公差の設計と解析の考え方を解説した良書。2人の著者により非常に丁寧に説明されており、何度も繰り返し読むべき本。自分も過去3度ほど途中で挫折(最初から読み進めるとだんだんと内容が高度になり、理解が追いつかずに挫折)していたが、今回やっと最後まで読めた。技術的な議論に終始せず、序文の「そもそも技術とは何か?」という質問と著者の考え方である「転写性」というのもすごく参考になった。
また本書は専用のURLからダウンロードすることでエクセルで各種の統計解析ができるようになっており、ファイルの使い方・体験の仕方まで解説してくれている。しかし自分はMacユーザで実際に触ってみることはできなかったのでその部分は参考程度に読み飛ばしたのだが、それでもボリュームとしては十分に濃く、非常に学びの多い一冊だった。すべてを理解するにはまだまだ繰り返し読まなければいけない。
*
以下、読書での私的メモ。
その残された金脈とは、公差の最適化です。公差とはご存知のように部品の機能や寸法の理想値に対して、設計上や製造上許容されるばらつきの範囲をしめす数値です。
「部品の機能や寸法が、公差でしめされている許容されるばらつきの範囲に入っていれば、部品を選別することなく製品を組み立てることができ、そして、その製品が目標としている機能が発揮されるはずである」と製品を構成する量産されたそれぞれの部品について互換性をあたえるために、設計者が定める設計・製造・管理上の指標です。
技術とは、転写性を確保する術、あるいは、転写性そのものである。
転写性という概念を機能の面からながめると、「再現性」と「線型性」の2つの特性に分解できます。
「再現性」とは、いつ、だれが、どこで行っても安定した品質の成型品を得ることができるということ。また「線型性」とは、同じ形状であればもとの良好な再現性が確保された成型品とはスケールが異なっても、そのスケールに拡大(あるいは縮小)した条件を用意することで、もとの成型品と同じ良好な品質の成型品が得られることです。
公差とは、組立段階での部品の互換性の確保と、組立後にその製品に期待される機能の発揮を約束するために部品の特性に対して許容できるばらつきの範囲です。
いいかえれば、製品機能の再現性を獲得するために個々の部品に要求される特性値の範囲です。そして、その数値は設計者の責任において、設計者が決めなければいけません。
公差をきびしくするとほとんどの場合、それを実現するためにコストは上昇します。逆に、公差をゆるくした場合、かならずしもコストが下がるとは限りません。
モジュラー設計:組み合わせ設計
インテグラル設計:すりあわせ設計
個々の要素に関する公差範囲の最大値、最小値を使って、それらを組み合わせた製品の特性値のばらつきに関する最大値、最小値を検証する方法を「完全互換の方法」といいます。一方、正規分布などの分布に関する統計的な特性を考慮して確率論的に特性値のばらつきを検証する方法を「不完全互換の方法」といいます。
本来、公差解析は、複数の部品から構成されるシステムにおいて、ある要素の特性値(特に寸法)がそれぞれの要素の特性値にあたえられた公差内でばらつくことで、公差が集積した結果であるシステムの特性のばらつきが最終的にどのような範囲におさまるか、を調べることを目的としていました。
コンピュータ上である特性について関連する特性値ごとに乱数を適用して解析する手法をモンテカルロシミュレーションといいます。最終的な公差の集積結果に対して、どの要素の特性値にあたえた公差の影響が大きいか、という公差の寄与度という指標を調査することが可能になります。
正規分布の便利な特性
正規分布の中心(平均μ)に対して±σで囲われる範囲の面積は、–∞から∞の範囲での正規分布の面積に対して約68.3%になり、±2σで囲われる面積の範囲は、約95.4%になります。そして、同様に±3σで囲われる範囲の面積は、約99.7%になります。
工程能力指数とは製品を製造している工程、つまり、工場内の設備、環境、材料・工具などの管理、作業者の能力の総合的な結果としてあらわれる製品の特性値のばらつきに関する情報を一元的に表現する指標です。
Cp=(UCL-LCL)/6s
工程能力指数とは、適合品をつくる能力、いいかえると、不適合品をつくらない能力の指標ではありません。いかに対象とする特性値をばらつかせないで製造することができるか、という指標です。