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トヨタで学ぶ予防保全の実践方法

保全の仕事とは?

「保全」とは、設備や機械、施設などを維持し、その性能や機能を長期にわたって保つことを指す。

これには、定期的な点検やメンテナンス、故障した部品の修理や交換、性能改善のためのアップグレードなどが含まれる。

保全の主な目的は、設備や機械を安定して稼働させることで、生産性の向上や製品品質の維持、コスト削減に寄与することである。さらに、予防保全を通じて突発的な故障を未然に防ぐことで、生産ラインのダウンタイムを減らし、効率的な生産活動を実現する。

 

保全業務には具体的に5つの種類がある

主な保全の種類を以下に記述する。

 

1.予防保全(Preventive Maintenance)
目的:故障や損耗を未然に防ぐ。
内容:定期的な点検、潤滑、部品の交換、清掃など。
例:自動車のオイル交換やタイヤの回転。

 

2.予知保全(Predictive Maintenance)
目的:機器の状態を常時監視し、故障の前兆を検知して事前に対応する。
内容:振動分析、油脂分析、赤外線検査など。
例:モーターの振動を分析して、ベアリングの劣化を予知する。

 

3.事後保全(Corrective Maintenance)
目的:故障やトラブルが発生した後に、速やかに修理や交換を行う。
内容:故障部品の交換、損傷部の修理。
例:故障したプリンターのローラーを交換する。

 

4.改善保全(Improvement Maintenance)
目的:機器やシステムの性能向上や信頼性向上を図る。
内容:設計変更、改良、アップグレード。
例:耐震性を向上させるために建物の構造を改善する。

 

5.状態保全(Condition-Based Maintenance)
目的:機器の状態をリアルタイムで監視し、必要に応じてメンテナンスを行う。
内容:センサーやモニタリングシステムを利用した状態監視。
例:エレベーターの使用状況を監視し、異常があれば即座に保全作業を行う。

 

これらの保全方法は、それぞれに利点と適用シーンがあり、効果的なメンテナンス計画を立てるためにはこれらを適切に組み合わせることが重要である。

予防保全は計画的に行うことができ、コストを抑える効果がありますが、すべての故障を防ぐことは難しいため、予知保全や状態保全を組み合わせて未然にトラブルを回避するとともに、事後保全で速やかな対応を可能にする必要がある。

改善保全は長期的な視点で機器の性能や信頼性を向上させるために重要である。

 

予防保全について

予防保全について述べると、これは機械や設備の故障を未然に防ぐために行われる保守活動である。

例えば、自動車工場の溶接工程を取り上げると、溶接機械は定期的にメンテナンスが必要である。これには、溶接ノズルの清掃や、溶接ワイヤの交換、溶接パラメータの調整などが含まれる。

予防保全の目的は、これらの部品が摩耗や汚れによって性能が低下する前に、それらを清掃または交換し、機械の性能を維持することである。

このような定期的なメンテナンスは、予測可能な故障を防ぎ、製品の品質を維持し、生産ラインの停止を防ぐために不可欠である。

 

予知保全について

予知保全は、設備の状態をリアルタイムで監視し、異常が発生する前に対策を講じる活動である。

自動車工場の組立工程において、例えばロボットアームの振動をセンサーで監視し、振動の異常が検出された場合、即座にメンテナンスの必要性を判断する。

これにより、ロボットアームが完全に故障する前に、部品の交換や調整を行うことができ、生産の中断を防ぐことが可能となる。

予知保全は、設備の寿命を最大限に活用し、計画外の停止を最小限に抑えることを目指している。

 

事後保全について

事後保全は故障や障害が発生した後に行う保守活動である。

プレス工程を例に取ると、プレス機械が突然故障した場合、生産ラインは停止し、メンテナンスチームが故障箇所の特定と修復作業を行う。この際、故障原因の分析を行い、同様の故障を防ぐための予防策を立案する。

事後保全は、設備の故障後に迅速に対応し、生産活動を再開することを目的としており、計画的な保守活動とは異なり、緊急性が求められる。

 

トヨタの保全マンが重視していること

保全業務のいくつかの種類について記載したが、この中で最も重要なのが「予防保全」の考えであり、トヨタでも特に重視されている。

保全による地道な日々の業務が、トヨタの安定した生産と品質を支えているが、危機管理や支援活動もトヨタの保全マンの一つの使命である。

トヨタの保全マンの凄さについて、執行役員でチーフ・モノづくり・オフィサーの河合満氏が語った言葉があるので、少し長いが以下に掲載する。

 

まず、うちは人数が多い。よそはうちの六割くらいでしょう。

それだけではない。トヨタはどの工場の各部、各課も保全マンを抱えているし、特に予防保全に力を入れている。

予防保全、つまり、壊れる前に壊れないようにする保全は他社はあまりやっていないね。

 

それと、海外工場の支援を日頃からやっているんですよ。うちは『トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)』というシステムで、車台や部品を共通化しています。

工作機械も共通だから、海外工場から突発的な故障について質問が来てもすぐに対処できる。新型コロナ危機では保全も海外出張できなかったから、リモートで機械の故障を直す指導をしていた。

 

保全はいったん、危機が来たら協力会社や一般のところへ支援に行きます。それも復旧するだけでなく、工作機械の故障まで直してくる。ついでに、不良品が出ないような指導もしてくる。小さな工場だと保全マンがいないところもあるんですよ。そういうところに行って保全のすべてを教えてくる。

 

そして、これはうちにとっては人材教育なんです。教えるためには自分が勉強しなちゃいかん。僕は言ってるんだ。協力会社へ派遣したら、先方の方たちに『トヨタの保全係から教わるだけでなく、現場とは何かを厳しく教えてやってくれ』と。

 

保全マンは先生じゃない。同じ立ち位置でいろいろなことを勉強させてもらう。それで勉強させてもらったら、その恩返しにひとつぐらい何かいいものを置いてこいよと言っとるんだ。向こうが不良で困っとるとする。自分がノウハウを持っていたら、それをちょっと教えてこい、と」

 

トヨタの保全マンは修理するだけではなない。

直した上で、その後も故障が出ないような予防保全の仕方を指導する。

そして、彼らは保全の力を維持するために勉強を欠かさない。たとえば電気制御、センサーといった機器の場合、技術の進歩は日進月歩というか、昨日の技術はもう通用しない。だから、IT、制御については日々、知識の習得とスキルアップに励んでいる。