標準作業の設定、順守によるメリット
「標準作業」は製造業において極めて重要であり、プロセスを安定化させ、品質を保ちながら効率的に生産を行うための基盤となる考え方である。
1.品質の安定化:
標準作業によって作業手順が明確になり、作業者が一定の品質を維持しながら製品を生産することが可能となる。これにより、製品の品質バラつきが減少し、顧客への信頼性を高めることができる。
2.教育とトレーニングの効率化:
新しい作業者や未経験の作業者が迅速に業務に慣れるためのガイドラインを提供する。標準作業が文書化されていると、教育期間の短縮と作業者の能力向上が期待できる。
3.ムダの削減:
作業プロセスを標準化することで、不要な動作や時間の浪費を削減し、効率的な作業が実現される。これにより生産性が向上し、コスト削減に貢献する。
4.継続的改善の促進:
標準作業は継続的改善活動の出発点となる。現状の作業プロセスが明確になっていることで、非効率な部分やムダを特定しやすくなり、具体的な改善活動が行いやすくなる。
5.リスク管理:
標準作業に従うことで、作業中のミスや事故のリスクを減少させることができる。安全な作業方法が定められているため、作業者の安全確保に寄与する。
標準作業は3つの要素を基本とする
標準作業は製造現場において品質と効率を保つための基本構造となるもので、その構成要素には以下の3つがある。
1.タクトタイム
タクトタイムは、生産の効率化を図る上で極めて重要な概念である。この言葉は、ドイツ語の「Taktzeit」から来ており、「音楽のタクト」のように、一定のリズムや周期を示す。製造業におけるタクトタイムは、顧客の需要に合わせて生産ラインがどれくらいの速さで製品を製造すべきかを示す時間の単位である。
具体的には、
タクトタイム=1日の稼働時間÷1日の必要数量 という式で計算される。
例えば、1日8時間(480分)働いて、その日に80個の製品を製造する必要がある場合、タクトタイムは「480分 ÷ 80個 = 6分/個」である。つまり、6分ごとに1個の製品を完成させる必要があるということを示している。
タクトタイムを設定することで、生産ラインのバランスをとることができる。
仮にある工程がタクトタイムよりも速く終わってしまった場合、そこには無駄が存在する可能性がある。逆に、タクトタイムよりも遅れてしまう工程があれば、それがボトルネックとなり、全体の生産効率が低下してしまう。
トヨタ生産方式(TPS)では、このタクトタイムを基準にして、ムダを排除し、作業効率を最大化することを目指している。
タクトタイムに合わせて生産ラインを調整することで、需要変動に柔軟に対応し、在庫を最小限に抑えながら、顧客に迅速に製品を提供することが可能となる。
2.作業順序
作業順序は、その名の通り、ある作業を行う際の順序や手順を明確に示したものであり、品質の均一性を保ち、ムダを削減し、安全を確保するための基盤となる。
例を挙げると、自動車の組み立てラインにおいて、タイヤの取り付け作業がある。この作業を行う際の「作業順序」が明確に定められていないと、作業者は毎回異なる手順でタイヤを取り付けることになり、その結果、取り付け時間が変動したり、取り付けの品質にバラつきが生じる可能性がある。また、工具の取り扱いによっては、作業者の安全が確保できないケースも考えられる。
しかし、作業順序が標準化されていれば、作業者は常に同じ手順でタイヤを取り付けることができ、品質の均一性が保たれる。
さらに、同じ手順で作業を行うことで、ムダな動作や工程を発見しやすくなり、それらを改善することで生産性の向上も期待できる。また、安全面においても、作業順序に従うことで危険を回避することができる。
これらの理由から、トヨタ生産方式では、作業順序の標準化とそれに従うことの重要性が強調されている。これは製造業に限らず、サービス業や他の業種でも同様に適用される考え方である。
3.標準手持ち
標準手持ち、または標準在庫とは、生産ラインや作業現場において必要とされる部品や材料の適正な量を指す。これは、作業の効率化、コスト削減、スペースの有効利用を目的として定められる。
トヨタ生産方式(TPS)においては、標準手持ちの設定と管理が重要視されている。これは、「ジャストインタイム」の精神に基づいており、必要な部品を必要な時に必要なだけ供給することを目指している。標準手持ちが適切に設定されていれば、無駄な在庫を抱えることなく、かつ生産の途切れを防ぐことが可能となる。
例として、ある自動車メーカーの組み立てラインを考えてみる。車のドアを組み立てる工程では、ネジやボルトなどの小さな部品が必要である。
標準手持ちが適切に設定されていれば、作業者は常に必要な量の部品を手元に持っておくことができ、作業の停止や遅れを防ぐことができる。逆に、標準手持ちが多すぎると、余剰な在庫が作業スペースを圧迫し、コストの増加に繋がる。
標準手持ちの設定には、過去の生産データや需要予測、部品の供給リードタイムなど、様々な要素を考慮する必要がある。
また、市場の変動や新しい技術の導入など、外部環境の変化に応じて標準手持ちの見直しを定期的に行うことが重要である。