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トヨタ生産方式(TPS):自働化と自動化の違い

自動化と自働化:その根底にある考え方と実践

製造業における生産の効率化や質の向上を追求する中で、「自動化」「自働化」という2つの言葉がしばしば取り上げられる。

これらは、似ているようでその背後にある考え方や目的が大きく異なる。

特にトヨタ自動車が採用しているトヨタ生産方式(TPS)における「自働化」は、世界中の製造業をリードする独特の哲学を反映している。

 

自働化とは

トヨタ創始者・豊田佐吉が発明した「自動織機」に組み込まれていた発想が「自働化」である。彼が発明した画期的な織機は、糸が切れたりなくなったりした場合、ただちに機械が止まり、不良品の生産を防ぐ仕組みを備えていた。

トヨタでは、すべての機械に「人間の知恵、職場の知恵」つまり、「ニンベンのついた自働化」を組み込み、何か異常が起きれば、機械はただち止まるようされている。

この考え方を単一の機械から生産ラインにまで広げ、異常があれば、作業者自身の判断で機械を止め、何が原因か徹底的に調べる。

「機械が止まる、ラインを止める」ことによって、問題の顕在化を図り、改善を重ねていく。

 

1. 自動化と自働化の基本的な違い

「自動化」は、人の手を介さずに機械やシステムが作業を行うことを指す。

その最大の目的は、労働力の削減や作業時間の短縮、一貫した品質の維持にある。

一方、「自働化」は、機械が自ら問題や異常を検知し、その場で停止する能力を持つことを意味する。

その目的は、生産現場での即時の問題解決や品質の確保にある。

 

2. 「品質は工程でつくり込む」

トヨタの考え方の中心には、「品質は工程でつくり込む」という哲学がある。

これは、製品やサービスの品質を確保するためには、最終検査での品質確認に頼るのではなく、各工程での品質を徹底的に管理し、問題や異常が発生した際にはその場で対応するという考え方に基づいている。

各工程での小さな不具合やムダを放置せず、即座に対応することで、全体としての品質を高めることが可能となる。このため、自働化は非常に重要な役割を果たしている。

 

3. 「省人」の考え

「省人」は、単に人手を削減することを意味するのではない。

トヨタの「省人」は、不必要な作業やムダを排除し、人の能力やスキルを最大限に活用することを目指している。

自働化により、機械は何か異常があれば、機械自らが止まる。これは機械が正常に動いている間は、そばに人が付いている必要がないことを意味する。何か異常があって止まった時だけ、人はその機械のそばに行けば良い。

これにより一人で複数の機械を持てるようになる。また、作業者は単純作業から解放され、より高度なタスクや改善活動に取り組むことができる。

 

4. なぜトヨタは自動化ではなく、自働化を重要視するのか

トヨタが自働化を重要視する背景には、長期的な視点と持続可能な成長の追求がある。

自動化は短期的な効率化やコスト削減には有効であるが、市場の変動や技術の進化に柔軟に対応するためには、人の知恵や経験が不可欠である。

自働化は、機械と人が協力して最高の品質と効率を実現するための手段として採用されている。

 

5. 実践における自働化

自働化の具体的な実践として、機械や装置が異常を検知した際にアンドン(警報)が鳴るシステムや、品質の問題を自動的に検出するセンサーなどが導入されている。

 

アンドン(警報)システム:

生産ライン上で作業者が問題や不具合を発見した場合、アンドンという視覚的・聴覚的な警報システムを使用して他の作業者や管理者に知らせる。これにより、問題が即座に確認され、修正作業が開始される。

事例:トヨタの組立ラインで、ある作業者が部品の取り付けに問題を感じた場合、アンドンを点灯させることでその場での解決を試み、必要に応じてラインを停止させることができる。

これにより、作業者や管理者は即座に問題の原因を特定し、対策を講じることができる。

 

まとめ

自動化と自働化は、その目的や背後にある哲学が異なる。

自働化とは、作業・設備の異常を自らチェックし、異常があったら最優先して、自動停止する人、設備、ラインをいう。

止めることで問題を顕在化し、解決につなげる。

トヨタの自働化の考え方や実践は、品質の追求と持続可能な成長を実現するための独自の方法として、世界中の製造業に影響を与え続けている。