Instant Engineering

エンジニアの仕事効率を上げる知識をシェアするブログ/QC統計手法/公差設計・解析/TPS(トヨタ生産方式)

平均値の仮説検定は母集団の分散が既知or未知どちらかによって検定手法が異なる

母集団の分散の状態(既知or未知)によって検定手法が異なる

正規分布する母集団からランダムサンプリングされたn個の標本(データ)があるとき、標本平均\bar{x}が、母集団の母平均μ_0との差の有無を検定する場合の検定統計量は以下の通り。

◆母集団の分散σ^2既知の場合:Z検定統計量(標準正規分布)

Z = \dfrac{\bar{x}-μ_0}{\dfrac{\sqrt{σ^2}}{\sqrt{n}}}

◆母集団の分散σ^2未知の場合:t検定統計量(t分布)

t = \dfrac{\bar{x}-μ_0}{\dfrac{\sqrt{V}}{\sqrt{n}}}

 σ^2:母分散 / V:不偏分散

 

以下、母集団の平均値に関する検定について3つの具体例で確認する。

◆【例1】母集団の分散が既知:平均値が変わったかどうかについての検定

母平均μ_0=13.2、母分散=1の母集団からn=9の標本をランダムサンプリングにより取得した結果、標本平均\bar{x}=13.9であった。ばらつきは変化していないとする。このとき、平均値が変化したかどうかを検定する。

 

□仮説の設定

帰無仮説 H_0μ=μ_0μ_0=13.2)

対立仮説 H_1μ≠μ_0

 

□有意水準の設定

α:第1種の誤りを5%とする

 

□棄却域の確認

μ≠μ_0 → 両側検定

f:id:yuinomi:20201019061110p:plain

両側検定で5%なので、上図のように正規分布の両側2.5%ずつの領域が棄却域となる。

棄却限界値は1.960となる。正規分布表が手元にあればそちらを参照するか、なくてもエクセルがあれば関数で計算できる。

NORM.S.INV(確率) → NORM.S.INV(0.025)=-1.960 あるいは、NORM.S.INV(0.975)=1.960で求めることができる。

 

□検定統計量の計算(例題は分散が既知なのでZ検定統計量)と”判定”

Z = \dfrac{\bar{x}-μ_0}{\dfrac{\sqrt{σ^2}}{\sqrt{n}}} =\dfrac{13.9-13.2}{\dfrac{\sqrt{1}}{\sqrt{9}}} = \dfrac{0.7}{\dfrac{1}{3}} = 2.10

標準正規分布の棄却域とZ検定統計量を比較すると、

2.10 > 1.96なので有意水準5%でこの検定は有意であり帰無仮説μ=μ_0は棄却され、対立仮説μ≠μ_0が採択される。

よって、平均値は変わったと判定する。

 

◆【例2】母集団の分散が既知:平均値が大きくなったかどうかについての検定

母平均μ_0=13.2、母分散=1の母集団からn=9の標本をランダムサンプリングにより取得した結果、標本平均\bar{x}=13.9であった。ばらつきは変化していないとする。このとき、平均値が大きくなったかどうかを検定する。

 

□仮説の設定

帰無仮説 H_0μ=μ_0μ_0=13.2)

対立仮説 H_1μ>μ_0

 

□有意水準の設定

α:第1種の誤りを5%とする

 

□棄却域の確認

μ>μ_0 → 右片側検定

f:id:yuinomi:20201019062857p:plain

右片側検定で有意水準5%なので、上図のように正規分布の右側5%より外の領域が棄却域となる。

棄却限界値は1.645となる。正規分布表が手元にあればそちらを参照するか、なくてもエクセルがあればNORM.S.INV(確率) → NORM.S.INV(0.95)=1.645で求めることができる。

*ちなみに、NORM.S.INVは標準正規分布に関する関数で、標準正規分布とは平均0、分散1^2である。

よって、NORM.INV(確率,平均,標準偏差)=NORM.INV(0.95,0,1)としても、1.645と同じ結果を得ることができる。

 

□検定統計量の計算(例題は分散が既知なのでZ検定統計量)と”判定”

Z = \dfrac{\bar{x}-μ_0}{\dfrac{\sqrt{σ^2}}{\sqrt{n}}} =\dfrac{13.9-13.2}{\dfrac{\sqrt{1}}{\sqrt{9}}} = \dfrac{0.7}{\dfrac{1}{3}} = 2.10

標準正規分布の棄却域とZ検定統計量を比較すると、

2.10 > 1.645なので有意水準5%でこの検定は有意であり帰無仮説μ=μ_0は棄却され、対立仮説μ>μ_0が採択される。

よって、平均値は大きくなったと判定する。

 

◆【例3】母集団の分散が未知:平均値が大きくなったかどうかについての検定

母平均μ_0=13.2の母集団からn=9の標本をランダムサンプリングにより取得した結果、標本平均\bar{x}=13.9、不偏分散V=4.0であった。このとき、平均値が大きくなったかどうかを検定する。

 

□仮説の設定

帰無仮説 H_0μ=μ_0μ_0=13.2)

対立仮説 H_1μ>μ_0

 

□有意水準の設定

α:第1種の誤りを5%とする

 

□棄却域の確認

μ>μ_0 → 右片側検定

f:id:yuinomi:20201019064517p:plain

右片側検定で有意水準5%なので、上図のようにt分布の右側5%より外の領域が棄却域となる。(母集団の分散が”未知”なのでt検定)

自由度はサンプルサイズ-1=9-1=8である。

棄却限界値はt分布表から確認するか、エクセル関数で以下のように求める。

T.INV(確率,自由度)=T.INV(0.95,8)=1.86

よって、棄却限界値は1.86となる。

*T.INVは左片側確率%点を求める関数なので「-T.INV(0.05,8)」としても良い。

 

□検定統計量の計算(例題は分散が未知なのでt検定統計量)と”判定”

Z = \dfrac{\bar{x}-μ_0}{\dfrac{\sqrt{V}}{\sqrt{n}}} =\dfrac{13.9-13.2}{\dfrac{\sqrt{4}}{\sqrt{9}}} = \dfrac{0.7}{\dfrac{2}{3}} = 1.05

t分布の棄却域とt検定統計量を比較すると、

1.05 < 1.86なので有意水準5%でこの検定は有意とはいえず、帰無仮説μ=μ_0は棄却されない。

よって、平均値は大きくなったとは判定できない。 

 

1回で合格!QC検定2級テキスト&問題集

1回で合格!QC検定2級テキスト&問題集

  • 作者:高山 均
  • 発売日: 2015/12/01
  • メディア: 単行本