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プロセスを不安定にして「問題」を可視化!TPSの革新的アプローチ

トヨタ生産方式における「問題」とは?

TPS(トヨタ生産方式)における「問題」とは、製造プロセスや作業工程に生じるムダや非効率、品質の不備、安全性の不足といった、生産性や品質を阻害する要素全般を指す。トヨタでは、これらの問題を積極的に特定し、解決することで効率的かつ高品質な生産プロセスを目指している。

製造ライン上でのムダな動き、待ち時間、過剰生産などの問題は、生産効率を低下させると同時にコスト増加や品質の低下を引き起こす。これらは「ムダ」「ムリ」「ムラ」として知られ、TPSの中では問題として取り組むべき重要な要素である。

問題を正確に把握し、その根本原因を突き止めることができれば、適切な改善策を講じることが可能となる。

トヨタでは、このプロセスを「問題解決サイクル」と位置付け、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を用いて継続的な改善活動を推進している。

 

トヨタ生産方式において「問題」は否定的なものではなく、むしろ改善と成長の機会として捉えられるべきものと考えられている。

このため、問題の発見と解決のプロセスは、全員が参加し協力して進めるべき重要な活動と位置付けられている。

 

トヨタ生産方式において「問題」を発見し、それへの対処、対策を検討実行することが会社と個人の成長につながることはわかった。では、まずその起点となる「問題」をどのように見つけるのか?

 

「問題」を発見するためトヨタがやっていること

問題を解決するためには、まずその「問題」を正確に捉え、可視化することが求められるのは上述の通りだ。

トヨタでは、この「問題の発見」に対して独自の方法を取り入れ、具体的な実践を通じて問題を明らかにしている。

 

1.現地現物

この原則は、問題が発生している現場に直接足を運び、現状を自らの目で確認するというアプローチである。例えば、製造ラインにおいて品質の問題が生じた場合、管理職はデスクに座ったまま報告を待つのではなく、直接製造ラインへ赴き、問題の状況を視察し、関係者と共に解決策を模索する。

 

2.アンドンシステム

このシステムは、製造ライン上で何らかの問題が生じた際に、作業員が信号灯を点灯し、製造ラインを一時停止させることができる仕組みである。これにより、問題が発生した瞬間にその場で対処し、問題を迅速に解決する文化が根付いている。

 

3.5なぜ分析

この分析方法は、問題が発生した際に「なぜ」その問題が起きたのかを5回繰り返し問い直すことで、問題の根本原因を突き止める技法である。これにより、表面的な対症療法ではなく、問題の再発を防ぐための持続可能な解決策を導き出すことが可能である。

 

これらの方法を通じて、トヨタは常に問題を可視化し、解決策を模索している。そして、これらのアプローチは製造業に限らず、多岐にわたる業種において応用することが可能である。

しかし、上記に示したものは何かイレギュラーが起きてから問題を炙り出すためのものであり、工場や工程が正常に流れている状態で「問題」を積極的に見つけるためには何をすれば良いか?

 

「問題」を発見するためにわざと不安定にする

ここで、上記の答えとなる「問題の見つけ方」について、トヨタのTPS本部長が語ったことが大変参考になる。少し長いが以下に引用する。

 

新人のころは『問題を見つけろ』と言われても、そもそも問題点がよくわからないのです。生産ラインの横に立たされていたら、ラインには部品が流れてきて、ちゃんと自動車ができている。問題点がわからないからカイゼン提案ができない。すると、先輩に言われました。

 

『氷山は海に浮いていて、山頂だけが見えている。全体を見ようと思ったら海水のレベルを下げなくてはいけない。』

 

いかに問題が見えるようにするか。先輩は『10人でやっていた工程からひとり抜いてみろ。あるいは1時間でやっていた仕事を50分にしてみろ』と言いました。

これまで10人でやっていた作業を9人にすると、最初はひとりひとりの作業が増えます。どこかの工程だけが時間がかかり、遅れてしまう。すると、そこに問題があるんです。10人でやっていた時は問題が見えないよう、それぞれがカバーしていたわけですね。

 

このように問題点を見つけるためには組織をわざと不安定にして、作業を少し増やしてみたりします。これは生産現場だけではありません。事務の仕事でも3人でやっていたことを2人にすれば問題点が見えてくる。カイゼンは現状をただ見ていてもできません。現状を不安定にしてみると、わかりやすくなるんです。

 

作業がいつもそこで停滞しているといったようなあきらかな問題点はすぐに見つかる。一方、深いところに隠れているものは見つけにくいので、あえて状況を不安定にして見つけやすくする。

見つかったらカイゼンする。そして、スムーズに流れるようになったらまた不安定にする。

安定しているからといってそれは問題がないということではないというのがトヨタの考え方である。

 

エンジン組立工程を例にすると、この工程は非常に精密な作業が求められ、多くの部品が組み合わさる。通常、この工程がスムーズに進むためには、ある一定の余裕を持たせた作業時間が設定されることが一般的である。

しかし、TPSの下では、この作業時間を意図的に短縮することで、プロセスに緊張感を持たせ、既存の作業方法や工程に潜む無駄や問題点を引き出す。

 

例えば、エンジン組立においてボルトの締め付け工程がある。通常の作業時間では問題なく完了できるこの工程も、作業時間を短縮することで、従来は見過ごされていたボルトの位置の微調整が難しいことや、締め付け工具の使い勝手の悪さが明らかになるかもしれない。これにより、作業者やエンジニアはこれらの「問題」に直面し、その解決を迫られることになる。

 

このように、プロセスを意図的に不安定な状態にすることで、潜在的な問題を引き出し、それを解決することによって、結果としてより効率的で品質の高いプロセスを構築していく。

これが、TPSにおいて「問題を見つけるためにプロセスを不安定にする」という考え方の背後にあるロジックである。