーマンスを発揮することが可能となる。この思考の切り替えは、単にポジティブシンキングを持つことだけではなく、柔軟な発想を持ち、状況に応じて最適な解決策を見出す力を育むことまで含む。

このような思考の切り替えは、トレーニングによって身につけることができる。日頃から様々な状況を想定し、問題解決の訓練を積むことで、危機的状況でも冷静に対応し、効果的な解決策を見出す力を養うことができる。

このように、思考の切り替えは危機管理の重要な要素となり、あらゆる状況での問題解決能力を向上させる。

 

4.危機に際しては無力な自分と向き合う

危機からの復旧はまず確かな情報を取ることだろう。その上で問題点を見つけ、問題を解決する対処策を考える。そうして、実行する。(中略)

危機に際して、最初に立案したプランがそのまま通用することはない。何度、立案しても通用しないことがある。危機管理に見ているのは挫折体験を持っている人間だ。

挫折した経験を持った人間は打たれ強い。無力感を感じた後、打たれ強くなった人材がもっとも危機管理に向いている。

 

危機状況においては、迅速かつ正確な情報を取得することが非常に重要である。情報が不足していたり、誤っていたりすると、状況の悪化を招くリスクが高まる。

一方で、正確な情報を基に迅速な判断を下すことができれば、危機を乗り越えるための効果的な対策を講じることが可能となる。

 

また、危機状況においては、状況が刻一刻と変化し、予測が難しい。

そのため、最初に立案したプランがそのまま通用することは稀であり、プランの修正や再立案が必要となることが多い。この過程では、失敗や挫折を経験することが不可避であり、それを乗り越える強さと柔軟性が求められる。

挫折体験を持っている人間は、失敗から学び、それをバネにして立ち上がる力を持っている。彼らは、困難な状況でも諦めずに前向きに取り組むことができる。

無力感を感じ、それでも乗り越えた経験は、人間を強くし、逆境に立ち向かう力を養う。

このような打たれ強い人材は、危機管理において非常に貴重である。

彼らは、危機状況においても冷静さを保ち、的確な判断を下すことができる。

また、失敗を恐れずに挑戦し続けることで、最終的には解決策を見出すことができる。

 

5.壁管理と白板と役員に報告書を上げないこと

「危機管理の大部屋では大きな日本地図、あるいは世界地図を用意して壁に貼り出します。

そこに調達が作ったサプライチェーンマップを参考にして、途切れそうなところにメモを貼り付けていく。メモには会社名、製品は何か、日当たり何個が納入されているかといった情報が書いてあります。とにかく壁一面に貼り付ける。

壁の横に大きな白板を用意して、そこには『何月何日何時にこれを決めました』『こういう指示を出しました』『解決しました』と、どんどん書いていく。パソコンにすると見るのに手間がかかる。

白板のスペースは決まっているから、解決したことなど、用が済んだ情報は消していく。壁と白板にあるのは現在情報だけです。

そして、もうひとつ。

幹部、管理職へ毎日、報告書を上げることはない。

役員でも幹部でも、大部屋を覗いて壁を見ることが決まりになっている。

「そうです。『見に来い』が原則。」(中略)

報告書をやめてよかったことは、大部屋に来た幹部と担当者が会話を交わすようになったこと。その場で意思決定して現場に伝えることができる。報告書を上げて決裁を待っているだけで対策が遅れてしまう。

 

壁管理、白板、役員に報告書を上げないことは、「現地現物」の原則を重視することと、チーム全員が現状を共有し、迅速に対応できるようにする目的だ。

トヨタでは危機対応以外でも新製品開発などで大部屋を立ち上げ、プロジェクトチームで開発を進めることがある。

このプロジェクトでは、壁に大きなスケジュール表やタスクの状況を示すカードが貼り付けられ、白板にはプロジェクトの目標や重要な指標が記されている。メンバーは日々のスタンドアップミーティングで壁と白板の情報を共有し、進捗状況や課題を把握する。

 

役員への報告書を上げないという点では、トヨタの哲学に通じる部分がある。

トヨタでは「現地現物」の原則を重視し、問題が起きた時は現場に直接赴いて状況を把握し、解決策を見つけることが推奨される。

したがって、報告書を書いて時間を費やすよりも、現場の声を直接聞き、迅速に対応することが優先されます。

この手法の利点は、情報の伝達が迅速であり、誤解が少ないことである。報告書を介さずに直接コミュニケーションをとることで、情報が歪むことなく、速やかに正確な判断が下せる。また、メンバー全員がプロジェクトの進捗状況をリアルタイムで把握できるため、チーム全体としての協力と連携が促進される。

