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トヨタ式 問題解決は『現状把握』から始める4つのステップで実践

トヨタの問題解決

トヨタの書類の基本は「問題の解決を考える書類」

トヨタにおいて仕事とは、「方針管理」と「問題解決」である。

では、後者の「問題解決」とは具体的にどういったものなのか。

トヨタの「問題解決」は、同社の持続的な改善文化の核心に位置するものである。

特に、A3レポートと呼ばれる方法論は、問題解決のプロセスを体系化し、組織全体で共有する手段として広く採用されている。

※書類はA3の紙1枚を横にして書く。ひと目で全体がわかる書類にする。

 

上記の本において、「A3の紙1枚に書類をまとめる」というルールを実際に作ったトヨタ幹部の談として以下のようなことが述べられている。少し長いが、引用したい。

 

トヨタでは仕事のやり方、トヨタ生産方式の考え方などは長く徒弟制度で人から人へ伝えてきました。

教室に人を集めて教科書やマニュアルで伝えるのではなく、朝から晩まで仕事の現場で、1対1で少しずつ教えていたのです。茶道、華道の家元が弟子に直接、教えるような方式だったのです。

1986年、トヨタはアメリカのケンタッキーに工場を作りました。その際、これまでの教え方を一般化、グローバル化する必要に迫られました。仕事のやり方、トヨタ生産方式を海外の従業員にも伝えるために、マニュアルが必要になったからです。

 

そして、私が担当したのは書類の書き方のフォーマットを作ることでした。

アメリカに進出して、現地社員から書類をもらってみると、彼らはロジカルにとにかく長い文章を書いてきたんです。多ければ多い方が知的な人間だと主張したいところもあったのでしょう。

しかし、僕らからしてみれば長い英語の文章を読むのは勘弁してくれよという感じでしたし、とにかく文章を最初から最後まで読まなければわからない。それでは困ると、A3の紙1枚だけに書くと統一することにしたんです。

 

ただ、アメリカ人だけじゃありません。世の中には『長い文章ほどいい文章だ、知的な文章だ』と思っている人がたくさんいます。しかし、そんなことはちっともありません。知性と文章の長さには何の関連性もないです。

 

トヨタのグローバル展開で、トヨタ生産方式を海外の従業員にも伝える必要性からA3レポートは生まれたようだ。

 

A3の紙1枚のまとめ方

A3の紙1枚にまとめるやり方については、目的は「問題解決」である。

問題解決のために書類を作るのであり、これは企画書でも報告書でも同じである。

具体的なA3のまとめ方であるが、まず紙を横にする。

そして真ん中に十字の線を引いて、上下・左右の4箇所に分ける。

・左上:①現状把握

・左下:②目標設定

・右上:③要因解析

・右下:④対策立案

この中で、最も大切とされるのは③要因解析で、トヨタでは「なぜなぜ解析」「なぜなぜ分析」などと呼ばれている。

 

事例として、プレス装置の停止が頻発し、可動率が上がらないというケーススタディで問題解決の4つのステップでどのようなことに留意しながら検討するか、以下に記載する。

 

1.現状把握

現状把握は問題解決の初歩であり、現在の問題や状況を正確に把握するためのステップである。

明確なデータや情報を元に、問題の実態、発生の背景、影響の範囲などを詳細に理解する。

この段階では、客観的なデータや情報を収集し、感情や偏見から解放された分析を行う必要がある。具体的な数値やグラフを使用して、問題の状況を視覚的に捉えることが推奨される。

また、関係者や担当者からの意見やフィードバックも取り入れ、より広い視野で問題を理解することが重要である。

 

事例:プレス装置の停止頻度(1日3回)、平均停止時間(20分)、過去3ヶ月の停止履歴、時間帯別の発生傾向などを可視化。過去に同じ部位でのトラブルが集中していることも確認された。

 

2.目標設定

目標設定は、解決すべき問題の明確な目標や期待する成果を定義するステップである。

効果的な目標設定は、具体的、測定可能、関連性があり、いつまでにといった期限を設定することが望ましい。

この目標は、チームや関係者が同じ方向に進むための方針となる。また、目標が達成された際に、その成功を明確に知るための基準ともなる。

 

事例:プレス装置の可動率を現在の87%から、3ヶ月以内に95%以上に向上させる。さらに、停止件数を週15件以内に抑えるという副目標も設定。

 

3.要因解析

要因解析は、問題の原因を特定し、それがどのようにして問題を引き起こすのかを理解するためのステップである。

この段階では、データや情報を深堀りし、問題の背後にある真の原因、つまり根本原因を突き止める。

手法として「5回のなぜ」や特性要因図などが使用されることが多い。

原因と結果の関係性を明確にし、問題の核心をつかむことで、適切な対策を立案する土台を築く。

 

事例:

・なぜ止まった? → 部品の詰まり

・なぜ詰まった? → 廃油がたまっていた

・なぜ廃油が除去されなかった? → 清掃が週1回になっていた

・なぜ頻度が減った? → 清掃手順が周知されていなかった

・なぜ周知されていない? → 新人教育の資料に清掃項目が入っていなかった

➡結果として、「清掃作業の教育と運用手順の不備」が根本要因と判明。

 

