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読書メモ:「逆境を生き抜くリーダーシップ」 ケン・アイバーソン

 

逆境を生き抜くリーダーシップ
 

アメリカの鉄鋼メーカ「ニューコア」で長きに亘りCEOを務め、粗鋼生産量ではマイナーだった同社をUSスチールも抜いて1位の事業規模へ導いたケン・アイバーソンの著書。
ひとつの工場という事業所単位で自律的に組織運営をさせ、本社からは口を挟まない。そのために本社所在地を人里離れた田舎に置き、間接の人員もミニマム化させた。会社としての統一方針や仕様のようなものがないので、事業所間で似たような開発や検討をすることもあるが、そういったことにより発生する工数の無駄より自主性に任せて運営させることによるメリットが圧倒的に大きいと説く。
著者は理論家ではなく、実際のビジネスの成功体験がバックボーンにあるので、突飛な提案でも一考せざるを得ない。
小難しいフレームワークなんかまったく出てこず、一貫して著者が主張するのは「社員を信じて自由にやらせる」だ。こういった「管理」を極限まで減らすという考え方は岐阜県にある未来工業にも似たものがあると感じた。

 

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以下、読書での私的メモ。

 

 

「偉大なリーダーは組織の人間に夢を与えるが、それは完成期日のある夢だ」ーウォレン・ベニス
 
 
企業を短期的にとらえるあなたがたを見ていると、麻薬の常用者を連想する。欲しいのはすぐに効くクスリ、収益を急上昇させるときのあの高揚感なんだろう。それでわれわれに、借り入れを増やせ、起業費用と利子を資本化しろ、減価償却は後まわしだ、などとけしかける。頭のなかにあるのは短期的なことばかりだ。そちらの言うとおりにしたら、会社が後で禁断症状に苦しむことなど考えようともしない。言っておくが、ニューコアはその手の考え方に応じるつもりはない。これまでもなかったし、これからもない。
 
 
従業員は知っている。どれだけ生産高をあげ、どれだけ会社に収益をもたらそうと、雇用主たちは支払う給料をなるべく低く抑えようとするものだと。彼らはいざ給与を見直す段になっても、たいがい、”ベンチマークデータ”やあいまいな目標、主観的基準で煙幕を張る。まるで、「おまえは自分で思っているほど優れてはいないし、それほどの価値もない」と従業員を説得するシステムができあがっているかのようだ。
ニューコアには勤務査定というものがない。従業員は自分が生み出すものに応じた賃金を得るし、その賃金は単純かつ客観的に決定される。職務内容を記した書類もない。社員はみずからの生産性を最大にする方法を探りながら、自分の仕事を定義するのだ。
 
 
経営者の職務とは主に、自分の管理する人々が素晴らしい成果を達成できるよう助けることだ。それにはまず、その事業で実際に仕事をするのは誰なのかを思い出す必要がある。それはつまり、重要な決定を下したり大きなリスクを冒す際には、従業員を頼りにするということだ。
 
 
ビジネス界の古い格言によれば、仕事の自由度は本社からの距離に比例するという。ニューコアの事務所はいずれもノースカロライナ州シャーロットの本社から離れた土地にある。もし近くにあったら、われわれ本社の人間が入り浸り、あれこれ提案したり、口出ししたりして彼らの時間を無駄にするだろう。その事業所を運営する事業所長は、姑と同居している気分になるにちがいない。
 
 
わが国の平均的な従業員は、大半の経営者が考えているよりずっと賢い。業績を向上させるための答えを本気で求めているのなら、その事業の実際の仕事をしている人間に訊くべきだ。それだけでいい。現場の社員たちが物事を改善する能力に舌を巻くはずだ。
 
 
間違いなく、ニューコアの文化は競争上の優位をもたらす最大の要因であり、それは今後も変わらない。むろん、競争上の優位を生み出す文化を築く機会は、どの会社にもある。だがその機会を活かす会社は驚くほど少ない。理由のひとつは、おそらく、文化が本当に根付くには一貫性が求められるからだ。
 
 
1996年、ニューコアの人件費は鉄鋼生産高1tあたり40ドルを下回っていた。これは大手鉄鋼メーカーのざっと半分である。それでもうちの社員のほうが高収入なのは、効率が高く、生産性も高いからだ。われわれが無理やりそうさせたわけではない。明確なインセンティブのある報酬体系を築き、社員を自由にしただけだ。われわれは会社の競争力の維持を社員の創意工夫に任せてきた。それで期待を裏切られたことはない。
 
 
その考え方の要点はこうだ。会社は設備、訓練、そして福利厚生プログラムなどの基本的サポートを提供し、あとはグループにまかせる。したがって、各グループは自力で事業を営んでいるともいえる。作業グループがベースラインを超えるための独自の目標を立て、その目標を追求する独自の方法を編み出す。そういうやり方を牽引するのは、生産すればするほど収入が増えるという確かな事実のみだ。
社員は会社とシンプルな利害関係をもっているわけだ。
 
 
言うまでもなく、管理職が失敗を許さなかったら、社員は並外れたことに挑戦しようとはしない。結果が凶となっても、けっして批判しないように気をつけなくてはならない。さもないと、社員は小さなリスクさえ避けるようになる。
また、あなたは社員が持ってくるアイデアを心から受け入れようと努めなくてはならない。悪気がなくても、経営者や管理職は人のアイデアを評価したり批判したりしがちだ。私の経験からいって、アイデアを受け入れる姿勢を示す唯一確実な方法は、余計なことを口に出さず、「よし、やってみろ」とか「わかった、力になろう」と言うにとどめることだ。
忘れてはならないのが、アイデアの良し悪しは試してみるまでわからない。