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トヨタ生産方式で学ぶ在庫最小化の4つの前提

トヨタ生産方式における「在庫」最小限化の重要性

トヨタ生産方式において、在庫を最小限に抑えることは極めて重要である。

在庫が少ない状態を保つことで、不要なコストとスペースを削減し、企業の収益性の向上が可能となる。

 

例えば、自動車部品製造の現場では、「ジャストインタイム」生産システムを採用することにより、必要な時に必要な量だけ部品を生産し供給することで、在庫保持コストを大幅に削減することができる。

さらに、在庫が少ない状態は、製造プロセスにおける無駄や非効率を容易に見つけ出す手助けとなる。製造ラインでのわずかな停滞も大きな影響を与えるため、企業はプロセスを慎重に管理し、継続的な改善を図らなければならない。

 

トヨタでは、不良品が生産ライン上で発見された際には、即座に「アンドン」システムを用いて生産を停止し、問題の根本原因を解決する。

また、在庫を最小限に抑えることで、企業は市場の変化に迅速に対応する能力を持つことができる。新技術の導入や消費者のニーズの変化に素早く対応し、製品を更新することで、競争優位性を維持することが可能である。

このように、在庫削減はコストの削減だけでなく、企業の機動性と競争力の向上にも寄与する重要な戦略であり、トヨタ生産方式の核となる要素である。

 

在庫の最小限化を実現するための4つの前提

トヨタ生産方式にならって、実際に企業が在庫の最小限化に取り組む場合、いきなり導入するのではなく、まず以下の4つの前提について確認する必要がある。これらは、最小限の在庫で生産活動に支障をきたさないための下地となるものである。

 

1.不良が多発しないこと

在庫最小限化を達成するためには、製造プロセスが安定して高品質な製品を生み出すことが必要である。

不良品が多く生産される場合、在庫を増やすことでその影響を吸収しようとする傾向がある。しかし、このアプローチは問題の根本解決にはならず、結果的にコスト増加を招く。

不良品の発生を抑えることは、在庫削減と直結する重要なポイントである。

 

2.機械故障が頻発しないこと

製造設備の信頼性が高く、故障が少ないことも在庫最小限化の重要な要素である。

設備の故障は生産停止を引き起こし、それにより在庫を増やさざるを得ない状況を生み出すことがある。

設備の定期的なメンテナンスと適切な管理が、在庫を少なく保つうえで不可欠である。

 

3.在庫台帳の数値と現物が合っていること

在庫管理においては、在庫台帳のデータが実際の在庫と正確に一致していることが求められる。

在庫の正確な把握がなければ、最小限の在庫管理は成立しない。在庫台帳と現物が合っていなければ、過剰在庫や在庫不足を引き起こす可能性がある。

例えば、在庫台帳を正確に管理していないと、実際には十分な在庫があるのに追加発注を行ってしまい、在庫過多に陥る可能性がある。

 

4.種々の在庫管理手法が活用できること

最小限の在庫を維持するためには、異なる状況に応じて最適な在庫管理手法を選択できる必要がある。

例えば、季節商品を扱う小売業者は、需要の予測が困難であるため、ABC分析を用いて重要な商品を特定し、それに基づいて在庫を管理する必要がある。

このように、状況に応じた適切な在庫管理手法を活用することで、最小限の在庫で効率的な運営が可能となる。

例えばトヨタではかんばんシステムや定量発注方式、定期発注方式、ABC分析、安全在庫数量等の管理方法、考え方がある。

 

在庫の最小限化に取り組む際、上記4つの前提を満たしていることが必須となる。

上記が実践できていない状況では、在庫削減が品質の低下や生産の停止を引き起こし、結果的に顧客満足度の低下や納期遅延を引き起こす恐れがある。

特に、企業風土としてこれらの問題が根付いている場合、改善への抵抗感や理解不足から改革が進まないという背反が発生し、持続可能な改善が困難となる。また、不良品の多発や機械の頻繁な故障は、余分な在庫を抱えることで対処しようとする傾向を強め、最小限の在庫という目標から遠ざかってしまい、在庫コストの増加やキャッシュフローの悪化を引き起こし、企業の収益性に影響を与えることになる。

 

まず4つの前提をクリアしたうえで、トヨタ生産方式を導入していくのが正しいステップである。

 

*補足・・・ABC分析とは

ABC分析は在庫を重要度に応じてA、B、Cの三カテゴリに分類する手法。Aカテゴリは売上への寄与が大きく、最も注意深く管理する必要がある。BカテゴリとCカテゴリはそれぞれ中間と低い寄与度を持つ。この分析により効率的な在庫管理とリソースの最適な配分を実現しやすくなる。

 

*補足・・・安全在庫数量とは

安全在庫数量とは、予測を超える需要増加や供給遅延に備えて保持する在庫のこと。この安全在庫によって、生産や販売の停滞を防ぎながら、顧客への迅速な対応が可能となる。しかし、過剰な安全在庫は余剰在庫となり、保管コストを増加させるリスクもあるため、適切な量を維持する必要がある。

 

日本のモノづくり トヨタ生産方式の基本としくみ

日本のモノづくり トヨタ生産方式の基本としくみ

  • 作者:佃 律志
  • 日本能率協会マネジメントセンター
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