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読書メモ:「ユダヤ人とダイヤモンド」 守誠

 

ユダヤ人とダイヤモンド (幻冬舎新書)

ユダヤ人とダイヤモンド (幻冬舎新書)

  • 作者:守誠
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: Kindle版
 

図書館で借りて読んでみて、面白かったのでamazonマケプレで購入。
デビアス社という組織の存在、名前だけは知っていた。ネットで知り得た断片的な情報として、ダイヤモンドを牛耳るユダヤ資本で形成された表には出てこない組織・・・そんな漠然とした怪しげなイメージだったけど、本書を読んでデビアス社の成立から現在まで、それ以外にも中世からダイヤモンドがどのような経緯で発展を遂げ今日の地位に至ったかを学ぶことができた。バーニ・バーナトとセシル・ローズのビジネス闘争は読み物としても面白そうだ。全般的に興味深く読んだが、特に第8章の「ナチス・ドイツのダイヤモンド略奪大作戦」が本書で読むべき部分だろう。著者が小冊子を手に入れた経緯も信じがたい幸運だが、情報をひたむきに追い求める人には扉が開かれるんだなーと感じた。この部分に関して、なかなか事実検証も困難で、どこまでが真実かわからないが、少なくともそのようなプロジェクトが構想され実行されたのは間違いないだろうし、戦争のひとつの側面であるだろう。

 

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以下、読書での私的メモ。

 

ダイヤモンドはカットしない限り、王者の光は放たない。カットの技術がなかった中世では、ダイヤモンドは三流の石だった。ルビーやエメラルドのような色石に比べ、ずっと評価は低かった。一説ではルビーの価格の八分の一だったと言われている。
 
 
中世のローマ・カトリック教会にとっての最大の事業は何といっても1096年から1270年にかけて、174年間に8回行われた十字軍であった。十字軍は確かに第1回と第5回は、聖地(エルサレム)回復に成功をおさめた。第4回は同じキリスト教国のビザンチン帝国の首都コンスタンチノープルを占領し「ラテン帝国」を建設したが、聖地回復という本来の目的は果たしておらず、成功とも失敗ともいえない。残りの5回はいずれも失敗に終わった。十字軍を総括すれば「失敗」とするのが妥当な結論であろう。
十字軍の失敗の結果現れた社会現象は、大きくいって次の4つがあった。
1 ローマ・カトリック教会の頂点を極める教皇権の衰退
2 封建諸侯・貴族、騎士の没落
3 統一国家の形成にプラスになった王権の伸長
4 十字軍兵士の輸送で東西貿易を発展させる基礎を築いたイタリア諸都市の発展
 
 
鉱区の売買は、すでに法律で制限され、自由な取引が禁止されていた。しかし、手放したいという声が大きくなるにつれ、当局も規制緩和に踏み切らざるを得なかった。
バーニ・バーナトや彼の最大のライバル、セシル・ローズが活躍する舞台が、偶然、整備されたのである。バーニ・バーナトは、三つのことを考えていた。
1 小規模の採掘者が入り乱れて原石を掘り出し、無秩序にその原石を売りさばくといったやり方では、原石の価格は安定しない。原石の需要と供給は常に不安定になる。限られた者が、採掘されるほとんどの原石を己のコントロール下に押さえ込めば、持続的かつ安定的な原石ビジネスが確立される。さらに進めて、一人の人間がキンバリーの原石を一手に抑えれば、原石ビジネスも成功可能だ。
 
2 これまで採掘に従事した者は、原石は、基本的にイエロー・グラウンドからしか採掘されないと信じていた。しかし地質学者たちは、ブルー・グラウンドにこそ大量のダイヤモンドが含有されていると主張する。これまでキンバリーで実際に採掘した者たちは専門家の意見に耳を傾けず、己の体験を信じた。地質学者の意見こそが正しい。売りに出たブルー・グラウンドの鉱区は、積極的に買い進めるべきだ。
 
3 硬いブルー・グラウンドからの原石の採掘には、これまでのような原始的な道具は使い物にならない。大型機械が必要である。大型機械の購入には、個人では資金の手当ができない。自分のような大きな金を動かせる者だけの時代が到来した。
 
 
ワーテルローの戦いは1815年、フランスのナポレオン軍に対して、イギリス・オランダ連合軍それにプロイセン軍(ドイツ軍)が友軍として加わり、ベルギー中部のワーテルローを主戦場にして戦われた戦争であった。
この戦いにはフランスとイギリスの国家の命運がかかっていた。フランスはナポレオン、イギリスはウエリントン将軍の智恵の総力戦でもあった。
 
 
過剰な原石市場の動きに合わせ供給を調整するアーネスト考案のカルテルは、当時の多くの国際資源カルテルとは異なっていた。十九世紀から二十世紀に作られた資源カルテルは、「生産量の規制」を重視した。対する原石カルテルは「販売量の規制」に重きを置いた。この点で、大変ユニークであった。
 
 
第8章 ナチス・ドイツのダイヤモンド略奪大作戦
 
 
ヨーロッパのダイヤモンド取引および加工の中心地アントワープやアムステルダムに住むユダヤ人も、その日のヒトラー演説には注意を払った。しかし、多くのユダヤ人は独裁者がいつものように彼一流の雄叫びをあげているぐらいにしかとらなかった。
ところが、このヒトラー演説にはヨーロッパに住む880万人のユダヤ人の生死がかかっていた。アウシュビッツ強制収容所を筆頭に、ナチス・ドイツがヨーロッパ各地に建設した収容所で、600万人のユダヤ人の命が奪われた。この数字は、ヨーロッパにいた全ユダヤ人の70%近くが強制収容所で虐殺されたことを示す。
 
 
1939年9月1日、ナチスのドイツ軍はポーランドに侵攻、第二次世界大戦が勃発した。彼らの電撃作戦は功を奏し、ヨーロッパの地図は見る見るうちに塗り替えられていく。ドイツ軍の占領地は、まるで風船玉が大きく膨らんでいくように拡大しつづけた。(中略)
戦争で勝利をおさめるには膨大な資金が必要だ。ダイヤモンドは軽くて高価で略奪商品としては、もっとも換金しやすい。また軍需工場にとり不可欠な戦略物質である。
 
 
ダイヤモンドは小さく、軽く、高価だ。隠蔽するには都合がよい。庭の中に埋めてしまえば、誰にも気づかれない。手の平にのせた一粒の研磨石だけでも、ものによっては何万ドル、何十万ドルもする。代償なしで他人の手に渡せるようなものではない。しかも国際的ネットワークを利用してビジネスを展開してきたユダヤ人である。その彼らから、ダイヤモンドを根こそぎ略奪すること自体、荒唐無稽な計画で、常識では考えられない。
その極めて非常識なことを、実際に計画したドイツの国家機関は、ドイツ経済省とドイツ国家秘密警察(ゲシュタポ)であった。計画立案者はドイツ経済省でゲシュタポはあくまで協力者にすぎない。