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トヨタ生産方式における「少人化」とは:「省人化」との違い

少人化による真の能率向上

生産現場において一番重要視されるムダは「つくりすぎのムダ」です。

(トヨタ生産方式の7つのムダの中でも筆頭に挙げられる。)

このつくりすぎのムダにより「運搬のムダ」が発生し、保管場所が必要となることで「在庫のムダ」が生じ、整理・整頓が必要になりと、ムダなコストが連鎖的に発生します。

 

このつくり過ぎのムダの根本原因になるのが、生産高をアップさせる能率の向上であり、これを見かけの能率向上といいます。

つくりすぎのムダの原因になる見かけの能率向上に対し、売れる数が変わらないときや、減少しているときには、人を減らして真の能率を向上させることが求められます。

トヨタ生産方式では、必要数だけしか作ってはならず、したがって能力が多すぎる場合は人を減らして必要数に見合ったものにします。

 

省人化と少人化の違い

「省人化」とは、作業改善や設備改善により、同じ数だけ生産に必要な人を1人単位で省くことです。

改善や機械の導入によりそれまで5人で行なっていた仕事量を4人で対応できるようになれば1人の省人化ができたことになります。

 

一方で「少人化」とは、生産量に応じて生産性を落とすことなく何人ででも生産できるラインをつくることで、需要変動にフレキシブルに対応できる定員化しないやり方のことを言います。

少人化のラインを構築するためには、工程を連結・混流・集合させることで端数工数を吸収し、定員制を排除し、生産量に関係なく常に1人工の仕事を与えることが必要です。

 

良く似た言葉ですが、含まれるニュアンスは上記のように微妙に異なっています。

「少人化」という言葉自体は、もともと、トヨタ生産方式を体系化した大野耐一氏が語った内容がある会社の社内報のなかで誤字として記載されたことがはじまりだったようです。それまではトヨタ自動車の中でも「省人化」と表現されていたものが、たまたま目のない「少」と誤って表記され、それがトヨタでの「ショウジンカ」が持つ言葉の意味により近かったので以降は「少人化」とわざと区別する目的で使われるようになりました。

 

「省力化」→「省人化」→「少人化」で考える

人が手作業で仕事をしているところに機械を導入すると、人間の力を省く、つまり省力化は実現できます。

しかし、より重要なのは、その機械によって人を減らし、必要な部署に回すことです。省力化して工数が0.9人分減っても意味がなく、1人が減ってはじめて原価低減に結びつくので、省人化を達成しなければなりません。

 

例えば1.0工数(作業山積み表上でフル)の仕事を3人で行なっている工程があったとします。

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これを改善や機械の導入によって、0.4工数分減らしたとしても、作業者は3人のままなので、個々の作業者が楽になっただけであって原価低減としての意味はまったくありません。(むしろ、その改善によって費用が発生しているならマイナスの効果)

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しかし、作業の振り分けなどによって、3人を2人にできたなら、省人化が達成でき、原価低減に結びつきます。

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また、例えば合計で3.0人工の仕事量を改善によって、2.2人工まで減らせた時、定時内で考えれば0.2人工分の仕事のために1人が必要ですが、これを残業対応で1.1人工ずつ2人にカバーさせ省人化をはかる場合もあります。

 

ある生産量の仕事をいかに少ない人数で行うか。

これを”工数”で考えるのではなく、”人の数”で考えるようにするのが省人化の第一歩になります。

 

省人化のために改善を進める際、人の作業と設備の改造では、必ず前者から着手すべきだと大野耐一氏は著書「トヨタ生産方式」のなかで述べています。 

 

まず作業改善、それから設備改善を考える。作業改善だけで半分、あるいは三分の一になるはずである。ついでは自働化なり設備改善をやることにする。繰り返すが、作業改善と設備改善とを混同しないように注意していただきたい。最初から設備改善をやると、コストは安くはならず、高くなるばかりと考えて良い。

 

省人化を目指して自働化を進めても、いざ減産になったとき、生産量の減った分に比例して人を抜けないとすると、それは自働化が定員制になっているせいです。

低成長時代には、この定員制を打破して、生産必要数に応じて何人であっても柔軟に生産に対応できるラインを作り上げるよう、知恵を絞る必要があり、これが「少人化」の狙いとなります。

 

少人化を実現するためには

生産工程で少人化を実現するためには、以下のような着眼点で改善を進めます。

・誰でもできる作業に標準化する

・作業のローテーションによる多能工化を進める

・機械の配置を動かし、小回りが効くようにする

・離れ小島をなくす

 →機械群の中にポツンポツンと作業者がいるのは一見、人が少ないように見えますが、一人にすると人間同士のチームワークが取れないので、どうしても一人だけの仕事がある場合、そういったものを複数集めてチームワークを発揮できるようにレイアウトします

 

より実践的な少人化ラインの構築方法

少人化のラインは、工程ごとのタクトタイムの組み合わせパターンにより下記の方法に分かれます。

 

1.同一タクト連結方式

タクトタイムが同じラインをレイアウト変更などで工程を連結して、作業組み合わせと改善により端数工数を集約する方式。

 

2.多品種混流方式

現在の生産ラインの生産品目を増やして生産ラインを統合し、生産工程を集約して端数工程を改善する方式。

 

3.異タクト集合方式

端数工数の生じる異タクトのラインを掛け持ちすることにより工数低減を図り、1人工を追求する方式。