 

6.危機管理は平時からやる

危機管理は平時からやっておけば、いざという時でもあわてることがない。

危機管理とは、予期せぬ事態が発生した際に、被害を最小限に抑え、迅速に対応するための準備とプロセスである。

これは危機が発生した後ではなく、平時から構築し維持しておく必要がある。なぜなら、危機は予測できないタイミングで突然発生するからだ。

 

危機管理の準備には、リスクの評価と予防策の検討、緊急時のマニュアルの策定、従業員の教育と訓練などが含まれる。

これにより、危機が発生した際には、慌てずに計画的に対応することが可能となる。

すなわち、危機管理は「備えあれば憂いなし」の精神を具体化したものであり、平時からの準備が肝要である。

 

7.卓抜な保全能力

先遣隊を派遣した後、工場の機械や設備を修理、補修しに行くメンバーが要る。そんな時、現地へ出ていくのが保全マンだ。

平時の保全の仕事は自社工場の機械を安全に動かすことだ。そのために彼らは日々、点検や修理を行っている。それがいったん、災害といった事態になると、他社の工場設備や機械を復旧させるために大活躍することになる。

今回の新型コロナ危機では工場が被災したわけではなかった。それでも彼らは支援の現場へ出かけていき、医療用防護ガウンなどの増産を助けた。増産のために倉庫に眠っていた古い機械を修理し、稼働できる状態にしている。また、ラインを一本、増やすための設計から機械の配置までアドバイスし、実際に手を動かした。

トヨタの保全は他の製造メーカに比べて、保全の人員が多い。部隊が大きいのでその分、様々なことに取り組める。

ただ、人員が多いだけではなく、保全技能や機械、電気知識の習得や教育に時間がかかることを理解し、継続的な成長の支援をかかさない。こういった日頃の取り組みで優秀な保全スキルを持つ人員が育ち、有事の際に活躍する。

 

例えば、自動車のボディパーツを製造する工程では、巨大なプレス機械を使用して鋼板を成形する。こういった大型プレス機は非常に高価であり、かつ精密な作業を行うため、故障すると大きな損失となる。

トヨタではこのような重要な設備に対して、予防保全と予知保全を徹底している。

具体的には、機械の各部品に対して定期的なメンテナンスを行い、摩耗や破損の兆候を早期に捉えることで故障を未然に防ぐ。また、センサーを用いて機械の振動や温度をリアルタイムで監視し、異常が検出された場合にはすぐに対応が実施できる準備を整えている。

 

8.地域、一般企業、協力会社などへの支援

阪神大震災で本格的な危機管理、対処が始まった頃、支援と言えば、それは被災した協力会社へ行って復旧に力を貸すことだった。そうしないと、部品ができてこないから車が作れないのだ。

ただし、現場に行ったとたん、ひとつのことに気付いた。

「協力会社だけを支援していたらダメだ。地域の人たちも一緒に支援しなければならない」

以後、トヨタは協力会社だけでなく、地域の人々、広く社会の人々への支援も行うようになった。

 

協力会社だけを支援していては不十分であり、災害時に被災した工場だけでなく、その周辺地域への気配りと支援が非常に重要である。

このアプローチは、単に生産活動を再開するだけでなく、地域社会全体の回復と持続可能な発展を目指すものである。

ある工場が大規模な自然災害に見舞われた際、工場の設備や機械は甚大な被害を受け、生産ラインは停止している。この状況で重要なのは、単に工場の物理的な復旧だけでなく、工場を取り巻く地域社会の回復を支援することである。

 

工場の従業員とその家族は地域社会の一部であり、彼らの生活基盤が整わなければ、工場の生産活動も安定しない。

したがって、復旧作業と並行して、従業員の住宅や生活環境の整備、地域のインフラ復旧への協力が必要となる。

これにより、従業員が仕事に専念できるようになり、生産活動の再開がスムーズに進む。

 

9.記録を残す

記録には、『うまくいった、万々歳だ』は残さなければならないのは三つ。

現場で新たな問題を発見したこと、うまく対処できなかったこと、なぜ、うまく対処できなかったかを書き残さないといけない。

 

災害時には状況が刻一刻と変化し、迅速な判断と行動が求められる。

「記録する」ことで、現地の状況や行われた支援活動、必要なリソースなどを正確に把握することが可能となる。これにより、進捗状況を客観的に評価し、効果的なリソース配分や次の行動計画を立てることができる。

また、「記録する」ことは、災害時の活動を振り返り、学びの機会を提供することにもつながる。どのような対応や施策が成功し、どのような点で改善が必要だったのかを分析することで、将来的な災害対応能力の向上につながる。