実験計画法とは
実験計画法とは、効率の良いデータの取得方法を計画し、適切な解析結果を与えることを目的とする統計的手法で、イギリスの統計学者ロナルド・A・フィッシャーが農業試験のために考案した。
Sir Ronald Aylmer Fisher (1890-1962)
実験計画法のそれぞれの手法
例えばプラスチック製品を作る射出成型の工場で、機械的性質の向上を目的とする品質実験を行うことを考えたときに、技術者は、これまで培ってきた技術や経験、知識などから、要因を「原材料の種類」「射出速度」「充填圧力」などに絞り込む。
実験において測定の対象となるものを特性値という。
この特性に影響を及ぼすと予想して、実験で取り上げる要因を因子という。
取り上げた因子は条件をいくつか変えて実験を繰り返すが、この設定した条件を水準という。
上記の射出成型の例では、因子を3つ取り上げて以下のような実験を計画したとする。
原材料の種類 [A]:A1、A2、A3
射出速度 [B]:100、120、140mm/s
充填圧力 [C]:30、40MPa
因子A,Bは3水準、因子Cは2水準。
因子が特性に与える影響には、各因子の水準が変わることで生じる主効果と、複数の因子の組み合わせによって生じる交互作用がある。
実験を計画するときには、特性に影響を与える因子を素早く探索し、適切な範囲で水準設定することが重要である。
設定する因子数や解析結果に応じて適用する手法が異なる。
一元配置実験
1つの因子を取り上げて各水準で繰返し行う実験。たとえば上記の射出成型の例では、因子A~Cのいずれか1つのみを取り上げ、特定の因子についての主効果を検討する。
二元配置実験
2つの因子を取り上げて各水準組み合わせで行う実験。繰返しを入れた場合は、交互作用の有無も判定できる。
多元配置実験
取り上げる因子数がさらに多く3つ以上で各水準組み合わせを行う実験。理論上はいくつでも取り上げることが可能だが、実験回数が膨大になるため多くは三元配置実験までが扱われる。三元配置実験でも繰返しを入れるとすべての因子同士の交互作用を判定できるが、3因子以上の交互作用は技術的に解釈することも難しく、多元配置実験では繰返しは入れない場合が多い。
直行配列表実験
多くの因子を取り上げるとき、すべての水準組み合わせではなく、一部の水準組み合わせで行う実験。どの水準組み合わせで実験するかを線点図と直行配列表を使って決める。
実験計画法には上記のように様々な実験条件がある。また相関分析、回帰分析や多変量解析が行われることもある。
実験計画法は、効率的な実験にするための工夫と、その解析方法を示す統計的手法の総称であると言える。
因子の種類
実験に取り上げる因子を大きく分類すると以下のように分けられる。
母数因子
因子の水準を指定することが技術的に可能で、その水準を再現することができる因子。実験を繰返したとき、母数因子は各水準で一定の効果を持つ。母数因子はさらに、制御因子と標示因子に分けられる。
制御因子
生産の場において、水準の指定も選択も可能なもので、最適な水準を選ぶ目的で取り上げる因子をいう。
標示因子
その最適条件を知ることは直接の目的ではないけれど、この因子の水準が異なると、他の制御因子の最適条件が変わる恐れがあるために実験に取り上げる因子。実験の場では制御する必要があるが、適用の場では必ずしも制御できるわけではない。
変量因子
因子の水準を指定することが技術的にできず、水準を再現することが不可能な因子。
局所管理の原則で用いられるブロック因子は変量因子である。実験の場を均一にするために取り入れられる因子であるため、水準の再現性はなく、制御因子との交互作用も考えない。
要因の種類
取り上げた因子によってもたらされる効果を要因という。
要因には主効果と交互作用、そして誤差がある。
具体的な事例を挙げながら確認していく。本記事で出したプラスチック製品の射出成型の実験条件を再度使う。因子はA~Cの3つで各水準は以下であった。
原材料の種類 [A]:A1、A2、A3
射出速度 [B]:100、120、140mm/s
充填圧力 [C]:30、40MPa
この時、因子[B]:射出速度による影響を評価した結果が以下であったとする。
製品の機械的特性値は値が大きいほど品質が良いとした時、因子B:射出速度は負の相関があることがわかる。この因子単独でもたらす効果を主効果という。
交互作用については、例えば因子B:射出速度と因子C:充填圧力の2つの因子を取り上げて実験をした時、交互作用がない状態とある状態を以下に示す。
交互作用がない場合だと、左図のように2つのグラフが平行になる。これは取り上げた2つの因子が互いに独立であることを示す。
先に因子Bだけで最適条件を求め、次に因子Cだけで最適条件を求め両者の最適条件を組み合わせればすべての実験組み合わせを評価せずとも全体の最適条件を探索することができる。
一方、交互作用がある場合、右図のように2つのグラフが平行にならない。(必ずクロスするという訳ではないので注意)
交互作用がある場合は、単独因子の主効果の最大を組み合わせるという考えは成立しないので、必ずすべての実験組み合わせを評価する必要がある。
◆まとめ
実験計画法では、取り上げた因子の主効果や交互作用を調べ、これらの要因効果が統計的にみて有意であるかどうか(=どの程度の確率で起こり得るか)を誤差と比較して判断する。