4.対策立案

対策立案は、特定された根本原因を排除または軽減するための具体的な行動計画を策定するステップである。

ここでは、実際に問題を解消するためのアクションプランや方法論を策定する。

対策は実現可能であり、持続可能であるべきである。また、それぞれの対策には期限や担当者を明記し、進捗の管理や効果の評価を行いやすくする。

結果として、問題の再発を防ぐための構造的な改善を目指す。

 

事例:

・清掃手順をマニュアルに追加し、全員に再教育を実施

・週1回の清掃を毎日に変更

・チェックリストと点検表を新設し、リーダーが毎週レビュー

・新人教育カリキュラムを見直し、OJTにて確認

 

A3に凝縮される“トヨタの仕事の進め方”とは?

トヨタにおけるA3レポートは、単なる問題解決のフォーマットではなく、「仕事の進め方」そのものを具現化したものである。

言い換えれば、A3の紙面構成に沿って考えることで、自ずと仕事が論理的・実践的に進んでいくように設計されている。

この考え方の根底には、「問題解決のプロセスを繰り返し、標準化することで、組織の学習能力を高める」という狙いがある。

 

たとえば、トヨタでは仕事を任せるときにいきなり「提案書を書け」などとは言わない。

まずは現場で観察し、事実を集め、現状と目標のギャップを考えよ、と指示する。

これがA3の左半分(①現状把握・②目標設定)に該当するステップである。

そのうえで、なぜ問題が起きているのかを徹底して分析する(③要因解析)。

そして、どうすれば二度と繰り返さないかを考え抜く(④対策立案)。

このプロセスを部下に任せ、上司はフィードバックしながら育てていく。

 

この流れをA3という紙面に凝縮することで、若手社員でも「考え方の順番」や「筋道」を身につけることができる。

これが、徒弟制度から脱却し、グローバルでも通用する育成方法として注目されている理由だ。

 

さらに、A3で仕事を進めるメリットは、以下のように整理できる。

・問題解決の手順が明確になる(思考がぶれない)

・チーム内での共通認識が取りやすい

・上司、関係部署との合意形成がスムーズ

・成果が再現可能になる(標準化)

このように、A3は単なる業務報告書ではなく、「どう考えるか」「どう行動するか」を内面化するための“教育ツール”でもあるのだ。

 

トヨタ式・問題解決の“型”を持つことの意味

トヨタでは「問題は宝」と言われる。これは単なる精神論ではなく、問題が顕在化するということは、改善のチャンスが現れたという意味でもある。

だが、どんなに優れた個人であっても、場当たり的に問題解決をしている限り、成果は一時的で再現性に乏しい。

だからこそ、トヨタでは誰もが同じ“型”に基づいて問題解決を進める。

 

A3レポートはその「型」の一例であり、トヨタ全体に広がる共通言語でもある。

どの部署でも、どの国の工場でも、「現状→目標→要因→対策」という流れが理解されている。だからこそ、組織全体で高速にPDCAを回すことができる。

 

この「型」を持つことの本当の意味は、属人的な仕事を防ぎ、誰が見てもわかる論理と事実に基づいて行動できるという点にある。

属人性を排除しつつも、思考の深さや工夫はしっかりと盛り込めるのがA3レポートの奥深さだ。

 

また、トヨタでは「仮説思考」が重視されるが、A3の構成はまさにこの仮説思考の訓練にもなっている。

「この要因が原因だ」と仮説を立て、それに対して「この対策が有効だ」と検証する。その結果を見て、また修正していく。まさに科学的アプローチだ。

 

現場主義を大切にするトヨタであっても、最終的には論理と思考の「型」によって全体を整え、判断や共有を可能にしている。

問題解決の“型”を日常業務に染み込ませることは、単にトラブル対応力を高めるだけでなく、組織の思考力を底上げする効果がある。

 

自社でA3をどう活用するか?

最後に、トヨタ以外の企業がA3を導入する際のポイントを補足したい。

・まず1人から始める: 部署全体で取り組む前に、1人の担当者が1テーマでA3を作成するところから始める。

・テンプレートを固定しない: 最初はフォーマットにとらわれすぎず、自分の言葉で書き、徐々に論理構造を整えていく。

・レビュー文化をつくる: 書いたA3は必ず上司や同僚と共有し、フィードバックを得る場を設ける。

・結果だけでなく「考え方」を見る: 成果よりも、そこに至るプロセスの筋道を評価する。

このように、小さく始めて、継続的に振り返ることで、A3の本質が社内に根付いていく。

 

まとめ

トヨタの問題解決におけるA3レポートは、「短く、深く考える」ことを実践するための道具である。紙1枚という制約が、逆に本質を突く思考を促し、誰にでも伝わるアウトプットを生み出す。

問題解決を単なる対応ではなく、成長のチャンスと捉えるこの姿勢こそが、トヨタの強さの源泉だと言えるだろう。